Cosmology_Imai_2009_1

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観測的宇宙論
第3回: 初期宇宙の元素合成
今井 裕
(鹿児島大学大学院理工学研究科物理・宇宙専攻)
今日の内容
• イントロ: 初回の復習
• 「元素合成」とは
ー元素合成に関する物理素過程ー
• 元素合成環境の変遷
– 現在宇宙の元素組成、
宇宙の年齢と密度・温度
• 初期宇宙の元素合成
– 恒星内部での元素組成、 軽金属の合成
– 宇宙初期元素合成を観測で調べる
参考文献
シリーズ現代の天文学
2巻: 宇宙論I ―宇宙のはじまり―
3巻:宇宙論II ―宇宙の進化―
イントロ: 初回の復習
• 「観測的宇宙論」講義の目的(シラバス抜粋)
現代の宇宙モデルを定量的に理解し、どのような
根拠に基づくのか説明できることを目標とする。
• 「宇宙論」の枠組み
宇宙の晴れ上がり
(ビッグバンから38万年後, z=1088)
相対論的宇宙論
量子宇宙論
宇宙の幾何学的・
エネルギー的・構造進化
宇宙論
ガモフ
「火の玉宇宙」
素粒子論的宇宙論
宇宙の物質進化
バリオン(陽子・中性子⇒核子)
観測的宇宙論
(z<10)
本日のテーマ
原子核物理学
本講義の枠組みと他講義との関連
• 相対論的宇宙論: 主に亀野先生が担当
• 素粒子論的宇宙論
「物質の起源と力学」(中村先生、第7期)
• 銀河の詳細構造と進化
「銀河天文学」(和田先生、第6期)
• 恒星の詳細構造と進化
「星の進化と宇宙」(中村先生、第6期)
• 今井担当分の講義(観測的宇宙論)では…..
– 上記講義群と宇宙論との架け橋みたいなもの
– 特に観測によって直接確認できるものに重点を置く
素粒子の分類
• 素粒子:元素を構成する物質(「現代の天文学」第2巻)
– 1.3.1 宇宙と素粒子(大きさを持たない点状粒子)
– 1.3.1 物質と反物質(逆の電荷を持つ粒子)
– 1.3.3 バリオン物質の進化
• 元素生成に関する前提事項
– バリオン: クォーク3つから成り立つ粒子
(陽子・中性子)⇒元素を構成する核子
– レプトン: 電子、電子ニュートリノ、など
– 強い相互作用: 核子同士結合する力(10-17 m 以内で作用)
– 弱い相互作用: ボゾンのやりとりによる クォークやレプトンの
フレーバー(種類)変換 ⇒原子核のベータ崩壊など
– 「正のバリオン数」の生成=反物質に対する物質の超過
– クォーク・グルーオン プラズマ(強い相互作用 v.s. 漸近的自由)
からのクォーク・ハドロン相転移
本日の講義のメインはこれ以降(ビッグバンから10-5秒以降)の話
温度とエネルギーの関係
宇宙論でよく使われる温度の単位は eV [electron volt]
k  1.38 1023
3
E  m v2
2
[J  K = kg m 2 s-2 ]
mp  1.67 1027 [kg]
0  8.85 10
12
-1
-1
-1
[F m = C V m ],
 eV  kT
h  6.63 1034 [J s = kg m 2 s-1 ]
e  1.6 1019 [C]
1
4 0
 8.99 10 9 [V C -1m = J m]
問題1: 下記の変換式中の下線部に入る数値を求めよ
1 eV ≈
K
1eV: 電子1つが1Vの電気ポテンシャルにある場合に持つエネルギー
元素合成に関する物理素過程
1. 電気ポテンシャル(クーロン力)の壁
p-p chain: 陽子同士の融合の場合
e
2
3
E =  re  
 mpv p2  kT
40 r 2
問題2: 陽子同士の熱核融合のためには、強い相互
作用が働く範囲(r ~10-17 m)まで陽子同士が近づかなけ

ればならない。この条件を満たすのに必要な粒子系の
温度(有効数字1桁で良い)を求めよ。温度の単位はK
でも eV でもどちらでも良い。
元素合成に関する物理素過程
2. 量子トンネル効果[量子力学]
1928年: ジョージ・ガモフの α 崩壊の説明
粒子の波動関数がポテンシャルの壁の向こうまで染み出している
「星の進化と宇宙」
参考
Wikipediaより
元素合成に関する物理素過程
2. 各種「平衡」の概念と分布関数
1. 運動学的平衡(反応前後で粒子の種類が変わらない場合)
⇒ ある粒子がエネルギーωを持つ確率
1
具体例: ボーズ分布/フェルミ分布
f       T
e
1
2. 化学平衡 ⇒ 反応式の両辺の各状態が存在する割合
32
具体例:


B
4
2

3
1 X e
T


X e  n p n b
, where

  e T
2
サハのイオン化率
Xe

me 
B  mp  me  mH
3. 熱平衡(=エントロピーが最大となるμ=0の場合)

⇒ 熱平衡系にあるエネルギーωを持った粒子の個数分布
具体例: 輝度に見られるプランク関数 天体観測実習テキストへ
現在宇宙の元素組成
H
He
CO
N
Fe
質量比 H: He= 70: 28
個数比 H: He = 70: 4
ヘリウムが意外と多い
恒星内部の熱核融合だけでこの組成比が実現できる?
ヘリウムの太陽組成比を再現できる?
4p  4 He + 2e +  2 e
p-p chainの最終経路
質量欠損による
エネルギー
解放効率
m  4mp  mHe,
m

 7 103
4mp

全部ヘリウムによって合成された場合に解放される全エネルギー
E  M sunc where M sun  1.989 10 kg
 c.f. L  4 10 33 erg = 4 10 26 J
sun
2
30
問題3: 太陽がもともと全部水素からできていて、その

一部がヘリウムに変換されると考えられるとき、現在

の水素/ヘリウム質量比に達するまでに要する時間
を計算しなさい。
もともとヘリウムだけは多かった
0.8 太陽質量, Z=5.3±0.2
HE0107-5240の相対金属量組成
(Umeda & Nomoto 2003)
宇宙の年齢と密度・温度
T K 
1.52
14
*
g
10
10
t [sec]
12
• 宇宙初期は断熱膨張
• 宇宙全体におけるエネルギー担い手:
 放射優勢⇒物質優勢⇒真空エネルギー優勢
– 放射優勢: 光・ニュートリノ等による相互作用 ∝a-4
z~3200
– 物質優勢(物質が持つエネルギーの方が大きい) ∝a-3
z~0.46
– 真空エネルギー優勢:
宇宙項が示すエネルギーの方が大きい ∝ const.
初期宇宙と恒星中心部における
元素合成過程の違い
時間尺度
温度
初期宇宙
恒星中心部
分
億年
≦109 K
≧107 K
(時間と共に急速低下) (時間と共にゆっくり上昇)
密度
生成元素
≦10-5 g cm-3
≧102 g cm-3
軽元素まで
重元素まで
(H, D, T, He, Li, Be) (C, O, Si, Fe, Pb, etc.)

恒星中心部でのヘリウム合成
p + p  D(p +n) + e +   e
D + p  3 He(2p +n)  
3
(D +D  3 He +n)
He + 3 He  4 He(2p +2n) +p +p
• 比較的低温での反応(5×106Kー2.5×108K)
• 重水素合成時にベータ崩壊を伴う
反応速度が遅いから
• 不可逆過程 光子エネルギーが低いから
宇宙初期(ビッグバン)の元素合
成
中性子から陽子の合成
+
n + e  p + e
n + e  p + e
-
n  p + e + e
-
• 数MeV(数100億K)以上での反応
• mp < mn: 化学エネルギーポテンシャルは
陽子の方が低い ⇒ 陽子を合成し化学平衡へ

• 反応が速いのでベータ崩壊なし
• 可逆反応
重陽子(後の重水素: deuterium) 合成
n +p  D +
• 重陽子結合エネルギー 2.22 MeV
• 宇宙背景放射のエネルギーが大きい場合は左向き)
• nb/nγ 〜10-10: 充分温度が下がれば重陽子ができる。

N  
n
e


kT
,
2.22 MeV
TD 
 0.1 MeV
10
ln 10 
三重陽子(後の三重水素 tritium) 、
ヘリウム、リチウム、ベリリウムの合成
D + D  3 He + n,
3
He + n  T + p, T + D  4 He + n
T  3 He + e -  e
4
He + T  7 Li +  ,
4
He+3 He  7 Be +  , 7 Be +e -  7 Li +  e
• 宇宙初期は中性子の多くが重陽子に取り込まれている
• ベリリウム以降の元素は合成されない
– 自然界に原子数5, 6で安定な元素がない
– ヘリウム同士を融合させる為には温度が低過ぎる
– 密度が低過ぎる
恒星内部(大・中質量星)では炭素や酸素が合成される
宇宙初期の元素組成を調べる
• 観測による組成比の観測: 輝線/吸収線
– 遠方: QSOの手前にある原始電離ガスからの吸収線
等価幅の計測
分光観測には長時間露出が必要
– 近傍: 電離(HII)領域からの輝線/吸収線
宇宙の化学進化による組成比の変成
異なる化学進化段階にある複数天体に対する観測から
宇宙初期時点への外挿
– 絶対量ではなく数量比の計測
複数スペクトル線の同時観測
金属量 (=重元素量): [Fe/H] ([ ]=太陽組成との比)
宇宙初期の元素組成を調べる
• 各種軽元素の存在量測定
– 水素: ライマン/バルマー系列
– ヘリウム
• He II輝線(再結合線): HII領域
• 異なる重元素量を持つHII領域を多数観測
• 重元素ゼロの極限を採用
– 重水素
• 宇宙初期でしか作られない(星内部ではHeになる)
• 遠方で重元素汚染の影響の少ない天体: ライマンα雲
• 重水素吸収線が水素吸収線の短波長側に見られる
– リチウム
• 重元素量が低く高温星では(宇宙初期の値と等しく)
元素量に依らず存在比が一定
重