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Network Economics (7)
ネット外部性(前)
京都大学 経済学研究科
依田高典
1
ネット外部性の古典モデル
• 2つの外部性
– コール外部性:発信課金
– ネット外部性:ネット規模
2つの古典モデル
• Leibenstein(1950)
バンドワゴン効果
• Rohlfs(1974)
通信需要の相互依存性
2
Leibenstein(1950)
• 需要の非加法性/外部効果
バンドワゴン/スノブ/ヴェブレン効果
• バンドワゴン効果:個人の需要関数(di)はある財の価格(p)の
みならず市場の需要関数(D=Σdi)にも依存。従って、個人の
需要関数はdi(p, D) 。 (∂di/∂D>0)
• 図2を用いて説明。個人需要d1は小規模の市場需要D1をもと
に、個人需要d2は大規模の市場需要D2をもとに引いたもの。
バンドワゴン効果により、個人需要d2はd1よりも大。価格が
p1からp2に低下した場合、個人需要量はq1(p1, D1)からq2(p2,
D2)に増加。個人需要量の増加分のうち、q1からq1’(p2, D1)は
価格効果、q1’からq2はバンドワゴン効果によるもの。均衡
個人需要曲線は均衡点E1とE2を結んだd12であり、バンドワ
ゴン効果が存在することによって、個人需要曲線はより価格
弾力的(水平) 。
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3
図 2: バンド ワ ゴン効果と 弾力的需要曲線
p
d1
d2
E1
p1
E2
p2
d12
0
q1
q1’
q2
q
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Rohlfs(1974)
• ネット加入率をf、ネット加入率の増分効用をw、ネット加入の
価格をp。この時、fw≧pならばネットに加入、fw<pならばネッ
トに不加入。最初の加入者ほど高い増分効用を持ち、増分効用
は漸次逓減するから、wをfの一次の減少関数w=a(1-f)と仮定。
ネット加入・不加入が無差別な限界的加入者では、af(1-f)=p。
この式は通信サービスに対する需要関数であり、原点を通る下
向き2次関数。図3参照。価格pに対する均衡加入率は0・fS・fL
の3点存在し、0とfLは揺らぎに対して安定的な均衡点であるが、
fSは不安定な均衡点。
• サービスの「生育可能性(Viability)」と「立上がり (Start-up)」
が異なる。ネットの普及期において、fS以上の「臨界的加入率
(Critical Mass)」を獲得すれば、ネットは自動的に拡大。しかし、
このような発展可能性があるにもかかわらず、初期時点でのネ
ット加入率が低いため、ネットが衰退することも。そこで、
「低廉な導入価格(Low Introductory Price)」のようなネット育
成策が有効性。
戻る5
図 3: ネッ ト ワ ーク 外部性と 複数均衡
p
0
fS
fL
f
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Katz&Shapiroモデル
• ネット外部性の事例
– (1)加入者数に依存する電話サービス
– (2) ソフトウェアの充実が前提となるハードウェア産業
– (3)アフターサービスが必要な耐久財
• ネット外部性の2つの問題
– (1)既得基盤(Installed Base)
– (2)互換性誘因
• K&Sの2つのモデル
– 水平的ネット外部性: K&S(1985)
– 垂直的ネット外部性:K&S(1986b)
7
水平的ネット外部性 K&S(1985)
•
基本的設定:
(1)モデルは2期間である。第1期:消費者の期待形成。第2期:企業はサー
ビスの提供量と価格を決定、また消費者はネット加入を決定。(2)消費
者の効用関数はサービスそれ自体の価値(r)とネットの規模(y)から得る価
値(V)の和 (r+V(y))と仮定。 (3)市場は寡占的であり、サービスは等質的
とする。企業の費用は2種類あり、サービスの費用と、互換性の費用。
(4)均衡概念は「自己実現期待クールノー均衡」。
•
基本的結論(図5参照) :
(1)ネット外部性により、市場取引量(Z)は互換性が存在するケースの方(C)
が互換性の存在しないケース(I)よりも大きい(ZC>ZI)。
(2)企業利潤(Π)・消費者余剰(S)・社会厚生(W=Π+S)ともに、互換性が存在
するケースの方(C)が互換性の存在しないケース(I)よりも大きい(ΠC>ΠI,
SC>SI, WC>WI)。
(3)互換性の私的誘因(ΔΠ=ΠC−ΠI)は互換性の社会的誘因(ΔW=WC−WI)より
も小さい(ΔΠ<ΔW)。
(4) 互換性の費用をFとおくと、その費用が私的誘因を上回るが社会的誘因
を下回るような場合(ΔΠ<F<ΔW)、標準化による互換性が社会的に望
ましいにもかかわらず、企業は互換性を推進しようとしない。
戻る8
図 5: Katz & Shapiro(1985)モデル
$
(n+1) Z
完全互換性
nA+nV(Z)
不完全互換性
nA+ΣV(yi)
nA
Z
ZI ZC
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垂直的ネット外部性 K&S(1986)
•
基本的設定:
(1)モデルは3期間。第0期:企業は互換性の有無決定。第1期:企業は価格、
消費者は採用技術を決定。第2期:企業・消費者は同様の決定をする。(2)
消費者は2タイプ(第1期・第2期)存在、それぞれN人。効用関数はネットの
規模Zに依存し、V(Z)-(価格) 。各期の技術間で互換性があればV(2N)、互換
性がなければV(N)、両者の差ΔV=V(2N)ーV(N)を「ネット効果」と呼ぶ。
(3) 企業はA(先行型)とB(後発型)の二つ、高費用CHと低費用CLの差ΔC=CHー
CLを「費用格差」と呼び、Aの費用は第1期CL・第2期CH、Bの費用は第1期
CH・第2期CLと仮定。
•
基本的流れ:
(1)互換性のあるケース(C) 。ただ低価格技術を購入「AB」。
(2)互換性のないケース(I) 。2つのケースに分類。
非互換性#1:Bが第2期に必ず選択(ΔV<ΔC)。
#1.1:第1期にAが選択される場合「AB」
#1.2:第1期にBが選択される場合「BB」。
Bが第1期にも採用された方が利潤が高くなる条件はΔC<3ΔV。
10
非互換性#2:Bが第2期に必ず選択されるに十分な費用格差を持たない
(ΔV>ΔC)。AとBは第1期に採用されるように価格競争を行うが、Bが常に価格
競争に勝つ(「BB」)。
(3)非互換性の各ケースのBの利潤をΠBI、AとBの合計利潤をΠI、社会厚生をWI
で表し、さらに互換性のためのBの私的誘因をΔΠB、総私的誘因をΔΠ、社
会的誘因をΔWで表す。
•
基本的結果(図6) :
(1)互換性が存在しない場合、費用格差がネット効果を大幅に上回らない限り
(3ΔV>ΔC)、Bが両期を通じて選択されるので、「後発の利(Second Mover
Advantage)」がある。
(2)互換性の総私的誘因と社会的誘因は常に正であるが、費用格差がネット効
果を相当に上回らない限り(2ΔV>ΔC)、Bの私的誘因は作用しない(ΔΠB≦0)
という意味で「互換性の過少誘因」が存在する。
(3) 互換性の総私的誘因は、費用格差がネット効果を相当に上回る限り(2ΔV<
ΔC)、社会的誘因を上回る(ΔW<ΔΠ)。
(4)特に互換性の費用FがΔW<F<ΔΠのような場合、社会的には望ましくない
互換性が私的に達成されるという意味で、「互換性の過剰誘因」が存在す
る。
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11
図 6: Katz & Shapiro(1986a)モデル
ΔV
均衡パタ ーン
ΔΠB
ΔΠ, ΔW
2ΔV
BB
0
3ΔV
BB
-
ΔC
AB
+
+
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Farrell&Salonerモデル
• ネット外部性が存在する場合の2つの市場の失敗
(1) 過剰慣性(Excess Inertia)
(2) 過剰転移(Excess Momentum)
• 過剰慣性・転移の2つに分類
(1) 水平的過剰慣性・転移:F&S(1985)
(2) 垂直的過剰慣性・転移: F&S(1986)
13
水平的過剰慣性・転移:F&S(1985)
•
基本的設定:
– 2つの企業と新旧2つの技術。両企業とも最初は旧技術を採用。新技術の採
用をめぐる企業のタイプは「保守派」と「革新派」。表2のように、保守派
にとっては旧技術に留まる方が、革新派にとっては新技術に乗り換える方
が支配的な戦略。
– 企業タイプが共有知識の場合、(1)両企業とも保守派ならば「旧技術, 旧技
術」、(2)両企業とも革新派ならば「新技術, 新技術」、(3)一方が保守派・
他方が革新派ならば「旧技術, 新技術」がナッシュ均衡となる。つまり、完
全情報下では両企業とも新技術によって利得が高まるような場合のみ、新
技術が業界標準となる。
表 2: Farrell & Saloner(1985)モデル
自企業
保守派(i=0)
相手企業
新技術 旧技術
新技術
-2
-3
旧技術
-1
0
自企業
革新派(i=1)
相手企業
新技術 旧技術
新技術
2
1
旧技術
-1
0
14
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•
3つの拡張:
(1)情報の不完全性。企業タイプの情報が私的情報であり、また保守派(i=0)と
革新派(i=1)を両極として、中間的タイプを仮定する。企業の利得をΠ(同じ
技術を採用する企業数, 採用する技術)で表す。
(2)ネットワークの外部性。新旧どちらの技術を採用するにせよ、両企業が同
一の技術を採用した方が利得が高まる。つまり、Π(2, 新)>Π(1, 新)&Π(2,
旧)>Π(1, 旧)。
(3)バンドワゴン戦略。企業が採用出来る戦略は3つある。
A1:常に新技術を採用する。
A2:相手が新技術を採用するならば、新技術を採用する。
A3:常に旧技術に留まる。
•
基本的結論(図8参照):
「自分のタイプ(i)が保守的(i<i1)な場合には戦略A3・中間的(i1<i<i2)な場合には
戦略A2・革新的(i2<i)な場合には戦略A1」が一意対称均衡。
i1は戦略A2とA3が無差別になるような臨界点であり、ここではi1=0.25。i2は戦
略A1とA2が無差別になるような臨界点であり、ここではi2=0.6。
以上から、0.5<i<0.6の領域では「過剰慣性」が発生。
新技術が採用されるのは、少なくとも一方のタイプが0.6以上でなければならない。し
かし、実際には両方のタイプが0.5以上であるならば、両企業とも利得は改善され得る
わけであり、パレート効率的な新技術の採用が阻害されている。
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図 8: Farrell & Saloner(1985)モデル
2
Π(2, 新)
1
Π(1, 新)
0
0
Π(2, 旧)
-1
-1 Π(1, 旧)
-2
-3
i1=0.25
0
0. 5
i2=0.6 0.75
A3
A2
A1
C
C
C
1
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垂直的過剰慣性・転移:F&S(1986)
•
基本的設定:
互換性のない二つの技術(旧技術U、新技術V)がある市場で、絶えず新しいユー
ザーが参入。ユーザー増加率をn(t)=1、ユーザー数をN(t)=t。効用関数はユ
ーザー数xに比例し、U(x)=bx、V(x)=dx(ただしb<d) 。時間と共に次々とユ
ーザーが生れ、彼らは新技術が導入されるまで(t<T*)は旧技術を採用し、
新技術導入以後(t≧T*)旧技術か新技術かの選択。ネット外部性下では、既
に旧技術採用者が多数居るので、旧技術は新技術よりも有利(既得基盤)。
各ケースのT時点に参入するユーザーの割引効用(rは割引率)。
新技術の採用がない場合、旧技術の割引効用U(T)はbT/r+b/r2。第1項は既に市場に存
在しているユーザーから得る効用、第2項はこれから参入して来るユーザーから
得る効用。
直後に新技術の採用が起り、自分が最後の旧技術ユーザーになる場合の割引効用は
U0(T)はbT/r。
新 技 術 導 入 以 後 全 て の ユ ー ザ ー が 新 技 術 に 転 じ る 場 合 の 割 引 効 用 V(T) は d(TT*)/r+d/r2。
新技術導入以後、自分までが新技術ユーザーで、後続ユーザーが再び旧技術に戻る
場合の割引効用はV0(T)はd(T-T*)/r。
17
•
基本的結論(図9参照):
モデルには、2つの完全ナッシュ均衡が存在。
(1)V(T*)≧U0(T*)⇔d/b≧T*rならば、「新技術を採用」することが均衡戦略。
(2)U(T*)≧V0(T*)⇔T*r+1≧0ならば、そしてこの条件は常に成立するのだが、
「旧技術を採用」することが均衡戦略。
2つの均衡は排他的ではなく、d/b≧T*rの場合、両方の均衡が存在。また、新旧
技術の社会厚生の差をGとすると、G≧0⇔d/b≧1+T*r。
以上から、次のような結論が得られる。
(1)「過剰転移」:新技術が採用される場合でも、旧技術の社会厚生の方が高
い場合(T*r≦d/b≦1+T*r)がある。
(2)「過剰慣性」:旧技術が採用される場合でも、新技術の社会厚生の方が高
い場合(1+T*r≦d/b)がある。
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18
図 9: Farrell & Saloner(1986)モデル
rT*
1+rT*
d/b
社会厚生が増加
新技術採用が均衡
旧技術採用が均衡
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むすび:ネット外部性のジレンマ
•ネットワーク外部性が存在する場合、互換性・標準化さえ達成されるな
らば、ネットワークの規模が拡大し、当然消費者余剰は大きく増大。問
題は、ネットワーク外部性の負担者(企業)と受益者(消費者)とが異なり、
それが故に互換性・標準化の私的誘因と社会的誘因に乖離が生じるこ
と。この時、市場支配力を持った企業は価格差別化や抱合せ販売のよ
うな各種経営戦略を用いて消費者余剰を企業利潤に転嫁し、互換性の
私的誘因を社会的誘因と一致させることが可能。
•「ネットワーク外部性のジレンマ」:もしも企業がネットワーク外部性の便
益を全て搾取してしまえば、互換性の過少誘因という市場の失敗(配分
の非効率性)は避けられようが、消費者側にネットワーク外部性の便益
は残らなくなってしまう(分配の不公平性)。
•ネットワーク外部性の問題は、「生産者主権の効率性」と「消費者主権
の公平性」との間の緊張関係とも言い換えられる。この関係は、高度情
報通信があまねく公平に提供されるべきであるという「ユニバーサル・サ
ービス(Universal Service)」と関連付けて論じられる場合、一層明らかに
なる。
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