台北日本語授業校の7年の歩み - 母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)

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台北日本語授業校の7年の歩み
服部美貴
台湾大学 日本語文学系
1.概要
01年1月
発起人が「なでしこ会」(台湾人と結婚した日本人女性の会)に呼びかけ、
「台北日本語補習班」を設立
5月 小1クラスと幼児クラスがスタート(計10余名)
02年 市内の法律事務所の借用開始
03年 「台北日本語補習授業校」と改名
06年 「台北日本語授業校」と改名
 台湾日本人会日台交流部会の活動の一つとなる。
 台北市内の私立高校と台北日本人学校の借用(月1回)を開始
07年4月 一期生が小学部を修了
08年4月 一期生が中1クラスを修了、授業校を卒業
08年6月現在 幼児クラス~中1クラス 計8クラス、在籍者87名
背景:台湾父&日本母家庭の
子どもの多くは台湾の現地校へ
<その理由>
①家庭の経済的基盤が台湾にある。
②日本人学校やインターナショナルスクールは自
宅から遠い。
③日本人学校は中学校までしかない。
④台湾の父親やその家族が日本語を理解しない
場合、家庭内でのコミュニケーションに支障を
来す恐れ。
目的と参加条件
■目的
・台湾に居住し、
・一定の日本語能力を有し、
・保護者が運営に協力できる
子ども達が、日本語及び日本の文化習慣を学ぶ。
■参加の条件
①子どもが日本語で会話ができる。
②親のどちらかが日本語で運営に参加できる。
2.運営状況
2.1 授業形態
■場所:台北市内の私立高校(月3、4回)と
台北日本人学校(月1回)
■時間:毎週土曜日 午前10時~12時
■主教材:国語の教科書*5年生からは社会科も
■教師:日本人の母親が中心。
日本人学校からのボランティアも。
■参加費:600元(約2,200円)/月
→教室借用料と教材費
2.2 規模と構成
■最近の傾向:国際結婚家庭以外の子どもの増加
*中国語学習の流行
*台湾で現地就職する日本人の増加
*日本に長期滞在経験がある台湾人
<05年6月と08年6月の在籍者世帯の割合とクラス数の比較>
構 父 台湾
成 母 日本
日本
台湾
日本
日本
台湾
台湾
計
クラス
数
05年6月
38(88.4)
3( 7.0) 2( 4.6) 0(0.0) 43
7
08年6月
42(70.0) 8(13.3) 6(10.0) 4(6.7) 60
8
2.3 組織
2.4 行事
■5月(新年度開始) 入学式
■4月 終業式、卒業式
■12月 学習成果発表会
その他
保護者の交流:保護者総会、親睦会、交流会など
刊行物:
『虹っ子』(12月発行);児童生徒の作品集
『21世紀』(3月、10月発行);保護者向けの機関誌
3.授業内容
3.1 学習目標
<1>話す・聞く
日本の親戚とのコミュニケーション、
日本の小学校での体験入学等
に困らない程度のスキルを持つ。
<2>読む・書く
小学校高学年以上では日本語での情報収集
→漢字などは「読み」を重視
3.2 教務の仕事
■自分の子どもの在籍クラスを担当(1クラス2~5人)
①カリキュラム作成
財団法人海外子女教育振興財団・全国海外子女教育・国際理
解教育研究協議会編「補習授業校のための指導計画
(2005年度版)小学校国語指導案集・算数指導案集」
②副教材の選定
③授業の準備
④授業内容の保護者とボランティアへの伝達
⑤保護者への授業報告
⑥宿題のチェック
など
具体的な学習目標が決まっていない
クラスによる人数、雰囲気、日本語のレベル、
保護者の構成の差異
 適度な「ゆるさ」
→教務・保護者・子どもたちにとって、継続し
やすい要因

*今のところ、大きな問題となっていない。
保護者が教師をすることについて
【負担】



毎年教える内容が替るため、常に新しい授業
の準備が必要
*教案、授業報告、ワークシート等をシェア
*HPの開設
継承語としての日本語教育→未知の分野
肉体的精神的負担が大きい。→不公平感
保護者が教師をすることについて
【利点】
保護者のほとんどは、中国語を習得
→日中二言語を同時に習得する子どもが
直面する問題を把握しやすい 。
 保護者の熱意と日本語学習の重要性が、
直接且つ効果的に子どもたちに伝わる。

中国語の干渉と思われる
日本語の例
中国語
吃藥
紅色的花
聞味道
折衣服
開電燈
有一個朋友

日本語(誤)
薬を食べる
赤いの花
匂いを聞く
服を折る
電気を開ける
ある1人の友達が
日本語(正)
薬を飲む
赤い花
匂いを嗅ぐ
服を畳む
電気をつける
友達が
漢字を習得しているのは大きな利点
3.3 クラス人数と日本語のレベル
■1クラスの定員は15名
■辞める理由
 日本語以外の学業を優先
 親の転勤や移住
 親が忙しくて運営に参加できない
 親同士の意見や考え方、温度差の違い
4.授業校での学習のもたらす効果
■児童・生徒
 日本語の勉強がおもしろい。
 楽しみながら学習できる。
 友だちができる。
 アイデンティティ
■保護者
 家庭では実現できないクラス学習の雰囲気
 意見交換や交流の場
日本語能力試験合格者数

( )内は、受験当時の授業校在籍クラス
4級
3級
2級
1級
計
2(中1)
8
2005年
1(小5)
3(中1)
3(小4)
1(小5)
3(中2)
5
2006年
2(小4)
1(小6)
3
2007年
1(小6)
5
計
4
2(小6)
2(小5)
12
2004年
5
5.課題と展望
■問題
①教室の確保
②授業の質
③保護者の温度差・仕事量の差→不公平感
*補習授業校として認定を受ければ解決?
*「自分たちでやるからこそ」という意見も。
■課題
授業校の牽引者の養成
認定の申請をしない理由





在籍者のほとんどが国際児
認定後の事務的負担の増加
認定前後で参加する保護者の温度差が生じ
る懸念。
申請者が授業校保護者ではなく、日本人会
保護者が自分たちの力で我が子らに日本語
教育を行うことにも大きな意義
台湾における対日関係の変化
■戦後、国民党の政権下
1972年の断交以来、戦前日本の教育を受けた
知日家の人々の活躍→第一線から引退
1990年代後半 日本のサブカルチャーが流行
[哈日族]
■民進党による執政(00年5月~08年5月)
日本統治時代を見直す動き・台湾本土化(*
台湾語)
今後の政策
■国民党の政権奪回(08年5月~)
 進む世代交代:日本を理解する人材の必要性
 台湾・日本の歴史観の逆戻り?
*対日政策に変化?
*台湾語の継承問題も
新しい時代における日台の架け橋に
ご
清
聴
あ
り
が
と
う
ご
ざ
い
ま
し
た
。