金属の色の物理的起源

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Transcript 金属の色の物理的起源

金属の色の物理的起源
東京農工大学
佐藤勝昭
目次







はじめに
人が色を感じる仕組み
貴金属の色
貴金属の反射スペクトルの物理的起源
古典電子論と電磁気学による説明
構造色
おわりに
1.はじめに

シロガネ(銀)、コガネ(金)、アカガネ(銅)、クロガ
ネ(鉄) 、ハッキン(白金)など金属の和名は色に
ちなんで付けられています。
銀
銅
しろがね
あかがね
金
こがね
くろがね
鉄
白金
理科室の想い出



むかし、理科室には不思議な魔力がありました。
標本箱には、金でないのに、金ぴかの石があって、い
つもなぜだろうと考えていました。
私が、金属の色に興味をもったのは、貴金属の金色と
黄銅鉱や黄鉄鉱の金色はどう違うかという疑問からで
した。
黄鉄鉱
黄銅鉱
磁硫鉄鉱
この講演で話すこと(1)

測色学的に見れば、金色というのは、赤-
緑の波長領域の反射率が高いため、白色光
に対しこれらの色が選択反射されることに
よって視覚にもたらされる色です。銅は、赤
の波長域を選択反射します。銀は、可視光
線の全ての波長域を均等に反射するため色
は付きません。一方、鉄は、可視光線の全て
の波長域で反射率が低いため黒く見えます。
この講演で話すこと(2)

ここでは、このような金属が示す固有の選択
反射性がどのような物理学的起源から生じ
ているのかについて電子論の立場から記述
します。金属の高い反射率は自由電子の集
団運動がもたらすものですが、その色を決め
ている反射率の急変する波長には束縛電子
が関与しています。一方、鉱物の色は束縛
電子が関与する電子遷移によって着色して
います。
この講演で話すこと(3)


この講演では、はじめに金属の色の測色学的起
源について述べ、ついで、金属の色の電子的起
源を述べます。
色には、電子的な起源によるほかに、コガネムシ
やタマムシのような構造色もあります。構造色と
はその微細周期構造が光の波長に近いことから
生じる一種の干渉フィルタの効果による特定の波
長領域が選択反射されることによる着色であり、
最近話題のフォトニック結晶に相当する概念なの
です。これについては竹田先生が話されるので、
ここでは。省略します。
さまざまな光学現象による色







選択反射による色:金属の色
選択吸収による色:宝石の色、カラーフィルム
散乱による色:空の色
干渉による色:薄膜の色
屈折による色:虹の色、プリズムからの色
回折による色:オパールの色、CDの色
発光による色:CRTの色
2.人が色を感じる仕組み


色のことを論じる前に、人間が色を感じる仕組みに
ついて述べておきます。カラーテレビでは、全ての
色を赤(R)、緑(G)、青(B)の光の3原色で表してい
ます。なぜ色を3原色で表せるのでしょうか。
網膜には桿体と呼ばれる光を感じる細胞と錐体と
呼ばれる色を感じる細胞があり、錐体にはR,G,Bを
感じる3種類のものがあります。これらの三種の錐
体の送り出す信号の強さの違いによりさまざまな
色を感じることができるのです。
三原色


光の3原色(加法混色 )
各色の強さを変えて混ぜ合わ
せると,いろいろな色の光にな
る。赤い光,緑の光,青い光を
同じ強さで混ぜ合わせると, 白
い光になる。
カラーテレビ
赤、R(red)
緑、G(green)
青、B(blue)


補色の関係
色の3原色 (減法混色)
各色を混ぜ合わせると,い
ろいろな色ができる。マゼン
タ・シアン・イエローを同じ割
合で混ぜると 黒になる。
カラーフィルム
カラーフィルタ
プリンタ
マゼンタ,M(magenta)
シアン,C(cyan)
イエロー,Y(yellow)
http://www.shokabo.co.jp/sp_opt/spectrum/color3/color3.htm
色を感じる細胞
色を感じる
光を感じる
なぜ3原色で表せるのでしょうか。そ
れは人間の色を感じる細胞が3種類
あるからです。これらの細胞は錐体
(すいたい)と呼ばれ,三種の錐体の
送り出す信号の強さの違いによりさ
まざまな色を感じることができます。
色の数値化(1):RGB感度曲線

RGBを感じる細胞の3色の感度曲線をRG
B感度曲線といいます。

G
B
R

RGB感度曲線は,特徴的な
波長(R,G,B)で一つのピーク
をもつ曲線になります.
人間の眼では,主に感度領
域の中央(緑色の光)で明る
さを捉え,感度領域の両端
(青や赤)で色合いを決めて
いるのです
色の数値化(2):XYZ等色曲線

実際には感覚的な3原色RGBだけでは表せない色もあるので、
機械による測色、表色、目の波長感度特性を詳しく調べて数
値化した “表色上の3原色”である3刺激値XYZを使います。
XYZ等色曲線は3つの刺激値
X,Y,Zを使って表す表色系で、こ
れだとXは赤・青2つのピークをも
ち、Zは青の領域にピークをもつ
ため、XとZを使って紫を表現でき
ます。この等色関数は1931年
CIE(国際照明委員会)で定められ、
現在にいたるまで使われていま
す。すべての色はXYZの3刺激
値で与えられます。

CIE色度図



例 (0.6, 0.3)→赤
(0.2, 0.6)→緑
http://www.shokabo.co.jp/sp_opt/spectru
m/color3/color3.htm
表色(色を表す)のためには,
一般に3つの数値が必要で
すが,明るさの情報を犠牲
にして2つの数値で色を表し,
2次元の図に表現したもの
を, 色度図といいます.
ここで、XYZから
x=X/(X+Y+Z),
y=Y/(X+Y+Z)という正規化
変換をして、x、y2つの座標
系で全ての色を表すのが、
図に示すCIEの色度図です。
x, yとRGBの関係は、
x=0.6R-0.28G-0.32B
y=0.2R-0.52G+0.31B
で表されます。
CIE色度図と色温度

ある温度で光っている(熱放射・黒
体輻射している)物体の色を測定
して,温度と色の関係を色度図上
に描くことができます.この曲線は
黒体輻射の色軌跡と呼びます.な
お,一般の光源は黒体輻射をして
いるわけではないので,色軌跡の
上のある色で光っている光源の温
度が,その点に対応する温度に
なっているとは限りません.そのた
め,色から決まる温度を色温度と
いいます.
カラーバー
色 白 黄
シ
ア
ン
緑
マ
ゼ
ンタ
赤 青
R 1
G 1
B 1
0
1
1
0
1
0
1
0
1
1
0
0
R

White=R+G+B,
Yellow=R+G,
Cyan=G+B,
Magenta=R+B
G
B
1
1
0
0
0
1
3.貴金属の色


さて、話を貴金属の色に戻しましょう。
3つの貴金属である金、銀、銅の分光反射
率(反射スペクトル)を示します。
紫外線
図3 金、銀、銅の反射スペクトルと各波長の色
銅の色

銅は600nmより波長の長い光(橙、赤)はよく反
射しますが、600nm付近で急落し、550nmより短
い光の反射率は低くなります。それで、銅は赤色
を選択反射しますが、青から緑の光も50%程度
反射するので、白っぽい赤色を示すのです。
金の色

金は、550nmより長波長で高い反射率をもち、
520nm付近で急落します。青から紫にかけての反
射率は40%程度に下がっており、この結果、赤・
橙・黄・黄緑の光を強く反射し、青緑・青・紫の光は
あまり反射しません。従って、XとYが同程度刺激さ
れ反射光は黄色に見えるのです。
銀の色

銀は、可視光全ての波長領域において高い反射
率を示し、X,Y,Z全てが等しく刺激されるため反射
光は着色せず、単なる鏡の面となるのです。
鉄の色

鉄は、可視域の全ての波長に対して反射率が
50%程度と低く、またスペクトルは平坦です。
このため、鉄は黒っぽく見えます。
100
Reflectivity (%)

鉄
50
0
300
400
500
600
Wavelength (nm)
700
800
4.貴金属の反射スペクトルの物理的起源

金、銀、銅の反射率はなぜ長波長側で高いので
しょうか。これらの金属のもっと広い領域での反
射スペクトルをエネルギー表示で示しましょう。
図を見ると全ての貴金属で、
長波長の極限(光子エネル
ギーゼロ)において反射率
は100%になっています。
 
 
hJ  scm  s  6.626 10
EeV 

hJ  sc m  s -1
EJ  hJ  s s 
m
-1
-1
meC
34
 2.998 108
1240

nm109 1.602 1019 nm
金属の特徴


自由電子が結晶全体に広がり、自由電子の
海に原子核が浮かんでいる。原子間の結合
は、電子が担っている。
これが、金属の展性・延性、高い導電率、高
い熱伝導率、さらには、高い反射率の原因と
なっている。
金属結合
• 金属においては、原子同士が接近していて、外殻のs電子
は互いに重なり合い、各軌道は2個の電子しか収容できな
いので膨大な数の分子軌道を形成する。
• 電子は、それらの分子軌道を自由に行き来し、もとの電子軌
道から離れて結晶全体に広がる。これを非局在化するとい
う。
• 正の原子核と負の非局在電子の間には強い引力が働き、
金属の凝集が起きる。
• この状態を指して、電子
の海に正の原子核が浮
かんでいると表現される。
金属は叩くと変形する
http://www.chemguide.co.uk/atoms/bonding/metallic.html
周波数ゼロの極限で100%反射する原因
自由電子の集団運動(プラズマ振動)による



光は電磁波の一種である。つまりテレビやラジオの電波と同じよう
に電界と磁界が振動しながら伝わっていきます。
金属中に光がはいると金属中に振動電界ができます。この電界を
受けて自由電子が加速され集団的に動きます。
電子は負の電荷を持っているので、電位の高い方に引き寄せら
れます。その結果電位の高い方に負の電荷がたまり、電位の低
い側にプラスの電荷がたまって、逆極性の電気分極が起きます。
P
-
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
-
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
E
D=ε0E+P
自由電子の電子分極の古典電子論
慣性項
• 電子の位置をu、有効質量をm*、散乱の緩和時間を
τとすると、自由電子に対する運動方程式は、
2
d u m * du
m* 2 
 qE
 dt
dt
摩擦項(電子散乱)
• ここで、E、uにe-iωtの形を仮定し、代入すると

2 im 
  m 
u0 exp it   qE0 exp it 
 

電子分極の古典電子論つづき1
• これより変位uはEの関数として次のように表され
ます。
q
1

2 im 
u0  qE0 /  m 
E0

  m   i /  

• 自由電子による分極Pf=-Nfquの式に代入し
2
Nq
1
P0  Nqu0  
E0
m   i /  
の式を得ます。
電子分極の古典電子論つづき2
分極
• D=ε0εrE=ε0E+Pの式を使うことにより、
2
Nq
1
D0   0 E0  P0   0 E0 
E0   r  0 E0
m   i /  
• これより、複素誘電率が得られる。
2
p
2
Nq
1
 r  1

 1
m * 0   i /  
  i /  
ここに
2
p
2
Nq

m * 0
である。これをドルーデの式 という。
①電子散乱のない場合
• とすると
2
p
 r  1 2
d 2u m * du
m* 2 
 qE
 dt
dt

の形に書ける
• この式より、=p(プラズマ角振動数)のときゼロを横
切る。
• <pのとき比誘電率r<0である。
• 負の誘電率は、電界と電束密度が逆向きで、電界が
物質内に入り込めないことを意味する。
金属の負の誘電率
ωp=2eV
/τ=0
Drudeの式(散乱なし)
10
0
ε
-10
ε
-20
-30
ωp
-40
プラズマ周波数
-50
0
1
2
ω(eV)
3
4
5
負の誘電率と反射率
• 電磁気学によれば、反射率Rは
 r 1
R
 r 1
• で表される。もし、比誘電率rが負の実数ならば、
aを正の数として、 r=-aと表されるから、上の
式に代入して
2
 r 1
R

 r 1
2
2
 a 1
i a 1
a 1


1
a 1
 a 1
i a 1
• すなわち100%反射する。
金属の高い反射率
ωp=2eV
/τ=0
反射率
1.2
1
R
0.8
0.6
R
0.4
0.2
0
0
1
ωp
2
ω(eV)
3
4
5
②減衰項(電子散乱)のある場合
• 比誘電率rは複素数で表され、実数部を‘r、虚
数部を”rとすると、 r= ’r+i ”r
• 実数部、虚数部に分けて書くと下記のようになる。
 r  1 
 r 
2
p
 1 
2

2
p
2
   1 
実数部:電界と電束が同相
2
2

虚数部:電界と電束の位相が90度
ずれている
 p  nq m 0 は、プラズマ角振動数である。
2
②減衰項のある場合 つづき
ωp=2eV
/τ=0.3eV
Drude誘電率
20
ε’,ε"
10
0
ε'
ε"
-10
-20
-30
0
1
2
3
4
5
ω(eV)
• 誘電率の実数部は    2p 1  2 において0を横切る。
負の誘電率をもつと、光は中に入り込めず、強い反射が起きる。
金属の高い反射率(減衰項あり)
ωp=2eV
/τ=0.3eV
Drude反射率
1
0.8
0.6
R
R
0.4
0.2
0
0
1
2
3
4
5
ω(eV)
このような場合の反射率のスペクトルは、図に示すように反射率の変化が緩
やかになっている。またp以下の反射率も1よりかなり減少している。
貴金属の誘電率スペクトル
反射率が急落するエネルギーがAu, Ag, Cuで違うのは?
バンド間遷移→古典論では束縛電子系の運動



実際の貴金属の比誘電率のスペクトルは、前図
に示すようにこれほど単純ではありません。
比誘電率の虚数部”は一度極小値をとった後、
高エネルギー領域で再び増大しています。
この”の増大はバンド間遷移が始まることを表し
ています。古典論の描像でいえば、電子が原子
位置にバネで束縛されていることに相当します。
束縛電子による電子分極
• 電子の位置をu、質量をm、固有振動の減衰時間を
τ0とすると、束縛電子に対する運動方程式は、
2
d u m du
2
m 2 
 m0 u  qE
dt  0 dt
• ここで、E、uにe-iωtの形を仮定し、代入すると
 2 2 i 
m0    u0 exp it   qE0 exp it 
0 

束縛電子の電子分極(つづき1)
• これより変位uはEの関数として次のように表され
る
 2 2 i  q
1
u0  qE0 / m0     
E0
2
 0  m 0    i /  0 

• 電子分極P=-Nquの式に代入し
2
Nq
1
P0  Nqu0 
E0
2
m 0    i /  0 
束縛電子の電子分極(つづき2)
• D=ε0εrE=ε0E+Pの式を使うことにより、
2
Nq
1
D0   0 E0  P0   0 E0 
E



E
0
r
0
0
2
m 0    i /  0 
• これより

Nq
1
 r  1
 2
 1 2
m 0 0    i /  0 
0    i /  0 
2
p
2
– ここに
2
Nq である。上式をローレンツの式 という。
 
m 0
2
p
自由電子+束縛電子の誘電率
Drude+Lorentz
誘電率D+L
10
ωp=2eV
/τ=0.1eV
ω0=1.5eV
/τ0=0.1eV
ε',ε"
5
ε'
ε"
0
-5
-10
0
1
2
ω(eV)
3
4
5
自由電子+束縛電子の反射
反射 Drude+Lorentz
Drude+Lorentz
1
0.8
R
0.6
R
0.4
0.2
0
0
1
2
ω(eV)
3
4
5
実例と比べてみよう
ωp=2eV
/τ=0.1eV
ω0=1.5eV
/τ0=0.1eV
Drude+Lorentz
1
0.8
R
0.6
R
0.4
0.2
0
0
1
2
ω(eV)
3
4
5
反射率の急落
• 束縛電子系の光吸収(ローレンツの式で表され
る)が始まるとその中心エネルギー付近で、’
のドルーデ曲線にこぶができて誘電率の実数
部がゼロを横切り、反射率の急変が起きる。
• ここでは、古典論なのでバネによる束縛を考え
たが、実際にはバンド間遷移による吸収を考え
るべきで、バンド間吸収の始まるエネルギー位
置が見かけのプラズマ周波数になり、ここで反
射率の急落がおきる。
6.金色の石(黄鉄鉱)の反射スペクトル
の物理的起源


図に掲げるのは、米国デン
バー空港のみやげ物屋で
買った黄鉄鉱(pyrite, FeS2)と
いう極めてありふれた金色の
鉱石である。この石は、fool’s
goldというありがたくない仇名
をもらっている。
黄鉄鉱は半導体で、自由電
子の密度は金に比べ桁違い
に少ない。従って、反射率の
スペクトルがドルーデの式に
従うことは考えにくい。
図11 黄鉄鉱の輝き
金色の石
(1)黄鉄鉱(パイライトFeS2)を例に
research.kahaku.go.jp/geology/
sakurai/033.GIF
staff.aist.go.jp/takumi-sato/
koubut/ryuka/B018.jpg
FeS2:なぜ金ぴか?
赤から緑の波長域にある強い
吸収が原因
黄鉄鉱の反射スペクトル


黄鉄鉱の反射スペクトルをみると、黄鉄鉱は2eV
付近(赤)では60%に及ぶ高い反射率のピークを
示すが、2.5eV(緑)付近で急落して、3eV(青紫)
付近では40%以下になっており、緑色付近での
反射の急落が金色の原因であることがわかりま
す。
自由電子によるドルーデの式に従うならば、反射
率は低エネルギーに向かって単調増大するはず
ですから、ピークを示すのは、Feの3d電子が関
与した強いバンド間遷移によるものでしょう。
パイライトの反射スペクトルとバンド構造
FeS2
半導体
反磁性
CoS2
金属
強磁性
NiS2
半導体
反強磁性
金色の石
(2)黄銅鉱(カルコパイライトCuFeS2)
www.dsuper.net/~marcouet
/ my1.htm
www.hyogokenshin.co.jp/discover/
Nakatyo/image/no16.jpg
CuFeS2:なぜ金ぴかか
赤から緑の波長域にある強い
吸収が原因
黄鉄鉱、黄銅鉱の金色(まとめ)


鉄のd電子が関係した強いバンド間遷移が
近赤外~可視に存在し、赤から緑付近にか
けて高い反射率をもたらします。
金や銀と異なり、自由電子のプラズマ振動に
は関係しません。
5. 構造色




コガネムシやタマムシの羽根の色、モ
ルフォチョウの羽根の金属光沢、オオ
ゴマダラのサナギの色などは、微細な
構造を持つために光のブラッグ回折や
干渉を起こして見える色で、構造色と呼
ばれます。
図のコガネムシの一種であるPlusiotis
Batesiの表皮はコレステリック液晶で形
成されています。コレステリック液晶は
1次元周期構造を持ち、その周期が可
視光程度だと周期構造由来のブラッグ
反射(構造色)を示します。
コレステリック液晶に光が当たると、ら
せんの回転方向と同じ回転方向の円偏
光はらせん構造と相互作用をして光の
波長がその周期の2倍と一致したとき、
多層膜と同様に反射されるので全反射
します。
一方、らせんの回転方向と逆の円偏光
は相互作用せずにそのまま通り抜けて
しまう。このため、反射光はどちらかの
円偏光だけになります。
タマムシは、見る角度によって様々な色になるが、コ
レステリック液晶の表面にクチクラの多層膜が出来て
いて、多重干渉効果が加わって複雑な色になってい
る。オオゴマダラのサナギの色の場合は、誘電体多
層膜による一種の干渉フィルタの効果で金色になっ
ている6)。(昆虫の構造色のWebによる)
http://www.op.titech.ac.jp/lab/Take-Ishi/html/ki/hg/et/sb/goldbug/old/goldbug.html
http://skino49.web.infoseek.co.jp/morpho1/
構造色のいろいろ





薄膜、多層膜の干渉
表面凹凸による回折
微粒子分散系の着色
フォトニックバンドギャップ構造
これについては、竹田先生の講義に詳しい
ので省略します。
構造色


構造色は、オパールなどと同じフォトニックバンド
ギャップ結晶に通じるものがあり、人工的に構造
を作ることによって染料や塗料を使わずに装飾で
きることから、繊維産業などで応用が進んでいま
す。
フォトニクスの最先端の話題と生物の色が共通
性をもつことは極めて興味深いことである。人工
的なフォトニック結晶は規則性が重要な要素にな
るが、生物においては、適度の不規則性が加わ
ることで複雑な着色を示している。
おわりに



金属の色の物理的起源として、電子的起源と構
造的起源があることを述べました。
電子的起源として、金属の自由電子の集団運動
によるものと、バンド間遷移による吸収によるも
のとがあることを述べました。
また、コガネムシなど生物が示す構造色について
も触れたが、この話題は、金属のメゾスコピック
構造、表面テキスチャーなど、このセミナーのト
ピックスに繋がるものとして興味深い。