1,多摩川外来種対策調査プロジェクト

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1 多摩川外来種対策調査プロジェクト報告
Project of Reserch for invasive species in
Tamariver
小田切 宗一郎(Kotagiri Soichiro),Nazim Uddin,劉 顯傑(Ryu Kenketsu)
浅枝隆(Asaeda Takashi)
市民団体20団体(特定非営利活動法人自然環境アカデミー
,リバーミュージアム研究会,他,多摩川の水辺の楽校)
,国土交通省京浜河川事務所
近年の多摩川において,河原固有の植物が衰退している一方でクズ(Pueraria lobata),
アレチウリ(Sicyos angulatus)などの繁殖力旺盛なつる植物が河川敷へ侵入,優先している.
本研究の目的は,クズ,アレチウリの生態と,攪乱に対する応答の解明である.3地点の窒素
含有率を比べると,Site O,K,Fの順に含有率が高く,栄養塩が豊富である事を確認した.
また,アレチウリとクズの窒素安定同位体比の比較によって,根粒菌と共生するクズは,約
60%の窒素を根粒菌から得ていることが分かった.さらに土壌中,植物体内における窒素含
有率,δ15Nの比較より,窒素が限られている状態の氾濫原において,アレチウリは肥沃な
土地においてのみ繁茂する一方,クズは貧栄養な土地においてさえ,共生する根粒菌から窒
素を得ることで繁茂することが考えられる.
1.背景・目的
Ative opportunistic plants are disappearing from floodplain associate with wide spreading of lianas,
regardless of native or alien, (ex. Pueraria lobata and Sicyos angulatus), in spite of poor nitrogen content
of riparian soils . The purpose of this study is to elucidate the possible mechanism of Puraria lobata and
Sicyos angulatus to colonize on such steraile condition. It found that nitrogen content of the soil was
ordered as to be Oguri, Komae, and Fuchu, similar trend was obtained also for organic matter and soil
water contents, and the fraction of plant nitrogen trapped by nodule. For P.lobata’s about 60% of
nitrogen is originated from the symbiotic Rhizobium bacteria, similalrly to three sites. It was clearly
shown that the habitat of these species highly depends on the soil characteristics, such as S.angulatus
colonizes on fine and fertile solis, thus fine sediment accumulation likely make it possible. While P.lobata
can even on coarse sterile soil. It is likely because P.lobata is provided with a large fraction of nitrogen
from nodules.
3.結果、考察
1-①:全国の河川敷における問題
3-①:土壌サンプルの分析結果
河原固有の生態系
の消失
礫河原の
消失
河川敷の
樹林化
•
アレチウリはある程度の細粒,かつ栄養塩の豊富な土壌にのみ生息可能であるのに対し,
クズは多様な土壌環境に生息可能であることが確認できる.
8
要因
Fig1. Change in riverside
1ー②:研究対象としたつる植物
S.angulatus
0
Site F
Site O
Site K
S. angulatus
Site F
Site O
Site K
Fig9. Soil nitrogen content of
P. lobata and S. angulatus in root zone
Fig8. Soil particle size D50 of
P. lobata and S. angulatus in root zone
空気中の窒素を固定す
る根粒菌と共生してい
る. クズは根粒菌から
窒素を得ることにより,
貧栄養土壌においても
繁茂することが考えら
れる.
3-②:植物サンプルの分析結果
Fig4 . Nodule
•
炭素含有率については,両植物共に土壌環境の変化による影響が見られない.一方で
窒素含有率については,土壌環境の変化によって大きく変動している事がみられる。
C[%]
目的:各地点におけるクズ,アレチウリの比較による,両植物の生態の解明
2.調査方法
60
6
50
5
40
4
30
Site F
3
Site F
20
Site O
2
Site O
10
Site K
1
Site K
0
0
leaves
stem
root
S.angulatus
2-①:調査地
leaves
stem
root
leaves
P.lobata
Site F(府中四谷付近)
東京都
Site K(狛江付近)
root
leaves
stem
root
P.lobata
Fig11. Total nitrogen of
P. lobata and S. angulatus
アレチウリが概ね高い値を示す一方,クズは0に近い値を示している.
7
4
6
3
5
4
Site F
3
Site O
2
Site K
2
δ15N[‰]
•
stem
S.angulatus
Fig10. Total carbon of
P. lobata and S. angulatus
δ15N[‰]
多摩川は,関東を代表する都市河川の一つである.
河原固有の植物が衰退する一方で,クズ,アレチウリなどのつる植物が侵入,優先している.
本研究では,多摩川の中流域を調査対象地とし,土壌環境や繁茂状況の異なる3地点において調査
を行った.
Site F
1
Site O
0
root
-1
1
0
stem
Site K
leaves
-2
root
Site O(大栗川合流点付近)
P. lobata
-4
N[%]
Fig3 . P. lobata
P.lobata
2
-2
根粒菌との共生
アレチウリ(Sicyos angulatus),
クズ(Pueraria lobata)を研究対象とする. マメ科であるクズは,
Fig.2 S. angulatus
4
N[%]
D50[mm]
6
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
東京湾
stem
leaves
-3
Fig12. δ15N of S. angulatus
神奈川県
Fig13. δ15N of P. lobata
Fig5 .Riverside in Tamagawa
3-③:植物-土壌の関連性
Site F
・クズが繁茂する一方アレチウリは
ごくわずか
Site K
・クズ,アレチウリともに繁茂
・粗粒、細粒の土壌が混在し
ており,Site Oと同様にクズ,
アレチウリがともに繁茂
現地調査
本研究は,現地調査を2008年6月~2009年1月, 2009年4月~8月にかけて,
月1~2回の頻度でサンプリングを行なった.
1. クズ・アレチウリとその周辺植生の変遷の調査
2. 両植物の生長の観測
3. 両植物と土壌サンプルを,屋内分析用に採取
3
2
P. lobata
1
S. angulatus
0
•
0.4
0.6
0.8
3
2
S.angulatus
1
P.lobata
0
-1 0
-2
2
4
6
δN15 of Soil[‰]
Fig16. The relation between δ15N of
soil and stem
Fig.17に,各地点におけるクズの根粒菌由来の窒素と推定される割合を示す.
比較的粗粒かつ貧栄養な土壌であるSite F, Site Kにおいては根粒菌由来の窒素に大きく依存
している.一方で全体的に細粒であり富栄養であるSite Oにおいては根粒菌由来の窒素への依
存度が低く,土壌中の窒素をより多く取り入れている事がわかる.
Fig.13において,Site F,Site Kにおけるクズの窒素安定同位体比δ15Nが低い値となっている
事は,両地点においてクズがより多くの窒素を根粒菌から得るため,根粒菌が固定する大気中
の窒素の安定同位体比に近づいていると思われる.
1. 土壌分析
含水率
粒度組成
2. 植物分析
•
•
0.2
Fig15. The relation between nitrogen
content of soil and stem
屋内分析
•
•
0
Nitrogen uptake from
the Rhizobium bacteria
•
4
4
Nitorogen-content of Soil [%]
2-②:調査内容
•
5
5
δN15 of Stem[‰]
Site O
Fig.15,16において,アレチウリの窒素含有率,δN15が土壌中の値と正の相関を示すのに対し,
クズは一定の値を保つ.これはクズが根粒菌から窒素を得るために,土壌環境に大きく影響され
ず生育している事を示していると考えられる.
Nitrogen-content of Stem
[%]
•
100
80
[%]
Fig6. Study area(1)
Fig7. Study area(2)
60
40
20
0
Site F
採取した両植物の形態を記録
植物のバイオマスの測定
Site O
Site K
Fig17. Nitrogen uptake from the Rhizobium bacteria
3. 植物および,土壌
全窒素,全炭素の分析(elementar社製Vario MICRO CUBE使用)
4. 安定同位体比N15の分析(MICROMASS社製Isoprime使用)
•
5. 安定同位体比δ15Nを用いた,クズにおける根粒菌由来の窒素の比率の計測
•
根粒菌由来の窒素の比率の計算式
(Robert M. Boddey,2000)
Ndfa
・・・
N derived from air(根粒菌由来の窒素)
δ15N-fixing plant
・・・
窒素固定された窒素を吸収した植物のδ15N?(クズ)
δ15N-Reference plant
・・・
比較対象の植物のδ15N(アレチウリ)
B
・・・
空気中からのみ窒素を吸収した植物の取り得るδ15N(≒0)
4.まとめ
この研究により,アレチウリの生育には富栄養な土壌環境が必要であり,土壌が富栄養であるほど大
きく繁茂する事が確認された.一方で,クズは大気中の窒素固定を行う根粒菌との共生により,土壌環
境に大きく左右されず繁茂することが分かった.今後は他の植物との比較を行う事でクズ,アレチウリの
生態をより詳細に明かすとともに,実際に現地でどのように在来種を駆逐し繁茂していくかの観察を行う
事で,両植物の繁茂を抑制する対策に結び付けていきたいと考える.