Transcript 川根博司
明治期の日本赤十字看護教育における 喫煙/禁煙への言及 日本赤十字広島看護大学 ○川根博司*,渡辺さゆり**,竹下直子** (*図書館長,**司書) はじめに 日本赤十字社が赤十字国際会議の決議 に基づき、救護活動に従事する女性救護 員を確保するために、明治23年(1890年) に看護婦養成を開始して以来、120年が経 過した。この間、赤十字の看護教育の根底 に流れているのは「人間の生命と尊厳を守 る」という理念である。今回われわれは、明 治期に赤十字看護教育用に用いられた書 物の中で、喫煙/禁煙に関してどのように 記述されているかを調査した。 対象と方法 対象は、明治10年(1877年)から明治43年 (1910年)にかけて発行された看護教育用 教科書で、1988年に復刻出版されたもの である。次のスライドに、書名、著者名、発 行所、発行年などを示す。これら12種類の 書物のすべてのページに目を通し、喫煙/ 禁煙に関する記述を探して抜き出した。そ して、喫煙/禁煙についてどのように言及 されているのかを検討した。 調査した看護教育用教科書 書名 看護心得 看病要法 著者名 発行所 太田雄寧 島村利助 ウイリアム・アンデルセン 海軍省医務局訳 陸軍看護学修業兵教科書 小林又七 普通看病学 ビルロート 佐伯理一郎訳 吐鳳堂 看病の心得 平野 鐙 佐藤春 実用看護法 ヘレン・イー・フレーザー 警醒社 成瀬四寿訳 日本赤十字社看護学教程 日本赤十字社 日本赤十字社 派出看護婦心得 大関 和 中庸堂 実地看護法 大関 和 東京看護婦会 看護婦の友看護日誌摘要字引 山上歌子 至誠堂 甲種看護教程 上巻 日本赤十字社 日本赤十字発行所 甲種看護教程 下巻 日本赤十字社 日本赤十字発行所 発行年 明治10年 明治12年 明治23年 明治28年 明治29年 明治29年 明治29年 明治35年 明治41年 明治40年 明治43年 明治43年 『陸軍看護学修業兵教科書』 (明治23年) 第3編/看護法・第24章/清気法 吸病 煙室 ( 喫 及 煙 び ) 廊 し下 て はに いお けい なて い 『陸軍看護学修業兵教科書』 (明治23年) 第6編/衛生の大意・第53章/屯営 及び居室 居み喫 室な烟 内空( 喫 に気煙 おを) い汚等 て敗は 喫す 食る しも ての はな い けの なで い 『看病の心得』 (明治29年) 第1章/一般の心得・ (5)病室換気法及び掃除 何喫〔 病 人烟室 で( タ 内 あバ に ろコ ) お う及 い とびて 堅飲〕 く食 禁等 じは る 『日本赤十字社看護学教程』 (明治29年) 第3編/看護法・第13章/一般看護法・ (4)病室清潔法及び通気法 喫病大甚喫 烟室気だ烟 さ内を害は せに不が多 てお潔あく はいにりの いてす且患 け るつ者 な も に い の 対 な し の て で 、 『日本赤十字社看護学教程』 (明治29年) 第10編/衛生法大意・第41章/土地 及び家屋 避喫も喫 け烟の煙 るすな等 べるのは き等でみ では、な あ可 空 る及 気 的 を に 汚 濁 さ せ る 『日本赤十字社看護学教程』 (明治29年) 第10編/衛生法大意・第44章/身体 巻止〔 タむ口 バを中 コ得及 のなび 灰 歯 をい 時間 用はの い 清 る 掃 と に よ 〕 い 『実地看護法』 (明治41年) 第1編/看護法・第7/病室の清潔法 タ バ コ を 吸 わ な い こ と 『甲種看護教程 下巻』 (明治43年) 第6編/看護・第1章/一般の看護・ 第3/病室の清潔 看 護 者 は 勤 務 中 喫 煙 し て は い け な い 一喫 定煙 のは 場許 所さ にれ おた い患 て者 しに て限 も より い 『甲種看護教程 下巻』 (明治43年) 第8編/手術の介輔・第4章/手術前後 の看護 タ手 バ術 コ当 は日 禁 じに は る、 べ き で あ る 『甲種看護教程 下巻』 (明治43年) 第15編/衛生・第1章/土地及び家屋 避喫喫 け烟烟 るす等 べるは きこ空 でと気 あ等を るは汚 す も の な の で 、 『看護婦の友看護日誌摘要字引』 (明治40年) キ セ ル = 煙 管 キ ツ イ ン = 喫 煙 タ バ コ ヲ ス ウ マ キ タ バ コ タ バ コ = 煙 草 巻 煙 草 = 看護教育用教科書の変遷 赤十字看護教育用の教科書の最初は 『看護婦教程』(1894年・明治27年) である。 ついで本社と支部での養成を統一 するため、本格的な教科書である 『看護学教程』(1896年・明治29年) を刊行した。 明治期の末になって改訂・増補の 必要から 『甲種看護教程』(1910年・明治43年) を刊行した。 赤十字看護学教科書における記述 病室内の喫煙を禁止 屋内の喫煙は可及的に回避 許された患者は一定の場所で喫煙可 手術当日にはタバコを禁止 看護者は勤務中の喫煙禁止 おわりに すでに明治期の看護学教科書において、 病室や廊下での喫煙を禁じるという記述が あることがわかった。明治43年(1910年) に刊行された『甲種看護教程』では、許さ れた患者に限り一定の場所での喫煙を認 めるとともに、看護職員の勤務中の喫煙は 禁止していた。また、患者に手術当日のタ バコを禁じても、禁煙指導をするような内 容が見当たらないのは、当時の情勢・状況 からすれば仕方ないことかもしれない。