法学特講 現代社会と著作権 第5講 著作権保護の展開

Download Report

Transcript 法学特講 現代社会と著作権 第5講 著作権保護の展開

法学特講 現代社会と著作権 第

5

講 著作権保護の展開

愛媛大学地域創成研究センター 宮崎幹朗

日本の著作権法制度の概観

明治時代初期 「出版条例」から「版権条例」 明治 32 年 著作権法制定 ベルヌ条約加盟 昭和 45 年 旧法全面改正 現行著作権法制定 その後数度の改正を経て、現在に至る ( 資料集 著作権法の歴史 参照 )

著作権関係立法の流れ

明治 2 明治 20 明治 26 明治 32 出版条例公布 版権条例公布 脚本楽譜条例 写真版権条例 版権法公布 旧著作権法公布 昭和 45 著作権法改正 (現行著作権法) 昭和 53 昭和 59 昭和 60 昭和 61 レコード保護条約加入に伴う整備 貸与権の創設等 プログラム保護 データベース保護 昭和 63 平成 1 著作隣接権保護期間延長 実演家保護条約加入 平成 3 レコード保護強化 平成 4 導入 私的録音・録画補償金制度 平成 6 WTO 協定加入 平成 9 公衆送信権創設 平成 11 譲渡権創設等 平成 12 WIPO 著作権条約加入 平成 14 WIPO 実演・レコード条約 加入 平成 15 平成 16 平成 18 映画保護期間延長等 書籍・雑誌の貸与権 放送同時再送信の円滑化

著作権制度の趣旨・著作権法の意義

なぜ著作権法が必要なのか? 模倣が許されない理由 創作へのインセンティブと情報の保護 著作権法の目的( 著作権法 1 条 ) 1 著作者の権利の保護 2 公正な利用 3 文化の発展への寄与

著作権の構造 支分権の束としての著作権

著作権(著作財産権) 複製権 翻訳・翻案権 上演・演奏権 上映権 公衆送信権 口述権 展示権 頒布権 貸与権 譲渡権 二次的著作物利用権 ( 著作権法 21 ~ 28 条 ) 著作者人格権 公表権 氏名表示権 同一性保持権 ( 著作権法 18 ~ 20 条 ) 著作隣接権 実演家・レコード製作者・放 送事業者等の権利 録音権、録画権、放送権 複製権、貸与権、再放送権 ( 著作権法 91 ~ 100 条の 5 )

著作物

著作物=創作的に表現されたもの 言語(小説・詩歌・脚本・論文・講演) 音楽(歌詞・ 楽曲) 舞踏・無言劇 美術(絵画・版画・彫刻・書・イラスト) 建築(建造物のうち芸術的価値の高いもの) 図形(地図・図面・模型) 映画 写真 プログラム データベース ( 著作権法 10 条 1 項、 12 条の2 )

著作権の制限 著作物の自由利用が認められる場合

私的使用のための複製 図書館における複製 引用 教育目的の利用 試験問題としての複製 視聴覚障害者のための複製 営利を目的としない上演等 時事問題論説の転載等 政治上の演説 時事事件報道のための利用 裁判手続等における複製 情報公開法等による開示 翻訳・翻案等による利用 放送事業者の一時的固定 美術等所有者の展示 公開の美術著作物の利用 美術著作物の展示用の複製 プログラム著作物の複製物の 所有者による複製 保守修理のための一時複製 複製権制限により作成された 複製物の譲渡 強制許諾 ( 著作権法 30 ~ 47 条の4、 67 条)

以下では、具体的な裁判を取り上げながら、 著作権の保護がどのようにされてきたのかを 見てみましょう!

1 雲右衛門浪曲レコード事件

浪曲師・桃中軒雲右衛門の浪曲を X がレコード にしていたものを Y が勝手に複製販売したの で、 X が Y に損害賠償請求訴訟を提起した → 民法 709 条の「権利侵害」が問題 大審院判決は、浪曲に著作権を認めなかった。 旋律が一定せず、瞬間創作を為すもので、著 作権の保護の対象外と判断した( 大判大正 7 ・ 9 ・ 18 民録 24 ・ 1710 )。 → 大正 9 年旧著作権法改正

2 交通標語事件判決

2つの交通標語 A 「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」 B 「ボク安心 ママの胸より チャイルドシート」 A を B が模倣したとはいえないという判決 「標語としての簡明さ・わかりやすさが求められ、創 作にあたってはその長さや内容において制約を受 けることを考慮して創作性の有無を判断する必要が ある」( 東京高判平成 13 ・ 10 ・ 30 判時 1773 ・ 127 )

3 記念樹事件判決

音楽では、どこまで似ていれば著作権侵害となるの か? = 編曲権の侵害の問題 楽曲「記念樹」と「どこまでも行こう」の類似性 ↓ 判決は旋律の重要性から類似性が高いと判断 ( 東京高判平成 14 ・ 9 ・ 6 判時 1709 ・ 92 ) 音楽の構成要素 リズム、メロディ、ハーモニー、形式、旋律 ( 資料集 記念樹事件判決 参照 )

4 スイカ写真事件

X はスイカが中心となる写真を撮影し、 NHK の 「きょうの料理」 1986 年 7 月号に掲載 Y は似たようなスイカの写真をカタログに掲載 → 写真の著作物性とは? 写真の著作物性は、撮影や現像における独自 の工夫の存否のほか、撮影対象物の選択・ 組み合わせ・被写体の決定自体において創 作的な表現がされた時に考慮要素となる ( 東京高判平成 13 ・ 6 ・ 21 判時 1765 ・ 96 )

5 タウンページデータベース事件

データベース=論文・数値・図形その他の情報 の集合物で、検索できるように体系化された もの → 情報選択・構成に創作性根拠あり 職業別電話帳「タウンページ」の著作物性 ↓ 判決は、検索の利便性の点から、個々の職業 を分類し、階層的に積み重ねることによって 全職業を網羅するように構成されたとした ( 東京地判平成 12 ・ 3 ・ 17 判時 1714 ・ 128 )

6 照明器具カタログ事件

照明器具メーカーのカタログの中に、有名な書 家の「書」が写っていた場合、複製となるか? ↓ 「書」の著作物性=字体や書体+美的要素 判決は、カタログ中の被写体が小さく詳細まで 見えないことを根拠にして、複製を否定した ( 東京高判平成 14 ・ 2 ・ 18 判時 1786 ・ 136 )

2

チャンネル小学館事件

2 チャンネルに小学館の発行する雑誌の対談 記事が無断で転載された。 出版社が運営者に通知したにもかかわらず、こ れを放置した。 → 送信可能化権の侵害 掲示板の運営者の責任 著作権侵害となるような書き込みをしないような 対策を講じ、適切な是正措置を取る義務 ( 東京高判平成 17 ・ 3 ・ 3 判時 1893 ・ 126 )

8 キャンディキャンディ事件

連載漫画「キャンディキャンディ」 X が各回ごとのストーリーを創作・原稿化 Y が原稿に依拠して漫画を作成 Y が X に無断で主人公を描いたリトグラフや絵 葉書を販売したため、トラブルになる 判決は、この漫画が X の原稿を原著作物とする 二次的著作物であるとし、 X と Y が著作権を有 するとした ( 最判平成 13 ・ 10 ・ 25 判時 1767 ・ 115 )

9 宇宙船艦ヤマト事件

「宇宙船艦ヤマト」の一連のアニメ作品 ↓ 著作者は誰か? 漫画家 or プロデューサー 判決は、漫画家はプロデューサーの製作意図 を反映して、設定デザインやキャラクターデザ インに関与したものであって、製作過程を統 括し、細部にわたってスタッフに指示・指導し たものではないと判断した。 ( 東京地判平成 14 ・ 3 ・ 25 判時 1789 ・ 141 )

10

ゲームソフト中古販売事件

家庭用ゲームソフトの中古販売をめぐる争い 東京と大阪で裁判が起こされたが、最高裁は次のよう に判断した( 最判平成 14 ・ 4 ・ 25 判時 1785 ・ 3 )。 プログラムに基づいて抽出された映像についてのデー タが、ディスプレイの画面上の指定された位置に順 次表示されることによって、全体が動きのある連続 的な映像となって表現されるような場合には、「映画 の著作物」に当たるが、著作権者が専有する頒布 権は、当初の販売時点において投下資本を回収す ることができることを根拠にして、当初の購入者へ の適法な譲渡によって頒布権は「消尽」し、再譲渡 行為には著作権の効力は及ばない。