磁性工学特論2004-5-13

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磁性工学特論2004-5-13
磁気記録とMRAM
講師:佐藤勝昭
(東京農工大学大学院教授)
コンピュータと磁気記録
半導体メモリ
ディスク媒体
ロータリー・
アクチュエーター
磁気ヘッド
ハードディスクドライブ
• コンピュータのプログラム
やデータを格納しておくの
がハードディスクHDと呼ば
れる磁気記録装置である。
• 画面からプログラムを起動
すると、そのプログラムが
HDから半導体のメモリに
転送される。CPUは、メモリ
上の各アドレスに置かれた
命令を解読して、プログラ
ムを実行する。
ハードディスク
ディスク媒体
ロータリー・
アクチュエータ
ー
磁気ヘッド
磁気記録(1)情報の記録
• 磁気記録:磁気ヘッドからの磁界によって磁
性体の磁化の状態を変化させて記録。
磁気ヘッド
残留磁化 M
飽和磁化
Ms
Mr
磁界
磁性体
• ヘッド:軟磁性体
• 媒体:硬磁性体
Hc
保磁力
H
磁気ヒステリシス曲線
磁気記録(2)情報の読み出し
• 磁気媒体に記録された磁区からの漏れ磁
界を磁気ヘッドで検出する
– 誘導型磁気ヘッド:磁束変化をコイルで電圧に
変換
– 磁気抵抗(MR)ヘッド:磁束変化→抵抗変化→
電圧
誘導型磁気ヘッド
N S
N S
N S
漏れ磁界
MRヘッド
NS NS
NS
NS
漏れ磁界
ハードディスクの高密度化はなぜ
可能になったか?
• 磁性媒体のグレーンの微細化
• →磁区の微細化
• →高い線密度(>300kbpi)と高い
トラック密度(>30ktpi)
• 磁束の局所化
– ヘッド浮上量の低減を要求
– ヘッドの磁界感度向上を要求
• →MR(磁気抵抗)ヘッド:
AMR→GMR(SV)→TMR
• 弱い信号→PRMLなど信号処理
CoCr
Cr
CoCrTa媒体のCo元素面内分布
Cr
CoCr
記録密度とヘッド浮上量
ハードディスクのトラック密度、面記録密度、線記録密度の変遷
超常磁性限界
GMRヘッド
MR ヘッド
HDの記録密度の状況
• HDの記録密度は、1992年にMRヘッドの導入によ
りそれまでの年率25%の増加率(10年で10倍)から
年率60%(10年で100倍)の増加率に転じ、1997年
からは、GMRヘッドの登場によって年率100%(10
年で1000倍)の増加率となっている。
• 超常磁性限界は、40Gb/in2とされていたが、
AFC(反強磁性結合)媒体の登場で、これをクリアし、
実験室レベルの面記録密度は2003年時点ですで
に150 Gb/in2に達し、2004年には200 Gb/in2に達
すると見込まれる。
ハードディスクの記録密度に限界が
• 1970年から1990年にかけての記録密度の増加は10
年で10倍の伸び率であったが、1990年代になると10
年で100倍という驚異的な伸び率で増大した。これは
再生用磁気ヘッドの進展によるところが大きい。その
後も記録媒体のイノベーションにより、実験室レベル
では100Gb/in2を超えるにいたった。
• しかし、2000年を過ぎた頃からこの伸び方にブレーキ
がかかってきた。これは、後述するように磁性体の微
細化による超常磁性限界が見え始めていることが原
因とされる。
超常磁性限界
Cr
CoCr
• 現在使われているハードディスク媒体はCoCrPtBな
どCoCr系の多結晶媒体である。強磁性のCoCr合
金の結晶粒が偏析したCr粒に囲まれ、互いに分離
した膜構造になっている。
• 磁気ヘッドによって記録された直後は、磁化が記録
磁界の方向に向いているが、微粒子のサイズが小
さくその異方性磁気エネルギーKuV (Kuは単位体積
あたりの磁気異方性エネルギー、Vは粒子の体積)
が小さくなると、磁化が熱揺らぎkTによってランダム
に配向しようとして減磁するという現象が起きる。こ
れを超常磁性限界と呼んでいる。
減磁現象
• 実際、20 Gb/in2の記録媒体では、その平均の粒径
は10 nm程度となり、各結晶粒は磁気的に独立に
挙動し、記録された情報が保てない。
• 一例として16 Gb/in2の記録媒体において信号強度
がt=104 sで96%に低下することが報告されている。
– 細江譲:日本応用磁気学会サマースクール27テキスト
p.97(2003)
熱揺らぎによる減磁現象
• 細江譲:MSJサマースクール27テキストp.97(2003)
熱減磁と活性化体積
• 細江譲:MSJサマースクール27テキストp.97(2003)
熱的安定条件
• ハードディスクの寿命の範囲でデータが安定である
ための最低条件は、=KuV/kT>60とされている。面
記録密度Dとすると、粒径dはD-1/2に比例するが、記
録される粒子の体積Vはほぼd3に比例するのでVは
Dの増大とともにD-3/2に比例して減少する。この減
少を補うだけ、磁気異方性Kuを増大できれば、超常
磁性限界を伸ばすことができる。単磁区の微粒子を
仮定し、磁化反転が磁化回転によるとすると、保磁
力HcはHc=2Ku/Msと書かれるからD3/2以上の伸び
で保磁力を増大すれば救済できるはずである[1]。
[1] T.W. McDaniel and W.A. Challener: Proc. MORIS2002,
Trans Magn. Soc. Jpn. 2 (2002) 316.
AFC(反強磁性結合)媒体
• AFC媒体
(antiferromagnetically
coupled media)というのは、
Ruの超薄膜を介して反強
磁性的に結合させた媒体
のことで、交換結合によっ
て見掛けのVを増大させて、
安定化を図るものである。
• 富士通ではSF(synthetic
ferromagnet)媒体と称する
強磁性結合媒体を用いて
超常磁性限界の延伸を
図っている。
AFC媒体の模式図
AFC媒体、SF媒体では、交換結合で見かけのKuVを増大
(旧IBMのホームページより)
超常磁性限界はどこまで伸びるか
• このような方法によって超常磁性限界の到来
を多少遅らせることはできても、せいぜい
500Gbits/in2迄であろうと考えられている。
• 保磁力を大きくすれば安定性が向上すること
は確実であるが、磁気ヘッドで書き込めなく
なってしまう。ヘッドの飽和磁束密度には限
界があるし、ヘッドの寸法の縮小にも限界が
ある。現行の磁気ヘッドは理論限界の1/2程
度のところにまで到達しており、改善の余地
はほとんど残されていない。
超常磁性の克服
• 保磁力の大きな媒体にどのようにして記録す
るのかという課題への1つの回答が、パター
ンドメディアを用いた垂直磁気記録技術であ
るが、もう1つの回答が熱磁気記録である。
• パターンド・メディア
– 物理的に孤立した粒子が規則的に配列
• 熱アシスト記録(光・磁気ハイブリッド記録)
– 記録時に温度を上昇させてHcを下げ記録。室温
ではHcが増大して熱的に安定になる。
微粒子集合体からパターンドメディア
へ
中村:日本応用磁気学会128回研究会テキストp.9
早稲田大学朝日研究室のHPより
ナノインプリントと自己組織化を利
用したパターンドメディア
80nm-pitch, 40nmf
resist groove
by imprinting
CoCrPt layer
喜々津氏(東芝)のご好意による
垂直磁気記録
• 従来の磁気記録は記録された磁化が媒体の
面内にあるので、面内磁気記録と呼ばれる。
長手記録とも呼ばれる。高密度になると、1つ
の磁区の磁化が隣り合う磁区の磁化を減磁
するように働く。
• これに対し、垂直磁気記録では、隣り合う反
平行の磁化は互いに強めあうので、記録が
安定。
光・磁気ハイブリッド記録
(熱アシスト記録)
• 記録時に温度を上昇させてHcを下げ記録。
室温ではHcが増大して熱的に安定になる。
• 再生においては、磁気光学的再生技術を用
いる代わりにHDと同じくMRヘッドで読み出す。
熱アシスト記録材料
• 熱磁気記録に用いられる媒体としては、従来
からHDDに用いられてきたCoCr系のグラ
ニュラー媒体を利用する方法と、MO媒体とし
て使われてきたアモルファス希土類遷移金属
合金媒体を用いる方法が考えられる。また、
短波長MO材料として検討されたPt/Co多層
膜媒体を用いることも検討されている。いず
れにせよ、室温付近で大きなHcを示し、温度
上昇とともに通常の磁気ヘッドで記録できる
程度にHcが減少する媒体が望ましい。
磁気ヘッド拡大図
IODataのHPより
磁気ヘッド
IBMのHPより
GMR(巨大磁気抵抗効果)とは?
• 強磁性体(F1)/非磁性金属(N)/強磁性(F2)多層膜
• F1, F2平行なら抵抗小。反平行なら抵抗大。
フリー層
ピン層
磁化曲線とGMR
GMR(SV)ヘッドの原理
M
H
R
H
• F1とF2の保磁力が異なれば
反平行スピンの時に抵抗が高
くなる。
磁気抵抗(MR)効果
• MR効果:磁気によって電気抵抗が変化する現象
• いくつかのMR
–
–
–
–
AMR(異方性磁気抵抗)
GMR(巨大磁気抵抗効果)
TMR(トンネル磁気抵抗効果)
CMR(超巨大磁気抵抗効果)
• MRの応用
– 磁気ヘッド
– MRAM(磁気ランダムアクセスメモリ)
層間 結合系の巨大磁気抵抗効果
( GMR )
• スピン依存散乱
MR ratio
R(H)/R(0)
Fe
Cr
Baibich et al.: PRL 62 (88) 2472
H (kOe)
GMR 振動と層間結合
Co/Cu superlattice
Cu thickness (Å)
Mosca et al.: JMMM94 (91) L1
非結合系のGMR
• ソフト磁性体とハード
磁性体との3層構造
M
自由
NiFe
Cu
固定
Co
Shinjo et al.: JPSJ 59 (90) 3061
MR
H (Oe)
スピンバルブ
• NiFe(free)/Cu/Ni
Fe(pinned)/AF(F
eMn)の非結合型
サンドイッチ構造
NiFe free
Cu
NiFe pinned
AF layer
(e.g. FeMn)
最近はSAFに置き換え
交換バイアス
スピン依存トンネル効果とト
ンネル磁気抵抗効果(TMR)
current
FM2
insulator
FM1
I
FM2
voltage
current
FM1
• 強磁性体(FM)/絶縁体(I)/強磁性体(FM)構造
• M. Julliere: Phys. Lett. 54A, 225 (1975)
• S. Maekawa and V.Gafvert: IEEE Trans Magn. MAG-18,
707 (1982)
• Y.Suezawa and Y.Gondo: Proc. ISPMM., Sendai, 1987
(World Scientific, 1987) p.303
• J.C.Slonchevsky: Phys. Rev. B39, 6995 (1989)
• T. Miyazaki, N. Tezuka: JMMM 109, 79 (1995)
TMRデバイス
• 絶縁体の作製技術
が鍵を握っている。
→最近大幅に改善
•TMR ratio as large as 45%
was reported. (Parkin:
Intermag 99)
•Bias dependence of TMR has
been much improved by
double tunnel junction.
(Inomata: JJAP 36, L1380
(1997))
TMRを用いたMRAM
• ビット線とワード
線でアクセス
• 固定層に電流の
作る磁界で記録
• トンネル磁気抵
抗効果で読出し
• 構造がシンプル
MRAMの回路図
• 鹿野他:第126回日本応用磁気学会研究会資料p.3-10
MRAM と他のメモリとの比較
SRAM DRA
M
読出速度 高速
中速
Flas FRAM MRAM
h
中速 中速 中高速
書込速度 高速
中速
低速 中速
中高速
不揮発性 なし
なし
あり
あり
リフレッ
シュ
不要
要
不要 不要
不要
セルサイズ
大
小
小
中
小
低電圧化 可
限
不可 限
可
あり