頭頸部がんはふえているか 喫煙、飲酒との関係について

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頭頸部がんはふえているか
喫煙、飲酒との関係について
東北厚生年金病院耳鼻咽喉科
粟田口 敏一
日本人の死亡原因の変化
(人口動態統計 2007年 厚生労働省 より引用)
頭頸部がん
• 頭部,顔面,頸部に生じる悪性腫瘍の総称である
• 2種の管腔経路から生じる
食物経路
気道
• 全体の80%が扁平上皮がんが占め、残りの20%は、腺が
んや悪性リンパ腫などである
口腔の正面図
上唇
上唇小帯
軟口蓋
口蓋舌弓
(前口蓋弓)
口蓋垂
上顎歯弓
硬口蓋
口蓋咽頭弓
(後口蓋弓)
口蓋扁桃
口峡
頬粘膜
舌背
下顎歯弓
下唇小帯
下唇
咽頭縦断図
頭頸部がんの部位別名称
• 食物の経路から生じるがん
口腔がん(舌がん、歯肉がん、口腔がん
頬粘膜がんなど)
中咽頭がん
下咽頭がん
頸部食道がん
• 気道から生じるがん
鼻・副鼻腔がん
上咽頭がん
喉頭がん
頭頸部がんの特徴
 性別罹患数は、男性に多い
喉頭がん、下咽頭がん、中咽頭がん,口腔底がんなど
は、男女比10倍でほとんど男性のがんである
 男性的生活習慣が深く関わっている
男性的性格・外向的生活態度
過量喫煙、飲酒習慣,多食傾向,口腔衛生が悪い,
多弁で大声、日常の生活態度が粗野である
 頭頸部扁平上皮がん患者の平均年齢は、約62~63歳
である
 広域発がん・重複がんが多い
発生部位:同じ頭頸部領域、食道、胃、肺
粘膜免疫機構
• 口腔、鼻腔、気管、消化管、生殖器など
の粘膜組織は、外来抗原(細菌、ウイル
ス、食物性蛋白など)と生体免疫系が直
接接する最前線である
• 粘膜面には、分泌型IgAが多く存在する
• 粘膜各所にはリンパ組織が配置され、全
身共通の生体防御機構を形成している
粘膜免疫のユニーク性
• 生体の外表を覆う皮膚に対して‘内なる外’を粘膜は
形成している
• ヒトでは、テニスコートの1.5面分、皮膚の200倍以
上の面積があり体表の大部分を占めている
• 粘膜面には、病原菌や有害物質の侵入を阻止するよ
うな積極的免疫応答と異物である食物や気体を生命
活動維持のために消化、吸収、呼吸し体内に取り込
む消極的免疫応答の双方が両立し、生体の恒常性を
維持している
• 口腔や鼻腔、腸管には常在細菌群があり共生を図っ
ている
がんとはなにか
1. 遺伝子の異常が蓄積した結果発生する細胞の病
気である
2. 遺伝子の異常を引き起こす要因として、人間の生
活習慣と生活環境が深く関係する
3. ヒトのがんの発生には環境因子が60~70%、遺
伝的な要因が30~40%ほど寄与している
4. がんはその発生と進展には長い時間がかかる慢
性の病気である
5. がんが進行すれば、人はそのために死にいたる
「がん」腫瘤の形成と増殖
• 1個の「がん」細胞が約30回の細胞分裂を繰り
返えし、直径1cm(10億個)の「がん」腫瘤にな
るまでには、約5年位かかると推算される
• 増殖の特徴
1.自律性
2.進行性
3.浸潤性
4.転移性
5.消耗性(悪疫質)
頭頸部がんの罹患数、罹患率
• 全癌の約5%(約24000人)を占めている
• 男性では喉頭癌、甲状腺癌は横ばい、口腔・
咽頭癌と悪性リンパ腫が漸増傾向を示してい
る
• 女性では、甲状腺癌と悪性リンパ腫の増加傾
向が目立ち,口腔・咽頭癌は漸増傾向、喉頭
癌は横ばいとなっている
• 鼻・副鼻腔癌は,男女とも減少している
各部位の構成比(人口動態統計2003)
日本の頭頸部がんの男女比
男/女(人口動態統計)
年
1980
1990
2000
2003
口唇
3.1
1.7
1.9
1.1
舌
2.1
2.3
2.1
2.5
唾液腺
2.4
3.1
2.8
2.7
上咽頭
4.1
3.2
4.5
4.0
中咽頭
4.5
7.6
8.4
8.3
下咽頭
4.2
6.8
10.0
11.4
喉頭
7.7
14.4
15.6
22.0
鼻.副鼻腔.耳
2.1
2.2
2.2
1.3
口腔
2.0
2.6
2.2
2.1
甲状腺
0.6
0.6
0.7
0.7
日本における頭頚部がんの年齢階級別死亡率(人口動態統計2003年)
先進7カ国の死亡統計
(WHO 2007)
死因(%)
日本
米国
カナダ
英国
フランス
ドイツ
イタリア
がん
32
23
29
25
29
27
27
年令調整
死亡率
対10万人
119
134
138
143
142
141
134
喫煙率
(%)
男性
48
24
22
―
―
33
―
女性
12
19
18
―
―
22
―
がん死亡の原因の寄与割合
食物
たばこ
ウイルス
職業
アルコール
物理的要因
汚染
その他
割合
35%
30%
10%
4%
3%
3%
2%
13%
ヒトへの発がん性が確実な因子
要因(物質,曝露環境)
部位
たばこ
口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、肺、すい臓、
肝臓、腎臓、尿路、膀胱、子宮頸部、骨
髄性白血病
環境たばこ煙
肺
六価クロム
鼻腔、肺
アルコール飲料、エタノール
口腔、咽頭、喉頭、食道、大腸、肝臓、乳
房
塩蔵魚(中国式)
鼻咽頭
喫煙が引き起こす疾患(たばこ病)
がん
慢性疾患
脳卒中
喉頭
口咽頭
失明、白内障
歯周炎
食道
気道、気管支または肺
大動脈瘤
冠動脈疾患
急性骨髄性白血病
肺炎
胃
アテローム硬化性
末梢血管疾患
膵臓
腎臓と尿管
結腸
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、
喘息および他の呼吸器作用
子宮頚部
股関節骨折
膀胱
女性の生殖作用
(受胎能の低下を含む)
WHO2008年世界のタバコの流行に関する報告 MPOWER政策パッケージ
喫煙関連慢性疾患の原因煙中成分
慢性疾患
寄与因子
促進因子
たばこ依存症
肺がん
ニコチン
たばこアルカロイド
PAH,TSNA
ポロニウムー210
タール、CO
タール ,NOX,HCN
揮発性アルデヒド類
カテコール(発癌補
助物質)
ニコチン
スーパーオキシド
過酸化水素の誘導
物質
心臓血管疾患
慢性閉塞性肺疾患
PAH:多環状芳香族炭化水素
TSNA:たばこ特異的ニトロソアミン
健康に悪影響をおよぼす
たばこ煙の物質
• 紙巻きたばこ(シガレット)が、大部分である
• たばこ煙は、主流煙と副流煙とに分けられる
• たばこ煙には、少なくとも69種類の発癌物質を含む
約4800の化学物質が存在する
• 発癌物質のうち11種はヒト発癌物質、7種はヒト発
癌物質の可能性を有するもの、49種は動物発癌物
質でヒト発癌の可能性があるとされる
• 喫煙:能動喫煙
受動喫煙=環境たばこ煙
タバコ煙と発がん
主流煙(MS)と副流煙(SS)
• 吸煙時の燃焼部最高温度は、MSで900度、SSでは600度と
燃焼形態に差異がある
• タバコ煙の有害物質の量はSSの方が多く、受動喫煙の問題
が生ずる
• 副流煙に含まれる有害物質(SS/MS比)
ニコチン 2.6~3.3 倍
窒素酸化物 4~10倍
一酸化炭素 2.5~4.7倍
各種発がん物質 100倍
ホルムアルデヒド 0.1~50倍
アンモニア 47~170倍
喫煙者のがんによる死亡のリスク
(非喫煙者を1とした場合)
男性
喉頭がん
女性
32.5 倍
喉頭がん
3.29 倍
肺がん
4.45
肺がん
2.34
口腔・咽頭がん
3.00
膀胱がん
2.29
食道がん
2.24
食道がん
1.75
膀胱がん
1.61
肝臓がん
1.66
膵臓がん
1.56
子宮頸がん
1.56
肝臓がん
1.50
膵臓がん
1.44
胃がん
1.45
-
-
わが国の喫煙の現状と問題点
 成人男性の喫煙率は、1960年代には約80%で
あったが、2005年には40%以下と減少した
 女性の喫煙率の低下は鈍く、2005年で11.3%で
あるが、特に若年女性における喫煙率増加は大き
な問題となっている (スモウカーズ・フェイス)
 喫煙男性の4人に1人、女性の3人に1人は禁煙を
希望している (2005年喫煙人口約2600万人)
 やめられない喫煙は「ニコチン依存症」(約7割)とい
う「病気」であることがわかっている
 禁煙は有効だが、減煙はほとんど無効であるといわ
れている
 受動喫煙も大きな問題となっている(2003年健康
増進法)
喫煙による死亡の減少としての効果の現れ方
喫煙開始の防止と禁煙治療との比較
頭頸部がんにおけるブリンクマン指数と
サケ指数
• ブリンクマン喫煙指数(1日喫煙本数X喫煙年数)
喉頭癌,下咽頭癌(梨状陥凹)の指数は、1000前
後となっており、1日20~30本、30~40年が平
均喫煙歴である。1000を超えると病的化生に進展し発
癌母地となる1500を超すと多発癌が20%に上昇する
• サケ指数(1日飲酒合数X飲酒年数、他のアルコールは
日本酒に換算)
喉頭癌(声門上)、下咽頭癌(梨状陥凹)は高度飲酒者
に多い
大量飲酒による身体への悪影響
脳
 急性アルコール中毒
 アルコール依存症
口腔 ・ 咽頭
 口腔 ・ 咽頭がん
食道
 食道炎
 食道がん
 食道静脈瘤
肝臓
 脂肪肝
 アルコール性肝炎
 肝線維症
 肝硬変
心血管系
十二指腸
胃
 十二指腸炎
 十二指腸潰瘍
 胃炎
 胃潰瘍
 胃がん
 心筋症
 高血圧
 不整脈
小腸
 小腸炎
 吸収障害
足
 痛風
 末梢神経障害
 大腿骨骨頭壊死
すい臓
 すい炎
 糖尿病
大腸
 下痢
痔
 大腸がん
出典:「江東区健康プラン21お酒のはなし」より
アルコールを摂取
【肝臓内】
アルコール
脱水素酵素(ADH)
エタノール
(エチルアルコール)
吸収された大部分は
肝臓で処理されます
胃から20%,
小腸から80%を吸収
アルデヒド
脱水素酵素(ALDH)
アセトアルデヒド
酢酸
ミクロゾームエタノール
酸化系(MEOS)
H2O
水
CO2
二酸化炭素
飲酒とアルコール代謝
• 肝内アルコール脱水素酵素(ADH)やアルデヒド脱水素
酵素(ALDH)などにより分解される
• ALDH2欠損が頭頸部癌のリスクをたかめる
ALDH2ホモ欠損:下戸・・・・日本人の7%
ALDH2ヘテロ欠損:鍛えて飲める・・・35%
1日3合以上の大酒家、アルコール依存症
• アセトアルデヒドの発癌性
口腔内細菌もエタノールを分解してアセトアルデヒド
を産生する・・・口腔不衛生で唾液中濃度が
高値となる
口腔、咽頭、喉頭、食道の発癌
日本人はお酒に弱い
人種
ALDH2欠損率
日本人
44%
中国人
41%
韓国人
28%
フィリピン人
13%
タイ人
10%
インド人
5%
ハンガリー人
2%
ナバホー人(アメリカ原住民)
2%
ドイツ人
0%
エジプト人
0%
スウェーデン人
0%
日本人の死因
なぜがんが多いのか
• 心血管疾患の死亡率が低いため、相対的にがんの割合が
高くなる
• 少子高齢化社会のため高齢者の死亡割合が高い
• がん罹患率の高い世代の人口が、相対的にも絶対的にも増
加したため
がんにかかる確率(推計)
64歳までで男性11%、女性10%
74歳までで男性27%、女性17%
84歳までで男性45%、女性26%
頭頸部がん罹患数の将来予測
• 2015年の罹患数は1995年と比較すると
1.5~2倍に増加すると予想されている
• 男性の咽頭癌、その中でも下咽頭癌の増加
が目立っている
• 近い将来、65歳以上の高齢者が全人口の
20%を超える超高齢社会となると、更に罹患
数も増加して行くことが予想される
発がんリスクと食物要因
関連
確実
リスクを下げるもの
運動(結腸)
授乳(乳房)
可能性大
果物(口腔、咽頭、喉頭、
食道、胃、肺)
非でんぷん野菜(口腔、咽
頭、喉頭、食道、胃)
食物に含まれるカロテノイ
ド(口腔、咽頭、喉頭、肺)
口腔衛生と発がん
 口腔衛生が悪いと口腔、舌、中咽頭,下咽頭,声
門上部、食道などに発癌母地がつくられる
 う歯の増加は咀嚼力の低下を来し,食塊による嚥
下経路の上皮が傷つきやすく、上皮細胞のター
ンオーバーが促進し発がんの誘因となる
 舌がんは、う歯による損傷により発がんすること
が多い
 不潔な口腔は酸性状況となり,発がん物質が産
生されこれが下方の部位の発がんを促す
発癌における環境因子
その背景として
ライフスタイルの影響は重要
(生活習慣)