第5回講義の内容 - 東京医科歯科大学

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多様性の生物学
第5回 多様な生物5
和田 勝
東京医科歯科大学教養部
これまでのまとめ
棘皮動物門(Echinodermata)
典型的な棘皮動物であるヒトデとウニ
は脊椎動物はだいぶ形態が異なる。
棘皮動物門(Echinodermata)
棘皮動物は五放射相称を示し、運動性
に乏しい。同じ新口動物の脊索動物と
は、外見上も内部の器官系なども大きく
異なっているが、すでに述べたように、
発生の過程を見ると口があとからでき
るので、類縁関係が分かる。
おそらく、爆発的に適応放散したときに
、運動性の必要ない環境に適応して海
底でのあまり動かない生活に入り、そ
のまま、ほとんど進化せずに生き延び
てきたのであろう。
この棘皮動物と脊索動物をつなぐ動物
群が半索動物である。
半索動物門(Hemichordata)
半索動物は、半分だけ脊索動物と言う
意味で、脊索動物のもつ特徴の、全部
ではなくいくつかの特徴を備えている。
下の図にあるように咽頭の鰓裂と似た
構造がある、また、襟の部分に
stomochordという脊索に似た構造の遺
残が見つかる。
半索動物のからだのつくり
また腹側を走る小さな神経索に加えて
より発達した神経索が背側を走行して
いる。
しかしながら、これらの動物群は、類縁
関係は近いだろうが真の脊索動物とは
別なグループだと考えられる。
分子系統学的な研究では、半索動物
は脊索動物よりは棘皮動物に近いと
いう結果が出ている。半索動物の幼
生が棘皮動物の幼生に似ていること
も、この点をサポートしている。
ギボシムシ綱
上の写真は、日本固有種であるミサク
ギボシムシ。
ギボシムシ(英語ではacorn worms)に
はおよそ80種の現生種がいて、すべて
海産で、多くの種は潮間帯の泥砂底に
U字型の棲管を掘って住む。体長は数
cmのものから2mほどのものまでいる。
ギボシムシの体表には繊毛が生え粘液
で覆われている。鰓穴の数は多く200に
達する種もいる。ミミズと同じように海底
の泥砂を食してその中の栄養分を吸収
する。
ギボシムシ
次の写真は外国産のギボシムシ
フサカツギ
フサカツギはすべて小型(1.2cm以下)
の個虫が群体を作る動物群で、群体
は10cmを越えることはない。粘液を分
泌して小さな餌を絡めとリ、繊毛の動
きで口に運ぶやり方で餌を取る。
フサカツギの群体
脊索動物門(Chordata)
上の3つが脊索動物に含まれる主な
動物である。ぜんぜん違うじゃない、と
いう感じがするだろう。
脊索動物門(Chordata)
脊索動物の共通した特長は次の4点
である。
1)背側に脊索を持つ
2)中空な神経索が脊索のすぐ背側
を走行する
3)咽頭に鰓裂をもつ
4)肛門よりさらに後方に尾がある
脊索動物門(Chordata)
脊索動物は次の3亜門に分けられる。
尾索動物亜門(Urochorata)
頭索動物亜門(Cephalochordata)
脊椎動物亜門(Vertebrata)
脊索
脊索というのは、神経管のすぐ下を前
後に走る棒状の支持器官で、すき間の
多い細胞が集まって結合組織の薄い膜
で包まれた弾力性のある構造。
脊索
尾索類では幼生の時には認められるが
成体に変態する過程で消失する。
頭策類では支持器官としてずっと残る。
脊椎動物では、発生の途中で現われる
が、後には脊椎骨に置き換わる。
尾索動物亜門(Urochorata)
これはカタユウレイボ
ヤである。この姿を見
ると、「これが本当に
我々に比較的近い動
物なの?」と思ってしま
うだろう。
ホヤの幼生
ホヤの幼生はこんな形をしている。尻
尾の中に脊索が黒く見える。
スケールは0.2mm
ホヤの変態
ホヤの成体
ホヤ
このように、変態の過程を見ると、ホ
ヤが脊索動物だということが分かる。
マボヤは左の写
真のように硬い被
嚢を被っている。
オタマボヤ綱
オタマボヤ類は、ずっと浮遊生活を続
ける。
頭索動物亜門
(Cephalochordata)
頭索動物といえば、ナメクジウオ
である。
ナメクジウオ
頭索類では、脊索を一生、持っている。
体は扁平で、前後が尖った柳の葉のよ
うな形をしている。英語ではlanceletある
いはamphioxusという。
ナメクジウオ類は1綱1科1目にまとめ
られており、日本には2属3種が生息す
る。
ナメクジウオ
眼がなく、神経管に光を感じる構造が散
在。口は体前部の腹側にあり、触手に
よって常に蓋。咽頭は広く、その壁には
鰓裂と呼ぶ多数の穴が並ぶ。この構造
を鰓嚢と呼ぶ。
尾索類と頭索類
尾索動物と頭索動物が、脊索動物と脊
索を持つという点で同じグループにして
いるが、これ以外にも共通な点は多い。
その一つが内柱(endostyle)である。
ホヤの内柱
無顎動物ヤツメウナギの幼生
次の脊椎動物でお話する
ヤツメウナギ
右の写真はその幼生のアンモシーテ
スである。
アンモシーテスの内柱
このアンモシーテスにも内柱と似た構造
が存在する。
アンモシーテスは変態してヤツメウナギ
になるが、そのとき内柱は甲状腺に移
行する。
つまり、内柱と甲状腺は相同の器官と
考えられるのである。
脊椎動物への進化
このようにホヤとナメクジウオは脊索動
物の進化を考える上で重要な位置を占
める動物なのである。現在、ホヤのゲノ
ム解析はほぼ終わり、ナメクジウオのゲ
ノム解析が行なわれている。