Transcript 情報学研究、及び
サイバースペースにおける フェアユース概念の存立構造: 情報学研究 及び 情報政策との接点 池内淳(大東文化大学文学部) [email protected] 前提条件としての サイバースペースと著作権 従来の著作物 の流通構造 参入コストの顕著な低下 公表圏への自由参入 ボトルネックにおけるコン トロール (違法コンテンツ の公表規制、著作権の許 諾・契約・分配機能等)の ほぼ無効化 一部の知的職能者 参入のためのボ 世界のウェブページ数105 トルネック 億ページ(2005/01) レコード会社 放送局 出版社 サイバースペースの登場 既存の公表圏 公表圏の圧倒的拡大 新聞社 その他 日本のブログ人口 437万人(2005/10) 本研究におけるフェアユース概念 著作権法の内在的制約 著作権法への外圧的制限 著作権侵害訴訟の 抗弁の論拠としての 一般規程(米国著作 権法第107条) 各国の著作権法に おいて逐条的に定 義された権利制限 諸規定 「公共使用のための財産権の 制限」「権利の濫用の防止」など 法令・判例によって言及されていない場合であっても、著作権者 の排他的権利が制限され、第三者によって利用されることについ て、妥当な事由が存在する状況、及び、その公正な利用の態様 サーバースペースにおける法の欠缺 サイバースペースの技術 許容可能性の高い行為を法 的・制度的革新のスピード が禁止、あるいは、明示的に のため、法令や判例におい 許していない て言及されない事象の領 <サーチエンジン>、<ウェブアーカイビ 域が急速に拡大 違法行為と適法行為の境界 ング>といった、第三者による著作権使用 が曖昧 本研究の第一の目的 行為の許容可能性が極めて高く、サイ バースペースにおいて不特定多数の著作 親告の誘因が高い 親告の誘因が低い 物を集合的に利用することが要請されるプ 参考となる判例が多い 判例に乏しい ロジェクトにおけるフェアユースの潜在的 比較的迅速な法整備 法整備の立ち遅れ 存立構造を明らかにする。 低 第三者による著作権使用の許容可能性 高 現行の著作権法からみたサーチエンジン ビジネスモデルの論点 SE広告市場規模の拡大 米国(2007) : 70億ドル(予測) by Piper Jaffray(2003) 営利目的で、不特定多数の日本(2007) : 4000億円(予測) ロボットによるウェブコンテ 著作物の複製権・送信可能 by 電通(2005) ンツの収集と索引化 化権・二次的著作物の作成 権を無許諾・無報酬で使用 サーチエンジンの作成と公開 Spyder Crawling on the Web 他ポータルサイトへのOEM提供 キーワード連動型広告 コンテクスト型広告 画像検索・ニュース検索に バナー広告 キャッシュ機能 ついては、海外で著作権侵 ニュース検索 害訴訟の判例が存在する が、概ねSE側が優勢 画像検索 サイバースペース マルチメディア検索 ウェブアーカイビングについて • 主に非営利機関による多種多様なプロジェクトの存在 – – – – Internet Archive(http://www.archive.org/) 国立図書館を中心とした国内プロジェクト→各国で法制化へ 国家間による国際的協同プロジェクト→構想段階 研究組織による個別のプロジェクト • 収集対象・収集範囲・公開方針といった基準にバラツキ – 法的・倫理的観点から、プロジェクトごとに、許容される権利使用の 範囲に対する認識の相違が窺われる。 • 著作権からみたウェブアーカイブ(バルク収集+公開) – 抵触する可能性のある著作権の支分権については、概ね、サーチエン ジンと同様 – 主に非営利機関が主体となっていること、及び、文化遺産の保存・継 承という観点から、許容可能性は高い。 サイバースペースにおける フェアユース概念の潜在構造 収集対象の範囲と規模 財産権の被侵害意識を持た ない著作権者の比率 量的側面 ロボット排除規程を遵守し、 六つの軸と六つの側面は 個別の著作権者の意志表示を尊重 non-profit ↓ 心理的側面 効果的側面 収集対象の範囲と規模に 現時点では、法的根拠に依らず サイバースペースにおける暗黙の民主的支持 著作権者の匿名性・無作為性 同調・比例して増加する。 あるいは、権利意識の無頓着によって存立 ↓ 結果的に、収集対象の範囲と規模が プロジェクトの有用性 仮に、不特定多数の著作権者が、 特定のロボットを排除する状況が生じれば、 フェアユースの潜在的 事実上、当該プロジェクトの存立基盤は崩壊 経済的側面 技術的側面 educational ↓ 存立可能性を定義する。 必然的に、公益性が高く、優れた 費用的側面 企業倫理を示すプロジェクトが 公衆に支持され存続する 許諾交渉・分配のコスト プロジェクトの効率性 将来の制度化に向けての論点 • 「プロバイダ責任法(2002)」と同様の<Notice and Takedown方式>により、故意、及び、重大 な過失がない場合の免責を法制化(→方式主義) • 現時点での著作権者の意思表示のための効率的な 様式の実質標準である<robots.txt>の普及・精 緻化、及び、その制度上の地位、あるいは、代替 案の可能性について(学説上の論点) • 六つの軸と六つの側面が矛盾なく調和する<収集 の範囲と規模>をどのように定義するか(学説上 の論点) 「インターネット情報の収集・利用に関す る制度化の考え方(改訂版)」2005/06 国会図書館の役割として文化財 “文化財を蓄積して現在及び将来の国民の利用に 供するため” の継承と提供を明記 <趣旨目的より> • <1.インターネット情報の収集より> • 基本的な収集対象範囲をセカン “対象を公共性の高い機関のサイトにある情報に限 る” ドレベルドメインで限定 – 具体的な収集対象は、go.jp, lg.jp, ac.jp, ed.jp, or.jp(ネットワークサー ビスは除く)、及び、地方公共団体のサイト 国立国会図書館関連法規による • “著作権法の規定にかかわらず…(中略)…複製又 著作権法のオーバーライド は翻案することができる ” <3. 収集・保存に係る著作権の制限より> NDL-WAbulk構想の収集範囲? 調査方法 1. ipadicから名詞10,000語を無作為に抽出 2. 各語について、Yahoo! Searchを用いて、以下のa~cの条件を指 定して検索を行う(調査日時:2005年9月11日) a. b. c. 3. 日本語ページ うちjpドメイン うち収集対象サブドメイン(go.jp, lg.jp, ac.jp, ed.jp, or.jp) 日本語ページが1件以上ヒットした8,229語について、キーワード ごとの各ドメインのページ数の占める比率の平均値を算出すると… jpドメインに占める収集対象予定サブドメ インのページ群の比率(平均値) 収集対象合計 20.04% 日本語ページに占める収集対象予定サブド メインのページ群の比率(平均値) 日本語ページのみならず、 日本について記述された 外国語のページも看過で きない 収集対象内訳 ac.jp 7.26% go.jp 1.75% or.jp 4.09% ドメインによる収集対象の限 定は、量的問題のみならず、 質的にもバイアスのかかっ たコンテンツ収集となること から、ウェブの実態を後世 に継承することは事実上不 可能となる。 ed.jp 0.45% lg.jp 0.12% 「文化財」?「文化遺産」? 「文化財」の定義の例(文化財保護法第2条より) 文化財の価値とは、主に、 ① 有形文化財:有形の我が国にとつて<歴史上>又は 芸術上価値の高いもの 歴史や伝統といった、時間 ② 無形文化財:無形の文化的所産で我が国にとつて< 軸によって醸造される価値 歴史上>又は芸術上価値の高いもの で構成されている。 ③ 民俗文化財:我が国民の生活の推移の理解のため欠 くことのできないもの <貝づか>、古墳、都城跡、城跡、<旧宅>その他の遺跡 ④ 記念物:我が国にとつて<歴史上>又は学術上価値 の高いもの ⑤ 文化的景観:我が国民の生活又は生業の理解のため 古い家 欠くことのできないもの 縄文時代の ⑥ 伝統的建造物群:伝統的な建造物群で価値の高いも ゴミ捨て場 の 文化財の価値の歴史的変容 文化財の現在価値≠将来価値 しかしながら、 現時点での将来価値の予測は困難 ただし、概ね、 文化財の現在価値<将来価値 違法性・倫理観の歴史的変容 ガ リ レ オ ・ ガ リ -世界観・価値観・倫理観(猥褻性等)の変容 レ 法隆寺金堂内陣天井板落書(模写) イ 『 天 文 対 話 』 -現時点で保護されるべき個人情報は、時間が経つにつれて、一 六 保護の必要性が減退する 三 二 -近世以降の歴史研究における(公表を前提としない)個人書 年 過去の違法行為が、必ずしも、現在の違 法行為となる訳ではない 現在の違法行為が、必ずしも、将来の違 法行為となる訳ではない 簡や日記の重要性 出典:『法隆寺の至寳 第六巻』 落書き≠文化財? 著作権の保護期間 v.s. 文化財の保護期間 • 著作権の保護期間 – 著作者の没後50年まで(ベルヌ条約) – 理論上の著作権保護の最長期間の試算 • 人類最長齢の人(仏人女性: Jeanne-Louise Calmentさ ん)が生まれてすぐに創作した著作物の権利の保護期間 • 122歳+50年=172年+α • 文化財の保護期間 – 「as long as possible」: 経過する時間が長ければ 長いほどその価値を増す傾向が強い – 文化財の保存・継承という性質上、著作者人格権の うち「同一性保持権」とは一切齟齬しない – ウェブアーカイビングの場合「公表権」 「氏名表示 権」の侵害もない 文化財の公開 v.s. 文化財の保存 • ラスコー洞窟(la Grotte de Lascaux) – 1963年8月:多数の観覧者による洞窟内の二酸化炭素濃 度の上昇から壁画の劣化・破損を防ぐため閉鎖 – 1980年3月:公開用に精巧な複製物である「ラスコー Ⅱ」を作成 • NDLウェブアーカイビング構想bulkの評価 – 著作権の保護、違法コンテンツの存在といった、公開に 付随する問題を論拠として、より優位であるべき文化財 の保存・継承機能が著しく損なわれていることが最大の 問題 – <コンテンツの収集・蓄積機能>と、<コンテンツの公 表機能>とを明確に弁別し、各々について最適の方針を 定めることが重要 推奨されるウェブアーカイビングモデル 収集対象の範囲と頻度を 国境のないサイバー より優先すべきであり、 スペースにおいて、jp archive.orgがある以上、 収集対象と頻度 三層の同一性保持 公表の際の代替案 ドメインに限定する意 公表を急ぐ必要は全くな 味は? い(dk型)。 著作権の消尽まで フリーでアクセス可 複製された物理的ビッ 非公開とし、調査研 能なコンテンツを網 トストリームの同一性 究目的のみ許可 羅的に収集 機械学習分野にお robots.txtの遵守 ける研究蓄積の応 帯域幅やサーバへ テキストファイル・バイ +違法コンテンツの 用。違法コンテンツ の過負荷を考慮し ナリファイルのソース マニュアル除去 発見の精度よりも再 つつ、サイトの更新 コードの同一性 マルチメディアコンテン 現率を重視 頻度に応じた収集 robots.txtの遵守 ツの増加と、ウェブの 頻度を実装 +違法コンテンツの 普及における重要性 自動除去 を想起 表現物の再現性の確 保としての同一性(マ マルチメディアコンテ イグレーション・エミュ マニュアル除去と自 ンツの収集 レーション) 動除去の併用 おしまい