ミャンマーにおける労働移動 ――農村にみるプッシュ

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Transcript ミャンマーにおける労働移動 ――農村にみるプッシュ

日本国際経済学会関東部会
2006年4月15日
ミャンマーの農村部にみる労働力
のプッシュ要因
ナンミャケーカイン
東京外国語大学・非常勤講師
E-Mail: [email protected]
1
本日発表の構成







はじめに(研究の目的と背景)
既存研究からみるミャンマー農業政策の歴史的変遷(植民地
時代、議会時代、ネーウィン時代、移行経済過程)
調査概要
調査対象農民と農地なし層の概況(年齢層、学歴、就業状況、
所得水準、農業労働賃金)
農村から都市への労働移動の実態
移動のプッシュ要因(現金化の進行、農村内所得格差の拡大、
非農業職種の欠如、農業の政策的問題、有効な補助制度の欠
落、地理的問題)
おわりに
2
1.はじめに
(1)研究の目的


移行経済過程において農村部の労働
市場にどのような変化が起きている
のか否か、という農村経済構造の実
態を現地調査より明らかにする。
また、もし変化が起きているとすれ
ば、それが労働力の移動に影響して
いるのか否か、も検討する。
3
1.はじめに
(2)研究の背景
①ヤンゴンにおける労働力の変化






ヤンゴン市人口は13年間に倍増
(1983年約250万人<センサス>⇒1996年約500万人<YCDC推定>)
この間の人口増加の要素は何か?自然増加(or)社会増加?
推計の結果、自然増加30.50%、市域の拡張による増加24.88%、
移動による社会増加44.62%
1953~65年のヤンゴンへの純移動人口の割合42.5%(Khin Wit
Yee, 1988)
1955~65年のヤンゴンへの純移動人口と拡張地域人口との割合
67.2%(Naing Oo, 1989)
↓
ヤンゴンへの労働移動の第一次都市化期
1983~96年のヤンゴンへの純移動人口の割合44.62%(推計分析)
↓
ヤンゴンへの労働移動の第二次都市化期
4
1.はじめに
(2)研究の背景
②ヤンゴン労働市場における移動者の割合
調査年
調査対象部門
調査対象者数
移動者の割合
出身管区
2000年7-8月
縫製工場
6件6,141人
34.78%
エーヤワディ(33%)
マグェー(21%)
バゴー(17%)
ヤンゴン(12%)
(出所)筆者作成。
2001年4月
インフォーマル・セクター
183人
38.80%
エーヤワディ(23.9%)
マグェー(21%)
マンダレー(18%)
2003年9月
インフォーマル・セクター
181人
37.00%
イーヤワディ(27%)
ザガイン(15%)
バゴー(16%)
マグェー(13%)
バゴー(13%)
5
2.ミャンマー農業政策の歴史的変遷
(1)植民地時代(1826~1948年)





1929年の世界大恐慌によって、小作農が進行。
非耕作者は農地全面積の32%(1930年)⇒51%
(1937年)を所有。
チェティアは農地全面積の6%(1930年)⇒25%
(1937年)を所有。
高利貸しによる収奪。
この時代から多くの非農民層=農業労働者層が
農村に滞留。
6
2.ミャンマー農業政策の歴史的変遷
(2)議会時代(1948~1962年)




1953年「農地国有化法」が制定
余剰地を収用し、小作農やタトンドォン(10~
15エーカー=ac)未満の自作農にタトンドォン
までの農地を配分
依然と農地の 25%を非耕作者が所有 (1958
年)
不徹底に終わる
7
2.ミャンマー農業政策の歴史的変遷
(3)ネーウィン時代(1962~1988年)





1963年「小作法」および「農民権利保護法」⇒小作禁止。借金
返済不可能な農民から農地・家畜・農具・収穫物の取り押さえ
禁止。
1965年「小作法の改定法」が制定。大規模農地所有者の縮小。
インド系地主の撤退。
1960~67年に15万人弱のインド人がインドとパキスタンへ。
農業労働者層に対する政策や保護法はない。
1974年の憲法第18条⇒土地は国のもの。農地や土地を国民は
「所有」できず、「保有」する制度。農地は年に一度「耕作
権」を更新。分割・相続・販売も制限。
8
2.ミャンマー農業政策の歴史的変遷
(3)ネーウィン時代(1962~1988年)




国民への米配給と政府による海外輸出のため、
供出制度開始(表1)。
供出額と市場価格の乖離が激しくなったのは1970年以降。
市場価格と供出額の倍率激化
1.6倍(1970年)2.9倍(1971年)
4.8倍(1980年)3.7倍(1988年)
収穫量に占める供出量の割合
26.8%(1970年)31.2%(1980年)12.9%(1988年)
9
表1 社会主義時代における米の生産、輸出および価格の推移
年度
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
米の生産量 政府買上量
(2)/(1) 米輸出量
(4)/(1) 政府買上価格 自由市場価格
(1000トン) (1000トン)
(%)
(1000トン)
(%)
(チャット/トン) (チャット/トン)
1963
5,184
2,438
47.0
1,445
27.9
144
159
1964
5,165
2,443
47.3
1,176
22.8
144
155
1965
5,316
1,992
37.5
1,179
22.2
149
147
1966
4,380
1,294
29.5
705
16.1
163
165
1967
5,128
1,364
26.6
398
7.8
172
209
1968
5,294
1,908
36.0
399
7.5
172
528
1969
5,270
1,938
36.7
798
15.1
177
244
1970
5,387
1,442
26.8
874
16.2
177
281
1971
5,395
1,312
24.3
776
14.4
183
538
1972
4,857
786
16.2
309
6.4
210
582
1973
5,677
965
17.0
104
1.8
431
729
1974
5,665
1,684
29.7
227
4.0
431
744
1975
6,077
1,783
29.3
419
6.9
431
679
1976
6,149
1,878
30.5
538
8.7
431
579
1977
6,245
1,460
23.4
562
9.0
431
732
1978
6,842
2,469
36.1
187
2.7
446
1,132
1979
6,896
2,290
33.2
1,736
25.2
446
1,211
1980
8,789
2,738
31.2
673
7.7
472
1,253
1981
9,336
2,799
30.0
575
6.2
472
1,833
1982
9,321
2,639
28.3
683
7.3
472
1,986
1983
9,429
2,656
28.2
874
9.3
472
2,291
1984
9,408
2,385
25.4
622
6.6
472
2,444
1985
9,449
3,041
32.2
582
6.2
472
2,521
1986
9,323
2,344
25.1
601
6.4
472
2,597
1987
8,523
29
0.3
320
3.8
752
3,197
1988
8,228
1,063
12.9
47
0.6
1,032
3,797
(出所)海外経済協力基金、『ミャンマー経済の現状と課題』、OECF Research Paper No.13,1996年11月、90ページ。
(8)
(7)/(6)
(倍率)
1.1
1.1
1.0
1.0
1.2
3.1
1.4
1.6
2.9
2.8
1.7
1.7
1.6
1.3
1.7
2.5
2.7
2.7
3.9
4.2
4.9
5.2
5.3
5.5
4.3
3.7
10
2.ミャンマー農業政策の歴史的変遷
(4)移行経済過程(1988年~)





供出量の縮小。供出額の引き上げ。
現在の供出量1エーカー当り12バスケット(bskと略す。量を
示すもの。乾燥した籾1バスケットの重量は20.9kg)。
調査地の供出量8bsk/ac(27%)。雨季米の平均収穫量30bsk/
ac。供出価格320Kyat(4.7倍)。市場販売価格1500K。
二期作を導入(乾季米やリョクトウの生産が進行)。
資金貸付⇒MADB(Myanmar Agriculture Development
Bank)より季節信用で2000K/ac(10ac以上の農家であって
も20000Kが限度)を貸付。月利1.25%+マージン料0.25%の
ため実質的な月利は1.50%。 ⇒家族労働での雨季米生産でさ
え平均コストは7000K/ac。貸付額は低すぎる。
11
3.調査概要






調査時期:2003年10月
調査地域:バゴー管区タナッピン郡タッカネイン村落集
(タッカネイン村とカンゴン村)
調査地の位置は(地図1)を参照。
村の概況:農地2605ac、居住地208ac。
人口1370人(一世帯構成員4.6)、299世帯。
農民世帯172(57.5%)、農地なし世帯127(42.5%)⇒表2
農地なし世帯が従事する就業⇒表3
乾季米やリョクトウの生産は1997年から導入。
12
13
3.調査概要
表2 タッカネイン村落集における農民世帯と農地なし世帯数
分類項目
世帯数
パーセンテージ
農民(1~5エーカー)
49
16.39%
(6~10エーカー)
51
17.06%
(11~20エーカー)
46
15.38%
(21~30エーカー)
17
5.70%
(31~エーカー)
9
3.00%
[小計]
[172]
[57.54%]
農地なし世帯
127
42.47%
合計
299
100.00%
14
3.調査概要
表3 タッカネイン村落集における農地なし世帯が従事する仕事
仕事類
世帯
季節農業労働者(通年)
30
季節農業労働者(短期)
70
魚を取る人
12
雑貨店経営者
8
豆のブローカー
2
ビデオ店経営者
3
学校のスタッフ
2
合計
127
15
3.調査概要
農事暦
1月
雨季米(直播)
雨季米(播種)
乾季米
リョクトウ
収穫
直播
播種
2月
乾季
3月
4月
耕起・直播
5月
6月
7月
耕起・播種
収穫
収穫
雨季
8月
9月
乾季
10月
11月
12月
収穫
移植
収穫
直播
耕起・播種
16
4.調査対象農民と農地なし層の概況
(1)調査対象者数

調査対象者数:農民49人、季節農業労働者20人、日雇い労働者
20人⇒現在の日雇い農業労働者14人、魚取り5人、穴掘り1人
表4 タッカネイン村における農民および農業労働者のサンプル数
調査対象者
調査世帯 パーセンテージ
農民(1~5エーカー)
12
13.48%
(6~10エーカー)
10
11.24%
(11~20エーカー)
13
14.61%
(21~30エーカー)
8
8.99%
(31~エーカー)
6
6.74%
[小計]
[49]
[55.06%]
季節農業労働者
20
22.47%
日雇い労働者
20
22.47%
合計
89
100.00%
17
4.調査対象農民と農地なし層の概況
(2)年齢層と学歴
表5 タッカネイン村落集における農民と農地なし農民の年齢
調査対象者
10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 合計
日雇い農業労働者
1
4
6
3
5
1
0
20
季節農業労働者
2
8
7
1
2
0
0
20
農民
0
0
14
12
15
6
2
49
合計
3
12
27
16
22
7
2
89
3.4% 13.5% 30.3% 18.0% 24.7%
7.9%
2.2% 100.0%
表6 タッカネイン村落集における農民と農地なし農民の学歴
小学校中退 小学校卒 中学校中退 中学校卒
高校中退
合計
調査対象者
寺子屋
日雇い農業労働者
15
1
3
1
0
0
季節農業労働者
15
3
2
0
0
0
農民(1~5エーカー)
3
3
5
1
0
0
(6~10エーカー)
5
3
1
1
0
0
(11~20エーカー)
8
1
3
0
1
0
(21~30エーカー)
4
1
3
0
0
0
(31~エーカー)
3
0
2
0
0
1
合計
53(59.6%) 12(13.5%) 19(21.3%)
3(3.4%)
1(1.1%)
1(1.1%)
18
20
20
12
10
13
8
6
89
4.調査対象農民と農地なし層の概況
(3)就業構造
表7 タッカネイン村落集における農民と農地なし農民世帯員の職業分類
主たる就業 日雇い
季節
農民
副次的就業
1~5ac
6~10ac
11~20ac 21~30ac
日雇い
25
22
8
3
1
季節
3
4
3
6
葉巻
11
11
8
1
牛の世話
1
1
穴掘り
1
2
竹細工
1
魚取り
2
1
2
3
アヒル飼い
2
4
雑貨店経営
1
2
仕立て屋
1
1
カラオケ店
1
ビデオ上映店
1
キンマ売り
1
美容師
1
合計
45
40
25
13
12
合計
31~ac
4
3
1
2
2
8
4
59
16
31
2
3
1
14
11
4
2
1
1
1
1
147
19
4.調査対象農民と農地なし層の概況
(4)所得水準
表8 タッカネイン村における農民および農業労働者の一世帯当たりの平均月収と支出(2003年10月)
平均農地/ 平均月収
調査対象者
平均支出(チャット)
%
雇用日数
一世帯の支出 食費
%
(チャット)
その他
日雇い農業労働者
157.9D
17,304
23,046
19,676
85.5%
3,348
季節農業労働者
8.85M
16,743
25,346
20,562
81.1%
4,784
農民(1~5エーカー)
3.25ac
26,334
30,013
23,201
77.3%
6,812
(6~10エーカー)
8.05ac
23,562
35,716
25,235
70.7%
10,481
(11~20エーカー) 14.15ac
46,639
36,330
24,728
68.1%
11,602
(21~30エーカー) 25.13ac
51,150
42,159
30,958
73.4%
11,201
(31~エーカー)
45.83ac
88,009
63,819
42,951
67.3%
20,868
(注)ac=エーカー、M=月、D=日。
14.5%
18.9%
22.7%
29.4%
31.9%
26.6%
32.7%
20
4.調査対象農民と農地なし層の概況
(5)農業労働者の賃金




〔特徴〕
農業労働賃金の高騰⇒2001年より全ての作業において倍近く上昇
支払い期間の分割化⇒2000年まで雨季米の7ヶ月間を一括して雇用
(5月~11月)。
現在は月単位での季節雇もあり⇒就業環境の不安定が進行
現物(籾や米)での支払いはほとんどなくなってきた。
仕事の内容
農業仕事全て
季節雇
家畜の世話
耕起、収穫運搬
田植、米・豆収穫、
日雇
収穫後の作業
苗抜き
田植
エーカー単位
収穫
従事者
男性のみ
子供のみ
男性のみ
男性
女性
男女とも
男女とも
男女とも
賃金
10000K/M
4~5000K/M
5~600K/D
500K/D
400K/D
150K/100束
6000/ac
5000/ac
賃金の前払い
有。変更なし。
有。変更なし。
400K/D
400K/D
300K/D
なし
有。変更なし。
有。変更なし。
食事
3食
3食
3食
なし
なし
なし
なし
なし
雇用期間
平均9ヶ月
年中
21
5.村から都市への労働移動の実態







調査対象89世帯のなか、25世帯(28%)において流出者が存
在する(表9)。
1988 年 以 降 の 流 出 者 23 世 帯 ( 25.8 % ) の う ち 15 世 帯
(65.2%)が農家出身。
移動の理由として「仕事を求めての移動」は17世帯(74%)
移動先はヤンゴン市(10ケース)、バゴー市(9ケース)、
タナッピン町(2ケース)、その他の町(4ケース)、周辺村
(4ケース)
移動の際に親戚、同郷人、友達を頼っている。
移動者のほとんどは移動先でインフォーマル・セクターに就
業している。
〔特徴〕
仕事を求めて地縁・血縁的ネットワークを通じて都市部へ移
動し、都市インフォーマル・セクターで就業。
22
表9 タッカネイン村落集における農民および農地なし世帯の移動状況(2003年10月)
番号 農地
移動の理由
移動先での
流出有無
流出先
(ac)
職業
農民(1~5エーカー)
姑と同居するため
1
2 姉(1994)
ヤンゴン
夫(大工)
モービー工場(ヤンゴン) 仕事のため
紙工場の工員
2
3 長男(95)三男(99)
ヤンゴン(2.5ヶ月)
仕事のため
3
3 本人(03/5~7)
大工
農民(6~10エーカー)
バゴー,モーラミャイン
雑貨店、チャバン
4
6 娘(96)息子(00)
結婚
結婚、仕事のため
主婦、婿(運転手)
5
6 娘2人(86、03)
モン州,ヤンゴン
運転手、仕立て
6
9 弟(93)姪(00、01)甥(00)
ヤンゴン
仕事のため
縫製工場の工員
7
8 娘(97)
ヤンゴン
仕事のため
タナッピン,ジーピン
8
7 娘3人(93、97、00)
仕事、結婚2人
チャバン、農民
農民(11~20エーカー)
モーラミャイン
9
17 弟(03)
結婚
豚の売買
婿2人(魚御売で荷夫)
10
13 姪2人(00、01)
ヤンゴン
仕事のため
工員2人、写真館3人
11
15 兄、姉2人、妹2人(1956) ヤンゴン
治安悪化のため
12
12 娘1人(03/8)
バゴー
仕事のため
販売人
バゴー、タカラ村
鍋販売、日雇い、葉巻
13
12 娘3人(93、95)
結婚
農民(21~30エーカー)
寮に住み高校通学
14
28 娘1人(00)
バゴー
高校生(寮賃3万)
15
22 妹(95)
バゴー
仕事のため
夫(サイカー運転手)
農民(31エーカー~)
16
33 妹(91)
タウンボタヤー村
結婚
主婦、夫(機械貸し)
教育、仕事のため
17
65 子供10人(66~02)
ヤンゴン、イギリス
医者、自営業
季節農業労働者
18
10M 弟(99)
ヤンゴン
仕事のため
クレーン車運転手
19
6M 本人(01/3~4)
バゴー(2ヶ月)
仕事のため
大工
結婚、仕事のため
20
12M 姉(80)弟(01)
バゴー、ヤンゴン
葉巻、家事手伝い
21
10M 本人(88/3~8)
カワ郡の村(6ヶ月)
仕事のため
精米所での荷夫
22
6M 弟2人(91)
バゴー
仕事のため
喫茶店のウェーター
日雇い労働者
23 140D 本人(12月に10日)
モン州(年に10日)
仕事のため
荷夫
24 270D 本人(01/5~8)
タナッピン(4ヶ月)
仕事のため
喫茶店のウェーター
25 120D 娘2人(00/7~8)
バゴー(年に2ヶ月)
仕事のため
葉巻作業
移動の際に
頼った人
夫の母
友達
同郷人
叔母
叔母
なし
妻
同郷人
友達
叔母
夫
親戚
夫の親戚
夫
母、叔母
同郷人
同郷人
叔母
叔母
叔母
叔父
同郷人
友人
23
6.移動のプッシュ要因
(1)現金化の進行


支出の大きさ=収入と支出のアンバランス(表8)
食費負担の大きさ(表8)
表8 タッカネイン村における農民および農業労働者の一世帯当たりの平均月収と支出(2003年10月)
平均農地/ 平均月収
調査対象者
平均支出(チャット)
%
雇用日数
一世帯の支出 食費
%
(チャット)
その他
日雇い農業労働者
157.9D
17,304
23,046
19,676
85.5%
3,348
季節農業労働者
8.85M
16,743
25,346
20,562
81.1%
4,784
農民(1~5エーカー)
3.25ac
26,334
30,013
23,201
77.3%
6,812
(6~10エーカー)
8.05ac
23,562
35,716
25,235
70.7%
10,481
(11~20エーカー) 14.15ac
46,639
36,330
24,728
68.1%
11,602
(21~30エーカー) 25.13ac
51,150
42,159
30,958
73.4%
11,201
(31~エーカー)
45.83ac
88,009
63,819
42,951
67.3%
20,868
(注)ac=エーカー、M=月、D=日。
14.5%
18.9%
22.7%
29.4%
31.9%
26.6%
32.7%
24
6.移動のプッシュ要因
(1)現金化の進行

農地売買の状況(表10)
表10 農民世帯において10年間の農地売買状況
調査対
販売 相続で 没収 購入 相続で 配布で
農地規模別世帯
合計
(注1)
象世帯
増加(注2)
世帯 減少
世帯 増加
農民(1~5エーカー)
3
1
1
5
12
(6~10エーカー)
1
1
1
2
5
10
(11~20エーカー)
1
4
2
2
9
13
(21~30エーカー)
4
4
8
(31~エーカー)
1
1
2
6
合計
3
2
2
10
5
3
25
49
(注1)道の拡張により農地を没収された世帯数。
(注2)村長から荒地を配布された世帯数。
25
6.移動のプッシュ要因
(1)現金化の進行



負債:現在60世帯(67.4%)がインフォーマル信用から借金。
金利:担保なし月利10~20%(26世帯)
担保有り月利4~8%(21世帯)無利子(13人)
借金先(表11)
表11 農民および農業労働者が借金する時に借りるところ(2003年10月)
調査対象者
親戚
村の雑 村人/ 隣村の 質屋
雇い主 なし
貨店
友達
店
日雇い農業労働者
8
1
3
4
4
季節農業労働者
7
1
2
1
6
3
農民(1~5エーカー)
4
1
4
1
1
1
(6~10エーカー)
5
4
1
(11~20エーカー)
8
2
3
(21~30エーカー)
1
2
4
1
(31~エーカー)
1
1
2
1
1
合計
34
4
19
2
10
10
10
26
6.移動のプッシュ要因
(2)農村内所得格差の拡大

収入(表8)⇒農業労働者と11エーカー以上耕作する農民との
あいだには倍以上の格差が存在する。
表8 タッカネイン村における農民および農業労働者の一世帯当たりの平均月収と支出(2003年10月)
平均農地/ 平均月収
調査対象者
平均支出(チャット)
%
雇用日数
一世帯の支出 食費
%
(チャット)
その他
日雇い農業労働者
157.9D
17,304
23,046
19,676
85.5%
3,348
季節農業労働者
8.85M
16,743
25,346
20,562
81.1%
4,784
農民(1~5エーカー)
3.25ac
26,334
30,013
23,201
77.3%
6,812
(6~10エーカー)
8.05ac
23,562
35,716
25,235
70.7%
10,481
(11~20エーカー) 14.15ac
46,639
36,330
24,728
68.1%
11,602
(21~30エーカー) 25.13ac
51,150
42,159
30,958
73.4%
11,201
(31~エーカー)
45.83ac
88,009
63,819
42,951
67.3%
20,868
(注)ac=エーカー、M=月、D=日。

14.5%
18.9%
22.7%
29.4%
31.9%
26.6%
32.7%
所有物(表12)⇒農機具や機械付き生活用品の所有状況をみ
ると農地なし層と農民とのあいだに大きな格差がみられる。
27
表12 タッカネイン村落集における農民と農地なし農民世帯の所有物
世帯主就業 日雇 季節
農民
合計
1~5ac 6~10ac 11~20ac21~30ac 31~ac
所有物
役牛
1
5
3
9
7
5
30
メス牛
1
3
4
4
5
4
5
26
子牛
1
2
2
6
4
3
18
水牛
1
2
5
6
4
18
子水牛
1
2
1
4
1
9
アヒル[100匹以上持つ世帯数]
1
4
2
2
5[4]
6[3]
3[2] 23[9]
豚
7
6
4
6
8
8
3
42
鳥
15
15
12
7
8
6
2
65
Goose
1
2
2
1
6
牛車
1
4
7
8
6
26
ポンプ
1
2
3
6
5
17
耕うん機
2
3
2
7
まぐわ[PowerTiller]
1
1
3
2
1[1]
8[1]
小舟[モーターボート]
6
6
8
4
7
5
5[2] 41[2]
バッテリー
1
1
3
3
4
6
4
22
自転車
2
3
7
6
2
20
ラジカセ
1
3
3
2
6
2
17
テレビ
1
2
3
4
4
14
仕立て機
1
1
2
4
ビデオ
1
1
1
3
バイク
1
1
VCD
1
1
以上のもの何もない
2
2
4
調査対象世帯数
20
20
12
10
13
8
6
89
(注)耕うん機=plough、まぐわ=harrowを意味する。
28
6.移動のプッシュ要因
(3)非農業職種の欠如


地場産業は存在しない。
存在する非農業職種は雑業のみ(表7)⇒
穴堀り、竹細工、屋根の修復、家畜の世話
魚取り、葉巻、
表7 タッカネイン村落集における農民と農地なし農民世帯員の職業分類
主たる就業 日雇い
季節
農民
副次的就業
1~5ac
6~10ac
11~20ac 21~30ac
日雇い
25
22
8
3
1
季節
3
4
3
6
葉巻
11
11
8
1
牛の世話
1
1
穴掘り
1
2
竹細工
1
魚取り
2
1
2
3
アヒル飼い
2
4
雑貨店経営
1
2
仕立て屋
1
1
カラオケ店
1
ビデオ上映店
1
キンマ売り
1
美容師
1
合計
45
40
25
13
12
合計
31~ac
4
3
1
2
2
8
4
29
59
16
31
2
3
1
14
11
4
2
1
1
1
1
147
6.移動のプッシュ要因
(4)農業の政策的問題




供出制度の残存
農業に対するインセンティブの低下
栽培農産物(コメの種類など)の管理
政策の実行性が不安定(例:輸出農産物の
解禁と閉鎖を繰り返す、供出制度の撤廃と
再開を繰り返すなど)
30
6.移動のプッシュ要因
(5)有効な補助金制度の欠落




調査村で家族労働を使った雨季米生産でさえ平均
コストは1エーカー当たり7000チャット。
現行補助金の金額は低すぎる。耕作地1エーカー
当たりの補助金は2000チャット程度。上限額は2
万チャット。
小規模農家は生産コストの高い乾季米は資金不足
で(補助金の不足で)ほとんどが生産できない。
調査地では1~10acまでの農家22世帯のうち2世帯
のみ(9.1%)が乾季米を生産。
量的に大量生産が可能な乾季米は、利益もそれだ
け多い季節米である。しかし、利益の多い乾季米
を生産できない小規模農家は、収入を拡大させう
る手段が奪われている。
31
6.移動のプッシュ要因
(6)地理的問題


雨季米の場合は水が深すぎる。水が1~2
メートルほど溜まり、耕作地の全面積に
雨季米を植えられる農家は少ない(耕作
権をもつ全農地に雨季米を生産する農家
22.4%、49世帯中11世帯)。
乾季米の場合は灌漑整備が整えてない。
水不足のため、乾季米を生産する場合は
ポンプのレンタル料などによりコスト代
が嵩む。
32
7.おわりに




農村に農地なし層の滞留が非常に多い。
農村の農地なし層は都市インフォーマル・セク
ター労働者の予備群でもある。
農地なし層と20エーカー以上の耕作権をもつ農家
とのあいだに貧富格差が顕著化している。
労働力を農村からプッシュさせる要因が内在して
いる以上、政治や都市経済の変化によって労働移
動が進むと考えられる。
33
<参考文献>






(1)Khin Wit Yee (1988), “Study on Urbanization in Burma: A Case
Study on Rangoon City”, M.A. Thesis, Institute of
Economics, Rangoon.
(2)Naing Oo (1989), “Urbanization and Economic Development in
Burma”, SOJOURN: Social Issues in Southeast Asia, No2,
Singapore.
(3)斉藤照子(1979)「ビルマの籾米供出制度と農家経済――チュンガ
レー村の事例」、『アジア経済』、第20巻6号。
(4)――――(1980)「下ビルマ米作付の農業労働者――チュンガレー
村におけるその実態」、『アジア経済』、第21巻11号。
(5) 高橋昭雄(1992)『ビルマデルタの米作付――「社会主義」体制下の
農村経済』、アジア経済研究所。
(6)――――(1997)「ミャンマーにおける農村間世帯移動と職業階層」、
『アジア経済』、第38巻11号。
34
<参考文献>





(7)――――(2000)『現代ミャンマーの農村経済――移行経済下の農民
と非農民』、東京大学出版会。
(8)藤田幸一・岡本郁子(2000)「ミャンマー乾期灌漑稲作経済の実態
――ヤンゴン近郊農村フィールド調査より」、『東南アジア研究』、
第38巻1号。
(9) ――――(2005)「ミャンマーにおける市場経済化と農業労働者層」、
藤田幸一編『ミャンマー移行経済の変容』、アジア経済研究所。
(10)岡本郁子(2001)「農産物流通自由化と農村部における流通システ
ムの形成――ミャンマー・リョクトウ産地の事例から」、『アジア経済』、第
42巻10号。
(11)――――(2003)「ミャンマーにおける農産物流通自由化と農家経
済――リョクトウ産地の事例から」、高根務編『アフリカとアジアの農
産物流通』、研究双書、アジア経済研究所。
35
御静聴ありがとうございました。
ご意見ご批評のほどをお願いいたします。
36