第4回ランチョンセミナーレジメ:学校教育法改正と

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Transcript 第4回ランチョンセミナーレジメ:学校教育法改正と

学校教育法改正と大学の自治
広渡清吾
(専修大学)
1.焦点
ー国会審議中の学校教育法改正ー
改正案の眼目ー教授会の位置付け
・現行93条「大学には、重要な事項を審議するた
め、教授会を置かなければならない。」
・この条項に対する批判
→ 「重要な事項」はなんでも入るように読める
→ 「審議するため」は、「決定する」ことも含むよう
に読める
→大学運営の権限は学長にあり、教授会にはない
ことを明確にすべきである
1.焦点
ーどのように変えるのかー
93条改正案
①大学に、教授会を置く。
②教授会は、学長が次に掲げる事項について決定を行うに
当たり意見を述べるものとする
一 学生の入学、卒業及び課程の修了
ニ 学位の授与
三 前二号に掲げるもののほか、教育研究に関する重要な
事項で、学長が教授会の意見を聴くことが必要であると認
めるもの
③教授会は、前項に規定するもののほか、学長及び学部長
その他の教授会が置かれる組織の長がつかさどる教育研
究に関する事項について審議し、及び学長等の求めに応
じ、意見を述べることができる
1.焦点
ー改正が成立したらどうなるかー
・教授会は、審議決定機関ではなく、諮問機関
(学長等に対して意見を述べる機関)になる
・諮問事項は、教育研究事項に限られる。
・必要的諮問事項として、学生の入学・卒業・課
程修了認定、学位授与
・任意的諮問事項(学長等が認めるもの、学長
等の求めに応じて)
1.焦点
現状と比べてどんな問題が生じるか
・現在の教授会の最重要の審議決定事項は、
教員の選考(採用・昇進)および学部長選考
・教員選考、学部長選考は、教育研究に関する
事項か。学部長選考は、管理的事項か。
・いずれにしても、必要的諮問事項ではない。
だから、学長等が任意的な諮問事項として認
めた時だけ教授会が関与できる(意見を聴か
れる、意見を述べることができる)
・教員も学部長も学長が選考することになる
1.焦点
ー教育公務員特例法との関係ー
実は学部教授会の人事権の根拠は教育公務員特
例法(1949年)にあった
・大学の自治の観点から学部長、教員の選考について
は学部教授会の「議に基づいて」学長が行うとされた
・国立大学法人化(2004年)で国立大学教員は公務員で
なくなったので教特法の適用もなくなった
・とはいえ、各大学で教特法と同様のルールをとることが
禁止されたわけではなく、学部教授会の人事権は、大
学自治の根幹だと考えられてきたので、その後の国
立大学でも、また、多くの私立大学でも、これを制度と
して認めている
・たとえば東大憲章(2003年3月)の規定
1.焦点
ー東京大学の自治的原則ー
東京大学憲章
第14項(人事の自律性)
大学自治の根幹が人事の自律性にあること
にかんがみ、総長、副学長、学部長、研究科
長、研究所長および教員ならびに職員等の
人事は、東京大学自身が、公正な評価に基
づき、自律的にこれを行う。基本組織の長お
よび教員の人事は、各基本組織の議を経て、
これを行う。
1.焦点
ー東京大学の自治的原則ー
東京大学憲章
第13項(基本組織の自治と責務)
東京大学の学部、研究科、附置研究所等は、
自律的運営の基本組織として大学全体の運
営に対する参画の機会を公平に有するととも
に、全学の教育・研究体制の発展を目的とす
る根本的自己変革の可能性を含め、総合大
学としての視野に立った大学運営に積極的
に参与する責務を負う。
1.焦点
改正は大学自治のあり方を変える
学校教育法の改正は
以上にみるように
東京大学憲章の原則にも背馳し、日本の多く
の大学が採用している学部教授会の人事権
を根幹とした大学の自律的運営、つまり、大
学の自治のあり方を根本から変える可能性
をもっている。東大憲章は、法改正が成立す
ると攻撃される可能性(すでに攻撃)がある。
2.その他の改正の論点
・学校教育法92条=副学長に関する規定を「学長
の職務を助ける」から「学長を助け、命を受けて
校務をつかさどる」に変える→学長補佐機関の
強化(学長の手下にする)
・国立大学法人法改正
・・学長選考の基準、結果の遅滞なき公表
・・経営協議会の外部委員を過半数にする
・・教育研究評議会に担当副学長を評議員として
入れる・・新法施行後さらに学長選考会議、その
た組織・運営について必要な場合は所要の措置
をとる
2.その他の改正の論点
・学長のリーダーシップの強化・確立がガバナ
ンス改革の中心であるとすれば、その学長をど
のように選ぶかは、最大のポイント
・国立大学法人では学長選考会議のあり方が
改革のターゲットとなる
・学内教職員の投票の位置づけ
・選考会議における外部委員の位置付け
・選考基準のグローバルシフト
3.背景と狙い
ー大学ガバナンスの改革ー
直接的契機
・中央教育審議会大学分科会「大学のガバナンス改革の推
進について」(2013年12月)
それまでの流れ
・教育再生実行会議第3次提言(2013年5月)
「学校教育法等の法令改正の検討や学内規定の見直しも含
め、抜本的なガバナンス改革を行う」
・第2期教育振興基本計画(2013年6月閣議決定)
・「日本再興戦略-Japan is Back」(2013年6月閣議決定)
・「21世紀の大学像と今後の改革方策について」(1998年10
月大学審議会答申)
3.背景と狙い
ー「答申」の言っていることー
「大学ガバナンス改革」答申は何を言っているか
・ガバナンス=学長、教授会、理事会、監事等機関
の役割や相互関係のあり方
・ガバナンス改革は、大学改革(教育・研究・社会
貢献の最大化、学内資源配分の最適化)を機動
的に進めるため、その中心は学長のリーダー
シップの強化、確立
・リーダーシップの発揮を妨げる学内制度の見直し、
とくに教授会の役割の明確化(口出しさせない制
度にする)、学内補佐体制整備が必要
3.背景と狙い
ー内部的自治的運営の解体・再編ー
「大学ガバナンス」答申の核心
「権限と責任が一致すること」が「あらゆる組
織におけるガバナンスの基本」であるから、
「その観点から、大学においても、ガバナンス
の在り方を見直していくことが求められる。」
・大学の事実上の(法律的根拠によらない)内
部的自治的運営の解体・再編を狙う
4.どうすればよいか
ー日本の大学制度ー
日本の大学
・その定義
「①大学は、学術の中心として、広く知識を授
けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、
知的、道徳的及び応用的能力を展開させるこ
とを目的とする。②大学は、その目的を実現
するための教育研究を行い、その成果を広く
社会に提供することにより、社会の発展に寄
与するものとする。」(学校教育法83条)
4.どうすればよいか
ー日本の大学数と学生数ー
日本の大学数と学生数(2013年度文科省学校基本調査)
・大学数 782
国立86、公立90(うち法人化したもの72)、私立606
・学生数 286万8872
国立61万4783、公立14万6160、私立210万7929
・短期大学 359(公立19、私立340) ・短期大学学生数 13
万8260 (公立7649、私立13万611)
大学進学率の国際比較(文科省「教育指標の国際比較」2013年)
日本51%、OECD平均62%、アメリカ74%、 韓国71%、オーストラリア96%、
ドイツ42%、イタリア49%、イギリス63%
4.どうすればよいか
ー法改正を阻止するー
・同一の法的定義の下に800近い大学があり、国公私
立と設置形態が分かれ、大学毎の条件が多様な中で、
大学のガバナンスが論じられ、モデルが示されている
・なにがなんでも「学長のリーダーシップの強化・確立」
というようなモデルは、日本の大学に展望を拓くものと
は思われない モデル押しつけの法改正は不適切
・なによりも大学の自主性、自律性を尊重し、国民のた
めの大学改革、大学の社会的責任を大学教職員が
自らの責務としてうけとめ、実践しうるガバナンスの確
立、リーダーシップの発揮が必要
4.どうすればよいか
ー大学の論理と倫理を明確にするー
・「学術の中心」としての大学
学術とは諸科学の全体、人間の知的営みの全体、知的営みの本質は真
理の探究、真理の探究はそれ以外の目的をもたず、また、いかなる制約
の下にも置かれない。
・「学問の自由に基づく大学コミュニティー」
真理を探究する主体は一人ひとりの個人であり、学問の自由は一人ひと
りに帰属する。大学は真理を探究する主体が構成するコミュニティーであ
り、教師は相互の交流、協力と批判のなかで真理探究に従事し、学生は
教師の助けをかりながら、自立的に真理を探究し、職員は大学コミュニ
ティーの運営を担う。
・「大学の社会的責任」
大学コミュニティのメンバーは、真理を探究する大学の活動が「社会の発
展に寄与する」ことについて、倫理的責務を負い、大学の社会的責任
(University Social Responsibility)を共同で担う
・大学の知のあり方、社会に対する関係は複合的である(超越的精神・内在
的対応・自省的考察)
5.付録-政府・文科省主導の改革で
大学はよくなったか
・政府(文部科学省)による近年の大学改革はほ
んとうに大学をよくしてきたか
・中教審は、2003年の国立大学法人法制定、私
立学校法改正、地方独立行政法人法制定、学
校教育法改正などを通じた制度改革によるこの
10年の大学の変り方を肯定的に評価し、この方
向でさらに一層の改革をいう基本的立場に立っ
ている
・この10年間、日本の大学の研究・教育は、どん
な状態になったのか。政策効果の検証が不可欠
5.付録
ー「改革」でよくなったかー
研究に関して次のようなデータがある
・世界における論文発表数のシェア
1998-2000年 日本はアメリカ、イギリスに次いで第3位、9.2%
2008-2010年 日本はアメリカ、中国、イギリス、ドイツに次いで第5位、6.6%
・論文の被引用回数
1998-2000年 日本はアメリカ、イギリス、ドイツに次いで第4位
2008-2010年 日本はアメリカ、イギリス、ドイツ、中国、フランス、カナダに次いで
第7位
・大学教員の職務時間中の研究時間の割合
2002年と2008年を比較してすべての職種で減少(教育とその他業務が増)
教授 45.5%から35.7%へ
助(准)教授 49.0%から37.5%へ
講師 45.5%から38.3%へ
助手(助教) 57.1%から53.4%へ
・修士課程から博士課程に進学する学生の減少
2004年の31%から2012年23%へ
5.付録
ー大学がよくなるのかー
・以上のようにこの10年に研究成果も研究環境も悪化している
・これはだれの責任なのか
・文科省の作成した国立大学改革プラン(2013年11月)
第3期中期目標期間(2016年度ー)に向けて「改革加速期間」
・そこでの目玉とされている課題
今後10年で世界大学ランキングトップ100に10大学ランクイン
・手段は、「大学の徹底した国際化」、つまり、外国人教員比率を高
めること、および留学生比率を高めること、これについて指数をあ
げれば総合評価がたかまりランクインできる。
・2014年度予算案 「スーパーグローバル大学創成支援」トップ10
校、グローバル牽引型20校を支援(その他「グローバル人材育成
推進事業」の既存42大学とあわせて99億円)
・なにか考え方が逆転していないか?
5.付録
ーこれでなにがよくなるのかー
もう一つ、これが「改革」か
「教員の流動性が求められる分野で3年内に1万人規
模で『年俸制・混合給与』を導入する」
・文科省の担当者に質問した。これは経費節減のため
の施策か、研究・教育の質をたかめる施策か。答え、
後者である。だとすれば、年俸制が研究・教育の質を
たかめるというデータがあるのか・・・・・
・任期制の促進も同じ問題、研究者の「流動性」が研究
の質を高めることは実証されているのか
・根拠になるデータも政策効果の検証も示されない
・しかし、大学20%(教員定数の)、その他の研究機関
10%として、年俸制の割り当てが行われている
5.付録
日本の「大学制度」の問題
2014年度予算案
→国立大学(1兆1796億)
・運営費交付金1兆1123億、改革推進事業186億、施設整
備費487億
→私立大学(3317億)
・経費補助金3184億、教育研究活動整備事業46億、施設
整備費87億
・公財政支出の拡大によって私立大学のビジネス化を抑制
することが必要ではないか
・国立と私立の共存的分業をどのように図るか
・設置形態を問わず、大学とは何かを考えることの重要性