金融工学の最適化

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Transcript 金融工学の最適化

金融工学
• 裁定取引
• オプション価格付け
• ポートフォリオ最適化
良く聞かれます
• 最適化の話をすると必ずと言っていいほど出るのが「最適
な株の買い方を教えて下さい」
• 最適ってどういうこと? などつっこみどころ満載なんですが、
最も大きなずれは「最適化」と「予測」の違い
「最適な」ではなく、「最も儲かる(値上がりする)」株、あ
るいは「値上がりする確率の高い株」が知りたいのです。
• 予測は予測。未来のことを知ることはほぼ無理です。
良い予測方法があるなら、こっちが知りたい
• では、「金融工学」は何をしているのでしょうか?
予測の難しさ、儲けることの難しさ
• 将来を予測することは難しい
 どの企業が成長するか、予測するのは難しい
• 仮に予測できたとしても、その情報で儲けることもまた、難し
い
 みんながその予測を知っていたら、その企業の株は妥
当な価格まで値上がりしてしまう
• 儲けるためには「みんなは値上がりしないと思っているが、
自分だけは値上がりすることが分かっている」という状況が
必要。
これはなかなか難しいだろう。
金融工学の正義
• 金融工学を理解するには、まずベースとなる価値観を知る
ことが大事
• 「金融工学」というと儲かることが全てのように感じるが、実
は他の価値観がいくつもある
 「安全さ」「妥当さ」「頑強さ」...
• 各々の状況で何が最適化できるかを考えることが大事
(実問題では、儲けを最大化する問題設定は考えにくい)
オプション
利得
• 金融商品の一つにオプションというものがある
• ある証券/ものを、未来のある時点で、値段○○で売る(あ
るいは買う)権利(相手がその価格で買い取ってくれる)、とい
う、権利に値段がついた商品である。
• 例えば、輸出を行う企業が、為替変動のリスクを減少させた
いときに使う。
- 円高が進むと、売却で得たドルで買える円が少なくなる
ので、あらかじめ「円を○○円で買える権利」を購入し、円高
になったら権利を行使し、安い値段で円を買う。
- 円安に振れたら「権利を行使しない」という選択肢がある
価格
オプションの価格付け
• オプションは単なる権利なので、実現は簡単
• 問題は、いくらで売買すればいいのか分からないこと
+ 市場原理に従えば、株と同じく、適切な価格におち付くであ
ろうことが予測される。
+ しかし、マイナーな金融商品でマーケットへの参加者が少な
く、見えにくい要因が絡むような場合、適正な価格形成が行わ
れるとは考えにくい
• せめて、なんらかの基準価格の様なものが欲しい
あるいは、ある程度機械的に得られる、妥当な価格が欲しい
(現在の価格と差異があれば、裁定取引をする)
予測と価格
• オプションは、ある程度その証券の価格の予測ができないと、
価格の決定は無理
 何も分からないのであれば、何も妥当でない
• 逆に確率的な予測が有れば、その予測に基づいた価格は
決められる
例) 30% で 100円、20% で80円、50% で120円になると予測され
る証券に対する、「90円で買う権利」の値段
+ 30% で10円得、20%で損得なし、50%で30円得なので
利得の平均は18円。これがオプションの妥当な価格になる
より現実的な予測を使って
• 先の予測は、離散的で、あまりに非現実的
 実際の価格の予測は、ある主のモデルを仮定し、正規分
布のようになるだろう
• 分布が分かれば、各事象の利得を確率積分して、妥当な価格
が得られる。
価格 Z のオプションの価格
ΣX Pr[X=k] × (max{k-Z,0})
• この積分がうまくできれば、価格が求まる
ブラックショールズ方程式
• 株価の変動は、1単位時間に一定割合、上下すると考えられる
ことが多い
 価格 x が確率 p で αx になり、確率1-p で(1/α)x 、
あるいは βx になる
• このときの時刻 T (権利を行使できる時刻)での価格の分布は、
正規分布のような解析しやすい分布にはならない
• これを「ブラックショールズ方程式」につっこむと、積分値を解
析的に求めることができる
• 詳細は確率の先生に聞いて下さい
アメリカンオプション
• 確率の変動がこのような場合でないときは、うまく積分できな
いことが多い
 その場合は、なんらかの計算的な方法で価格を
求めるしかない
+ ありうる事象を列挙
+ 価格シミュレーション
+ サンプリング...
• 好きなタイミングで権利を行使できるオプション(アメリカンオプ
ション)でも、解析解を求めることは難しいので、同じアプローチ
が取られる
• 算定が不正確な分、価格を高めに設定することが多いようだ
ポートフォリオ
• 複数の種類の株や証券を持つ、その持ち方のことをポートフォ
リオという
 例:A社の株を100株、B社を2000株、国債を2000口
• 過去の株価の推移から、将来の銘柄 j の価格の期待値 rj、分
散 σj 、株価の相関 σij などを調べることができる
(期待値がどれほど正確かはあやしいが、分散や株価の相関
はアテになるだろう)
• 株価の推移が相補的な株を買えば、分散を小さくできる
例: 輸入業と輸出業 (円高/円安に関して相補的)
洋服会社と遊園地 (暖冬に関して相補的)
分散の最小化
• 仮に予測ができたとして、
儲けを最大化したい  期待値最大の株を買う
• が、これでは安全性というものがない
収益の期待値が同じなら、分散が小さいほど良い
 大もうけもないが、大損もない。世の中、変動幅が
大きいと言うこと自体が、コスト要因になる
• 複数種類の株を持つことで分散を小さくできるが、相関の高い
株を選んでしまうと、分散は小さくならない
 最適化が必要
分散・共分散行列
• 要素 σij が、事象 i と j の共分散(相関係数)になっている行列
A を共分散行列という ( σij = E[(Ri-E[Ri])(Rj-E[Rj])] )
• 銘柄 i を xi 買ったとすると、 cij xi xj が、銘柄 i と j を同時に買
うことのリスクの指標になるだろう
( cii xi2 は銘柄 i を買うこと自体のリスク)
• これの総和を最小化、期待収益は一定する、とすれば、凸2次
計画になる
(分散共分散行列は半正定値なので)
min Σij E[(Ri-E[Ri])(Rj-E[Rj])] = xTA (=[σij])x
s.t. Σ rixi ≧ ρ、 Σ xi = 1、 xi ≧ 0
分散共分散最小化
• これの総和を最小化する、とすれば、凸2次計画になる
 マーコビッツモデルという
• マーコビッツモデルは、凸2次計画なので、1000銘柄ぐらいま
ではなんとか解ける
逆に銘柄選択肢が大規模な最適化になると解けない
• そうはいっても、世界規模のポートフォリオを最適化する、債
権、先物、金属、通貨など複合的な金融商品を保有する、という
場合には、多種の選択肢を準備する必要があるので、大規模
問題が解きたい
行列の分解
• 証券なり金融商品が複数のカテゴリ(国や種類)に分かれてい
るときは、多くの場合、カテゴリ間の相関は低いことが多い
 問題を分解して、子問題を解き、相関がある部分を調整し
て、という作業を繰り返すアプローチが使える
• ただし、「全ての変数についていっぺんに解いた場合」よりも求
解時間は長くなる。メモリに乗り切らない、という状況を回避でき
るところがよい
要因で動きを説明
• 証券同士の相関係数を全て調べなければならないのが、マー
コビッツモデルのつらいところ
• 実際の所は、これほど各証券がたがいに異なる動きをして、複
雑な要因を持っているわけではない
 例えば、「円高」「不景気」「猛暑」などのイベントと同じよう
に連動することがおおい
• と思うと、実は各証券の動きは、いくつかの要因を使って簡単
に説明できそうだ
• それなら、そのように説明された変数同士の相関はもっと簡単
な形で表されるはず
マルチファクターモデル
• 証券同士がいくつかのイベントの起こり方で説明できるのであ
れば、各証券をイベントの変数を使って表してしまおう
(銘柄 j の価格) Rj = αj + Σk βjkFk + εj
定数
誤差(ばらつき度)
イベント k とどれくらい相関するか
• 先の2次計画の目的関数に上記の式を代入すると、イベント
(ファクター)の数 K の2乗個しか、2次項が無くなる
min Σi σj2xj2 + ΣΣ frsyrys
 大規模問題でも解ける
s.t. yr = Σ βjkxj
Σ rixi ≧ ρ、 Σ xi = 1、 xi ≧ 0
絶対偏差モデル
• マーコビッツモデルは、目的関数が2次であるところがつらい
 ならば線形にしてしまおう
Σij E[(Ri-E[Ri])(Rj-E[Rj])]  Σi E[Ri-E[Ri]]
• 目的関数から相関の項が消えるので、いわば「独立な場合」を
考えていることになる
• それでは少々やり過ぎなので、いくつかのシナリオを考えるこ
とにする
 各銘柄がこういう値を取る、というシナリオを T 個、および
それらの確率 ft を考える
絶対偏差モデル定式化
• 目的関数は絶対偏差の和
 シナリオでの値の、平均からの乖離を全て足す
 Σj Rjt-E[Rj] を全ての t に関して足す (ftで重み付けて)
min. ΣtΣi E[Rit-E[Ri]]
s.t. Σ rixi ≧ ρ、 Σ xi = 1、 xi ≧ 0
• 目的関数が線形になり、項の数も銘柄数に減ったが、シナリオ
数の分だけ倍加されている
• なんにしても、それほど大きな数ではないので、現実的に十分
解ける
ポートフォリオ再最適化
• ポートフォリオを最適化したあと、状況が変化したら
(期待収益が減ったり、ファクターが追加されたり、、、)
ポートフォリオを組み直したくなる
• 理想的なポートフォリオにすればいいのだが、株や債権は売
買するのに手数料がかかるので、なるべく売買が少なくなるよう
にしたい
• 売買手数料は、売買の数量に対して凹関数になっている
これだと最適化しにくいので、通常は線形関数で近似
 銘柄 j の1単位の売買手数料を cj とする
ポートフォリオ再最適化
• 定式化はいくつか。目的関数に係数を掛けた売買コストを持っ
てくるもの、期待収益+売買手数料が一定となるようにするもの、
など。
• 目銘柄 i の現在の保有数を vi とすると、以下のようになる
min. ΣtΣi E[Rit-E[Ri]] (+ Σ ci|xi-vi|)
s.t. Σ rixi (- Σ ci|xi-vi|) ≧ ρ、 Σ xi = 1、 xi ≧ 0
• 目的関数/制約に絶対値が入っているが、「絶対値を小さくす
る」 「絶対値が○○以下」というタイプなので、線形計画に変換
できる
裁定取引
• ある品物(証券)の価格が場所によって異なるとき、その価格
差を利用してお金を得る取引のことを「裁定取引」という
 例: あるところで品物A の価格が5000円、あるところでは
4000円だったら、4000円でA を買い、5000円で売ることで1000
円が儲かる
• 売買に多額のコストがかかる、品物以外のものにも価値があ
るような場合には、価格が異なる場合はあるが(コンビニは便利
を提供することで価格が高くなっている) 基本的には、価格差
があれば資本なしでお金が儲けられるので、このようなことは起
きないとされている
• 円ドルなど、大量売買が低コストでできるときの議論
裁定機会
• 裁定取引ができるチャンス(そういう状態になること)のことを
裁定機会という
• 通常は裁定機会が存在すると、裁定取引が行われ、価格が上
昇/下降して同じになるはず (需要と供給が価格を決める原
則より)。
• が、実際には情報や人の不均等により、そういうことが起こる
• 裁定機会を検出することは、儲けるためにも、市場の健全性を
知る意味でも重要
裁定機会の検出
• ある品物についてのみ、裁定機会を検出するのは簡単。場所
による価格差だけを調べればよい (あとは、移動・売買コストさ
えはじきだせば、儲かるかどうか分かる)
• 品物が複数あり、互いに取引できる場合は自明でない
通貨取引がこの例に当たる
例: 円ドルポンドユーロ円、と買ったときに、元の価
格よりも増えたら裁定取引
 任意の通貨間で売買取引ができてもよいし、
取引ができないペアがあるのであれば、それが制約になる
ネットワークの構築
• 複数の品物間での取引ができるとき、レートを重みとしてネット
ワークを構築する
例: 頂点 = 通貨
通貨 Aを 1単位で、通貨B が w 購入できる(手数料込みで)
 A から B へ、重み w の有向枝を張る
• 枝重みの積が正のサイクルがあれば、そのサイクルに沿って
取引をすることで、お金を増やせる
• このようなサイクルが検出できると、裁定取引が検出できる
コストの付け替え
• コストの付け替えを w  - log w と変更する
 サイクルの枝の重み和  - (もとの枝重みの積の log)
• このネットワークで重みが負のサイクルを見つけると、それが
裁定機会になる
• 負重みのサイクルは、ベルマンフォード法で見つけられる
 コスト修正を n 回行ってもまだコストが下がるところが有れ
ば、その頂点は負重みのサイクルに含まれる
 修正に荷担した枝を保存しておけば、それらが負重みのサ
イクルに含まれる枝になる(ネットワーク上で修正した枝をたど
ると負サイクルになる)
計算時間の算定
• ベルマンフォード法の計算量は O(mn)
• 通貨の種類が200程度と思えば、計算コストは
200 ^3 = 800000 ステップ程度。計算時間は0.01秒程度だろう
• 通貨の交換価格はリアルタイムで変化するが、これくらい高速
で計算できるのなら、リアルタイムで裁定取引ができるかどうか
をチェックすることもできるだろう
ヘッジファンド
• ヘッジファンドはどうも正しく理解されていないらしい、、、
• 例えば、企業買収を行って役員を送り込み、株価を上げる、、、
というスタイルのファンド(企業再生ファンド、バイアウトファンドな
どという)は、ヘッジファンドではない
• ヘッジファンドは、「リスクをヘッジ(回避)」するファンド
• リスクはいろいろあるが、この場合のリスクは「市場の動き」
市場というリスク
• 「この企業はすばらしい」と思って投資しても、景気が悪くなれば
必然的に株価は下がる
 この、市場全体が下がる、のがリスク
• 結局、「いい企業か悪い企業か」よりも、「市場全体がどう動くか」
が重要なファクターになる
 世の中全体の動きを予測するのは難しい。そんなことができ
るなら誰も苦労しない
 つまり、それは予測できない。個別企業なら確信が持てるが
• 「市場に振り回されずに、企業価値にのみ依存する」ような投資
がしたい、というのが、ヘッジファンドの起源
空売り
• 株をもってない人が、株を売り、後日買い戻す、という取引を空
売りという (ある種実体を持たない、契約だけの取引)
 「この銘柄の価格が下がる」と思ったときに、空売りをする
• 空売りは、危機に陥った企業などに対して集中的に行われるた
め、傾いた企業にとどめを刺してしまうこともある
(実際に保有していない人が、株を売れる、というところが問題)
 世の中的には、問題扱いされることが多い
• しかし、上手に使えば、リスクを回避するために役立つ
空売りを使ったしかけ
• 例えば、2億円の資金があるとする
• この資金を使って、1億円現物買いを行い、1億円空売りをする
• いろんな銘柄を買えば、価格は平均的に動くので、市場の平均
と同じような動きをすることになる
• つまり、買った株が市場平均と同じだけ上がり、売った株が市場
平均と同じだけ下がるので、市場平均に対しては常に中立になる
• あとは、「市場平均よりも上がる」と思った株を買い、「市場平均
よりも下がる」と思った株を空売りすればよい
 これが、「市場リスクを回避する」ヘッジファンドの仕組み
最近のテクニック
• 他にもいろいろな仕掛けがあるが、基本的にはどれも、「市場の
メカニズム」を捕らえたモデルを用いている
 金融システムのモデリングです!
アービトラージ(裁定取引): ある銘柄が異なる場所に上場されて
いて、その価格に差があるときに、片方を売り、片方を買う()
イベントドリブン: ある銘柄に対してイベント(株式分割、合併など)
がおこったとき、そのイベントにあわせた取引を行う
• 売りと買い(あるいは借金)を組合わせると、資金より大きなお金
が運用できる。手持ち資金の10倍のお金を運用すれば、10%値上
がりすれば2倍になる
 FXで大損するのは、この取引をしている人
まとめ
• オプションの価格付け方法の紹介(シミュレーション、ブラッ
クショールズ方程式)
• 最適ポートフォリオ問題
+ 分散最小化(=マーコビッツモデル、2次計画)
+ マルチファクターモデル
+ 手数料を小さくする再最適化
• 裁定機会の検出(負閉路の検出)
• ヘッジファンドの仕組み