2 日本企業の株式保有構造歴史的進化と国際的特徴

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Transcript 2 日本企業の株式保有構造歴史的進化と国際的特徴

日本企業の株式保有構造:
歴史的進化と国際的特徴
日本私法学会
2013.10.13
早稲田大学商学学術院/高等研究所/RIETI
宮島英昭
Copy right Hideaki MIYAJIA, All rights reserved
はじめに:課題 (目次参照)
株式所有構造の変化の実態
・インサイダ保有の優位からアウトサイダ-保有の優
位へ なぜ発生したのか
・近年の上場企業の株式所有構造の多元化
持合解体・機関投資家の増加の影響
・マイクロデータに基づく分析の成果
・上場子会社の経済的機能
・日本企業の国際的特徴は何か。
・今後の政策課題
11
歴史的進化
2
2
株式所有構造にアプロ-チする視角
• アウトサイダ-:投資収益の最大化を目的に株式を
保有する株主
例: 個人・内外機関投資家
• インサイダ-:経営者や、経営者と友好的な関係に
あり、株価以外の関心から株式を保有する株主
例:創業者・経営者・従業員持株会・銀行、事業法
人、保険会社(除く特別勘定)
* ただし、図表1は、厳密に区分されていない。企業ベ-スの分析では大株
主名簿から作成。
33
東証上場企業・株式所有構造の推移
東京証券取引所他『株式分布状況調査』調査対象は、全国証券取引所上場会社(JASDAQ(旧店頭市場)を除き、
マザーズ、ヘラクレス等の新興市場を含む)。保有比率は、原則、市場価格ベースで計算されたものを表示し、デ
ータが取得できない1969年度以前は、株数ベースで計算されたもの。
インサイダーは、都銀・地銀等、生損保、その他金融機関、事業法人等の保有比率合計
アウトサイダーは、外国人、個人、投資信託、年金信託の保有比率合計
44
ポイント
• 戦後改革: 強制的な分散化
• なぜ、アウトサイダ-からインサイダ-優位にシ
フトしたか?(Franks, Mayer and Miyajima 2013)
• 事実上のデット・エクィティスワップ(財務危機)
1950年代
• 成長企業の増資—証券会社の投信組成—
株価維持機関 1960年代半ば
• 親引け=割り当て自由の原則 1971-72年
55
株式構造はどのように変化したのか
• 1970年前後以降インサイダ-(法人)優位安定
• 1980年代後半、金融機関(銀行)の保有比率漸増
• 1990年から外国人増加
• 1997年から:インサイダ-保有の解体
• 1999年、2003-6年、海外機関投資家の増加
• 1990年代末・国内機関投資家の増加、その後安定
• 2006年持合い「復活」ー部分的
• 戦略的提携、大量買い付けの対象、現預金保有の多い企業
66
株式所有構造の多様化
7
7
持合いの解消—機関投資家の増加
1997年以降の持合い解消:なぜ解体したのか
銀行危機―企業・銀行の自己選択
Miyajima and Kuroki (2007)
• 企業サイド:保有リスクの上昇
• 銀行サイド:不良債権処理・株価変動リスク
企業間の保有構造の変化の不均一性
• 銀行との関係(すでに銀行離れしているか、いま
だ緊密な関係を維持してるか)
88
株式所有構造の多様化
• 時価総額上位企業: アウトサイダ-優位
• 下位企業: インサイダ-優位
• 機関投資家の増加緩慢(Passive運用の増
加部分のみ)
• 持合い・銀行・事業法人の保有比率相対的に
高い。
⇒ 日本企業の株式所有構造は多様化
99
規模別所有比率:第5V分位・上位300社、
海外機関投重家と国内機関投資家で50%。
各分位の2006年度の時価総額の中央値は、第5V分位5,615億円、第4V分位1,317億円、第3V分位523億円、第2Ⅴ分位
273億円、第1V分位122億円、閾値は、第4から5V分位が、2,292億円、第3から4V分位が812億円、第2から3V分位が
374億円、第1から2V分位が192億円である。
機関投資家(海外+国内(投信
・年金信託(銀行・保険含まず)
海外機関投資家
30%
60%
第1V分位
第1V分位
第2V分位
20%
50%
第3V分位
第2V分位
第4V分位
第3V分位
40%
第5V分位
第4V分位
30%
10%
20%
5%
10%
0%
0%
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
15%
第5V分位
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
25%
東京証券取引所7月6日
10
10
機関投資家の銘柄選択行動
宮島・新田(2011)、宮島・保田(2012)
11
11
機関投資家の銘柄選択
銘柄選択のモデル( Gompers and Metrick 2001)
SHit= F (Z1t, Z2t, Z3t, Z4t)
図表2
 SHは、各機関の保有比率。
Z1:浮動株比率。 期待符号は正。
 Z2:流動性変数。時価総額対数値、株式売買回転率。正
 Z3:ホームバイアス変数。海外売上高比率、R&D比率、有
利子負債比率、MSCIダミ-、
 Z4:企業統治変数。取締役会人数、外部取締役比率、旧
六大企業集団ダミー
証券経済学会6月9日
12
12
機関投資家の重要性の上昇
• 海外投資家のポートフォリオは浮動株に依存(持合いの解消
に依存)
• ホームバイアス要因強い
①企業規模(時価総額規模)が大きく、
②売買回転率が高く、
③海外売上高比率が高く、
④負債比率が低い、
⑤MSCI組み入れ銘柄を選好。規模では下限が存在する(投資
家ヒアリング)
• 企業統治要因を重視:取締役会規模⇒社外取締役を選好
証券経済学会6月9日
13
13
国内機関投資家は灰色か
• SH2を、国内機関投資家保有比率(信託銀行
+生保特別勘定)
• SH3を、銀行・生保保有(特別勘定除く)
• 海外と国内機関投資家の投資行動の差は縮
小=国内機関投資家の銘柄選択は親会社・
顧客の影響を受ける、もはや過去のこと、
• 銀行・保険は変わらない。
14
14
機関投資家のインパクト
15
15
機関投資家の銘柄選択のインパクト
Rit= F( X1t-1, SHt-1, ΔSHt)
(図表3)
•
Rit:投資収益率。企業iの各年の対TOPIX調整済み投資超過収益率。
•
Xiは、Riに影響を与える変数。先のモデルと同一の変数の1期ラグ。
SHt-1は、各機関投資家の期初(前期末)の保有比率の水準
•
ΔSHtはその当期の変化。ここではΔSHtに注目。
機関投資家の銘柄選択のインパクト大
• 2005-08年の各年の推計:機関投資家の保有比率
1σ(5%)上昇(低下)⇒リタ-ン7-8%上昇(低下)
証券経済学会6月9日
16
16
機関投資家の保有比率の変化と株価パフォーマンス
分析結果2:保有比率の変化のインパクト
• ΔSHtの各年の係数とその有意水準、ΔSHtの各年の平均と標準偏差、及びΔSHt
の係数に1標準偏差を乗じることよって求めた経済的規模
FY
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
各
機関投資家計
海外(1σ*係 国内(1σ*係
年
海外機関
国内機関
リターン
海外機関持分 国内機関持分
同左標準
同左標準
(海外・国内機
3
標準偏差
持分増
持分増
数)
数)
平均
増分の係数
増分の係数
偏差
偏差
関投資家保有
分・平均
分・平均
Magunitude Magunitude
月
分の1σの効果
末
-22.97%
23.46%
2.362 ***
0.009
0.59%
3.03%
-0.16%
2.14%
7.15%
0.02%
7.17%
-8.24%
22.21%
3.099 ***
1.360 ***
-0.07%
2.26%
-0.03%
1.83%
6.99%
2.48%
9.47%
11.78%
24.63%
3.585 ***
0.757
0.93%
2.43%
0.05%
1.70%
8.71%
1.29%
10.00%
-13.84%
16.65%
1.468 ***
0.010
0.51%
2.54%
-0.29%
1.44%
3.73%
0.01%
3.74%
24.30%
34.47%
1.350 ***
-3.883 **
0.83%
2.95%
-0.63%
1.61%
3.98%
-6.27%
-2.29%
-19.37%
23.26%
1.435 ***
-0.189
0.20%
3.34%
0.27%
1.67%
4.79%
-0.31%
4.47%
-23.93%
24.58%
1.603 ***
3.257 ***
-0.73%
3.43%
-0.14%
2.16%
5.49%
7.02%
12.52%
-4.06%
34.30%
2.771 ***
3.351 ***
-0.63%
2.88%
-0.05%
1.90%
7.97%
6.38%
14.35%
14.36%
87.62%
4.943 ***
7.659 ***
0.71%
4.28%
-0.35%
2.72%
21.17%
20.80%
41.97%
1.29%
50.51%
0.309
4.395 ***
-0.21%
4.12%
0.77%
2.88%
1.28%
12.67%
13.95%
-7.06%
27.60%
0.862 ***
2.204 ***
-0.55%
3.30%
1.28%
3.02%
2.84%
6.67%
9.51%
-8.74%
32.99%
1.564 ***
2.732 ***
-0.38%
3.93%
0.83%
3.12%
6.14%
8.53%
14.67%
67.13%
79.19%
1.296 **
1.444 *
2.26%
5.19%
-0.55%
3.62%
6.72%
5.22%
11.95%
21.36%
43.19%
0.350
1.230 **
1.85%
5.38%
0.39%
3.28%
1.88%
4.03%
5.92%
43.35%
47.96%
1.351 ***
2.956 ***
2.40%
5.25%
-0.12%
3.40%
7.09%
10.06%
17.15%
-6.47%
26.47%
1.324 ***
2.293 ***
0.55%
4.99%
-0.20%
3.33%
6.61%
7.64%
14.25%
-25.94%
23.94%
1.323 ***
2.002 ***
-0.24%
4.53%
-0.35%
2.99%
6.00%
5.98%
11.98%
-25.78%
27.64%
1.557 ***
2.402 ***
-2.16%
4.34%
-0.12%
3.11%
6.75%
7.47%
14.22%
*は係数の有意水準。*10%、**5%、***1%
証券経済学会6月9日
17
17
17
機関投資家と企業パフォーマンス
機関投資家に本当に規律付け効果はあるのか
• パフォーマンスを高い企業を買うのでないか?
• 機関投資家が買うから需要ショックで、一見パフォーマ
ンスが上昇するように見えるのではないか?
• 外国人⇒ 経営の規律付け⇒ パフォーマンス
• Home bias (規模・売買高・海外売上)⇒需要シ
ョック⇒株価上昇(パフォーマンス上昇と誤解)
証券経済学会6月9日
18
18
機関投資家に規律付け効果はあるのか
• 難問:同時性・内生性を考慮して、ト-ビンのQ、
総資産営業利益率、売上高営業利益率を3段
階最小二乗法で推計
• パフォーマンス効果あり。
• メカニズムまだ不明 (投資支出の適正化、企
業統治の改善)
⇒ 機関投資家は、企業統治の中心
⇒ しかし、すべての上場企業ではない。
証券経済学会6月9日
19
19
上場子会社:利益相反問題は深刻化
(宮島・新田・宍戸 2012)
20
20
問題の背景
親子上場に関する評価の転換
• 親子上場: 市場と組織の双方の問題を解決する中
間組織(今井 1989、今井・伊丹 1993)
• メインバンクとならぶモニタ-の主体 (シェア-ド、
Yafeh and Yosha 2003)
• 親子上場に対する批判-会社改正の焦点の一つ
– 批判は、2007年前後から顕在化
• 市場関係者 : ペリー・キャピタルとNECエレクトロニクス
• 東証・金融庁: 望ましくないものとして、規制強化の方向
– 親子上場、原則禁止論(2009年~)
21
21
事実の様式化:
– 親子上場の識別: Classens et al. (2000) の方法
に従い、ストック・ピラミッド構造や非上場法人経由
の間接所有を考慮した上で、究極の株主を識別。
• 自己株式、信託銀行、海外カストディアン、運用会社(支配目的なし)
は、支配株主の集計対象から除外。
• 3%以上株主の属性を識別し、名寄せ集計。
– 親子上場における親会社・子会社
• 50%(33%)基準:実質コントロール権が50% (33%)以上の親会社、
及び子会社。 Claessens et al. (2000) のカットオフ基準を50%
(33%)として、支配構造を認識。
– ピラミッド支配
• 3層以上の階層的支配構造あり。
• 親会社が分散所有の場合は、親会社を究極の株主(第1層)と認識。
– デ-タ: 日経NEEDS(財務)、東洋経済新報社(大
株主、役員)
22
22
上場子会社の安定性
• 1965年 33%以上、126社/1196社=10.5%
- 75年、93社がいぜん33%以上被保有。 73.8%残
存
- 85年、82社、65.1%
- 95年 67社、54.3%
- 05年 42社、33.3%
• 少なくとも95年までは維持確率は高い。
• 95年以降の維持確率も、10年間で55.8%、
• 低下しているものの、米国では、5年後の残存確率8
%と大きく異なる(完全スピンアウトか、子会社化)
23
23
親子上場の安定性 (残存確率の分析)
•
•
t+10
t+20
t+30
t+40
1995年までは安定
1995年以降は、上場廃止増加=完全子会社化
上場会社数
子会社(親子上場)
比率
その他被支配
比率
基準値以上維持
残存確率
基準値以下
上場廃止
うち合併・完全子会社化
基準値以上維持
残存確率
基準値以下
上場廃止
うち合併・完全子会社化
基準値以上維持
残存確率
基準値以下
上場廃止
基準値以上維持
残存確率
基準値以下
上場廃止
基準年1965
基準年1975
基準年1985
基準年1995
基準年2005
50%基準 33%基準 50%基準 33%基準 50%基準 33%基準 50%基準 33%基準 50%基準 33%基準
1,196
1,282
1,655
2,094
2,385
40
126
75
199
106
270
169
362
208
366
3.3%
10.5%
5.9%
15.5%
6.4%
16.3%
8.1%
17.3%
8.7%
15.3%
19
47
17
37
10
43
17
59
33
137
1.6%
3.9%
1.3%
2.9%
0.6%
2.6%
0.8%
2.8%
1.4%
5.7%
28
93
52
153
81
221
84
202
70.0%
73.8%
69.3%
76.9%
76.4%
81.9%
49.7%
55.8%
9
19
20
30
20
33
18
26
3
14
3
16
5
16
67
134
-
-
-
-
5
16
63
125
18
82
39
129
41
129
45.0%
65.1%
52.0%
64.8%
38.7%
47.8%
18
23
30
44
19
38
4
21
6
26
46
103
-
-
-
-
43
95
14
67
23
86
35.0%
53.2%
30.7%
43.2%
95年以降
22
29
23
34
変化
4
30
29
79
7
42
17.5%
33.3%
18
23
15
61
24
24
実証結果のポイント:
• 親子上場のベネフィット > コスト
– 親子上場の形成過程:IPOアンダープライシング:親会社
が緩和(保証効果)。
– 子会社IPOのイベント・スタディ:企業グループの価値増
大。
– 独立企業とのパフォーマンス比較:上場子会社のパ
フォーマンスは、独立企業よりも良い。
– ファイナンシャル・トンネリング
• システマティックな顕在化を示す証拠なし。
• 親子上場は、第三者割当増資に内在するディスカウ
ント発行の問題を緩和。
25
25
独立企業とのパフォーマンス比較Ⅱ
• 上場子会社のパフォ-マンスが有意に高い
• 2003年以降有意に悪化したとはいえない。
期間 パフォーマンス指標
1986
|
2008
2003
|
2008
トービンのq
ROA
売上高成長率
トービンのq
ROA
売上高成長率
AVEQ
ROA
GSLS
AVEQ
ROA
GSLS
①上場子会社(33%基準)
②独立企業
平均値の差
データ数 平均 標準偏差 データ数 平均 標準偏差 ①-②
Num.Obs Mean Std Dev Num.Obs Mean Std Dev diff
Z-test
9,560 1.32 0.72 15,785 1.22 0.63 0.10 ***
8,730 4.78 5.59 14,896 4.47 5.08 0.32 ***
8,730 3.23 13.50 14,896 2.88 12.53 0.36 **
2,825 1.30 0.82 4,877 1.12 0.61 0.18 ***
2,663 6.12 6.50 4,818 4.87 5.98 1.25 ***
2,663 4.73 14.64 4,818 3.96 13.45 0.77 **
26
26
株式所有構造の国際的特徴
• 大企業が上場する傾向非常
に強い(図表4)。
• 株式所有構造が高度に分散
(図表5)
• 20世紀を通じて一貫して低
い
• インサイダ-保有中心
• 但し、変化しつつある。
• 大企業:インサイダ-からアウ
トサイダ-へ
株式集中度の長期動向
(Franks, Mayer and Miyajima 2013)
27
27
株式所有構造分析の国際的特徴
2
• 上場企業・上位(例えば
日経225)・米・英企業
• 但し、アウトサイダ-は
ブロック保有でない。
• 新興企業=ピラミッド型
の企業が増加。
28
28
政策課題
• 保有構造の多様化—どの層がタ-ゲットとか、
副次効果
• 持合い規制と銀行株式保有規制
• 上場子会社-子会社少数株主の忠実義務
• 所有構造: one share one voteの再検討
複数議決権株式 –
・経営者のインセンティブ確保
・アウトサイダ-の弱いモニタ-の解決
29
29
30
30
30