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生殖医療福祉概論
2387735
中部学院大学 宮嶋
2014年
淳
放送大学・岐阜学習センター
授
業 内
容
• この授業では、人間の幸せづくりをテーマとし、従来の福祉とは異な
る起点を設定しました。
• 「受精・着床」が起点
• 人と人とが出会い、新しい家族をつくろうと決めたときからのHuman
well-being (ヒトとして幸せであり続けること)を考えます。
• 「子どもが欲しい」という普遍的な願いを、新しい家族形成のための
ニーズと捉え、
• 生殖に関わる幸せづくりに焦点
• 生殖医療の到達点にも触れながら、
• それを如何に活用し、私たちのニーズを充たしていけるのか
第1回
「生殖医療福祉」とは何か
• 「生殖
+ 医療 + 福祉」を統合した造語
• 「医療福祉学
+
生殖」という領域
• 日本人の幸せ度に重要な「つながり」≒「出会い」≒遺伝子も
医療福祉学とは
• 広義には、保健医療と社会福祉を合わせてとらえた総括的な概念。
保健福祉学とも。
• 保健は、医療を除く狭義の保健サービスの意味ではなく、保健医療
の総称。
• 介護、リハビリテーション、医療ソーシャルワーク
狭義には、リハビリテーションや医療ソーシャルワーク
山手茂の「医療福祉学」
• 医療福祉専門職のチームワークを育てる共通基盤
• 医療福祉=保健・医療・福祉の総合
• 医療ソーシャルワーク=患者・家族を対象とするソー
シャルワーク
医療ソーシャルワークとは
• 患者とその家族がかかえる生活問題の解決を図るために
専門的援助を行うこと
• 通常は、医療ソーシャルワーカーが専門的業務として行
う。
健康の概念
•
健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的安寧の状態であり、単に疾病又
は病弱の存在しないことではない。
(WHO)
スピリチャルな状態
↓
人間として生きる意味など存在意義に
かかわる状態。
医療福祉の概念
広 義
医 療
社会福祉
社会保障(制度・政策)
社会福祉(制度・政策)
狭 義
医療保険(制度・政策)
M S W
(医療ソーシャルワーク)
社会福祉サービス
医療サービス・医療費給付
医療福祉援助
(対人サービス)
患者・家族
(クライエント等)
医療福祉の目的
• 疾病の予防や治療、あるいは社会復帰を妨げられている患者とその家
族を対象として、日常生活における様々な社会的障害の除去、あるい
は緩和を図りながら、予防や治療、リハビリテーションを含めた包括
的医療を国民に権利として提供する。
医療福祉の沿革
• 近代的な医療福祉の萌芽はイギリス
• 19世紀後半、アルマナーの活動から
• アメリカでは1905年、マサチューセッツ総合病院のキャボット
(Cabot, R.C.)が医療ソーシャルワーカーを採用
• わが国では1926(大正15)年、東京・芝の済生会病院、1929(昭和4)年、
聖ルカ病院で近代的医療社会事業が始まった。
英米のMSWの発展過程の特徴
イギリス
産業革命後の貧困問題等社会問題への対
応として、COSの社会事業活動の中で登場
し、医療の外的環境や条件整備の一環とし
て展開
アメリカ
医療活動の一環として、社会事業の技術が
医療の中に取り入れられ、医師との協働に
より、チーム医療のメンバーとして医療に後
見する役割を期待される中で展開
共通項
1.国家独占資本主義の確立期・移行期
2.人口が都市に集中化
3.苛酷な労働環境と劣悪な衛生環境が発生
4.結核等感染症が蔓延
5.疾病から貧困者が発生
6.都市のスラム化が顕在化
MSWの誕生
1.深刻化していた医療社会問題への対応の必要性
2.未熟な医療保障への補完的機能の必要性
日本のMSWの歴史(新生期)
• 1929年:浅賀ふさ・・アメリカでキャボット、キャノンに学
ぶ。
• 1947年:保健所法
• 1948年:出淵みや~杉並保健所の専任SWr
• 1949年:全社協がGHQの推奨による3ヶ月間の講習会を開催
• 1951年:中島さつき~東京都衛生局で「医療社会係り」に
• 1953年:日本医療社会事業家協会設立
• 1956年:ベックマン報告~医療社会事業の必要性を提言
• 1972年:内田守・野村茂『医療社会事業の実際』
日本のMSWの歴史(発展期)
• 1973年:老人医療無料化で「社会的入院」が増加
• 1977年:病院で死ぬ時代に。老人病院の増大
• 1980年代:交通事故による遷延性意識障害の急増等
• 1985年:第一次医療法改正。都道府県医療計画制度導入
• 1989年:医療ソーシャルワーカーの業務指針
• 1992年:第二次医療法改正。病院の機能分化。急性期病院にお
ける平均在院日数の短縮化。
• 2003年:国立病院のSWrへの福祉職俸給表の適用
• 2006年:診療報酬改定による「社会福祉士」の位置づけ
• 2008年:MSWの業務「退院支援」が診療報酬に位置づけ
2006年の医療制度改革
• 病院に地域医療連携室を
時期
内容
1948.医療法成立 病院の施設基準整備
1985.第一次改正 都道府県医療計画整備
背景
医療へのフリーアクセス
医療機関と従事者の量的充
医療機関の地域偏在解消
1992.第二次改正 療養型病院、特定機能病院の創設
医療施設の機能の体系化
診療所への療養病床群設置
1997.第三次改正 地域医療病院制度創設
医療計画制度の充実
病床区分の見直し
2000.第四次改正 臨床研修の必修化
医療情報提供の推進
患者への医療情報の提供
医療計画制度の見直し
2006.第五次改正 医師不足問題への対応
医療安全の確保
医療従事者の資質の向上
高齢化
医療の高度化・専門化
チーム医療の進展
国民の意識の変化
安心と信頼の医療
医療費適正化
2008、社会保障国民会議報告
• 今後の社会保障が進むべき道筋として、「制度の持続可能性」ととも
に「社会保障の機能強化」に向けての改革に取り組むべきことを提
起。
• 社会保障改革の基本的視点
統合化された医療福祉
第1部:生活機能と障害
第2部:背景因子
構成要素
心身機能・身体構造
活動・参加
環境因子
個人因子
領域
心身機能・身体構造
生活・人生領域
(課題、行為)
生活機能と障害への
外的影響
生活機能と障害への
内的影響
能力
物的環境や社会的環境
心身機能の変化
標準的環境における
人々の社会的な態度
(生理的)
課題の遂行
構成概念
による環境の特徴 個人的な特徴の影響力
身体構造の変化
実行状況
がもつ促進的あるいは
(解剖学的)
現在の環境における
阻害的な影響力
課題の遂行
機能的・構造的統合性
活動・参加
肯定的側面
促進因子
非該当
生活機能
機能障害(構造障害) 活動制限・参加制約
否定的側面
阻害因子
非該当
障害
医療福祉の課題
医学的
病気が治ったという
「事実」
不一致
患者・家族
治っていないという
「解釈」
苦しさ・辛さ=生活困難
療養生活の不安定
医療と福祉の関係性を問う視点
• 連続性
• 社会性
• 地域性
主体
形態
対象
チームの形態
場所
情報
医学モデル
医師
医師中心
疾患
医療従事者
病院
無料
生活モデル
患者
チーム医療
疾患や障害をもつ人
多職種(福祉・心理)
在宅・訪問
有料
生活援助の連続性 ・ 継続性
入院
退院
医療チームのスタッフ
MSW
院内カンファレンス
退
院
時
カ
ン
フ
ァ
レ
ン
ス
地域 ・ 在宅生活
地域ケア・マネジメント
院外・地域カンファレンス
脱パターナリズム(父権的保護主義)
身体
心
参加
就労
社会
教育
生きがい
スピリチャル
出生前
周産期
乳幼児期
健 康
経済
人間の生活・人生
高齢期
ターミナル期
人権尊重の医療保障
① 患者とその家族の人権が尊重される医療の確立
• 生命倫理
• 臓器移植法
• 安楽死と尊厳死
• リプロダクティブ・ライツ・ヘルス
• 自己決定権
• 生殖医療
Q.医療福祉とは、医療ソーシャルワーカーの
活動を指していると考えていたのですが、
それで良いのでしょうか?
A.多くの人が医療福祉と聞くと、医療ソーシャルワーカーを思い浮かべるはずで
す。
それぐらいに、医療福祉の中核を担う役割を医療ソーシャルワーカーが有して
いることになります。
ただし、医療福祉は、医療ソーシャルワーカーの活動だけを指しているのでは
ありません。
今日の医療福祉とは、医療と福祉が一体的に「生きづらさ、生活のしづらさ」
へ対応することであり、統合的なサービスを提供するものです。
したがって、社会福祉士・精神保健福祉士・介護支援専門員・介護福祉士・保育
士などの福祉専門職、並びに医師・看護師・理学療法士などの医療関係職種が、
その役割を担うことになります。
多くの職種が医療福祉の視点から利用者を支援することで、利用者の人生の質
を高めるサービスの提供とつながります。
第2回
わが国における「子どもが欲しい」という
「願い≒ニーズ」の現状
第三者人工授精の子
• 性同一性障害(GID)
• 性変更の夫の名:戸籍上の父親に
• 血縁のない子の認知取り消し:父の請求認
める
出産事故
• 出生取り違え事件
•
•
苦渋の人生:「時間戻して」
親子関係という文化資本の喪失
• 血縁めぐり「親子」認定
• 産科医療補償制度
• リスクの十分な説明
: 増えるDNA鑑定
第3回
願いを叶える公的施策
~特定(不妊)治療支援事業など~
• 最近のトピックスより
• 講師の論文より
体外受精による出生児数の推移
年
体外受精
出生児数
総出生児数
割合(%)
2004
18,168
1,110,721
1.64
2008
21,704
1,091,156
1.99
2010
28,945
1,071,304
2.70
出典:日本産婦人科学会の調査による厚労省集計
マスメディアの論調
1.
助成に関する「年齢」及び「回数」制限の是非・妥当性
2.
制度変更に関する国の説明責任
3.
専門的な不妊相談やリスクの知識に普及
4.
20代から安心して子どもを産み・育てられる社会づくり
検討会の問題意識
(報告書より)
1.
不妊に関する知識の普及は、「男性も対象」
2.
不妊治療を必要とする人の増加により、相談支援を必要と
する人が増加
3.
専門的な不妊に関する知識を、分かりやすく普及させる
4.
性に関する学校教育の充実も
5.
不妊治療後の心のケアなども、身近なところで
講師の視点
1.
福祉の対象者に「性と生殖に係る自己決定の権利」に係る情報
が行き届いているのか
2.
福祉施設等の職員は、上記の件をどのように捉えているのか
3.
そもそも体外受精・顕微授精は、なぜ保険適用されないのか
4.
遺伝子操作、デザイナー・ベイビー等新優生思想やエンハンス
メント概念とかかわる問題は解決したのか
不妊治療助成
• 年齢制限
• 高齢出産のリスク
• うつろに響く「少子化対策」
• 不妊治療を職場で支援
第4回
高度生殖補助医療を活用すること
と
新しい家族の幸せ
• DVDから考える
•
2008年時点でのアメリカでの話題。現在は、日本でも当たり前になりつつあ
る。
20世紀に「児童労働」は激論になる
• 「私生児」が差別される法と社会システム
• その扱いを受けた者=「報復の念」を抱く
• 子どもの工場や街頭での労働
=肉体的、道徳的頽廃の脅威を受けている
• 文化的な国民は、児童労働を禁止すべきと結論付けるであろう。
児童労働の問題
1.
2.
最も非知能的な仕事が与えられる。
3.
生きた機械は、労働の効果をあげることも全くできない。
生きた機械になった者は、受動的で、自分の生活条件の改善を試み
ようとはしない。
子どもの意見を聞け!
• 大人の意見が分かれるとき、大人は子どもの意見を聞け。
•
ある小さな少女が、すべてのものは神がつくったと聞かされたとき、腹を立て
大声で言った。「神様は天国で奇形児をつくるの?」
•
ある小さな男の子は「もしも神様のやることは何でもかんでも初めからよいと
いうのが本当なら、なぜ唖がいるんだろう。唖は生まれつき唖だけど」と、質
問した。
• 今後ますます増加する不妊に悩むカップ
ルと様々な生殖補助医療技術で生まれて
くる子どもにより構成された
• 「新しい家族」の、“Family Well-being”が
追求されるとき、
• 胎生期の人間関係や家族システムに着目
しなければならない。
第5回
「生まれてくる子ども」の幸せ
• 第三者の関わる生殖医療技術の利用に関する法制化の議論
•
日本弁護士連合会の見解
•
第三者の関わる生殖技術について考える会の見解
•
宮嶋の見解
エレン・ケイ
『児童の世紀』
を読む
20世紀に「児童労働」は激論になる
• 「私生児」が差別される法と社会システム
• その扱いを受けた者=「報復の念」を抱く
• 子どもの工場や街頭での労働
=肉体的、道徳的頽廃の脅威を受けている
• 文化的な国民は、児童労働を禁止すべきと結論付けるであろう。
児童労働の問題
1.
2.
最も非知能的な仕事が与えられる。
3.
生きた機械は、労働の効果をあげることも全くできない。
生きた機械になった者は、受動的で、自分の生活条件の改善を試み
ようとはしない。
打擲(ちょうちゃく)~体罰の影響
• 体罰によって肉体と同じ程度に苦悩するのは、精神である。
• 体罰に対する恐怖から、体罰の後で自殺している。
• 打擲は罰を受けるものの羞恥心を鈍らせ、残忍性あるいは臆病心を募
らせるのに役立つだけだ。
打擲=「抹殺」
• 最も望ましいのは、子どもが生まれたときから、親は打擲を教育手段
として決して使うまいと固く決心することである。
• なぜなら、親たちがこの便利な手段を一度使い始めると、その後は前
の決心に反してしばしば使うことになる。
20世紀、自立の概念が普及する
• 父の扶養と権威(パターナリズム)からの解放
• 人びとが、
新しい世代の養育を、
社会のために母親が果たす大きな使命とみなし始めるようになり、
この使命が実行される間、
社会が母親の生活を保障すべきだ。
「子どもの地獄」⇒「児童の世紀」
• 人類すべてが、次のような新しい見方を
•
大人が子どもの心を理解すること
•
子どもの心の単純性が、大人によって維持されること
子どもの意見を聞け!
• 大人の意見が分かれるとき、大人は子どもの意見を聞け。
•
ある小さな少女が、すべてのものは神がつくったと聞かされたとき、腹を立て
大声で言った。「神様は天国で奇形児をつくるの?」
•
ある小さな男の子は「もしも神様のやることは何でもかんでも初めからよいと
いうのが本当なら、なぜ唖がいるんだろう。唖は生まれつき唖だけど」と、質
問した。
• 今後ますます増加する不妊に悩むカップ
ルと様々な生殖補助医療技術で生まれて
くる子どもにより構成された
• 「新しい家族」の、“Family Well-being”が
追求されるとき、
• 胎生期の人間関係や家族システムに着目
しなければならない。
第6回
グループ・ディスカッション
「私たちは何を選択すべきか」
1. ワールドカフェ方式で進めます。4グループ×5人。
2. 各テーブル移動しない「司会者・記録者」を決めてください。残り
の3人は、合図とともにバラバラにグループを移動します。
3.
グループメンバーが移動し終えたら、司会者は「新しいメンバー」
に、さっきどんな話をしたのか、簡単にメモを見ながら伝達します。
4. 司会者からの伝聞を聞いて、自由に、話題を提供してください。
5. テーマは「生まれてくる子どもの未来のために、私たちは何を選択
すべきか」です。
6. 1セッション20分。4回行います。自由に議論しましょう。
第7回
生殖ケア・ソーシャルワーク・セオリー
•
ソーシャルワークの立場からの研究
•
DI者の「語り」と「ヒューマンニーズ」に着目
•
Human Needs=「4つの訴え」と「4つの願い」
•
充足のための要件=他者との対話
DI者のHuman needs
• 4つの訴え
•
•
•
•
私たちの声を聴いて欲しい
私たちの情動を理解して欲しい
変化しようとしている姿勢を見てほしい
私たちの尊厳を、尊重して欲しい
• 4つの願い
•
•
•
•
情報を共有し、信頼できる親子関係を構築したい
親から告知して欲しい
出自を知る権利を認めるルールを創って欲しい
両者を支える仕組みを整えて欲しい
50
IFSWの立場
• 人の命、精子・卵子・胚が商品化、あるいは商取引に用いられてはな
•
•
•
•
•
らない
すべての人は、生殖に影響を及ぼす形での搾取や差別から保護されな
ければならない
法を犯さない限りにおいて、自己決定の権利を行使することを支持す
る
遺伝子情報は、個人のものである
国境を越えた生殖サービスに関わるソーシャルワーカーの倫理の確立
を必要とする
生殖サービスに関する当事者の参加を促進する役割を果たすため、世
界保健機構などと連携する
第56回日本生殖医学会
2011.12.9.
51
• 対話
• 知る権利・知らせる権利
• ソーシャル・インクルージョン
の理念
第56回日本生殖医学会
2011.12.9.
52
• Human needsに対応した実践理論
第56回日本生殖医学会
•
ナラティブ・アプローチ
•
エコロジカル・アプローチ
•
コミュニティ・ワーク
•
ネットワーキング
2011.12.9.
53
• 出自に関する子の権利と福祉を護るための相談窓口を「(仮)DI者相
談センター」と仮定し、同センターにおいてソーシャルワークが機
能することが大事
• ソーシャルワークが機能すると、DI者と他者との対話が促進される
• 対話の促進は、ソーシャル・インクルージョンが保持された社会を
成立させる
• 社会的排除のない社会は、全ての人と家族の福祉を保持する。
• したがって、「新しい家族」の福祉も保持される可能性が広がる
2011.12.9.
54
新たな着眼点
•
ソーシャルワーク(=SW)の立場から
1.
SWとは、人権と社会正義を追求する社会的活動
2.
SWは、当事者の「私益」ではなく「ニーズ」に効応し、「公益」を
追求する
3.
ARTが、当事者の「私益」ではなく「ニーズ」に効応し、社会全体
の益を追求するとき、
4.
ARTで形成された「新しい家族」の福祉が、成立するのではないか。
2011.12.9.
55
「私益」
と 「公益」
•
•
私益=個人的な利益
公益=みんなの利益、地域や社会全体の益
•
ARTを「みんなの利益」のために活用するという発想
•
「みんなの利益」=「安く」「楽に」「気軽に」「安心して」「恥ずかしくなく」
ARTを使える
•
公益性のある活動=不特定多数に対する非営利の活動
•
公益へのアプローチ
1.
2.
政策的 : 人間本位の社会政策
実践的 : ボランティアやNPO・NGO、社会的企業による社会サービス
56
「公益」の効用
• 公益は、社会全体を平安へと向かわせる
• 公益の追求は、共通の善(common good)の形成につながる
•
•
•
共通の善の前では、人々は自由であり平等であり、寛容でいられる
寛容は、開かれた社会の基礎である
寛容な空間の中では、開かれた自己が、自力で重要なことを決める
• 現在のARTは、 「私益」を追求する排他的で特権的な「閉じられた医
療」と言えるのではないか。
•
現在の状況は、共通善の成り立つみんなの寛容さを助長し、自己決定が促進さ
れる社会(=「新しい家族」)を創造しない
参考
:
57
小松隆二(2008)「公益の思想」『公益学を学ぶ人のために』世界思想社
閉じられた医療が、Social abuseを生む
•
特定の個人の益を追求し、営利な活動として提供されるARTは、「私
益」へのアプローチである。
•
•
「閉じられた医療」における「私益」の増進は、「公益」の増進と相関しない。
•
「排他性・特権性」を廃せずして、合意形成は困難
「閉じられた医療」は、排他的・特権的であるため、排除・不寛容、自己決定
の否定、社会の不安を助長
58
「社会的虐待」の定義のヒント
1.
沖縄タイムズ(2002.7.9.)社説「高齢者虐待~社会はサイン見逃すな」「社会システ
ムが高齢者虐待を引き起こす場合もある。」
2.
愛媛県男女平等条例~「住居に隔離すること=社会的虐待」と表現
3.
レイア・E・ウォーカー著/斎藤学監訳『バタードウーマン』1997.1.
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
夫の政治的権力や支配力、社会的地位などの罠
一般の人たちは、妻の行動を彼女の夫に投影する
妻は夫の許可なしではどのような活動にも参加できない・・社会的孤立
社会的な孤立や屈辱を心理的威圧により加える
彼女たちは命令に従わないと「ひどい傷を負う」メッセージを受けている
誰も助けにならない。地域社会・人々がそれを信じたくないし、信じない
夫が専門職の世界で「人物である」・・・より複雑。
助けを求めれば、世間に知れ、恥をかき、夫の一生を駄目にするかも
黙殺と隠匿という二重苦
周りが全員暴力の共犯者
「社会的虐待」の構造
•
虐待の起こっている場
•
加害者(領域Ⅳ以外)
•
(領域すべて)
・・・医療現場や関係者を取り巻く社会
・・・医師や医療者、提供者、AID希望者、親戚・縁者、一般市民、
被害者(領域Ⅳ)
・・・DI者、DI者が形成した家族
社会的不正義(暴力・無視)
社会的虐待(権威・服従)
社会的排除(自己責任と不信)
孤立(無力化・諦め)
Social abuse の構造
初 期
対人
展開期
完結期
子どもの前で厄介者扱 子どもを介して卑下さ
いされる
れる
宗教心を攻撃・嘲笑さ 文化的社会的宗教的行
れる
為を否定される
継続的に侮蔑される
性行為や宗教行為への
性差別的発言に晒され
性的役割から侮辱的な
麻薬の使用の強要され
る
イメージを臭わされる
る
過去の経験を否定し評
価されない
所持品を処分される
公的に下位におく
蔑まれる
社会的信用格付けを低
下される
クレジットを取り上げ 自動車免許を停止され 自己決定や判断からの
られる
る
排除
コントロールされる
対社会活動
家族や友達に合わせな
い
家に軟禁される
電話の盗聴やスパイ行 プライバシーを与えな
為をされる
い
公にアクセスすること 友人や社会的な活動か
を不可能にされる
ら孤立させる
対社会性
家族や友達を非難され 公的な場からの排除さ
る
れる
公的に無視される
社会からの高圧的な態
度に晒される
コントロールされた
グループから集合的
な虐待に晒される
61
Social abuse とは何か
• ある者が他者の社会的行為を権限なく制限する行為であり,侮蔑
的で差別的な意味合いが含まれている.
(社会からの隔離、社会性の排除)
• 他者をコントロールする行為であり,差別や偏見に依拠しており,
犠牲者を卑下することを助長し,メディアをもコントロールする.
(自己決定の否定、社会の不安)
• その結果,虐待者の行為を強化する役割を果たし,システムが犠
牲者を非難し,安全性の確保を図ろうとせず,無視する結果を招
く.(不寛容)
• 犠牲者は法律に訴えるか,自分自身をごまかすかしかない状況に
置かれる. (対
峙)
62
ARTの社会化・公益化
ニュージーランドの例
• “Human Assisted Reproductive Technology Act 2004”により、提供
配偶子により生まれた子どもの出自を知る権利を認めた。シ
ステムがある。
• HART Act 2004
•
•
•
•
•
•
1
Preliminary provisions 序文
3 Purposes 目的
4 Principles 原則
5 Interpretations 説明
6 Procedures or treatments may be declared to be established procedures
提供・治療の手続き
7 Act binds the Crown 法的拘束
63
HARTA2004 の
Purposes
(a) 生殖医療の研究とその手続きを明らかにする
(b) 生殖医療の研究のうち、禁止事項は何かを明らかにする
(c) 人間の再生に関する商業行為の禁止
(d) 生殖医療の研究のガイドラインとフレームワーク
(e) 生殖医療の研究における承認手続きと倫理委員会の権限
(f) 出自に関する提供配偶子や提供した人々に関する情報
第56回日本生殖医学会
2011.12.9.
64
HARTA2004 の
Principles
(a) 生殖医療で生まれてくる子どもの健康と幸福に関する決定
(b) 現在と未来の人間の健康と安全、尊厳の保持
(c) すべての人が生殖医療の影響を受ける。
特に女性の健康と幸福の保護。
(d) 生殖医療の研究は、個人的利益のためになされてはならない。
(e)提供情報に、アクセスできなければならない。
(f) マオリのニーズや価値観、信念は考慮され、尊重される。
(g)社会の異なる倫理、精神性並びに文化の尊重
65
– 第57条:Access by donor offspring to Information about then kept by providers or
Registrar-General. (18歳以上で)
– Provider(提供事業者)~ドナーへの説明責任
– Registrar-General(情報管理機関)
~ドナー情報の管理責任
– Ethics committee(倫理委員会)
~ARTにかかる研究等倫理上の監査・監督
HART Act2004(2010.10.改正)
NZの
• Advisory committee(諮問委員会)
•
•
• 63
ACART(=advisory committee on Assisted Reproductive Technology)として活動
Consultation on the use of in vitro Maturation in fertility treatment
めの提言多数
Voluntary register (自発的な登録)
・・・CoC Act も含めた理解の促進
など、議論のた
Ken Daniels からのメッセージ
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
クリニックに来る人々には、サイコエデュケーションが必要である。
医療者や患者、コミュニティーの人々にも、生殖医療に関する教育を行う。
治療前に十分な情報を提供し、同意を得るためには、すべての疑問に答える、オープンな情報提供が必要で
ある。
DI者の両親が、ドクターに「どうして話してはいけないのか」と疑問を投げかけた。
医療者のうち、最も尊重すべきはドクターであり、私とともに調査研究を行ったドクターがその姿勢を変
え、それが法律に反映された。
マオリの文化では、自分のルーツを知ることがとても大切。マオリの人々にとって、人生をかえりみると
き、個人よりもコミュニティーの中での自分の人生を見ることを大切にする。DIを秘密にすることを、マオ
リの人々は理解できない。
マオリの文化では、自分への接近は「個々人」ではなく「コミュニティー」アプローチである。
コミュニティー・アプローチであるので、自分の「所属」は非常に大切である。
もしマオリのカップルがDIを希望するならば、カップルとその家族にカウンセリングすることになる。
パケハの文化として個人の権利の尊重も必要で、関わりを持つ家族の権利も、コミュニティーの権利も、尊
重されなければならない。
2つの文化を尊重することが当たり前の社会であることを背景に、政府ではなく医療者の側が、提供者に対し
68
て情報を開示するように要求している。
マオリのアイデンティティ
•
1980年代以降、
血ではなく、文化的側面を重視したエスニシティ(民族性)が重視される
•
•
2006年の人口調査では、
•
•
•
言語、信念、習慣など共有する文化
共通の祖先や歴史
類似の地理的起源や部族、一族の出自
が調査された。
「ファカパパ (マオリの血をもっており、祖先と系統的な関わりを持つ)」
へのアイデンティティ
•
マオリの伝統的価値観
•
•
•
•
ファナウンガタンガ(人々の広いつながり)
ウツ(互恵主義)
マナ(権威)
マナキタンガ(気づかい)
69
マオリの人権
• ワイタンギ条約 1840年
• ワイタンギ審判所 1975年
•
•
•
•
ニュージーランドの司法組織における独立性を保持
国によるワイタンギ条約の原則に合致しない立法、政策、マオリの訴えに
より審理
1985年の改正で、ワイタンギ条約締結時に遡って、マオリの訴えを受理
ワイタンギ条約の原理の尊重、あるいはマオリの尊重は、あらゆる法に明
記
• ソーシャルワーカーの教育プログラムにおいても、マオリの文化
が伝承される
70
開かれた医療
共通善が保持
された、
寛容な社会
私益
公益
個人的な欲求
に対応した、
不寛容な社会
第56回日本生殖医学会
閉じられた医療
2011.12.9.
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• 患者とその家族の個人的な欲求に対応し、「閉ざされた医療」を
提供してきたことにより、「私益」の増進を図り、排他性と特権
を保持してきた。
• しかし、その状況では公共的な合意は得られず、当事者の「社会
的ネグレクト」が継続し、歴史的なリスクを抱えることになる。
• したがって、ARTを「開かれた医療」に転換し、社会化すること
で、関係者のニーズに即して「公益」を目指し、保険適用など排
他性と特権を廃した制度の制定に向けた働きかけを強力に進める
必要があるのではないか。
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AID当事者とは誰か
才村・宮嶋(2003)『社会福祉学』より
想定されるサポートの範疇
母
子ども
コミュニケーション
コミュニケーション
父
カップル
支援 ①
支援 ②
・自我へのサポート
・ライフスタイルへのサポート
・出自を知る権利のサポート
・育児のサポート
・告知へのサポート
提供者
ソーシャルワーク
支援 ③
・情報開示へのサポート
才村・宮嶋(2002)『社会福祉学』より
修復的対話アプローチとは
•
家族を主体としたNZの伝統的な先住民の考え方を取り入れた、対話方法。
•
前出の法にあるように、対話は主体的な努力により、合意形成が図られると
ころから始まる。
•
マオリの文化を活かした「FGC:ファミリー・グループ・カンファレンス」と
同根。
出典:山下英三郎(2010)(2012)を参照。以下同じ
関係崩壊時のアプローチの系譜
期待される対策
修復的アプローチの要
•対
話
–被害者
• 被害について語ることによる[癒し]の効果
• 謝罪を受けることによる[癒し]の効果
–加害者
• 自らの行為の影響を知ることによる[反省の念]
• 全否定されないことによる[自尊心の保持]
–双方
• 関係再構築の可能性に対する安堵感
• 未来への展望が開けることによる開放感
修復的対話のルール
1.
自主的な参加
2.
相手の話を良く聞く
3.
お互いを尊重する
4.
相手をさけない
5.
発言しない権利がある
修
復
的
対
話
の
流
れ
修復的対話の適用可能性
結
論:
• NZで法定化された「子どもの出自を知る権利」を認めるシス
テムは、ドナーに関するあらゆる情報を知る権利を認めて
いる。情報とは、管理できるものであるため、提供もシス
テム化すれば可能である。
• 一方、ドナーが子どもに会うか会わないかは意思の問題で
あり、意思は尊重されるべきものであり、公的管理になじ
まないものである。そのため、努力目標として法定化され
ている。
• ゆえに、この間を埋めるために、子どもの最善の利益を根
本理念として、ドナーの意思が協力的であるためのサポー
トが提供されるシステム化がされている。
• 相談援助の専門家や第三者がサポーターとして関与するシ
ステム化がなされている。
文献・資料
•
•
•
•
山下英三郎(2010)『いじめ・損なわれた関係を築きなおす』学苑社
•
才村眞理・宮嶋淳(2003)「生殖補助医療に伴う子どもの権利性の社会的支援に関
する質的研究」『社会福祉学』44(1),34-45
山下英三郎(2012)『修復的アプローチとソーシャルワーク』明石書店
二宮周平「子の出自を知る権利」日本学術会議『生殖補助医療と法』212-34、2012
Bill Atkin, REGULATION OF ASSISTED HUMAN REPRODUCTION:THE RECENT NEW
ZEALAND MODEL IN COMPARISON WITH OTHER SYSTEMS, Victoria University, NZ,122,2011
第8回
ふりかえり
生殖医療福祉のキーワード