測量士 - 全国測量設計業協会連合会
Download
Report
Transcript 測量士 - 全国測量設計業協会連合会
測量業の経営戦略等について
村井俊治 東京大学名誉教授
はじめに
測量業界の課題
課題解決の方策
経営戦略の例
おわりに
はじめに
昭和36年の測量法改正による測量業の登録
開始以来、約50年が経過するが、様々な制
度疲労が見られる
公共事業の縮減による入札の過当競争は低
価格入札が横行し、測量業の存続が危険に
さらされている
持続的な測量業の発展のためには、抜本的
な改善・改革が必須である
ⓒ村井俊治2010
測量設計業の役割
測量は国土開発の基礎となる技術であり、土
地取引、不動産取引と言った経済活動の骨幹
をなす技術である。
建設生産システムの最上流に位置づけられ、
全ての建設生産は測量と地図によって基礎が
構築されている。
測量・地図の出来映えが建設生産システムの
良否を大きく左右するが、その辺りがあまり
理解されていないうえ、測量業者にも課題が
多くある。
ⓒ村井俊治2010
測量業の使命
測量業は、測量成果の科学性、公共性、恒久
性を認識し、環境と調和した持続可能な国土
の開発および維持・管理に資するために、位置
情報に関連付けられた高品質の国土空間情報
を収集、計測、処理、加工、蓄積、表示、配
信し、さらに利活用して国土空間に関連した
諸問題を解決するための知識(ノウハウ)を
提供することにより社会に貢献することを使
命とする
ⓒ村井俊治2010
測量技術者の任務
これからの測量技術者の任務は、従来の測量技
術に加えて、測量成果およびその他の地理空間
情報を分析し、社会の課題を解決するために、
それらを利活用するアイデア・知恵を提供する
ことである
空間的思考のできる技術者が求められている
生涯を通じて、継続的に地理空間情報技術を学
習して社会に貢献できる創意工夫をする任務が
ある
ⓒ村井俊治2010
測量設計業を巡る状況の変化_1
技術の進歩とIT技術の発達に伴い、ベーシッ
クな測量技術が軽視され、副業的部分の技術
が主体となる傾向があり、経済活動の位置づ
けが低下してきた。
一方、一次工程にある計画・設計においても、
目的に合致した成果になっておらず、設計者
が補完的測量を実施せざるを得なくなるなど、
要求仕様を明記できない利用者と要求仕様を
反映した品質仕様が分からない測量業者の存
在が表面化し、両者に大きな空洞化が生じる
ケースが散見されるようになった。
測量設計業を巡る状況の変化_2
原点に戻り、基礎技術を再評価するととも
に、精確に測れる技術を基礎として、多様
な要求仕様に適合させながら利用者が求め
る成果を提供することが求められている。
測量設計業の直面する課題_1
新しい情報産業分野での測量業が主体的に活
躍できる世界を模索すること
広い意味での測量技術、さらには測量した
データによる解析・分析と分析結果に基づく
利活用までを一貫して行う「測量コンサルテ
イング」(全測連提案)が目指す方向である
・・・空間情報コンサルタント(村井提案)
の方が適切な方向であろう。
ⓒ村井俊治2010
測量設計業の直面する課題_2
測量コンサルテイング(全測連提案)は、建設
コンサルテイングとは異なり、全くデータや
情報がない状態から、測量を実施して測量
データ(情報)を取得し、これに基づき分析・
利活用を図るもので、利活用によっては不十
分なデータ(情報)は再度自ら測量を実施し、
これに基づき利活用に最適な要求仕様に適合
したデータ(情報)を取得する、測量特有の循
環型技術領域(測量コンサルテイング)の世界
をいち早く創出することが肝要である
ⓒ村井俊治2010
1
測量業の問題点
測量業は多すぎる?
平成20年度における測量業者の登録数は、
13,324社(建コン:3,993社、地質:1,305社)
資本金1000万円未満の会社は32.5%、2000万
円未満の会社は70.7%・・・3分の1が過剰?
資本金5000万円以下の中小企業は9割
測量業だけの登録業者は10,562社(79.3%)、建
設コンサルタントを兼ねて登録している測量
業者は1,985社(14.9%)、建設コンサルタント
および地質調査を兼ねて登録している測量業
者は685社(5.1%)
ⓒ村井俊治2010
1992:ピーク
13,683社
40%減
1980年代の建設投資と同じなら、8,500社でよい?
建コンは
28%減
測量は
43%減
市町村、都道府県からの受注は半減!
2
測量業の問題点
測量業登録は簡単?
測量法では、測量士一人以上いれば、測量
業として登録可能。あまりにも容易!
公共測量には、主任技術者、班長、照査技
術者の三人の測量士が必要
試験を受けなくても、大学で指定学科を卒
業し、測量士補になった上で1年の実務経験
で、測量士になれる安易なコースがある
ⓒ村井俊治2010
測量業の問題点
3_1 低価格入札の深刻さ
公共事業の縮減で、過剰な価格競争が起こり、
低価格入札が横行している
県によって温度差があるが、予定価格の
50~60%が普通になっている。ひどい時には
35%まで落ちる
最低入札価格が提示されると、その価格に集
中し、くじ引きで決まる
収益性はなく、経営が危機状態にある
ⓒ村井俊治2010
測量業の問題点
3_2 経営悪化の影響
新規雇用の減少
就労環境の悪化(給与、労働時間など)
技術者・技能者の減少
技術・技能の伝承が困難
技術力の低下
新技術導入が困難
ⓒ村井俊治2010
測量業の問題点
4 総合評価方式のあいまい
さ
国土交通省では、建コン等(測量は等に入
る?)において、価格と技術の両方を1:3また
は1:2の割合で総合評価する入札制度を始め
たが、技術の評価に関する基準があいまい
である
公共測量を行う地方自治体は、大きな温度
差があり、総合評価を積極的に推進する自
治体がある一方で、全く実施していない自
治体もある・・・技術評価できない?
ⓒ村井俊治2010
測量業の問題点
5 提案型方式の問題
提案型入札(プロポーザル)も推進されて
いるが、簡易公募型は、発表や説明の場が
与えられておらず、A41枚の提案で決まる
こともある
審査基準が公表されておらず、透明性がす
くない・・・果たして役所側に審査する能
力があるのか?
出来レースの黒いうわさが流れている場合
が多い
ⓒ村井俊治2010
測量業の問題点
6 日額人件費の問題
バブルの頃、給与実態にあわせた日額人件
費を業界が受入れた経緯から、不況時の現
在、日額人件費が低下し、採算が成り立た
ない状態になっている
技師補の日額人件費は、24,000円だが、
25%の社会保険費などを引くと、15,000円
で1年間で200日として300万円の給与にし
かならない
ⓒ村井俊治2010
7
測量業の問題点
測量作業の名称変更
国土地理院および地方自治体から発注され
る測量は、「測量作業」という呼び名の契
約がなされてきた
しかし、現在の測量は、作業のみならず、
測量計画、工程管理、品質管理など総合的
な技術管理が必須であり、「測量作業」と
呼ぶのは適切ではない
8
測量業の問題点
検定による品質確保
公共測量では、検定が義務付けられている
にも拘らず、地方自治体によっては、検定
をせず、国土地理院に報告もしない自治体
がある
検定している自治体によっては、特定の地
図図面を指定して検定を実施している。無
作為抽出の原則が崩れており、全体の品質
確保が保障されていない
9
測量業の問題点
CPDポイントの評価
継続的な学習に取り組んでいる技術者を評
価する「CPDポイント制度」が、測量系CPD
協議会として、2006年からスタートしたが、
採用を始めた国または地方自治体は限られ
ている・・・1万人以上が登録!
採用にあたっての「CPDポイント」は、統
一されておらず、適切な基準が必要である
教育機会の地域格差が生じている!
測量業の問題点
10 地域貢献度の評価
建設関連業の一つに組み込まれている測量
業の、一般社会から見たイメージは低い
環境問題や地域整備に関して地域に貢献す
る優良会社を、入札において何らかの考慮
をすることで、地域の測量業の存続を図る
べきとの意見が多い
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
1 測量業登録の制限
測量士一人で登録可能はあまりにも安易で
あり、「常勤測量士最低3人以上」 と測量
法を改訂すべきである
測量士の試験制度および登録制度を改正し
て、安易に測量士が登録できる道を封鎖す
べきである
測量士の登録更新制度を設け、測量士の実
態把握をすべきである
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
2 公共測量の技術評価
測量士を取得しただけでは、公共測量の実
施は不可能であり、公共測量実施能力を保
証している、日本測量協会の「地理空間情
報専門技術認定資格」を入札の審査基準に
取り入れるべきである
日本測量協会の「空間総括監理技術者」の
資格は、測量界の最高レベルの技術者であ
り、公共測量の仕様書作成、技術評価、技
術照査などに活用すべきである
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
3 最低入札価格制度
国土交通省が検討している、建設業および建
コンの契約で予定価格の85%を下限としてい
るのに合わせて、測量業務においても85%を
最低入札価格にすべきである
85%の札が複数ある場合、資格技術者、CPD
ポイント、地域貢献度などによる総合評価に
切り替えて落札業者を決定すべきである
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
4 総合評価の技術基準
価格と価格以外の技術等(技術という)の比
率は、1:2から1:3の範囲が適切であろう
技術の評価は、地方自治体の能力を考慮する
と、採用する技術の先進性、成果の品質、費
用対効果(技術提案)、業務成績などの技術審査
のほかに、資格保有、CPDポイント、地域貢
献度などを評価すべきである
技術審査においては第三者(公益団体)による委
託による審査の道を考慮すべきである
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
5 プロポーザルの審査基準
提案型入札では、原則として、口頭発表およ
び面接をすべきである
審査項目および審査基準をあらかじめ公表し
て、透明性をもたすべきである
透明性を持たすために、審査には、学識経験
者を最低一人以上参加させるべきである(裁
判制度でも一般人を入れる時代だから、市民
代表を入れてもよいのでは?)
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
6 日額人件費の改善
過去に「良いとこ取り」をしてきた態度を反
省し、持続的な日額人件費を発注者を合意す
べきである
測量の公共性を考慮すると、国内の企業の平
均日額人件費を、基準にすべきであろう
たとえば、年収は一人当たり実質GDP(約400
万円)を最低保障し、日額人件費は、200日
で割った額(約2万円)に25%増(約2.5万
円)を最低基準とする
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
7 測量作業の名称変更
「測量作業」の契約名は、「・・・に関する
測量業務」または「測量事業」と名称を変更
すべきである
積算項目として、測量作業のほか、測量計画
(すでにある)、工程管理、品質管理、電子
化(電子納品)、情報管理、環境管理など作業
以外の業務に対する必要項目を明記すべきで
ある
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
8 公共測量の検定
測量法において、公共測量の検定の義務化と
同時に、監視制度および成果管理制度(国土
地理院に検定済み成果の提供を義務付ける)
を明記すべきである
厳格な検定による品質保証を推進するため全
品検定が無理なばあい、無作為抽出を規程と
して明記する
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
9 CPDポイント制度
測量系CPDポイントの入札条件への採用は、
国および地方自治体において更に推進すべき
である
適正なCPDポイントが入札条件として考慮さ
れなければならない
教育プログラムおよび地域サービスの格差を
考慮すると、年間10~20点程度が妥当な値で
あろう
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
10 地域貢献企業認定制度
「横浜型地域貢献企業」の定義
①地域や社会を意識し、
②地域貢献の視点を持って社会的事業に取組
み、
③地域と共に成長・発展を目指す
メリットは、認証マーク、セミナー無料参加、
低利子融資など。
・・・測量界でも始めたら?
ⓒ村井俊治2010
測量業のあり方に関する提言
11 人材の育成
第1段階:基礎能力の養成(プレゼンテー
ション力、文章力、英語など)
第2段階:最新情報収集および人的交流(学会、
協会の正会員入会および活動参加)
第3段階:資格取得(測量士、地理空間情報
専門技術認定資格、技術士、空間情報総括監
理技術者など)
第4段階:論文発表(学会、協会の大会)
ⓒ村井俊治2010
これからの人間像
ハードスキルだけでなくソフトスキルの養成
継続教育の実践・・・学協会との連携
異分野・異業種とのコミュニケーショ
ン・・・学会活動への参加
プレゼンテーション力の養成:プロポーザル
への挑戦
アイデア・研究開発:博士および知的所有権
(特許)への挑戦
ⓒ村井俊治2009
測量業のあり方に関する提言
12 戦略的アプローチ
1.
時代の変化をどう読むか?
地理空間情報社会、少子化・老齢化社会、
環境重視社会をどう読むか?
2. どのような人材を育成するか?
時代が求める人間像をどう捉えるか?
3. どのように組織を改変するか?
測量系企業のあり方をどう考えるか?
ⓒ村井俊治2010
戦略の立て方
戦略の4つの階層構造
1. 使命の確立: 使命宣言文を作成する
2. 目標の設定: 企業の柱となる目標を複数
設定し、優先順位を付ける
3. 事業計画の立案: 目標ごとに数値目標を
定めた事業計画を立案する
4. 実行計画の策定: 誰が、いつまで、いく
らの予算で実行するかを決定する
ⓒ村井俊治2010
使命宣言文と達成目標の作成
会社の指名宣言文を次の形式で作成する
・・・・会社は、・・・・の分野におい
て、・・・・に資するために、・・・・を
達成することにより、・・・・に貢献する
ことを使命とする。
達成目標は、使命を達成するために、4~
5の柱を掲げる
ⓒ村井俊治2010
使命宣言文の例
株式会社A社は、XX県を中心としたXX地域
において、建設関連業および計測情報サー
ビス分野において、安全で便利な地域社会
創りに資するため、創造性の高い建設技術
を提供することにより、豊かな社会生活に
貢献することを使命とする
ⓒ村井俊治2010
達成目標の例(A社)
1.XX県において技術力No.1企業となる
2.産学連携による新技術の開発
3.人材育成システムの確立
4.能力主義による成果配分システムの導入
5.提案営業の推進
ⓒ村井俊治2010
日本測量協会の戦略
スローガン: 地理空間情報の科学と技術
使命: 測量技術の普及発達と測量技術者の社
会的地位の向上(定款より)
9つの目標: 1)会員の増強*、2)民間資格の
発注機関への働きかけ*、3)検定業務の改善
と拡大*、4)測量系CPD(継続教育)の強化と統
一行動*、5)職員の能力養成、6)地理空間情
報コンサルの事業拡大、7)地理空間情報技術
者の教育、8)受託業務の拡充、9)広報及び普及
*最優先目標
ⓒ村井俊治2010
測量企業の戦略・戦術の例_1
A社は、採算の合わない入札を止め、低価
格競争から決別した
B社は、実績を得るため、やむなく低価格で
落札した
C社は、価格入札を止め、プロポーザル入札
に切り替えた
D社は、ニーズの掘り起こしを行い、官庁に
新しい事業を立ち上げてもらった
ⓒ村井俊治2010
測量企業の戦略・戦術の例_2
E社は、地方自治体向けのGIS応用ソフトを
開発し、個々の行政事情に合わせたサービ
スを始めた
F社は、法律を熟知した用地測量技術者を育
成し、都市計画関連事業の随意契約に持ち
込んだ(低価格落札業者の尻拭い)
G社は、海外で出来る仕事を低価格で受注
し、海外で生産した(オルソフォトなど)
ⓒ村井俊治2010
測量企業の戦略・戦術の例_3
H社は、海外に一大拠点を築き、中近東など
の大型海外プロジェクトの国際入札に参入
した
I社は、技術立社を目指し、特許戦略を立て、
知的財産の権利化を始めた
J社は、独自商品を開発するため、研究所の
設立を模索始めた
K社は、大手企業と連携し、大型受注の一部
を下請けした
ⓒ村井俊治2010
測量企業の戦略・戦術の例_4
L社は、海外の測量系会社と技術提携し、日
本の技術とノウハウの提供をビジネス化し
た
M社は、ハイビジョンカメラとGISを結合し
て、道路調査システムを企業化した
N社は、新規に福祉事業を始め、3年後に黒
字経営に成功した
O社は、電子国土情報を利用したGISで受注
に成功した
ⓒ村井俊治2010
測量企業の戦略・戦術の例_5
P社は、「空間情報総括管理技術者」の資格
を入札条件にする画策を行い、受注に結び
つけた
Q社は、測量士、技術士などの資格のほか
に、博士の取得を奨励し、知的レベルアッ
プを図り、知的産業を目指している
R社は、社員に複数の選択肢のあるライフデ
ザインを提示し、労働意欲を高めた
ⓒ村井俊治2010
測量企業の戦略・戦術の例_6
S社は、同系会社と統合し、両社の得意分野
の特化を始めた
T社は、大学と連携し、新技術・新ソフトの
開発に成功した
U社は、定年退職した大学教授を丸抱えして、
環境関連の研究センターを設立し、環境調
査の新規ビジネスを始めた
V社は、地図入力を低コストの海外に発注し、
成功している
ⓒ村井俊治2010
おわりに
測量界は、改善すべき多くの問題を抱えてお
り、官民学の三者の協力で、将来を見据えた
抜本的な改善・改革が必要である
特に制度疲労している測量士制度、測量業登
録に関して早急な改正が必要である
測量業界に関しても、測量業者の統廃合、低
価格入札、総合評価方式、日額人件費などは
改革が必要である
学識経験者を技術評価・審査に活用すべき
ⓒ村井俊治2010