経済政策A:第4回講義

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経済政策
第4回講義
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19世紀の社会主義の時代背景
• 近代になって登場した近代社会主義思想を
取り上げる。近代社会主義思想には多様な
思想があるが、そのうちマルクスの思想を見
ていく
• マルクスの思想を見るには、次の2点をあら
かじめおさえておく必要がある
①近代社会主義思想の特徴
②19世紀の時代背景
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1.近代社会主義思想の特徴
(1)社会主義の共通理念と源流
①共通理念
• 社会主義、共産主義という言葉自体は、1820
年代~30年代に空想社会主義者によって使
われるようになる
• W.ゾムバルトによれば、社会主義には187種
類もの考えが存在する
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• 社会主義、共産主義の共通理念
Socialism
→ラテン語のsocius(partner, fellow)を語源
Communism
→cum(together with) + unus(one)を語源
個人よりも社会(共同体)を重視する思想
• 社会主義の考えは、近代になってはじめて誕
生したものではない
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②社会主義の源流
②ー1.プラトン(B.C.427-347)の哲人王の思想
• 『国家』:理想の国家のあり方を示した書物
国家のイデア=統一性
私有→国の分裂をもたらす
国家が真の国家であるためには、国民とりわ
け守護者層に心の統一がなければならず、
そのためには、共有制が良い
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守護者になる人
=真の国家とは何かを知ることのできる人
=哲学者
人間観に基づき階級社会秩序を構想
人間=思惟的部分、気概的部分、欲望的部
分
守護者階級=哲学者、補助者階級=軍人、
金儲け階級=職人や農夫
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• 共産主義の源流だが、無階級社会を説くので
はない
• 優生学の考えを含む(女性と子どもは共有、
優秀な親の子は国家が世話、そうでない子は
抹殺)
②ー2.キリスト教思想
• 聖書の使途行伝
• 中世においても、「万物は万人のもの」であり
、富者のもつ余剰の財は、貧者に向けられる
べきものと考えられた
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• 近代社会主義との異同
共通点:社会(人々の連帯性や平等)を重視
相違点:社会主義の目指すものは、国家(ポ
リス)の統一でも宗教的な心の一致でもなく、
人間の解放
近代社会主義は、抑圧からの人間の解放を
とく点で、古典的自由主義とまったく同じ
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(2)近代社会主義思想の登場
• 古典的自由主義と同様に、絶対主義に対す
る現実批判と体制変革の教説として誕生
• 近代自然法論を思想基盤
調和的自然状態、人間の自然権の理念、人
間の自由と平等の主張
自由主義と社会主義は「近代の双生児」(野
尻武敏)
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• ロックと同時期に近代社会主義は誕生
• J.メリエ(1664-1729)、A.N.モレリイ(1720年代
の生まれとされるが、生死年月日不詳)、G.B.
マブリイ(1709-1785)が代表的論者(啓蒙社
会主義とも呼ばれる)
• 議論の特徴
自然状態:私有財産はなく、人々はすべて平
等で自由で調和に満ちた状態で生活
財産権は、自然権ではない(自由主義との違
い)
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私有制の導入で事態は一変し、階級的な支
配と従属の「政治状態」が生じる
=私的所有権は、自然権ではなく、人間が作り
出したもの
悪の原因=私有制
私有制を廃して共有制に帰れ
• マルクスの議論の原型
とくにメリエは、社会革命の必要性をとく
共有→私有→共有の弁証法
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• 啓蒙社会主義の時代的限界
抑圧の体制=絶対主義体制であって、資本
主義体制ではない
抑圧者ー被抑圧者の図式に、ブルジョア-プ
ロレタリアの図式はない
19世紀(資本主義体制の時代)を背景にして
、マルクス・エンゲルスが登場し、近代社会主
義の考えをもっとも体系化することになる
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2.19世紀の時代状況
• 現実に誕生した資本主義
スミスの想定した2つの前提がともに裏切ら
れる
自由になった人々は、無限の利潤の獲得とい
う動機に支配
産業革命による生産技術の発展は、労働者
の抵抗をものともせずに、大規模企業を有利
に
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両方が結びつくことで、経済は未曾有の発展
イギリス
フランス
ドイツ
イタリア
1800年 1830年 1870年 1880年 1890年 1900年
10.5
16.3
26.1
29.7
33.0
37.0
28.3
33.2
36.1
37.7
38.3
39.0
24.8
30.6
41.1
45.2
49.4
56.4
17.2
21.2
26.8
28.5
30.2
32.5
単位:100万人
コーリン・クラーク『人口増加と土地利用』121-122ページより作成
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• 資本主義は、古典的自由主義が想定してい
なかった二つの深刻な問題をもたらす
(1)経済の不安定性
• 市場経済での需給調整
=事後的な調整→景気変動が避けられない
• 資本主義のダイナミズム
企業家の不安定な投資行動
不連続に発生する技術革新
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→インフレを伴う景気の過熱と大量失業を伴う
恐慌の周期的発生
• 恐慌の発生年
1825,1836,1847,1857,1866,
1873,1882,1890,1900,1907,
1913,1920,1929
①1825年恐慌
イギリス(「世界の工場)で発生した最初の資
本主義的過剰生産恐慌
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 19世紀前半の恐慌は、イギリスを舞台とする一国的
なもの
②1857年恐慌
 世界初の世界市場恐慌
「1857年の恐慌は、とりわけ、それがどの以前の恐
慌にもまさってすぐれて国際的な性格をおびていた
ことによって、その先行の諸恐慌と異なっている。資
本主義的生産方法はヨーロッパと北アメリカにおい
て市民権を獲得し、あらゆる発達した商業国民は循
環的発展に支配されるにいたった」(F.エルスナー『
経済恐慌』)
③1873年恐慌
 大不況(Long Depression)と呼ばれ、とくにイギリス
では1896年まで不況が続き、これを契機に長期衰
退に向かったとされる
④1907年恐慌
 アメリカで発生した金融恐慌
 連邦準備制度設立(1913年)の契機となった恐慌
⑤1929年世界大恐慌
 1929年10月24日「暗黒の木曜日」
(2)労働者問題の発生と深刻化
• 市民革命
→自由権と私有権の万人にたいする保障
→法的・形式的平等の実現
• 実質的不平等の出現
=少数の有産者(ブルジョアジー)と多数の無
産者(プロレタリアート)の出現
→労働者は過酷な生活条件におかれる
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• 過酷な生活をもたらした論拠
①人口の急速な増加と都市への集中
→労働力の絶対的過剰供給
→労働条件の悪化
②機械化の進展
→熟練労働が不要、未熟練労働で十分
→未成年者や女性の労働市場への参入
→一層の労働力の増加
→一層の労働条件の悪化
③機械労働への不慣れと安全設備の不備
→労働災害の頻発
• こうした資本主義の問題に対して、政策対応
がとられることになる
→経済政策論でいう干渉主義の時代
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3.干渉主義の時代
• 19世紀には、労働者問題への対策が各国で
講じられる
(1)工場法の制定:イギリス
1830年代から労働者保護政策が本格化
→工場法の制定(最初の工場法は1802年)
①1833年工場法
→繊維産業を対象に児童労働を規制
• 9歳未満の幼児労働の禁止
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• 1日9時間への児童(9歳~13歳未満)の労働時間
の制限
• 1日12時間への青少年(13歳~18歳未満)の労働時
間の制限
• 工場監督官制度の導入
②1842年炭鉱法
• 地下抗での女性・10歳以下の子供の雇用禁止
③1844年工場法(対象:繊維産業)
• 児童の労働時間は1日6.5時間に
• 女性の労働時間は青少年と同じ1日12時間
④1847年工場法(10時間労働法)
• 女性と18歳未満の青少年の労働時間は、1日10時
間に(対象:繊維産業)
⑤1867年工場法
• 対象が繊維産業から50人以上の工場全般に拡大
※労働者の肉体的保護に限定された政策
→労働者の生活保障を内容とするものではな
かった
→ドイツが生活保障に最初にのりだす
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2)社会保険の誕生:ドイツ
• 労働者運動の激化
→ビスマルクによる飴と鞭の政策
1878年社会主義者鎮圧法
社会保険導入
①1883年疾病保険法制定
• 一定所得以下の労働者を強制加入
• 労働者2/3、雇主1/3の費用負担
• 無料の医療と薬剤、疾病手当の支給
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②1884年災害保険法
• 危険度の高い鉱工業を対象
• 雇主全額負担
③1889年廃疾・老齢保険法
• 一定所得以下の労働者を強制加入
• 国庫補助導入、残りの費用を労使折半
→医療・労災・年金の社会保険の誕生
→第二次大戦までにヨーロッパ各国で導入(失
業保険は1911年イギリスで誕生)
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→この時代を経済政策論では「干渉主義の時
代」と呼ぶ
干渉主義の時代の特徴
①経済への国家の積極的介入の開始
②国家の介入は、事後的で局所的なものにと
どまる
③経済全般の調整は、依然として市場の自動
調節機能に委ねられる
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