Transcript と血圧

血圧が高いのは
なぜ怖い?
湘南厚木病院・湘南あつぎクリニック
内科・腎臓内科
まえさと
きょうこ
真栄里 恭子
基礎編
まず初めに

(「血圧」と「貧血」の違い)
「血圧」とは?
心臓は血液を全身に循環させるために、高い圧力で血液
を動脈に送り出しています。
このとき動脈壁にかかる内側からの圧力を「血圧」とい
い、血圧計を用いて測定します。
血圧を決めるのは心拍出量(心臓から送りだされる血液
の量)と末梢血管抵抗(血管の硬さ)です。
末梢血管抵抗の例

「貧血」とどう違う?
貧血とは血液が薄い事を言い、採血検査で調べます。
血圧とは間接的に関係する事もあり、症状も似ている事
がありますが、基本的には全く違うものです。
血液はどうして体内を循環する?



ヒトは多細胞生物:種々の
特殊機能を受け持つ細胞群
(消化器系、呼吸器系、泌尿
器系、循環系、生殖系、神経
系、内分泌系)が集まってで
きている。
動脈;消化管(胃や腸)で吸
収された栄養素や肺で取り込
んだ酸素を組織(細胞)に運
ぶ。
静脈;組織から二酸化炭素を
肺に、老廃物を泌尿器系に、
体温調節のため体熱を、全身
の細胞機能を調節するために
ホルモンを運ぶ。

血液は体の中を循環して隅々の細胞まで
栄養を与え、不要となった物質を排泄系
に持ってくるという役割を果しているが、
循環するためにはある程度の血圧が必要。

脳や心臓、腎臓などの主要臓器では血液
の循環をスムーズにするため自己調節機
能を持っている(高血圧ではこのような
臓器に合併症が起こる)。
「脈拍」とどう違う?



「脈拍」とは、心室の収縮により血液が
大動脈に送り込まれる時に生じる波動が、
全身の動脈に伝わり触知されるもの。
血圧と同様、情動などにより速くなった
り遅くなったりします。
「脈拍」は、規則正しい一定のリズムで
触れる脈(整脈)か、リズムが不規則に
乱れている脈(不整脈)かを調べるのに
適しています。
検診などで血圧を測定したら2種類
の数値を言われた。その意味は?
高い方を「収縮期血圧」(最大・最高血圧)
低い方を「拡張期血圧」(最小・最低血圧)
それぞれ測定した時点での心臓の
収縮時(血管内の圧が最も高まった時)
拡張時(血管内の圧が最も低くなった時)
の血管内圧を表しています。
血圧が上がる原理
 血圧=心拍出量×末梢血管抵抗


→この2因子のいずれかまたは両方の変化
に応じて血圧が変化する。
<例>情動;興奮や緊張は心拍出量増加
心拍出量の増加→主に収縮期圧が上昇
末梢抵抗の上昇→主に拡張期圧が上昇
血圧が変わった!どうして?

血圧は常に変動しています。

検診や外来診察時に測定する血圧だけで
はその人の真の血圧値が判定できません。

家庭血圧は外来血圧値よりも一般に低値
です。
血圧は季節によって変化する?

血圧が季節により変化する人もいます。

春から夏にかけて血圧が低下し、降圧薬
を減量、一時中止するタイプ。

秋から冬にかけて血圧が上昇し、降圧薬
を増量するタイプ。

これを判断するためにも家庭血圧が有用
です。
応用編
「高血圧」と診断される血圧値
2004日本高血圧学会が定めた基準
収縮期血圧
血圧分類

至適血圧
正常血圧
正常高値
軽症高血圧
中等症高血圧
重症高血圧
収縮期高血圧
<120
<130
130-139
140-159
160-179
>180
>140
かつ
かつ
又は
又は
又は
かつ
<90
拡張期血圧
<80
<85
85-89
90-99
100-109
>110
外来血圧による血圧分類
「外来血圧」は、
 降圧薬を飲まない状態 で、
 初診時以後複数回来院 しており、
 各来院時に測定した複数回の血圧値の平均値
で決定します。
収縮期血圧と拡張期血圧が異なる分類に属する場
合、高い方(つまり悪い方)の分類に組み入れる。
24時間自由行動下血圧測定でわかる事
正常例;
血圧は覚醒時に高値、睡眠時に低値
(昼間覚醒時血圧値の平均から、夜間は10-20%下降)
 異常例;
1.夜間の血圧下降がみられない(昼間の0-10%の夜間降圧)
2.夜間に血圧が上がる例

この場合、無症候性ラクナ梗塞、心肥大、微量アルブミン
尿など高血圧性臓器障害を高率に認める。

24時間自由行動下血圧測定における平均値で
135/80mmHg以上は高血圧として対処が必要。
早朝高血圧とは?
起床後早朝の血圧が特異的に高いこと。
下記の状況が挙げられますが、両者とも
心血管病のリスクとなります。
◎夜間低値の血圧が早朝覚醒前後に急激に
上昇して高血圧に至るモーニングサージ
◎夜間降圧が消失した例、夜間昇圧例に認
められる早朝高血圧

夜間血圧とは?
24時間自由行動下血圧測定で測定する睡眠中の血圧。
夜間昇圧タイプ
モーニング
サージ
(morning
surge)
夜間無降圧タイプ
正常の日内変動
(夜間低く昼間高い)
覚醒
睡眠
覚醒
家庭血圧は重要!

家庭血圧(家庭で測る血圧値)は外来血圧(病院で診察
時、検診時に測る血圧値)より「生活の質の維持」や余
命と関係が深い。

高血圧性臓器障害(心、腎、脳)の程度と相関
治療による臓器障害の抑制・改善と相関

自宅で測って頂く家庭血圧測定、
もしくは病院で検査として行う
24時間自由行動下血圧が重要
また白衣高血圧や夜間血圧の評価の際に有用
家庭血圧はいつ測る?

朝;起床後1時間以内、排尿後、座位1-2
分の安静後、降圧薬服用前、朝食前
(具体的には、起床後排尿を済ませ座位
で1-2分経ったあとに測定)

晩;就床前、座位1-2分の安静後
朝晩1機会にそれぞれ1回の測定でもとても有用です。
血圧計はどういうタイプがいい?

指用の血圧計は不正確。

手首血圧計は使いやすいが、不正確な事
が多い。
家庭血圧測定にはできるだけ上腕用
を使用し椅子に座って測定して下さい。
白衣高血圧に気をつけよう


白衣高血圧とは?
診察時の血圧(外来随時血圧)は高血圧
を示すが携帯型24時間血圧計で測定した
昼間平均血圧や24時間血圧は正常を示す
状態。
外来で高血圧を示す人の約20%は白衣高血
圧と言われています。
白衣高血圧の人の注意点は?
「白衣高血圧の人は正常血圧の人と同じ」と言われています
が、下記があると注意が必要です。


無症候性脳梗塞;
無症候性脳梗塞があると、脳卒中を起こしやすくなる。
糖尿病、喫煙、高脂血症など(代謝性因子);
高血圧性臓器障害(心臓、腎臓、脳の障害)が進行する。
白衣高血圧のうち11-37%は持続性高血圧(通常の高血圧)に
なる、と言われており注意して経過観察する事が必要です。
年齢(加齢)と血圧

老年者では、健康であっても収縮期圧、拡
張期圧共に年齢に応じて高くなる。

理由:加齢により血管の壁が硬くなること。
血管の伸展性(伸びやすさ)が低下して動
脈が拡がりにくくなるため、同じ血液量を
送るのに老年者では若年者よりも高い内圧
が必要→収縮期血圧上昇
「高血圧」と診断される血圧値

家庭血圧の場合
2004日本高血圧学会基準
血圧分類
収縮期血圧
拡張期血圧
至適血圧
正常血圧
正常高値
<120
かつ <80
<130
かつ <85
130-139 又は 85-89
軽症高血圧
140-159 又は 90-99
中等症高血圧 160-179 又は 100-109
重症高血圧
>180
かつ >110
収縮期高血圧 >140
<90
血圧分類
収縮期血圧/
拡張期血圧
至適血圧
正常血圧
125/75未満
125/80未満
高血圧(診断)
135/80以上
高血圧(要治療) 135/85以上
本題
高血圧の合併症(臓器障害=心血管病)
高血圧
心臓
⇓
心筋梗塞
腎臓
⇓
腎不全
脳
⇓
脳出血
血管
⇓
動脈硬化
生命予後悪化
高血圧により、全身の血管障害が起きて臓器障害が進行します。
心血管病の危険因子
(悪化させやすくする要因)




高血圧
喫煙
糖尿病、耐糖能異常(境界型)
高脂血症:高コレステロール血症、低HDL血症、高
中性脂肪



肥満(特に内臓肥満)、運動不足
高齢(男性60歳以上、女性65歳以上)
ストレス
高血圧の程度と
心血管病発症のリスク
血圧分類
軽症高血圧
リスクの層別化
危険因 危険因 糖尿病、臓器障害、
子なし 子1-2 心血管病、危険因
子3以上
低
中
高
(140-159/90-99mmHg)
中等症高血圧
中
中
高
高
高
高
(160-179/100-109mmHg)
重症高血圧
(>180/>110mmHg)
降圧目標値
140/90未満(2-3ヶ月かけ徐々に)
若年・中年は130/85未満
・75歳以上で160/100以上:
暫定目標は150/90、
忍容性をみながら最終目標140/90未満
・糖尿病、慢性腎疾患:130/80未満
・蛋白尿1日1g以上:125/75未満
リスク別の治療計画
低リスク群
中等リスク群
高リスク群
・生活習慣改善
・3ヵ月後も
>140/90には降圧
薬投与
・生活習慣改善 ・直ちに降圧薬
開始
・1ヵ月後も
>140/90には降圧
薬投与
生活習慣の改善(薬物服用時も続ける)

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食塩制限:1日6g以下(食塩値=Na(mg)×2.54÷1000)
肥満の是正:BMI<25
有酸素運動:ほぼ毎日30-45分(降圧効果:10週継続で11/6mmHg)
ウォーキングや水中歩行など大きな筋肉を動かす運動。
禁煙
飽和脂肪酸・コレステロール制限(野菜果物を主とし脂肪減の
食事では降圧効果:11.4/5.5mmHg)
 食物からカリウム摂取(1日90mmol←野菜・果物に多い)、Ca、Mg
などのミネラル分の適量摂取
 アルコール制限:1日20-30ml(酒1合、ビール720ml)痩せた人や女
性は1日10-20ml(降圧効果2-4mmHg)
薬物服用中でも上記のように生活習慣を改善しておけば、降
圧薬を中止できる事があります。
食塩制限はなぜ必要?
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食塩摂取量が多くなると血圧が高くなる。
同じ個人でも食塩摂取量により血圧が変化する。
現在の日本の一日当たりの食塩摂取量は12g(か
つては25g)で世界の中でも多い方。
食塩摂取量が1日3g低下→収縮期血圧1-4mmHg低
下
実際に「減塩している」と答えた人の減塩の程
度は1日あたり1-2g程度。
食塩1gに相当する調味料の量は?

小さじ(5ml)1の食塩=食塩5g
つまり、食塩1gは小さじ1/5に相当。

食塩1gに相当する調味料の量は下記の通り。多いほど塩分の少ない調味料
しょうゆ類;こいくち醤油 小さじ1強
うすくち醤油 小さじ1
減塩醤油
小さじ2
みそ類;淡色辛味噌
小さじ1 ½
甘口味噌
小さじ3または大さじ1
減塩生味噌
小さじ4または大さじ1と小さじ1
ソース類;ウスターソース
小さじ2
濃厚ソースと中濃ソース 小さじ3 ½または大さじ1と小さじ1/2
トマトケチャップ
小さじ5または大さじ1と小さじ2
マヨネーズ
小さじ8または大さじ2と小さじ2
うす味で食べるコツ十か条
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味は集中的につける(1品に重点的に味付けする)。
食卓で直接醤油、塩をふりかけて食べる。
塩分は醤油のほうが効果的
とろみなどで味をまとめて摂取
食品の旨みを利用(きのこ、昆布、鰹節など)
酸味(酢、レモン、ゆず、夏みかん、梅肉等)で食欲
増進
(油料理で油の旨みを利用←肥満、高脂血症では×)
香ばしいこげ味の利用(←黒こげはガンに関係)
香辛料(こしょう、からし、わさび、カレー粉、パプ
リカなど)を利用し食欲増進
食品の香りを利用(ごま、ピーナッツ、しそ、セロ
リー、しょうが、パセリ、みつば、せり、ねぎ、月桂
樹の葉など)
減塩のためのコツ十か条
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汁ものは1日1杯に。
塩分の高い漬物や佃煮、インスタント食品は口にしな
い。
計量を徹底する。
新鮮な素材を使う。
「だしのもと」は塩分が多いので、だしは削り鰹でと
る。
(料理に油を活用(コクを加える))
酢、香辛料、香味野菜を活用
表面味の料理(表面に味をつけて味わうサラダ、照り
焼き、刺身、フライなど)
よくかんで、ゆっくり食べる
外食は控える
BMIとは?
BMIとは、Body Mass Indexの略。
肥満度を表す指標として世界中で使われている
もの。日本人の平均は23.5(米国は28)
計算式は簡単→BMI=体重(kg)/身長(m)2
<例>
身長170cm、体重70kgの人のBMIは?
身長をmで表すと1.7なので、
BMI=70/(1.7×1.7)=24.2kg/㎡
BMIと高血圧
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かつては日本は食塩摂取量が多い、痩せ
ている高血圧者が多かった。
近年は肥満による高血圧者の割合が多く
なっている(特に男性、小児)。
メタボリックシンドロームの中でも高血
圧合併者は心血管病が多い。
飽和脂肪酸はなぜ悪い?
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脂肪を構成する脂肪酸:飽和脂肪酸と不飽和脂肪
酸の2種
肉の油やバターなど動物性脂肪は飽和脂肪酸を多
く含有
→肝臓でコレステロールの合成を促進
→血中コレステロールを上げる。
イワシ、サバなどの青身魚、オリーブ油、サラダ
油などの植物性脂肪は不飽和脂肪酸を多く含有
→コレステロールの排出を促進
→血中のコレステロールを下げる。
降圧剤開始を勧められたら
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降圧の最大の目的は、脳・心・腎の臓器
障害を防ぐこと。
できるだけ早期に治療を始め140/90未満
に。
少ない量から始めます。
24時間降圧し、朝の血圧をコントロール
できる長時間作用の1日1回型を用います。
併用療法を行う事もあります。
増量時は1日2回の事もあります。
降圧剤にはどういうものがある?
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降圧剤は、心臓からの血液量を減らすか、血管を拡げ
て血圧を下げる薬(「血圧」は両者をかけあわせたも
のでした)
心臓が1回に送り出す血液量(心拍出量)を減らす薬
→β遮断薬や利尿薬
血管を拡げることで血圧を下げる薬
→◎体内で最大の昇圧物質のアンギオテンシンを作る酵
素(ACE)の働きを妨害して血圧を下げるACE阻害薬、
◎血管の収縮にかかわるカルシウムイオンが血管の筋
肉に入り込むのを防いで血管をゆるめるカルシウム拮
抗薬、
◎血管や神経端にあるα受容体(血管収縮に関わる)
を妨害するα遮断薬