音楽・情報・脳

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放送大学学習ノート
音楽・情報・脳
音楽は人類にとって普遍性の高い行動領域
=脳の聴覚系・報酬系神経ネットワークを活性化
=美しさ・安らぎ・感動をもたらす
➔音楽の対象は、文化系統を異にする多様な音楽を対象
➔音楽の情報構造を分析
⇐音響学・情報科学の手法
+脳科学(生理学・心理学的・認知科学的手法の導入)
1.音楽と情報学、音楽と脳科学
情報学・脳科学の進展で「音楽とは何か」に科学的に考察
1)情報現象、生命現象としての音楽
情報学 音楽と生命現象 脳科学
声・楽器を使って創り出された刺激
脳
・視覚情報
・触覚情報
感性情報
・味覚情報
報酬系の神経回路を活性化
・嗅覚情報
美しさ・快さ⇐感応反応➔歓び等
音楽というプラットホーム
日本の音楽教育➔西欧音楽=クラシック音楽
偏向的傾向の修正
伝統的音楽・民族音楽・ポピュラーミュージック等
見直し
ワールド・ミュージックの広がり
地球音楽の全体を、人類史的な広がりと
時間尺度の中で生命現象として検討する
西欧音楽も個性的音楽の一つとしてとらえる
2)音楽・情報・脳を架橋する試み
音楽・情報・脳
「総合化・融合化」or「連携化」脳科学的手法の持つ
音楽に情報学的にアプロー
チする方法論的独自性
潜在活性の利用
研究進展の壁
医療用計測環境での限界
現状の高度専門分化
PET・fMRIなど計測環境のマ
された学術体制➔限定的
イナス要因
単機能専門分化の弊害
+
脳科学の研究では、研究者自身の脳の持つ感性的情報
に対する「自己言及性」からの完全解放➔原理的困難
理想的には、非限定非分化全方位型活性=分野加算型ではない
2.聴く脳・見る脳の仕組み
脳機能=脳神経系の構造と機能の基本
「音を聞く」「物を見る」(聴覚・視覚の感覚情報処理について)
1.脳神経系の構造と機能 1-1脳の基本単位=神経細胞
現存する地球生命
生存維持の
環境情報の伝達・処理 =生体制御システムを保有
樹状突起
神経細胞の基本的な機能
細胞体
入力刺激➔神経細胞
軸索
活動電位を発生
神経細胞は主に3つの構造に分れ、細胞核のある細
胞体、他の細胞からの入力を受ける樹状突起、他の
細胞に出力する軸索に分けられる。
核
軸索末端
神経細胞
多細胞生物が細胞間で情報伝達を行う場合
情報伝達のメッセージャー
=ホルモンなど専用の化学物質=シグナル分子
=生体情報のパルスを長い距離送信するために特殊化
軸索と樹状突起との間で情報のやり取り行っている部分
伝送される情報が
軸索の中を活動電
位というパルスが
送られる。
シナプス
軸索で伝達情
核 報を受信する
アンテナの役
樹状突起
脳における情報と物質の「等価性」
シナプスにおける電気活動
化学反応
鍵
過去の反応の履歴
同時入力の情報の状態
電気活動という変換の過程
鍵穴
共存する化学物質の濃度
記憶や学習のメカニズム
神経伝達物質と受容体とは
鍵と鍵穴の関係に似ている
信号の伝達効率の変化
麻薬
神経伝達物質は同じ物質でなくても
結合部分の三次元構造が近似していれば
作用する
精神変容物質
1-2 脳の構造と機能①
人間等脊椎動物の脳
神経細胞を高度に複雑にネットワークを構築
情報処理に特化➔約1000億個以上の神経細胞
脳は緩衝材の「髄液」に浸り、大脳、小脳、
脳幹の三つに分かれる。人間の脳で一番
最大体積=大脳(左右二つの半球で構成)
大脳皮質:最外層3~5mm程度の層構造
をなす。
脳の構造と機能②
灰白質:「大脳皮質」の深部、信号伝送を
担う。(大脳髄質or白質)大脳表面の隆起部
分を「脳回」という。
白質の深部:大脳基底核・大脳辺縁系など
の神経細胞が集合する部位。情動、動機
溝が「脳溝」で、皺構造が発達することで、
大脳皮質の表面積が確保される。表面積
=2500㎠:
表面部分で特定の異なる機能を担ってい
る➔「脳機能局在」と呼ぶ。
脳の構造と機能③
小脳:体積は小さいが、神経細
胞の数は大脳より多い。
身体のバランスを保ち、滑らか
な動きを実現。運動のフィード
バック制御・学習に役割。
広く認知機能・情動の制御にも不可欠。
脳幹:脳の中央深部に位置。脳神経の
末梢と中枢を結ぶ情報の中継だけでは
ない。自律神経・内分泌系のホメオスタ
シスを維持。免疫系・情動・欲望を生み
出す。神経核と呼ばれる細胞が集中。
1-3 脳機能の階層性
脳の性質
対応す
るPCの
装置
情報書
き込み
情報
保持
作用
機能の個別性
リライタブル
脳
ハード
ディス
ク・RAM
後天的
可変
心理的
個人別
ライトワンス
脳
CD-R
後天的
固定
文化的
社会集団ごとに
固有
同一社会内で共
通
プリセット脳
CPU
先天的
固定
生理的
人類共通
(一部は他の動
物とも)
大脳皮質
大脳辺縁系
脳幹
小脳
脳の構造と機能➔情報の変化に応じて
可塑性
プリセット脳➔ライトワンス脳➔リライタブル脳
1.第一階層の脳機能:脳幹
生来のプログラムが固定化=基本的に不可逆
「PC」のCPUに相当=普遍的で異種間で共通性
2.第二階層の脳機能:大脳辺縁系・大脳基底核
生後取得で不可逆的安定・保持して発現する脳機能
「PC」のCD-R⇛個別性:人間の言語・文化・社会習慣
主全体として多様性
3.第三階層のの機能:大脳皮質
個人の経験と可逆性に依存、個別性
音楽等社会的・文化的背景に視聴覚的情報を介して人
間の感性に影響
2.人間の脳機能を調べる
生体イメージング技術で非侵襲的に観察
1.非侵襲脳機能イメージング(脳機能イメージング)
高い時間分解能を持つ
1-1神経細胞の電気活動を観察
神経細胞のシナプス後電位の総和「脳波(EEG)」、
神経細胞内電流の磁場を計測する「脳波(MEG)」
1-2神経活動に伴う脳血流・エネルギー代謝の変化観察
=ポジトロン断層撮影法(PET)
空間解像度が優れるが、
時間分解能が劣る
脳血流と酸素代謝の変化を捉える
単独で万能のもの
=機能的磁気共鳴像法(fMRI)
はない。組み合わ
血液のヘモクロビンの濃度変化を捉える
せによる総合的ア
=近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)
プローチ
人間の脳機能
機能的、構造的な変化
“可塑性"
シナプスでの
伝達効率の
変化により
シナプス結合の
数や形態の
個別性 変化により
1.脳の構造と機能=発生・発達時➔可塑性。
2.老化・障害=神経の機能単位消失➔補填・回復の場合。
3.記憶・学習等=高次神経機能の基盤➔シナプスの可塑性(synaptic plasticity)
2-1 脳の電気活動を捉える
頭皮上に二つの電極を置き、
その間の電位差の変動を増幅器で記録
双極導出と呼ぶ
「脳波」or「脳電図」
大脳皮質にある多数の神経細胞の樹状突起
で発生するシナプス後電位の総和を反映
×
活動電位を記録したものではない
電流双極子
興奮性のシナプス後電位
樹状突起の先端刺激 大脳皮質の表面 樹状突起の深部刺激
陰性電位
マイナス極性
記録
陽性電位
プラス極性
頭皮上電極
◦21個の電極を国際10-20法に従って配置する
ことが多い。しかし研究目的などではもっと多数
(60個など)の電極を配置したり、モニタリング目
的などでは逆に数個のみの電極を使用したりする。
◦電極は円盤電極や皿状電極を導電性ペーストや特殊な帽子で頭
皮に固定する場合と、針電極を皮内に挿入する場合、スポンジに電
解質溶液を満たした電極をバンドなどで固定する場合がある。
◦長所は、針電極の場合を除き基本的に侵襲性がないこと、安価な
ことである。しかし短所として、導電率の異なる脳・硬膜・脳脊髄液・
頭蓋骨・皮膚などを通して観察することによる空間分解能の低さ、
高周波の活動の低減、頭皮との接触不良による雑音混入、筋電図
の混入などがある。ウィキメディア3.3 頭皮電極・脳表電極
シヤン卜効果
大脳皮質(狭い領域での電気活動) ➔広い頭皮上に分布する傾向
=発生源の直上にのみ記録されない
大脳皮質の表面=脳軟膜・硬膜・脳脊髄液・くも膜・・皮膚・皮下組織
頭蓋骨等=重層的構造物が異なった電気抵抗
脳表で電流が
横に広がる
難物=電流伝導率が髄液の300分の1
シヤン卜効果
電流伝導率の異なる脳・硬膜・脳脊髄液・頭蓋骨・皮膚などを通し
て観察することによる空間分解能の低さ、高周波の活動の低減、
頭皮との接触不良による雑音混入、筋電図の混入などがある。
➔空間解像度の低さ、脳波で記録された電位と脳の機能との対応
へ大きな制約
脳磁図(MEG)
脳の電気的な活動によって生じる磁場を超伝導量子干渉計 (SQUIDs)
と呼ばれる非常に感度の高いデバイスを用いて計測するイメージン
グ技術。電流双極子が出す微弱な電流の周りには「右ネジの法則」
に従って微弱な磁場が生ずる。この微弱な磁場を捉えるのが脳磁図
である。この装置は多くの研究室が使用し、さまざまな研究に応用さ
れています。代表的な使用例は以下のとおりです。
1.新たに合成された材料の磁気的性質(磁気モーメントの大きさ、磁気転移の
有無、交換相互作用の見積りなど)の研究
2.dH-vA振動を利用したフェルミオロジー
3.超伝導体の研究
4.半導体中の不純物の磁気的基底状態の研究
5.ナノ粒子の磁気的性質の研究
6.強磁性・反強磁性ハイブリッド材料の磁気特性
「脳磁図」は「脳波」がもっていない様々な長所
第 1に、脳磁場は周辺の構造の影響を受けにくいために、脳波の泣
きどころであった空間分布の歪みが、小さいという利点がある。その
ため電流双極子の三次元的な位置の推定が、比較的単純な計算で
可能である。
第2に、電位は発生源からの距離の2乗に反比例して減衰するのに
対して、 磁場は距離の3乗に反比例して減衰する。さらに脳波は、頭
部構造の電流伝導率の違いにより、頭皮上では実際よりも広く分布
する傾向があるが、脳磁場にはそのようなことはない。したがって脳
波よりも空間解像度が優れているという利点がある。
第3に、脳波と脳磁図に共通した限界として、これらの手法は大脳皮
質のように神経細胞が一定方向に整列し電流双極子を形成する部
分の活動 しか直接捉えることができない点が挙げられる。
すなわち、脳の深部にある大脳基底核や脳幹の神経核のように、神
経細胞の向きがバラバラの部位では、各神経細胞が発生する電位
が相殺され、そこで発生する電気活動を頭部外から直接計測するこ
とはできない。したがって、こうした 部位の脳の活動を電気的に捉え
るためには、次に解説する脳の血流・代謝活動との同時計測などに
より、夕-ゲットとなる場所の神経活動の強さを間接的に反映する成
分を見出し、それを計測するといったような特別な工夫が必要になる。
2-3 脳機能イメージングの限界