Transcript 産後うつ病
2011.9.2 杉戸町保健センター 「子育てママのメンタルヘルス講演会」 女性の精神疾患について 医療法人社団俊睿会 いずみクリニック 院長 長根 亜紀子 認知症 更年期障害 産後うつ病 マタニティブルー 月経前緊張症 候群(PMS) 拒食症 産褥精神病 うつ病、躁うつ病 パニック障害 不登校 統合失調症 産褥期の精神障害 遺伝要因 パートナー・周囲 からの支援の欠如 未治療のうつ病が 家族に与える影響 生物学的要因 悪 環境要因 循 産褥精神病 環 性格要因 マタニティブルーズ 妊娠期 分娩 1 産後うつ病 2 3 4ヵ月(産後) 子供の情緒発達の リスク マタニティブルーズ ・発生頻度 10~50% ・発症時期 出産後から1週間以内 ・経過 一過性で数日で治まる 自然軽快し、治療を要しないことが多いが産 後うつ病に移行することもある ・症状 涙もろくなる 軽い抑うつ気分 不安を感じやすい 不眠・疲労感・頭痛等 産後うつ病 ・発生頻度 10~15% ・発症時期 出産後2週から数ヶ月以内 ・経過 2~3ヶ月以内に軽快することが多いが、な かには重症化したり長期化する 例もある 援助、治療を受けていないと長期化しやすい ・病因 さまざまな要因が関与 生物学的 社会的 心理的 遺伝的 など 産後うつ病の重要性 ・頻度が高い ・育児への影響 ・母子関係への影響 ・虐待のリスク ・パートナー、実家、婚家など巻き込む ・早期発見・早期対応が可能 産後うつ病発症の危険因子 ・生物学的要因 ホルモン変化 産科合併症 ・社会文化的要因 支援の欠如 核家族化 婚姻 関係 最近起こった好ましくない出来 事 など ・心理学的要因 精神科・心療内科治療歴 母親になることへの拒絶 望まない妊娠 など ・遺伝的要因 産後うつ病の症状 ・気持ちが落ち込み、物事を前向きに考えられなくなる ・今まで関心があったものに興味がわかない ・考えがまとまらず、気力も低下し、献立など日常的なこと を決めるのに時間がかかる ・常に何かに対して不安や焦りが生じる ・疲れやすく集中力、記憶力も低下する ・家事・育児が出来ないと自分を責める ・子供や夫に愛情がもてない ・食欲不振 ・早朝覚醒・中途覚醒 ・頭痛・だるさなど原因不明の体調不良が続く 産後うつ病の診断 ・一般的なうつ病の診断基準(ICD10,DSM-IV-TR) に準ずる ・2週間以上の症状の持続 ・「抑うつ気分」もしくは「興味または喜びの喪失」 上記のうちの少なくとも一つの症状と他の診断 準の諸症状 ・精神症状によって機能障害(社会的など)が引き 起こされていること →家事・育児への影響の有無 症例 1 産後うつ病 27歳 女性 産後26日目 主訴 自殺企図 一般科医(外科医)に勧められて受診 性格 生真面目、几帳面 現病歴 同胞2人の第2子。短大卒業後就職し25歳 で結婚。X年10月に正常分娩で長男出産。妊娠 中は、抑うつ気分や不眠が生じたりすることはな かった。 出産後の入院中より「子供の世話をどうしてよい のかわからない」「夜も眠れない」と訴えていた。 産後14日目、自殺目的に腹部と手首を包丁で刺 して外科に入院。10日間の入院後、退院し、同日 当クリニック初診。 経過 初診時(産後26日目) :夫同伴で初診。憔悴し、やや 呆然とした様子。産後うつ病の診断にて、抗うつ薬 による内服治療が開始された。本人は実家で療養 し、児は義父母(父方祖父母)宅に預けることになっ た。 2回目(産後33日目): 「先週よりは落ち着きました」 「子供にはまだ会っていません」と語っていた。 3回目(産後47日目):「週末は夫の実家へ行ってミル クをあげたりしてます」「こどもがかわいいと思えるよ うになってきた」「そうじとか洗濯とかできるように なってきました」と語るものの、表情はあまり冴えず、 自己評価は60点ぐらいであった。 5回目(産後75日目) :産後60日目頃より、夫の実家 で児と過ごすようになったが「自分がいないほうが上 手くいくのではないか」と、抑うつ気分、希死念慮が 再燃。 9回目(産後4ヶ月): 産後3ヶ月目頃は、一時落ち着 いていたが、夫の実家と2世帯住宅とすることとなり、 その引越しを控えて、不安焦燥感、制止、抑うつ気 分、早朝覚醒が悪化。抗うつ薬変更。その後症状改 善。 12回目以降(産後5ヶ月半以降):月一回、実家へ帰 省しその際に当クリニックを受診するペースが続い ている。離乳食の問題、児の発育への不安などは あるものの、来院するたびに笑顔で児の成長を語っ てくれるようになり、次第に散歩したり、旅行したりで きるようになった。 現在は1年半の経過ののち治療を終了し、再発せず に暮らしている。 症例 3 妊娠中~産後のうつ病 35歳 女性 妊娠36週 主訴 不安感、不眠 保健所で勧められて受診 性格 責任感が強い、円満、心配性 現病歴 同胞3人の第2子。大学卒業後就職し、26歳 で結婚。結婚後9年間妊娠せず、不妊治療の末体 外受精にて妊娠。しかし妊娠20週頃に夫の浮気 が発覚。その後不眠、不安緊張感強まり、テレビ なども見られなくなり、どうしてよいかわからないと 一日中部屋の中をうろうろするようになった。産婦 人科医師より抗不安薬(デパス)を処方されたが、 効果なく、心配した両親が保健所へ相談。当院初 診となった。 経過 初診時(妊娠36週) :両親同伴で初診。憔悴しきって いる。座っていても落ち着かない。「考えがまったく まとまらない」「夫へも両親へも申し訳ない」「自分は 死んだほうがましだ」と語る。産婦人科医師と連絡を 取った上で、うつ病の診断にて、抗うつ薬による内 服治療を開始。 3回目(産後4日目): 夫のみ来院。帝王切開で出産 したとのこと。産前よりは多少落ち着き、夜も眠れる とのことであった。 4回目(産後20日目):「子供がかわいくないわけでは ないけれど、めいっぱいでどうしてよいかわからな い」「両親に申し訳ない」と訴え涙を流した。うつ状態 悪化にて本人の入院も検討したが外来で継続。 6回目(産後48日目) :単身で受診。「少し落ち着いた けれど、だるい」「自分を責めてしまう」と訴えた。 7回目(産後76日目): 「ベビーカーで散歩したりでき るようになった」「TVは楽しめないけれど、見れるよ うにはなった」「“この子がいるから今の自分がある のかな”と思える」と少し前向きな考えになってきた。 夫のことも「これからいろいろやり直していかないと」 と考え、自宅へ帰る練習を始めることにしたと語って いる。 産後うつ病の母親支援 産婦人科・小児科 支持的カウンセリング (傾聴する) 保健所 妊娠中からの関わり ハイリスクケースの把握 予防 早期発見 精神科・心療内科 母子・精神保健相談 家庭訪問 地域の子育て支援サービス (精神科受診は約1%) 精神療法 薬物療法 スクリーニングの道具 →エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS) EPDSとは エジンバラ産後うつ病質問票 Edinburgh Postnatal Depression Scale ・産後うつ病のスクリーニングテスト ・過去一週間の気持ちを記入(自記式) ・10項目の質問(主に『うつ』と『不安』の質問) ・1項目 0~3点 ・9点以上で産後うつ病の疑い EPDS運用上の留意点 ・必ず10項目に答えてもらう ・スクリーニングテストであって診断基準では ない →→「高得点=うつ病」ではない ・不安障害や一時的なストレス状態などで高 得点を示すこともある 興味または喜びの喪失 1)笑うことができたし、物事のおもしろい面も わかった。 2)物事を楽しみに待った。 抑うつ気分 8)悲しくなったり、惨めになったりした。 9)不幸せな気分だったので、泣いていた。 自責感 3)物事がうまくいかない時、自分を不必要に 責めた。 制止 易疲労性 6)することがたくさんあって大変だった。 不眠 7)不幸せな気分なので、眠りにくかった。 入眠困難 中途覚醒・浅眠 早朝覚醒 不安・恐怖感 4)はっきりした理由もないのに不安になった り、心配したりした。 5)はっきりした理由もないのに恐怖に襲われ た。 希死念慮 10)自分自身を傷つける、という考えが浮か んできた。 →いつも考えてる?ときどき?いつごろから? 最近では?行動に移したことは? 具体的な手段も考えたか?(リストスライス、 ベランダからの飛び降りようかと思った、首を つろうとした、など) 自傷行為・自殺はしないこと、と伝える EPDS記入後のフォロー ・フォローアップ 得点9点以上 質問10)が陽性点 気になるケース、ハイリスクケース ・訪問時に二次質問をして状況を把握する ・得点と臨床所見を照らしあわせる ・必要なケースには、サポート体制を。切迫して いるケースは受診を勧めてみる。 春日部保健所 EPDS実態調査結果 (H17.10月~H18.1月) <人数> n=309 40 36 35 33 30 34 31 28 26 24 25 20 19 18 15 11 13 10 8 5 5 7 6 5 2 0 0 2 4 6 8 10 12 EPDS 9点以上 小計 対象数 60 309 割合 19.4% 100% 14 16 0 1 18 1 1 20 <EPDS得点> 産後うつ病の医療へつなぐ目安 ・希死念慮・自殺企図 ・精神疾患の治療歴 ・生活に問題が生じている →家事育児への支障 ・支援者の欠如 産後うつ病への基本的な対応① ・寄り添う姿勢 →「常に母親が孤独を感じている」 →話せる相手としての存在 →受容・共感を念頭に傾聴する ・意見を押しつけない ・決して責めない →病気であり、あなたのせいではない ・頑張らさせない →負担の軽減を →心身の休養が必要 ・重要な決定はさせない →すべてにマイナス思考になっている 産後うつ病への基本的な対応② ・精神状態のアセスメント →希死念慮・自傷の有無の確認 ・子供の状態のアセスメント →赤ん坊への関わりの状況を確認 ・援助体制の確認 →家族や公共機関など 家族への説明 専門機関・保健所などの紹介 産褥精神病(統合失調感情障害) ・発生頻度 1000回の出産に1~2回 ・発症時期 出産後2週以内 ・経過 出産後早期に急激に発症。「赤ちゃんがすり かえられている」などの妄想や幻覚などの 知覚や思考の障害があり、現実検討力が障 害されまとまりのない 言動を示す。精神科入 院治療が必要なことが多いが、典型的な病 態では薬物療法への反応性はよく2~3ヶ月 で回復し、予後は良好であるが、再発しやす い。 症例 3 産褥精神病 37歳 女性 産後8日目 主訴 幻聴、不眠、情緒不安定 家族歴 父親が精神科入院歴あり 現病歴 同胞4人の第4子。高校1年時、29歳 (第1子出産)時、不眠、情緒不安定等にて 精神科入院歴あり。X年11月○日38W0d 第2子を正常分娩で出産。出産3日後より不 眠、情緒不安定、幻聴、被害妄想、独語あ り出産8日後に南埼玉病院へ転院。 経過 初診時は、ぼーっとした感じで、会話はまと まりない。「あちこちから声がする」「ヘソから も声がする」と訴える。独語活発で「頭の中が 蒸気機関車が走っているみたい」と語る。当 院入院し向精神薬による治療開始。 入院中も突然「このやろう」と大声を出したり、 床を這いつくばったりする。4日間の入院治療 で夜間は睡眠を取れるようになったが、まだ 症状不安定であったが、腰痛、腹痛強く、子 宮復古不全の疑いにて産科病棟へもどり、往 診にて対応することになった。 産科病棟でも「夫と会う前に輪姦されて中絶 したの。罰を受けるの」と突然語ったり、急に 泣いたり、突然夜中に徘徊したりと落ち着か なかった。 産後25日後、当院へ再入院。薬物治療に て1ヵ月後軽快し退院。本人入院中は児は乳 児院に預けていた。 退院後は半年間の外来治療ののち、治療終 了している。 月経前緊張症(PMS) ・定義 「通常、月経の1~2週間位前からおこり、 月経開始とともに消失する周期性のある一連の 身体的、精神的症状を示す症候群」 ・原因 はっきりしていない 排卵後分泌される黄体ホルモンによる水 分貯留? 月経前のセロトニン低下? 月経前のαエンドルフィン低下? ・ 症状 精神的症状 ・下腹部痛 ・下腹部膨満感 ・頭痛 ・乳房痛、乳房がはる ・腰痛 ・関節痛 ・体重増加、むくみ ・めまい ・にきび ・悪心・動悸 ・食欲亢進 ・便秘や下痢 など ・情緒不安定 ・怒りっぽい、闘争心 ・ゆううつ、涙もろい ・緊張 ・集中力・判断力低下 ・無気力 悪害う ・孤独感 化なつ 病 し ど ・疲れやすい や精パ す神ニ ・不眠 い疾ッ ・パニック 患ク ・妄想 は障 など ・ 身体的症状 治療 非薬物療法 (食事、運動、ハーブなど) 薬物療法 1 ビタミン・ミネラル(VB6、Ca、Mg、VE) 2 抗うつ薬 (特にSSRI<パキシルなど>) 3 抗不安薬 <デパスなど> 4 経口避妊薬 <ピルなど> 更年期障害 定義 更年期とは・・・ 「更年期とは生殖期(性成熟期)と非生殖期(老年期)の間 の移行期をいい、卵巣機能が減退し始め、消失するま での時期」(日本産婦人科学会) 性成熟期 更年期 45歳 閉経 50.5歳 老年期 55歳 子育てが終わる時期 →夫とは両親としての役割から夫婦として向き合う関係 →人間関係や社会的役割の変化 本人、家族が大病を患うなどのライフイベントを経験しやすい時期 ・ 更年期障害とは・・・「更年期に自覚される症状 のうち、器質的疾患の裏付けに乏しい不定愁 訴を主体とする症候群」 病因 性ホルモンの変化(エストロゲンの低下) →自律神経の失調 人格要因 心理・社会的背景 うつ病を発症しやすい時期 ・ 症状 身体的症状 精神的症状 ・のぼせ ・顔のほてり ・動悸、めまい ・肩こり、腰痛 ・頻尿 ・性交障害 ・骨量減少→骨粗しょう症 ・高脂血症 ・情緒不安定 ・怒りっぽい、いらいら ・ゆううつ、涙もろい ・物忘れ・集中力・判断力低下 ・無気力 ・不安感 ・孤独感 ・疲れやすい ・不眠 など 治療 非薬物療法 (一般・支持療法・カウンセリング) 薬物療法 1 ホルモン補充療法 2 抗うつ薬、抗不安薬 3 漢方薬など