現代世界経済をとらえるVer.5第4章

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現代世界経済をとらえる Ver.5
第4章 ヨーロッパ経済
ユーロ・東方拡大の成功から金融危機へ
©東洋経済新報社
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図4-1 欧州経済統合の深化と拡大
(出所)蓮見雄編『拡大するEUとバルト経済圏の胎動』2009年,p.11を大幅修正,加筆.
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図4-2 EU加盟とユーロ導入国(2009年末)
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4.1 ヨーロッパ戦後経済
最初の危機と最初の挑戦
a 戦後最初の危機
資本主義
•戦争被害+欧州自身
の縮小⇒戦後復興が進
まず。
冷戦
社会主義
体制間競争へ
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•東西ヨーロッパの分裂:
米国主導のマーシャル
プラン対ソ連主導のコメ
コン体制
•欧州再生の最初のシナ
リオ;冷戦の開始⇒体制
間競争;市場統合対計
画統合、各国別に独自
の経済発展を追求
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~最初の挑戦・西欧~
西欧諸国:福祉国家の建設
イギリス
大陸ヨーロッパ諸国
アメリカ依存
経済統合
•西欧諸国はそれぞれ福祉国家の建設を目指し,社会主義へ
と対抗していく。
•英国対大陸欧州諸国:後者は平和と安全を目指す政治統合
へ⇒その手段としての経済統合。米国の影響下。
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~西欧の挑戦~
1952年
欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC) :不戦同盟
1958年
欧州経済共同体(EEC) :市場の構築と経済政策の接近
対抗者:EFTA*,欧州原子力共同体の設立
1962年
共通農業政策:単一農産物市場
1967年
欧州共同体(EC):3つの共同体と1つの頭
1968年
関税同盟:広域市場実現
西欧の復活:最初の挑戦をクリア,しかし
1970年代には通貨危機と停滞へ
*イギリスは北欧三国と1960年に欧州自由貿易協定(EFTA)を発足させるも,経済発展
の十分な推進力にはならなかった
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~最初の挑戦・東欧諸国~
•国有化と2重の内向き
工業化路線
•ソ連への従属と
一党制の制約
•ソ連型計画経済制度の
導入とコメコンの貿易の
計画統合
•経済的に過度の重
工業化,市場と需要
変化の関心の低さ
が特徴的に
•ソ連:工業製品の市場と
原燃料の供給先を提供
⇒市場問題の解決
•「国有企業型」福祉国家
の実現
•市場導入の部分的
諸改革の失敗
(1960年代~)
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~西欧~
4.2 二度目の危機と挑戦 ~東欧~
a 二度目の危機
世界経済の本格的地殻変動と西欧
の基礎的新陳代謝能力の低下
低成長化
危機
「欧州動脈硬化症」
内向きの経済政策と
ケインズ主義的景気対策
原油価格上昇による改革代替の
モルヒネ効果
危機の深化、諸改革(ポーランド連
帯運動、ゴルバチョフ登場)
失敗
•ECの2度の拡大⇒遠心力が増す
外国為替市場での投機,為替変動
失敗でソ連崩壊(80年代末)
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b 二度目の危機に挑戦する3つのシナリオ
社会民主主義シナリオ
• 欧州レベルの福祉国家の建設
新重商主義的シナリオ
• 欧州チャンピオンの育成
新自由主義的シナリオ • 欧州レベルの自由な市場と小さな政府
挑戦の主役の交代
国民国家
欧州共同体
欧州連合
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c
2つの経済統合プロジェクト―経済通貨同盟とEUの東方拡大
市場統合プロジェクト
東方拡大プロジェクト
• 市場統合の再スタートから経済通
貨同盟へ飛躍
• 1985年に単一欧州議定書が締結
• 1993年にマーストリヒト条約,人・
モノ・資本・サービスの域内市場
の構築
• 1997年:安定成長協定
• 1999年、経済通貨同盟(EMU)の
4条件を11カ国がクリア,ユーロ
の導入成功
• 2002年,ユーロの専一流通開始
• 東欧の体制転換から出発,これま
での拡大とは異なる,新自由主義
的シナリオに従う。意見の対立。
加盟の3条件(コペンハーゲン3基
準)。安価な加盟。2004年と2007
年に10カ国が加盟達成。
• EUは「欧州諸制度の移植支援」と「
小さな援助」,「大きな市場」を提
案,IMF・世銀はワシントン・コンセ
ンサス型政策(自由化・民営化)を
提案
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4.3 EU経済統合の到達点と第3の危機
a
新たな政治統合への道の挫折
1.欧州憲法条約:連邦色が強い
2.仏,オランダの2005年国民投票で拒否
3.リスボン条約;憲法色を薄める。だが,アイルランド
の国民投票で否定
政治統合のさらなる深化は足踏み状態である。
なぜか?何が到達点と結果で,どこに問題があるのか?
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b 3つのシナリオはどのように実現されたか?
~社会民主主義シナリオ~
旧来の福祉国家の克服その1:
上からの福祉国家と「社会的排除」の克服⇒「社会的包摂」
その2:上記目標を、持続的発展や競争力を持つはずの知識基盤社会
(2000年のリスボン戦略,2005年のリスボン戦略Ⅱ)の実現と結合
•上記の2つの新機軸=欧州レベルでの社会政策は
超国家的にEUの社会政策や制度に埋め込まれず,
オープンな調整方式(指針決定、報告、ピュア・レビュー)が取られた
•柔軟かつ弾力的で安定的な雇用(Flexicurity)の称賛、
各国間の収斂ならず,各国別相違が顕著。
むしろ労働組合の基盤の掘り崩しへ
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~新重商主義的シナリオ~
(1)リスボン戦略は現時点では実現されていない
(2)第2に欧州経済統合の中で企業の欧州化は二
極分化してきている
➀欧州・世界チャンピオンの誕生
➁汎ヨーロッパ地域生産ネットワークの形成
➂欧州金融グループ=「総合大銀行グループ」の形成、しかし中小企業に
とって恩恵は少なかった
(3)企業統治(ガバナンス)はインサイダーモデルから
アウトサイダーモデルに進んでいった
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~新自由主義的シナリオ~:4要素の自由化
•4つ(モノ,ヒト,資本,サービス)の自由移動実現,
競争政策による推進
•サービスの移動は部分的に未達成,労働者の反対
•単一通貨と金融政策の集権化と財政の分権化,
•規制のEUだが,まだ最小限(例:金融監督はなし)
<全体の評価>
新自由主義的シナリオの実を軸に
EU経済統合が新しい段階に達した
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c ユーロ導入のメリットと問題点
問題点
メリット
1.
域内為替等の国境の除去によ
る利益+価格比較,競争の強
化による利益
1.
2.
導入(予定)国の経済体質を改
善し,雇用を創出
2.
3.
欧州金融センターによる基軸通
貨機能の外貨準備や国際資産
通貨としての役割の増加
3.
4.
上記による利益の周辺諸国や
非EU加盟国への波及効果
4.
5.
単一の金融政策(ECBによる) :コア
諸国に金利政策の照準
⇒不況国(時期);より深刻vs景気
過熱国(時期)にはバブル
安定成長協定:財政赤字GDP3%
以内
⇒財政出動できず
実質為替レートの格差
⇒競争力の格差,実質金利格差
国境を越えた金融活動の監督不
十分
需要不足に陥り,経済の基礎的新
陳代謝能力を低下させた
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d 世界金融危機・同時不況とEU
図4-3 マクロ経済動向(EU27カ国)
(注)GDP成長率と粗固定資本形成変化率
の2009,2010年値は予測.2009年失業
率と消費者物価上昇率は同年10月値.
(出所)Eurostat,EU economic data
pocketbook 1-2009, pp.14,20,86,106.
•ITバブル不況に継
いで2008年からEUも
世界金融危機・同時
不況に陥った
•予測では2009年の
GDP成長率はマイナ
ス4.0%,2010年はマ
イナス0.1%となって
いる
ドル・米国からの自立性をユーロは高めるはずではなかったのか?
金融危機と同時不況:3つのルート
1.
2.
3.
ユーロ金融市場から米ノンバンクへの有毒証券,サブプライムロー,米銀より
数段高いレバレッジ戦略
ユーロ金利安,ポンド高⇒不動産投資(例外;ドイツ、フィンランド)
対東欧投資:対外赤字の埋め合わせFDIから短期債務へ移行+コア諸国より
高い成長率の期待+外銀の貸し出し過剰競争⇒外貨建て住宅ローン
⇒ 金融危機と不況の循環
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•経済通貨同盟崩壊を防ぐEUと各国政府による
「危機管理・緩和」の政策と措置
• 大胆な金融支援措置、しかしバラバラな対応⇒次第に足並み
揃う,だが根本は不変(例:2010年ギリシャ)
• 欧州中央銀行の政策金利引下げ(3.75%⇒1%),EU全体の「最
後の貸し手」不在
• 欧州経済復興計画の実施
• 世銀等との協調行動
• 3%を超える財政出動を認める。しかし,成長安定協定を崩壊
させる財政出動制限。
• 各国の危機打開策,EUはガイドラインのみ提示
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ヨーロッパ統合の将来 ~カギを握る3つの要素~
• ボトムアップ型の政策調整の強化と上からの危機
解決策:金融市場を監督する仕組み・制度の導入
の決定
• EUの役割の2面性:危機時のユーロと国家の実力
の再認識,リスボン条約の発効,市民の不満
• EUコア国より周辺国の深刻さ(現在ではギリシャ問
題),財政危機,輸出低下,不良債権増加でEU経済
へ跳ね返りの可能性。東西格差が拡大する恐れが
ある。
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まとめとして
• 戦後2度目の危機をEUは新自由主義シナリオにそっ
て、人・モノ・資本・サービスの単一市場の実現と単
一通貨ユーロの導入および東方拡大(10カ国加盟)
の成功を達成した(経済統合のほぼ達成)。戦後の
欧州とは全く違った経済秩序が実現した。
• しかし,欧州統合は第3の危機の局面にある。
✗政治統合の一層の深化は足踏み状態
✗金融危機同時不況は,金融「イナゴの大群」が「知
識基盤型社会への移行」や「東欧諸国のキャッチ
アップ」に十分貢献していないこと,新自由主義的シ
ナリオの統合の危機,を白日の下に⇒新しいシナリ
オ?
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