0721講義スライド

Download Report

Transcript 0721講義スライド

社会言語学

Ⅰ 第 10 回( 0721 )会話という相互行為 永井 那和 異文化コミュニケーション学部 2011 (前期) 1

本日の講義

会話という相互行為>事例研究紹介

民族誌的エピソード分析に見る、ジャ ム・セッションにおけるミュージシャン たちの自由と束縛、あるいは共同体規 範の出現・作動のプロセス

Take-home exam

提出

2

本事例研究の構成

1.

2.

3.

4.

5.

6.

7.

概容・目的 コミュニケーション観と分析概念 データ収集・作成の手順 フィールド属性(前提的コンテクストの記述) 分析(創出的コンテクストの記述) 結び(限界・批判・リプライ) 主要参考文献 3

1.概要・目的

1. 2009 年冬におこなった(パイロット) フィールド 調査・参与観察 から得られた録音・録画デー タなどから 民族誌(エスノグラフィー) を作成 2.

エピソード化(物語化) したデータを対象に 相 互行為分析 をおこない、ミクロ・レベルで どの ようなコンテクストが生成されていったかとい うコミュニケーション・プロセスを描出 。 3.

同時に、調査対象となったコミュニティ(共同 体)の 規範が現れ、作動するまでを記録・記 述  文化の断片=民族誌の一部 4

本事例研究の構成

1.

2.

3.

4.

5.

6.

7.

概容・目的 コミュニケーション観と分析概念 データ収集・作成の手順 フィールド属性(前提的コンテクストの記述) 分析(創出的コンテクストの記述) 結び(限界・批判・リプライ) 主要参考文献 5

a

.コミュニケーション観(1)

:

根本にある2つの側面

• 言語コミュニケーションと社会・文化の関係の 研究に特化した 社会記号論系言語人類学 の コミュニケーション観に依拠 1.

2.

– コミュニケーションは必ず複数の コンテクスト 的 要素に支えられて起こる 創出的側面 – 前提的側面 コミュニケーションが起これば必ず、複数の コン テクスト 的要素が変容する 6

a

.コミュニケーション観(2)

:

コンテクストの多層性

コミュニケーションとコンテクス トは常に、相互に依存し、相互 に影響を与え合う関係にある コミュニケーションの場 ミクロ・コンテクスト: 参与者や直前の出来事 周囲の環境など … マクロ・コンテクスト: 知識・文化・歴史・法則 … 7

• • 2b.

分析概念

コンテクストは複雑多様であるため、その全体を 一望することは不可能。よって、いくつかに絞る 必要がある  分析概念の選定 本研究で使う分析概念 – コミュニケーションの解釈枠組み、または、そのラベ ル/タイプ/ジャンル  フレーム – コミュニケーションへの関わり方、またはその参加者 同士の社会心理的距離  フッティング – なんらかのコンテクスト的要素が存在していること、 またはそれが変化していることを教えてくれる・・・ • • 言語的・非言語的手掛かり  コンテクスト化の合図 コミュニケーションを構造化する反復や対照性  詩的構造 8

ごく簡単な使用例

• • データ:森田まさのり『べしゃり暮らし』 前提的コンテクスト – お昼の校内放送中、「校長先生のズラ」ネタで学 校中の爆笑をさらった主人公(吾妻)だが、当然 校長先生に目をつけられ、禁止されてしまう – 代わりに校長もフィーチャーした野球部の紹介を やらされるはめに – 吾妻は「心を入れ替えた」と司会を希望し、真面 目に役割を遂行する – 校長が満を持して登場 そして・・・ 9

10

11

このコミュニケーションを経てどのような コンテクストが創出されたか?

ヴィジュアルデータを含む「校内放送」という公 共性の高いコミュニケーションフレーム内で謝 罪をすること=吾妻が「完全敗北」を認めるとい うこと  「笑わす者」から「笑われる者」へ、フッ ティングの転落の可能性の危機 しかし! • 「謝罪」行為のピークである「お辞儀」の際、「ズ ラを落とし、平然とインタビューを続行  「校長 及び野球部紹介のための校内放送」をいつも の「笑いに満ちた校内放送」に 再フレーム化 し、 「笑わす」者としての フッティングを維持・強化 12

本事例研究の構成

1.

2.

3.

4.

5.

6.

7.

概容・目的 コミュニケーション観と分析概念 データ収集・作成の手順 フィールド属性(前提的コンテクストの記述) 分析(創出的コンテクストの記述) 結び(限界・批判・リプライ) 主要参考文献 13

3.データ収集・作成の手順

• • データ収集方法: エスノグラフィック・フィールドワーク – フィールドワーク( ⇔ 実験室) – 潜在的( ⇔ 顕在的) 参与観察(外部の視点+内部 の視点) – インタビュー(ライフストーリー/ フリートーク ) – ジャーナル・フィールド・ノート データ作成方法 – エスノグラフィー (文化記述/民俗誌) – エピソード記述 (出来事についての物語的記述) – 録音、録画データの書きおこし( トランスクリプト ) 14

本事例研究の構成

1.

2.

3.

4.

5.

6.

7.

概容・目的 コミュニケーション観と分析概念 データ収集・作成の手順 フィールド属性(前提的コンテクストの記述) 分析(創出的コンテクストの記述) 結び(限界・批判・リプライ) 主要参考文献 15

4.フィールド属性1:ライブハウス

• 主にバンドによるライブ やイベントが行われる 場所。法律的には飲食 店として定義される。 • レイアウト • ステージ • • • フロア バーカウンター PA 卓・・・ 16

4.フィールド属性2:

ジャム・セッション • 「音楽で会話する」即興 性の高いアンサンブル • スタンダード曲のカバー から、完全なるフリー・イ ンプロヴィゼーションまで、 即興性も様々。 • ライブハウス、レストラン、 ストリート・・・場所を選ば ない 17

例を見てみましょう!

• 『これがジャムセッションだ!』 – http://www.youtube.com/watch?v=2honOh8p_b U 18

4.フィールド属性3: ジャム・セッションの基本的進行

開始( 2000 hrs.

) [ Ⅰ ] ホスト・メンバーによるセッション・スタンダード曲の演奏

[ Ⅱ ] 司会によるメンバー指名・バンド形成

[ Ⅲ ] メンバー間の打ち合わせ・曲の演奏・演奏後、バンド解散

[ Ⅱ ][ Ⅲ ] 部分の繰り返し。途中で小休止有り

[ Ⅳ ] ホスト・メンバーによるセッション・スタンダード曲の演奏 終了( 2300 hrs.

) 19

その他の重要な前提的コンテクスト: 調査者とフィールドの関係

• • 調査者のアイデンティティ – – – – 大学院生、リサーチャー ドラマー(歴15年以上) 参加者(パフォーマー、オーディエンス) 主催者からクリニックを定期的に受けていた 調査者とフィールドの関係 – – – セッション自体には比較的詳しい(・・・はず) 本フィールドへの調査は 2 回目(2009年冬) 数人の知り合い 20

本事例研究の構成

1.

2.

3.

4.

5.

6.

7.

概容・目的 コミュニケーション観と分析概念 データ収集・作成の手順 フィールド属性(前提的コンテクストの記述) 分析(創出的コンテクストの記述) 結び(限界・批判・リプライ) 主要参考文献 21

5.分析:創出的コンテクストの記述

• エピソード名: H 事件(4部構成) – 第一部:分化する聴衆 – 第二部:加速 – 第三部:ワンマン・ショー – 第四部:制裁、あるいはオストラシズム 22

第一部:分化する聴衆 資料を参照

23

分析フェイズ1:対照的反応の反復が合図 するフッティングの変化/分化

24

第二部:加速 資料を参照

25

分析フェイズ2:役割交替時における規範 への逸脱行為

フッティング分化の反復

26

第三部:ワンマン・ショー 資料を参照

27

分析フェイズ3:合図の反復

フレームの 立ち上げによる「有標性」の裏返りx2

28

第4部:制裁、あるいはオストラシズム

資料を参照

29

分析フェイズ4:これまでのエピソード(合図群) への最終評定=権力者によるフッティングの再 配分=共同体規範の出現&作動=「制裁」 近 ジャムセッション という コミュニケーション 出来事 中川氏(ホスト)の ブログレポートによ る(再)フレーミング 「・・・みんながルールを守って 楽しめる、音楽を演奏する場を 作っていきたい・・・」 遠 <フッティング配分に連動するフレーム> ①「やはり、あれは問題だったが、出入り禁止までやったか」 ②「もしかして、あのことかな・・・?」 ③「いつもどおりのセッションか」/「なにかあったのかな」 ⇒ ①「事件&制裁」②「セッション/事件?」③「セッション(?)」

本事例研究の構成

1.

2.

3.

4.

5.

6.

7.

概容・目的 コミュニケーション観と分析概念 データ収集・作成の手順 フィールド属性(前提的コンテクストの記述) 分析(創出的コンテクストの記述) 結び(限界・批判・リプライ) 主要参考文献 31

• •

6.結び: 研究の限界と批判、それに対するリプライ

「観察」か、「介入」か問題 – 目の前で問題が起きているのに、観察している場合なの か?注意すべきではないのか?もし調査者(永井)が面 白いと思っているならばナンセンスだ。 「主観」と「客観」の問題 – 視点が偏っているように感じる。リサーチャーは中立的な 立場にいるべきでは? – – 内的視点も大切とあるが、それは主観では? 調査者がフィールドに影響を与えることもあるのでは? – 物語(エピソード)での一連の事実が、調査者の主観に よって誘導されているのでは? 32

リプライ1: 「観察」か、「介入」か

• • 介入(=注意)すべきかどうかは、その対象との間の場 所歴の差や、コミュニティ内の立場や役割(当該コミュ ニティでは、普段、誰が、どのようなことを問題行為とし て捉え、諌めるのか)、相互の力・親疎関係およびその 他の社会的属性等を十分考慮して判断する必要があ る。セッション一般の作法をよく知っているという 外的 (エティック)な価値観だけから判断し、介入・注意する という行為は非常にリスクの高い行為である 可能性が 高い。 しかし、フィールドワークには「ハゲワシと少女( by Kevin Carter )」に類する問題(「報道か人命か」)が常につきま とうということはまぎれもない事実。 33

リプライ2: 「主観」対「客観」

• • 主観的と見なされがちな記述や分析の主観性(視点 の隔たり)をメタ分析(=分析を分析する)することは 絶対に必要・同時に客観的とみなされている視点は 一体(そもそも)どのような主観から立ち上げられてい るのかという歴史・経緯にも目を向けるべき(中立的・ 客観的な記述、視点、立場とは、本質的にはある一 定の枠組み/フレームの中で担保される「状態」にす ぎないのではないか?) 「社会調査」も一種のコミュニケーション行為・出来事 (フレーム)である以上、データや解釈は調査者と フィールドとの相互作用の産物・結果の一側面にすぎ ない(ことを特に調査者は自覚すべき)。 34

• • • • • • • • • •

7.主要参考文献(の一部)

Barz, G., & Cooley, T. J. (Eds.). (2008). Shadows in the field: New perspectives for fieldwork in ethnomusicology (2nd ed.). Oxford: Oxford University Press.

Bateson, G. (2000[1972]). Steps to an ecology of mind. Chicago: University of Chicago Press.

Bauman, R., & Briggs, C. L. (1997[1990]). Poetics and performance as critical perspectives on language and social life. In Keith. R. Saywer (Ed.). Creativity in performance (pp. 227-264). London: Ablex Publishing.

Goffman, E. (1967). Interaction ritual: Essays on face-to-face behavior. New York: Doubleday.

Goffman, E. (1974). Frame analysis: An essay on the organization of experience. Boston: Northeastern University Press.

Goffman, E. (1981). Forms of talk. Philadelphia, PA: University of Pennsylvania. Gumperz, J. J. (1982). Discourse strategies. Cambridge: Cambridge University Press.

Jakobson, R. (1960). Closing statement: Linguistics and poetics. In T. A. Sebeok (Ed.). Style in language (pp. 350-357). Cambridge, MA: MIT Press.

小山亘( 2008 ).『記号の系譜:社会記号論系言語人類学の射程』三元社. Koyama, W. (2009). Indexically anchored onto the deictic center of discourse: Grammar, sociocultural interaction, and ‘emancipatory pragmatics’. Journal of Pragmatics, 41. 79-92.

35

7.主要参考文献(の一部)

• • • • • • • • 宮入恭平( 2008 ).『ライブハウス文化論』青弓社. 永井那和( MS ).「グルーヴのコミュニケーション・コミュニケーションのグルーヴ: ジャム・セッションの民族誌」. Sawyer, K. R. (Ed.). (1997). Creativity in performance. London: Ablex Publishing.

Sawyer, K. R. (2001). Creating conversations: Improvisation in everyday discourse. Cresskill, NJ: Hampton Press.

Sawyer, K. R. (2003). Group creativity: Music, theatre, collaboration. Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum Associates. Silverstein, M. (1976). Shifters, linguistic categories, and cultural description. In Keith, H. Basso & Henry. A. Selby (Eds.). Meaning in anthropology (pp. 11-55). Albuaquerque, NM: University of Mexico Press.

Silverstein, M. (1993). Metapragmatic discourse and metapragmatic function. In John, A. Lucy (Ed.), Reflexive language: Reported speech and metapragmatics. Cambridge: Cambridge University Press. Silverstein, M. (2007). How knowledge begets communication begets knowledge. 『 異文化コミュニケーション論集』第 5 号, 31-60 頁. 36

ということで・・・

ご清聴、ありがとうございました!

<(_ _)>

37