川根 博司

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明治期の医学書における喫煙/禁煙に関する記述
川根博司1),渡辺さゆり2),竹下直子2)
1)日本赤十字広島看護大学 看護学部
2)同 図書館
目的
第20回・第21回学術総会では、明治・大正期の
看護教科書において喫煙/禁煙に関してどのよ
うに記述されているのかを発表してきた。
今回は、明治期の医学書について同様の調査を
行ったので報告する。
なお、内容の一部は第17回アジア太平洋呼吸器
学会(2012年、香港)において発表した。
対象と方法
明治時代(1868~1912年)に出版された医
学書のうち、国立国会図書館近代デジタル
ライブラリーで公開されているものを調査し
た。これらの書物を閲覧して、喫煙/禁煙
に関する記述を探し、35種類の医学書を解
析対象にできた。そして、各書物においてタ
バコ、喫煙、禁煙についてどのように言及さ
れているのかを検討した。
結果(1)
喫煙に関する一番古い記載は、1872年(明
治5年)に出版された『内科摘要』に出てい
る心臓肥大症、心悸亢進症であった。次い
で明治13年出版の『医家断訟学』にはニコ
チン中毒が取り上げてあった。『眼科衛生
学』(明治27年)は弱視、視神経炎について
触れていた。『医学的教育的小児衛生学』
(明治35年)では明治33年制定の未成年
者喫煙禁止法について記載されていた。
『内科摘要』 (ヘンリー・ハルツホールソン/桑田衝平 訳,明治5年)
『眼科衛生学』 (井上達七郎,明治27年)
『医学的教育的小児衛生学』 (沢木伊重,明治35年)
結果(2)
いくつかの内科学・内科書には、喫煙と狭
心症、心筋梗塞、動脈硬化、アテロームな
どの関係が書かれていた。
一方、喉頭炎についての記載が目立ち、喫煙者
に食道癌が多いとの記述もあったが、肺気腫、
喉頭癌、肺癌との関係は述べられていなかった。
患者に対し「喫煙を避ける」、「喫煙を禁じる」、
「禁ずべきものは煙草」などとしているが、具体的
な禁煙支援策は見当たらなかった。
『内科要略 巻三』 (長谷川 泰,明治14年)
『内科要略 巻三』 (長谷川 泰,明治14年)
『日本小内科学』 (竹中成憲,明治37年)
『井上内科新書』 (井上善次郎,明治42年)
『実用内科全書』 (高橋真吉,岡本武次,明治23年)
『愛氏新内科書』 (ヘルマン・アイヒホルスト/橋本節斎 訳補,明治34年)
結論
100年以上前の医学書において、現在確証さ
れている喫煙と病気、特に心血管疾患との関
係が記述されていたことは特筆に値する。
タバコと癌との関係については、食道癌が挙げて
あったものの、喉頭癌、肺癌のことは出ていな
かった。
患者への禁煙指導は、具体的な支援策は示され
ず、ただ喫煙を禁じるのみであった。
第17回アジア太平洋呼吸器学会(APSR 2012), 2012年12月, 香港