Transcript 第2回

生命科学基礎
2.細菌の種類と病原性
真性細菌
古細菌
寄
生
虫
一説によれば、培養できていない微生物は、
全微生物の95 ~ 99.9 %といわれており、
いつの日か300 万種の原核生物が記載さ
れるであろうと述べる研究者もいる。
(駒形和男「Bergey Medal受賞記念総説」)
Procaryote
原核生物
Eucaryote
真核生物
ウイルスはエネルギー生産、蛋白合成に係わる酵素系を欠如しており、この図には含まれない
細菌分類の黎明期: 現代微生物学の創始者
コーン
Ferdinand Julius Cohn
1828 - 1898
コーンは、植物細胞の生育と分裂、原形質流動、細
胞分化を研究し、その研究は、藻類や下等菌類の形態
形成、性、分類などにおよび、ついで細菌の研究に手を
染めた研究者である。彼は、細菌を植物の一部と考え、
「特徴ある形態をもち、クロロフィルを持たない細胞で、
分裂によって増殖し、単細胞、糸状細胞、あるいは集合
体として生育する」と細菌を定義した。バシラス属細菌の
生活環を明らかにし、細菌の属として定義をすることで、
世界で初めて真正細菌を分類した。
44歳で(1872 )、形態から細菌を4 群に大別した。
1)Sphaerobacteria (Cocci; 球菌),
2)Microbacteria(short rods; 短桿菌),
3)Desmobacteria(elongate rods; 長桿菌)
4)Spirobacterien(spirals; 螺旋菌)
1885年 レーウェンフック・メダル受賞(二人目)
細菌分類学とBergey’s Manual of Systematic Bacteriology. 駒形和男、2005
近代細菌学の開祖
感染症研究の開祖
パスツール
1876(33歳) 炭疽菌の純粋培養に成功し、炭疽の病原体で
あることを証明=伝染病の原因となる細菌を最初に証明
病原体であることの証明となる「コッホの原則」を提唱。
1882年3月24日(39歳) 結核菌を発見し、『結核の病因論』を
刊行。(これを記念して、3月24日は世界結核デー)。
1883(40歳) インドにおいて、コレラ菌を発見。
1890(47歳) 結核菌の培養上清からツベルクリンを作成。当
初は治療を目的としたが、診断に現在でも用いられている。
コッホ
Robert Koch
1843 - 1910
1905(62歳) ノーベル生理学・医学賞を受賞。
コッホの原則
1. ある一定の病気には一定の微生物が見出されること (=染色)
2. その微生物を分離できること(=純培養)
3. 分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること
4. そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること
細菌分類の基礎となる染色法の開発
He followed the method of Paul Ehrlich,
using aniline-water and gentian violet
solution. After further treatment with
Lugol's solution (iodine in aqueous
potassium iodide) and ethanol he found
that some bacteria retained the stain
(Gram positive) while others did not
(Gram negative).
エタノールで脱色される
グラム
Hans Christian Joachim Gram
1853 - 1938
1938 デンマークで生まれる
1878 Copenhagen 大学(医学)
1883~1885 Berlinに留学
1884(44歳) グラム染色法の開発
グラム陽性(ブドウ球菌)
グラム陰性(大腸菌)
近代免疫学・化学療法の基礎を確立
ライプツィヒ大学医学生だったころから微細な組織の染色に興味をもち、はじめは
血液染色に着目し、生体染色へと研究を発展させ「血液脳関門」の存在に最初に
気づく。この当時盛んに使用していた染料であるアニリンを使用して染色すると脳
だけが染色されなかったためである。
1878~83 ベルリン大学で内科学を専攻
1885 ベルリン大学年助手(1889 講師、1891 助教授)
1890 ロベルト・コッホの研究室に招かれた
1891 免疫の本体は抗体であると提案(植物の毒素である
リシンとアブリンに対してその抗体を示した)
1896 血清研究所の所長
1904 トリパノソーマに対するトリパンロートの発見
1906 眠り病への特効薬となるアトキシルを発見
1908 メチニコフとともにノーベル生理学医学賞受賞
1912 梅毒に有効な治療剤サルバルサンを発見
(秦 佐八郎が実験を担当)
パウル・エールリッヒ
Paul Ehrlich
1854 – 1915
1882 メチニコフ(乳酸菌長寿説:前回スライド参照)は、体外
から侵入した異物を取り込み、消化する細胞があることを発
見(食菌作用と細胞性免疫の基礎)
嫌気性菌の発見: 北里柴三郎
嘉永5年 - 昭和6年
1886(明治19)年からの6年間、ドイツに留学し、当時、病原微生物学研究の第一
人者であったコッホに師事して研究に励んだ。破傷風菌の培養成功は、留学3年目
であり、コッホによる結核菌の発見(1882 )から7年後、ツベルクリン開発(1890 )
の1年前のことであった。帰国後直ぐに設立した伝染病研究所は、ツベルクリンによ
る結核制圧を目指したものであった。
破傷風菌の純粋培養と病原性の確認
日本の科学者・技術者100人
破傷風の病原体は、見当がつきかけていたが、それを病巣から取り出して人工
培地に純粋に 培養することはできていなかった。北里は、病原体が空気(酸素)の
存在下では増殖できない細菌(嫌気性菌)であろうと考えて、空気を除いて水素ガ
スに置き換え、この中で培養を試みた。こうして純粋培養することができ、さらに、こ
れを動物に注射して破傷風を起こすことに成功した(1889年)。
培地に他の雑菌が混ざった時のみ破傷風菌が増えるため、「他の菌との共生に
よってのみ生存可能」であり純粋培養は不可能と考えられていた。
北里柴三郎と森鴎外とノーベル賞
嫌気性生物
破傷風菌の抗毒素の発見: 血清療法の創始者
破傷風菌の培養から菌体を除き、培養液だけを動物に注射しても、破傷風を起こすことが
できた。 これは破傷風菌が毒素をつくり、菌体外に出すためである。ごく少量から始めて、次
第に増量しながら毒素の注射を繰り返すと、動物は毒素に慣れて、致死量を注射しても死な
なくなる。ベーリングと北里は、この動物の血液(細胞成分を除いた血清だけでよい)のなか
に、毒素の作用を打ち消す化学的な成分(抗毒素)があること、さらにこの抗毒素を正常動
物の体に入れても有効であることを証明した。ジフテリアの場合も同じであった(1890年)。
のちにベーリングやフランスのルーは、抗毒素でジフテリア患者の治療ができることを示
し、ノーベル賞の栄誉に輝いた。
人物探訪:北里柴三郎
小国町の生家に立つ
記念碑からの風景
北里家は清和源氏の流れを汲む武家であり、
柴三郎は幼少の頃から「自分は由緒正しい武家
の血を引いているのだから、立派な武士となって
祖先の名を顕揚 しよう」と決意していた。
ケンブリッジ大学 から、新設の細菌学研究所
所長就任要請を断った返書:
(明治天皇から)帰朝の上、我が帝国臣民の民
の概病(結核)に罹るものを療せよとの恩命あり。
生(自分)は目下他事を顧みずこの研究に従事し、
明年帰朝の上は、我が学び得たるところの術を
もって我が同胞の疾苦を救い、聖恩(天皇の御め
ぐみ)の万分の一に酬い奉らんとの微志に候。
北里柴三郎記念館
1893 結核治療のための土筆ヶ岡養生園を設
立(北里研究所病院)
学校法人北里研究所
2008年4月 北里研究所と北里学園が統合
1914 北里研究所を創立: 社団法人として認
可(1918 )、学術研究機関として認可(1941 )
1957 北里衛生科学専門学院を開設(1996→
北里大学へ継続)
1961 製剤施設を整備→千葉県柏市に家畜衛
生研究所を開設。
1962 学校法人北里学園を創立し、北里大学
を設置
1972 東洋医学総合研究所を開設
1980 本館建物を博物館明治村(愛知県)に移
築保存
明治41年(1908) コッホ夫妻が来日
北里柴三郎・写真で見る150年
君 人に熱と誠があれば何事でも達成するよ。
2001 北里大学付置の北里生命科学研究所に よく世の中が行き詰ったと言う人があるが、これは
改称
大いなる誤解である。世の中は決して行き詰らぬ。
2002 家畜衛生研究所を改組し、生物製剤研 もし行き詰ったものがあるならば、是は熱と誠がな
究所と統合
いからである。つまり 行き詰まりは本人自身で、
世の中は決して行き詰るものではない。
2008 社団法人北里研究所と学校法人北里学
園が統合し、学校法人北里研究所となる
北里柴三郎博士が後進に遺した言葉
北里柴三郎博士が後進に遺した言葉
如何に万能なる学者にしても、悉く専門の学術知識を完備した学者は無い。であ
るから、各専門の学者が一緒に手を取り合ってあらゆる方面で十分に検索しなけれ
ばならぬ。自分の事は自分一人で為るというような狭い領分の下に割拠しているか
ら、広くこれを研究に応用することが出来ず、従って何等研究の成績があがらない
のである。
先生(注: コッホ)の薫陶を受け、先生と同じ学問を研究して居ります私で御座い
ますから、時に或いは学術上に於いて先生と意見の衝突を来たした事も有りまして、
先生の尊厳を冒し参った事も御座いますが、之は学術上の事で、正々堂々 所謂
君子の争いでありますから、その間一点の私心も挿まぬということは、雅量海の如
き先生の夙に御了承あらせらるることと思います。斯くの如きことは、学問に忠実な
る真正の研究者として始めて之を敢えて為し得るのであります。彼の学術研究の何
物たるかを解せず、随って意見なく、徒に他人の説に雷同附加する軽躁浮薄の輩、
若しくは表面は服従を装い裏面にて其の事業を悪口するが如き者、総じて所謂曲
学阿世の徒は、決して斯くの如き趣味を窺い知るものでは御座いません。私はかく
確信致すのであります。学問上の事に於いては、或いは、先生に向かっても尚反対
の意見を申し述ぶることがあるも、之はよんどころなきことと申すより、寧ろ純真な学
者に於いては当然のことに属します。
近代細菌学の開祖
1822年 皮なめし職人の息子として生まれた
1846(24歳) 高等師範学校で博士号を取得
1849(27歳) 酒石酸の性質の解明
1861(39歳) 『自然発生説の検討』を著し、従来の「生命の自然発生
説」を否定
1862(40歳) 発酵の研究: 低温殺菌法(パストリゼーション)の実験
1865(43歳) 蚕の「微粒子病(ノゼマ病)」 の原因として原生生物を特定
1885(63歳) 狂犬病ワクチン開発: 狂犬病を発病したウサギの脊髄を
摘出し、石炭酸に浸してウイルスを不活化する
1895(73歳) レーウェンフック・メダルを受賞
生命は生命から生まれる
パスツール
Louis Pasteur
1822 - 1895
自然発生説: アリストテレスの『動物誌』や『動物発生論』
1665年 フランチェスコ・レディの実験: 密閉容器ではウ
ジが湧かない。
レーウェンフックによる微生物の発見は、自然発生説を蘇
らせた。レディの実験は、空気を遮断したことによるので
はないか・・・
白鳥の首フラスコ
空気が通じている状態で、腐敗しないことを証明!
芽胞の発見
チンダル現象
Tyndall Effect
分散系に光を通したときに
光が散乱し(Rayleigh散
乱)、その通路が斜めや横
から光って見える現象。粒
子径と波長がほぼ等しいと
きに最大となり、光の入射
方向より特に前方側に多く
散乱する特徴がある。
チンダル
John Tyndall
1820 –1893
彼は「光学的に純粋な(すなわち、高度に濾過した)」空気を開発した。その空気
は、ほとんど、あるいは全く、微生物を含んでいなかった。彼が調理した肉をそのよ
うな清浄空気と、通常の空気中に置いた時に起こったことを比較した。清浄空気に
置いたサンプルは、通常のとは違って、腐ることはなかった。これらの研究は、発生
に関するパスツールの最近の証明を拡大するものであった。しかし、この時、最大
限に濾過した清浄な空気においてさえ存在する「芽胞」を発見し、パスツールの「発
生論」を論駁する根拠とされた。その後、彼は「間歇滅菌法」として知られる芽胞を
殺滅する方法を考案するに至り、自然発生説を完全に葬り去った。
病原細菌の分類の大枠ができた
コーン(1872 )による形態学的分類
グラム(1844)による染色性に基づく分類
北里(1889)による好気性菌と嫌気性菌の二大別
芽胞については、チンダル以降、1876年に、コーンの論
文および芽胞菌である炭疽の発見者コッホの論文が独自
に発表されている。
(History of science--spores)
獣医微生物学の教科書における項目
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
グラム陰性通性嫌気性桿菌: 大腸菌、サルモネラ
グラム陰性好気性桿菌: 緑膿菌、ブルセラ
グラム陰性好気性球菌(および球桿菌): ナイセリア
グラム陰性嫌気性無芽胞菌(桿菌と球菌): バクテロイデス
らせん菌群: カンピロバクター、ヘリコバクター
スピロヘータ類: レプトスピラ、トレポネーマ
グラム陽性通性嫌気性および好気性球菌: ブドウ球菌、連鎖球菌
グラム陽性好気性芽胞形成桿菌: バシラス(炭疽、セレウス)
9. グラム陽性嫌気性芽胞形成桿菌: クロストリジウム(破傷風、ボツリヌス、ウエルシュ)
10. グラム陽性無芽胞桿菌: リステリア、豚丹毒
グラム染色(Hucker法)
①
③
1.塗抹標本作製
① 白金耳で生理食塩水または蒸留水を
スライドグラスに1滴とる。
②
② 被検材料を塗抹する。
Hucker液: 原法では石炭酸ゲンチアナ紫が用
いられているが,クリスタル紫とシュウ酸アンモ
死んだ菌は膜の性状が変化しているので、 ニウムの混合液を用いるHuckerの変法は染色
新鮮培養菌を使う。
中に色素の結晶が析出することが少ないために
2.Hucker液にて1分間染色(前染色)
広く用いられている
③ 乾燥後、火炎固定する。
3.水洗 →水をよく切る
後染色(対比染色): アルコールで脱色された
4.ルゴール液を1分30秒以上作用させる グラム陰性菌はそのままでは顕微鏡でみること
ができないので,色調の異なるピンク色のサフ
水洗 →濾紙で水分を吸いとる
ラニン液で染め分ける。
5.無水アルコールにて20秒間脱色
6.すばやく水洗 →水をよく切る
7.サフラニン液で30秒間染色(後染色)
8.水洗 →濾紙で水分を吸いとる
9.顕微鏡観察(対物X100)
グラムが1884年に開発した手法が
現在もほぼそのまま使われている。
試行錯誤の上開発されたのである
が、その原理は?
細胞壁の透過性の違い(説): グラム陽性菌の細胞
壁は色素とヨウ素の複合体を透過させない。
農業生産活動の大半は、古来
の試行錯誤から出来上がって
おり、原理からスタートする工業
生産とは異なる。
(左)グラム陽性菌の細胞壁: 10-100nmの厚みをもつ、一層の厚いペプチドグリカ
ン層(ムレイン)からなる。タイコ酸、リポタイコ酸などの成分を含む。
(右)グラム陰性菌の細胞壁: 多層の薄いペプチドグリカン層の外側に、脂質二重
膜からなる外膜を持つ。外膜にはリポ多糖と呼ばれる脂質成分を多く含む。
コッホによる結核菌発見のエピソード
1882年3月24日、コッホが39歳の時に結核菌を発見したが、それは大半の研究者が諦め
た状況で、「結核は感染症であり、原因菌は必ずいる」という確信の下で行われた試行錯誤の
成果であった。 ⇒北里先生の「熱と誠」の格言
結核で死亡した患者の肺を入手したコッホは、メチレン青染色液で染色してみたところ、青く
染っている菌を偶然に見つけた。コッホの結核研究熱はますます高まり、その細菌の培養に
情熱を傾け、血清を加熱して固めた固形培地を考え出し、これを用いて結核菌を発育させるこ
とについに成功した。 ⇒最初に染まった菌は? どのように培養したか?
細胞壁にミコール酸と呼ばれる脂質を多量
に含有しており、一般細菌では数%の脂質含
量だが、結核菌は20%に達する。このため、通
常のグラム染色では染まりにくく、結果が安定し
ないため、グラム不定と呼ばれる。
一方、媒染剤を加えて加温しながら染色を行
うなどの強力な方法を用いると、染色が可能に
なるだけでなく、一旦染まった色素液が脱色さ
れにくいという特徴を持ち、強い脱色剤である
塩酸アルコールに対しても脱色抵抗性を示す。
この染色法を抗酸性染色と呼び、本法で染色さ
れるマイコバクテリウム属は抗酸菌(acid-fast
bacteria, この場合の”fast”は「酸によっても退
患者喀痰のチール・ネルセン染色
色しない」の意)とも呼ばれている。
Ziehl Neelsen staining
結核菌の発育は一般細菌より格段に遅い
肺は外気と直接触れ、空中に浮遊する様々な微生物が運ばれてくる。免疫力が
低下するとそれらの微生物が肺で増殖することから、結核患者の肺病巣といえども
結核菌だけがいる訳ではない。それを培養すると、発育の早い一般細菌が培地を埋
め尽くし、結核菌が生える余地がなくなる。 ⇒ 一般細菌を生えなくする必要
3%小川培地の場合は、喀痰1容量に対し
4%水酸化ナトリウム2容量加えて攪拌し、そ
の0.1mlを接種する: 強アルカリで一般細菌
を殺してから培養する。 3%はリン酸2水素カリ
ウムの濃度を示しており、長期間の培養にお
いて一定のpHを保つためである。
選択分離培地
⇒ このような困難をコッホは乗越えた
結核菌集落
(コロニー)の
拡大写真
小川培地で培養2ヵ月後の結核菌
37℃で約3週ごから肉眼的に集落が確認可能
呼吸(好気性菌)と発酵(嫌気性菌)
解糖系: グルコース (C6H12O6) + 2NAD+ + 2ADP + 2Pi → 2 ピルビン酸 (C3H4O3) +
2NADH + 2ATP + 2H+
クエン酸回路; 2 アセチルCoA (CH3COSCoA) + 6NAD+ + 2FAD + 2GTP + 2Pi(リン
酸) + 6H2O → 4CO2 + 6NADH + 6H+ + 2FADH2 + 2GTP + 2HSCoA
呼吸
酸化的リン酸化:
10NADH + 10H+ + 2FADH2 + 6O2 → 10NAD+ + 2FAD + 12H2O
グルコース (C6H12O6) + 6O2 + 38ADP + 38Pi → 6CO2 + 6H2O + 38ATP
嫌気性菌は大気中の遊離酸素が菌の生存あるいは成長を阻害するため菌の生長に
遊離酸素の除去が必要となる菌をいう。嫌気性菌が遊離酸素によって傷害されるのは、
酸素が存在するとフラビン酵素系によって還元され、細胞障害作用を示す有毒な O2 が生
じる。 酸素は菌体内で反応して微量の H2O2 、スーパーオキシド O2- などの有毒物質を
生成する. 好気性菌や通性嫌気性菌はこれらの有毒物質を分解するのに必要なカタラー
ゼや superoxide dismutase などの酵素をもっており、他方、偏性嫌気性菌はこれらの
酵素をもたず、これらの有害物質生成が致死的に作用する。
嫌気呼吸
アルコール発酵: C6H12O6 + 2ADP + 2Pi(リン酸) → 2C2H5OH + 2CO2+ 2ATP
乳酸発酵: C6H12O6 + 2ADP + 2Pi → 2C3H6O3 + 2ATP
ペントースリン酸回路
福
岡
大
学
理
学
部
機
能
生
物
化
学
研
究
室
発
酵
呼吸
解
糖
系
:
グ
ル
コ
ー
ス
か
ら
ホ
ス
ホ
エ
ノ
ー
ル
ピ
ル
ビ
ン
酸
TCA回路
電子伝達系と酸化的リン酸化
TCA回路
細菌のエネルギー生成
大腸菌の呼吸鎖
大腸菌のリボソームの推定形態
タンパク合成系
リボソーム: 大小2つの粒子よりなる。大腸菌で
は3種のrRNAと53種のタンパク質、真核細胞で
は4種の rRNA と82種のタンパク質から成る。
rRNA は触媒活性をもつ(ribozyme活性)。
原核細胞: リボソームは細胞質に遊離の状態で
存在する。
真核細胞: リボソームは小胞体膜に結合し、粗
面小胞体を形成する。
リボソームのサブユニット構造と構成成分
原核細胞
真核細胞
23S rRNA
5S rRNA
分子量 計110万
34種のproteins
分子量 計49万
28S rRNA
5.8S rRNA
5S rRNA
50種のproteins
分子量 計300万
16S rRNA
分子量 56万
21種のproteins
分子量 計37万
18S rRNA
33種のproteins
分子量 計150万
抗菌物質
フレミング
Alexander Fleming
1881 – 1955)
アレクサンダー・フレミング
フレミングの実験室はいつも雑然としていて、その事が彼
の発見のきっかけになった。それは1928年に、彼が実験室に
散乱していた片手間の実験結果を整理していた時のことであ
る。廃棄する前に培地を観察した彼は、黄色ブドウ球菌が一
面に生えた培地にコンタミネーションしているカビのコロニー
に気付いた。ペトリ皿上の細菌のコロニーがカビの周囲だけ
が透明で、細菌の生育が阻止されていることを見つけ出した。
このことにヒントを得て、彼はアオカビを液体培地に培養し、
その培養液をろ過したろ液に、この抗菌物質が含まれてい
ることを見出し、アオカビの属名であるPenicilliumにちなん
で、「ペニシリン」と名付けた。
フレミングはリゾチームという抗菌性物質を1920年代に
発見したが、それも全くの偶然から見出したと伝えられてい
る。リゾチームは動物の唾液や卵白などに含まれている殺
菌作用を持つ酵素であるが、細菌を塗抹したペトリ皿に、フ
レミングがクシャミをしたことで発見された。数日後、クシャミ
の粘液が落ちた場所の細菌のコロニーが破壊されているの
を発見したことが、彼の実験ノートに書きとめられている。
無菌操作が不完全で
クシャミしたことを恥じ
ない客観的観察眼
ペニシリンG 構造式
ベンジルペニシリンの3Dモデル
生合成ペニシリン: 天然ペニシリンを産生するアオカビの培
養液に別の原料を人為的に添加し、生合成的特性を利用し
て誘導体化した一群のペニシリンを生合成ペニシリンと呼ぶ。
半合成ペニシリン: 天然ペニシリンや生合成ペニシリンを原
料にして、化学的な修飾を施して開発されたものを半合成ペ
ニシリンと呼ぶ
合成ペニシリン: 1940-50年代前半には、その構造の複雑さ
からペニシリンを化学的に全合成することは不可能だと考え
られていたが、1957年、ジョン・シーハンがペニシリンVの全
合成に成功した。これによって化学合成法が確立されると、そ
れまで培養を必須としていたペニシリンの生産技術が変革し、
従来の天然、生合成ペニシリンが化学合成されるようになる
と共に、新たに化学合成による新しいペニシリン系化合物が
開発された。
ペニシリンは細菌が細胞壁を作るのに必要な酵素PBP(ペニシリン結合タンパク)にくっ
ついて作用する。多くの耐性菌はβラクタマーゼを産出することでペニシリンを分解して耐性
を得ている。ベータラクタマーゼはPBPの一種であり、たまたまペニシリンを分解する活性が
あったものと考えられる。もともと染色体上に持っていたPBP遺伝子を発現できる菌株が、
人間がペニシリンを乱用したことで淘汰に生き残り、βラクタマーゼ産出菌の割合が増えてき
たのだと考えられている。
ペニシリン
滅菌、殺菌、消毒
間歇滅菌法(Tyndallization): 煮沸滅菌法を繰り返すことによって芽胞をも滅菌
する方法。1日15-30分間煮沸し、その後常温に放置することを3~5回繰り返す。
栄養型菌は殺され、生き残った芽胞は発芽し(後にHeat Shock現象として知られ
る)、再び、抵抗力の弱い栄養型菌になったところで次の加熱を行う。これを繰り
返すことによってほぼ完全に滅菌することが可能tなる。
滅菌(sterilization): 医療器具、培地、医薬品などすべての微生物を殺滅・除去
する必要がある場合に行い、滅菌された状態を「無菌的である(sterile)」と呼ぶ。
その方法には、火炎滅菌、高圧蒸気滅菌(オートクレイブ; 121℃、15分)、乾熱
滅菌(180℃、30分)、ガス滅菌(エチレンオキサイド、ホルマリン)、放射線滅菌が
ある。常圧の煮沸、間歇滅菌、濾過滅菌は不完全である。
殺菌(pasteurization): 特定微生物を殺滅・除去すること。たとえば、牛乳の殺
菌(63℃、30分)は結核菌を対象としている。
消毒(disinfection): 病原微生物を殺滅、除去、低減して生活の場から遠ざけ、
感染の機会を減ずる措置。消毒薬や消毒器具には、国の基準と検定がある。
商品表示の除菌・抗菌・静菌: 法的根拠がない。科学者の「化学物質の抗菌活
性」や「抗菌剤の殺菌効果と静菌効果」という使用法とは異なり、商品表示の意義
は不明(販売者と購入者の誤解促進?)
微生物の世界 (Web講義室)
国際原核生物分類命名委員会
International. Committee of Systematics of Prokaryotes (ICSP)
Volume 1 (2001) : The Archaea and the
deeply branching and phototrophic
Bacteria
Volume 2 (2005) : The Proteobacteria
Volume 3 (2008) : The Firmicutes
Volume 4 (2008) : The Bacteroidetes,
Planctomycetes, Chlamydiae,
Spirochaetes, Fibrobacteres,
Fusobacteria, Acidobacteria,
Verrucomicrobia, Dictyoglomi and
Gemmatimonadetes
Volume 5 (2009) : The Actinobacteria
Bergey's Manual Trust
Bergey's Manual of Determinative Bacteriology
Bergey's Manual of Systematic Bacteriology
生物分類表
細菌分類学とBergey’s Manual of Systematic Bacteriology. 駒形和男、2005
生命科学基礎
2
岡本嘉六(鹿児島大学農学部獣医学科 獣医公衆衛生学)
アクイフェックス門 (Aquificae)
サーモトガ門 (Thermotogae)
サーモデスルフォバクテリア門 (Thermodesulfobacteria)
デイノコッカス・サーマス門 (Deinococcus-Thermus)
クリシオジェネス門 (Chrysiogenetes)
緑色非硫黄細菌門 (Chloroflex)
サーモミクロビア門 (Thermomicrobia)
ニトロスピラ門 (Nitrospira)
デフェリバクター門 (Deferribacteres)
シアノバクテリア門 (Cyanobacteria)
クロロビウム門 (Chlorobi)
病原微生物を学ぼう!
プロテオバクテリア門 (Proteobacteria)
グラム陽性細菌門 (Firmicutes)
放線菌門 (Actinobacteria)
プランクトミセス門 (Planctomycetes)
クラミジア門 (Chlamydiae)
スピロヘータ門 (Spirochaetes)
病原微生物
フィブロバクター門 (Fibrobacteres)
アシドバクテリア門 (Acidobacteria)
バクテロイデス門 (Bacteroidetes)
フソバクテリア門 (Fusobacteria)
ベルコミクロビア門 (Verrucomicrobia)
病原細菌
ディクティオグロムス門 (Dictyoglom)
データベース
ゲマティモナス門 (Gemmatimonadetes)
シロアリ腸内の微生物
抗生物質
The Taxonomic Outline of Bacteria and Archaea
微生物学
生物分類表
International. Committee of Systematics of Prokaryotes, ICSP
生物分類表 - 真正細菌ドメイン
細菌の系譜(系統分類)
産総研の微生物の安全度レベル分類表
真正細菌
微生物
細菌学
さらに1977年には、転写されたRNAはそのままタンパク質に翻訳されるのではなく、イン
レトロウイルスと逆転写酵素(reverse transcriptase)の発見
トロン(intron)部分を取り除き、エキソン(exon)部分をつなぎあわせる、スプライシング
(splicing)の処理が、高等生物では広く一般的に行われていることが見いだされました。
つまり、高等生物の遺伝子はゲノム上で一般に分断されており、核内でRNAへの転写と
スプライシングが行われ、核の外に輸送されたメッセンジャーRNAをもとにタンパク質へ
の翻訳が行われるのです。これはセントラルドグマの情報の流れに反するものではあり
自分の頭で考える~ウイルス研究からがん遺伝子の発見へ~
ませんが、RNAの転写後処理という重要なステップを、もちろんセントラルドグマは予期
していませんでした。また、より限定された生物種の範囲ですが、転写されたRNAが削除
以外に挿入・置換の変更を受けるRNAエディティング(editing)も見つかっています。RN
Aの転写後処理はゲノムから遺伝子への情報発現の分子機構として、進化的意味が隠
されているようです。
レトロウイルス 逆転写酵素 発見
遺伝情報に関する4つの基本過程
高校生物 分子遺伝学
70年のテミン、ボルティモアによる逆転写酵素の発見
テミン(Howard M. Temin)
いのちを作るウイルス
逆転写酵素 発見
70年、水谷哲とともに、RNAをDNAに転写する逆転写酵素を発見したのです。私
1970年に発見
Temin and Mizutani,1970. RNA-dependent DNA
polymerase in virions of Rous
sarcoma virus. Nature, 226,1211
分子進化のメカニズム
微生物学で最も重要な大発見
ゲノムと遺伝子
細胞タイプは原核と真核に大分類されますが、生物の分類としては原核細胞
を持つ原核生物は古細菌(アーケア、Archaea)と真性細菌(Eubacteria)に
さらに分類されます。 結局、NCBI Taxonによると生物の大分類は以下の
ようになります。
Archaea
(アーケア)
Eubacteria
(真性細菌)
Eukaryota
(真核生物)
Viroids
(ウイロイド)
Viruses
(ウイルス)
Other
(その他)
Unclassified (未分類)