大気モデルの現状と改良計画について (watanabe_03.03.13

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Transcript 大気モデルの現状と改良計画について (watanabe_03.03.13

大気モデルの現状と改良計画に
ついて
地球フロンティア・モデル統合化領域
渡辺真吾
話の流れ
 序説:中層大気大循環のレビュー
– 中層大気における放射平衡
– 波動が生み出す大気大循環
– 対流圏への影響
 モデリングにおける主要な問題点
– The “Cold Pole” Problem:
 オゾンホール・シミュレーションへの悪影響
 改良へのアプローチ
– 水平・鉛直解像度の向上
– レイリー摩擦
– 重力波抵抗パラメタリゼーション
 T106L40モデルの現状
– 赤道QBO:
 物質循環への影響
 中・高緯度の気候変動への影響
 QBO再現へのアプローチ
– 鉛直解像度向上
– 重力波ソースの調整
– 重力波抵抗パラメタリゼーション
 T106L40モデルの現状
– 対流圏界面付近の低温・湿潤バイアス
 T106L40モデルの現状
 中層大気化学への影響
 放射強制と正のフィード・バック
 解決のためのアプローチ
– σ-p hybrid 鉛直座標系の導入
– 鉛直高解像度化
1.中層大気大循環のレビュー
1-1.中層大気における放射平衡
成層圏オゾンと紫外線加熱
 CCSR/NIES
AGCM5.7bで用いられ
るオゾンデータ(上)
 AGCMの放射スキーム
で計算された短波加熱
(下)
7月 O3 [ppmv]
中層大気における放射
平衡の概念図
UV
80km
0km
IR
UV加熱CO
[K/day]
2&O3
O3
SP
NP
放射平衡温度(7月)
 AGCMの放射スキー
放射平衡温度 [K]
ムを用いて、乾燥大
120
気を仮定し、日変化・ K
季節変化を含めて計
算した温度(上)
 観測(下)に比較して
冬極(南極)の温度が
265
著しく低い⇒力学的 K
加熱の重要性を示唆
観測:CIRA86 [K]
100
280
1.中層大気大循環のレビュー
(つづき)
1-2.波動が生み出す大気大循環
波動が生み出す子午面循環
 対流圏で励起された波
動が中層大気中で散逸
されることにより、東西
平均流を加速・減速する
 波による加速・減速が、 下降流に伴う力学加熱
南北方向の流れを誘起
し、夏極で上昇、冬極で
下降する子午面循環を
形成
 下降流に伴う力学加熱
Plum (2002)
中層大気大循環を駆動する波動
 プラネタリー波: P
– > 5000 km ( k = 1,2,3 )
– 大規模山岳(ヒマラヤ等)
– 海-陸・熱的コントラスト
 内部重力波: G
–
–
–
–
小規模:100 m –
小規模地形
対流活動
ジェット気流・前線活動
E
W
1.中層大気大循環のレビュー
(つづき)
1-3.中層大気の変動が対流圏にも
たらす影響
成層圏-対流圏結合系
波による強制
 成層圏で重要な大規模波動(プラネタリー波)
は対流圏で励起され上方に伝播してくる
循環場の
 対流圏の循環場の変化(植生・雪氷面積の変
応答
化を含む)は成層圏に大きな影響を与える
→ 対流圏変動が成層圏変動を支配する
 成層圏で波が減衰して運動量や熱を放出する
際に、下方(対流圏を含む)の循環場に影響を
与える。「ダウンワード・コントロール原理」
→ 上下両方向の結合システムが存在する
成層圏-対流圏結合系の例:北極振動
 Thompson and Wallace (1998) 20-90 N、
11-4月平均海面気圧に関して、EOF解析。
 60N付近を節とし、北極域-中緯度帯間で気圧
がシーソーのように振動する第一モード。下部
成層圏まで続くこの変動を「北極振動」と名づけ
た。
O
北極振動の下方伝播
 Baldwin and Dunkerton(1999) 北極振動の
シグナルが最初に上部成層圏に現れ、3週間
程度をかけて対流圏まで下りてくることを指摘。
 Kuroda and Kodera (1999) 成層圏の極夜ジ
ェットとプラネタリー波の相互作用が、大きく寄
与していることを指摘。「極夜ジェット振動」
2.モデリングにおける
主要な問題点
2-1.The “Cold Pole” Problem
The “Cold Pole” Problem
 AGCMで再現される波
7月温度偏差(-CIRA86)
の活動度が不足するた
め、高緯度では力学加 -45K
熱が不足し、観測よりも
低温になる
-10
 強くて安定な極渦を伴う
 波の活動度は、波の励
起源の強さとともに、
180
AGCMの空間解像度に m/s
大きく依存
 右図はT21(5.6°格子)
+10
東西風
オゾンホールの発生・発達
 フロンガスが上部成層圏で光解離され塩素を発生
→通常環境下ではHClやClONO2として安定に存在
 極夜の下部成層圏が極渦によって周辺大気から孤立
→ オゾン輸送の阻害、低温
SP
 極成層圏雲(PSCs)表面上における不均一反応によ
り活性化塩素が発生・蓄積 ← Cold Pole 影響
 極夜終了(日射回復)に伴いオゾンを破壊する触媒反
応が激化 → 急速なオゾン破壊
 PSCsが蒸発し、極渦が壊れて周辺大気との混合が
生じるまで、極域のオゾン濃度は低いまま保たれる
← Cold Pole 影響
(NASA homepage)
オゾンホール・シミュレーションへの
悪影響
 高緯度低温バイアスは南極オゾンホールを観
測事実よりも悪化&長続きさせる・・
観測より極域が低温
顕著なオゾン減少
UV加熱減少
より低温化
正の
フィード・バック
改良へのアプローチ
 1-1.水平解像度の向上(波を増やす)
– 力学加熱を作り出す波の総エネルギーは、AGCM
で表現できる波のスケールが広がれば増える
T21 (5.6°)
T106
(1.1°)
計算機資源の制約から、従来は別の方法がとられ
て来た、今回もT106で波が不足した際には・・・
改良へのアプローチ(つづき)
 1-2.鉛直解像度の向上
– 重力波の伝播には、風の鉛直シアーが重要
– 重力波の散逸には、重力波同士の波-波相互作用
を表現できる、幅広いスペクトル分布が重要
– これらは鉛直解像度が低いと表現できない
L40
L225
改良へのアプローチ(つづき)
 2.レイリー摩擦の導入(最も単純な摩擦項)
– 現実世界で重力波が担っている中間圏における摩
擦効果を、人工的に表現する
使用
なし
– 摩擦係数αは、重力波が増幅・散逸する中間圏で
180 大きな値となるように任意の鉛直勾配をつける
120
m/s
m/s
Vt = - Vα(z)
せっかくAGCMの解像度の範囲内で表現できてい
る重力波を人工的に潰してしまう悪影響
改良へのアプローチ(つづき)
 3.重力波抵抗パラメタリゼーションの導入
– 現実世界で重力波が担っている中間圏における摩
擦効果を、人工的に表現する
– 重力波の励起・伝播・散逸の各過程を、観測・理論
に基づいてパラメタ化したもの(Lindzen, Hines,..)
– レイリー摩擦に比べて物理的な近似度は低く、様々
な形式のものが世界中で用いられ始めている
そもそも重力波の観測が不十分なため、パラメタ化
も成熟しておらず、様子を見たほうが良い段階・・
T106L40中層大気版の現状
 3年平均の高緯度低温バイアス
– 南半球冬季(7月)の低温バイアス: -10K 程度
– 極夜ジェットのピーク: 100 m/s 程度
– 鉛直解像度の低いテスト版としては良好
– 北半球冬季の再現性には改良の余地が残る
L40 T
L40 U
2.モデリングにおける
主要な問題点(つづき)
2-2.Quasi Biennial Oscillation
(QBO)
赤道QBOとは?
 赤道上空・下部成層圏の東西風が約28ヶ月周期で変
動する現象(床屋の看板のように下方伝播)
 対流圏から伝播する赤道波(Kelvin波, 混合ロスビー
重力波)と、より規模の小さい重力波が、東西風の鉛
直シアーと相互作用する結果形成される
 AGCMでの再現が困難な現象のひとつ
Baldwin et al. (2001)
QBOと物質循環
 熱帯-亜熱帯では、QBOに伴って上向き-高緯度向き
の物質循環が変調を受ける
 対流圏から成層圏への化学物質の輸送速度が約28
ヶ月周期で変動する
Baldwin et al. (2001)
QBOと気候変動
 熱帯下部成層圏の東西風が変化するのに伴って
(QBOの位相変化によって)、冬半球のプラネタリー波
の伝播経路が変化し、冬季の対流圏の気候にも影響
を及ぼす
 QBO西風⇔冬半球の西風が強くなる
Baldwin et al. (2001)
QBO再現へのアプローチ
 1.鉛直解像度の向上
AGCMの鉛直解像度
– QBO形成に重要な重
L225
力波の鉛直波長は短
い
– QBO形成に重要な東
西風の鉛直シアーは
鉛直解像度が低いと
表現できない
L120
L40
L34 成層圏
化学(永島3)
IPCC
QBO再現へのアプローチ(つづき)
 2.重力波ソースの調整
AGCMで自発的に生成された
– QBO形成に重要な重力波は、その周期および水
平・鉛直波長に関して幅広いスペクトルを持つ
QBOの例
– かつ、十分な振幅(運動量フラックス)の波が出る
ように調整が必要(積雲対流スキームを調整)
– 水平解像度が不十分な場合、モデル中で用いら
れる数値粘性を弱めに設定する必要もある
 統合モデルでは、1+2の組み合わせにより、
QBOの自発的生成を目指したい
– 現在L120でテスト積分を行っている
Takahashi (1999)
重力波パラメタリゼーション導入
QBO再現へのアプローチ
により再現されたQBOの例 (つづき)
 3.重力波パラメタリゼーションの導入
– モデルの解像度が不十分であり、十分な重力波
を表現できない場合には、重力波パラメタリゼー
ションによってQBOを再現することもできる
– だだし、QBOに伴う鉛直シアーを表現できる鉛直
解像度(1km未満)が必要であり、なおかつ、ある
程度までモデル中の重力波が豊富でなければな
らない
Giorgetta et al.(2002)
T106L40中層大気版の現状
 赤道上空東西風(3年間の時間-高度断面)
– QBOの高度では常に弱い東風
– 成層圏界面付近(~1 hPa)を中心とする半年振動
(SAO)も観測に比較して非常に弱い
2.モデリングにおける
主要な問題点
2-3.対流圏界面付近の低温・湿潤バ
イアス
対流圏界面付近の湿潤・低温バイアス
 現状のAGCMは、対流圏界面付近では観測に比較し
て温度が低く、かつ水蒸気量が多すぎる傾向にある
T bias (-ERA)
-10
+10 [K]
q bias (-ERA)
-10
+10 [ppmv]
湿潤・低温バイアスを改善しない場合
の悪影響
 中層大気中の水蒸気分布が現実的でなくなることから
– オゾンホール形成に重要なPSCs
– オゾンをはじめとして様々な物質と反応するHOx
 対流圏界面付近の水蒸気量が多くなることから
– 水蒸気による放射強制力の過大評価(対流圏の温室効果)
– 水蒸気による赤外冷却の過大評価による正のフィード・バッ
ク効果(ますます対流圏界面付近が冷える)
– 対流圏上層雲が増加(OLRが小さくなりすぎる)
湿潤・低温バイアス改善へのアプローチ
 鉛直高解像度化
– 対流圏界面付近の熱的構造の改善
– 対流圏界面付近の水蒸気輸送の改善
 移流スキームの見直し
– 過剰な鉛直移流を抑制する
 雲の形成に関するパラメタリゼーションの見直し
– 積雲対流の背が高すぎるかもしれない
– 上層雲が多すぎるため、雲自身の放射冷却により対流圏界
面付近の温度が低くなりすぎている可能性がある
今後の課題
 化学結合サブモデルの開発に向けて
– 適度に重力波の相互作用が表現でき、QBOが再現できる
ような、鉛直解像度を模索
– 対流圏界面付近のバイアスの改善
– リーズナブルな計算時間で結果が得られるように高速化
 そろそろサブモデルの名前を考えませんか?