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これだけは知っておきたい
地球温暖化
(画面をクリックすると先に進みます)
日本橋学館大学
(2009年9月柏キャンパスでの公開講座の為に作成)
古山英二
地球温暖化は、一言でいうと、
エネルギー問題である。
英語のenergy、ドイツ語のEnergie、語源は、
ギリシャ語のエルゴン(εργον)=仕事という名
詞に前置詞のεν(en)がついた、ενεργον(エネ
ルゴン)=仕事中
中学理科の教科書には、エネルギーの種類と
して、熱エネルギー、電気エネルギー、光エネ
ルギー(太陽光電池)、弾性エネルギー(バネ、
ゼンマイ)、音のエネルギー等々が挙げられて
いる。
そのようなエネルギーの種類をまとめると
エネルギーは、
“熱”と“仕事=運動”に大別することが出来、“熱”と
“仕事”は相互に変換可能であり、
蒸気機関も内燃機関も,
熱による空気の膨張を利用して仕事をする、
運動中の物体を外部からの力で停止させると(ブレー
キをかけると)、“仕事”は“熱”に変換する、
ここまでは中学レベルの理科の知識で納得できるが、
太陽電池の発電原理となると、
中学レベルの物理では理解できない
太陽電池の解説には、
太陽電池は、P型とN型の半導体で構成されてい
ます。これに太陽光があたると太陽の光子により、
P型とN型の半導体接合部が励起され、
P型半導体内部で発生した自由電子は、N型半
導体に、N型半導体内部で発生した正孔はP型
半導体側へそれぞれ移動し、半導体間に電位が
生まれます。
そこで、この半導体の両側に負荷を接続すると、
直流電流が流れ電気エネルギーが取り出せるこ
ととなります。
と説明されている、がよく分からない。
以上の説明を聞いてピンと来るには、
大学の理学部で光子、素粒子、電磁波、量子、量子力学等々を
学習しなければならない。
目で見えるもの、肌で感じられるもの、耳で聞こえるもの、舌で味
わえるもの、鼻で嗅げるもの、即ち5感のみに頼っていては自然
現象を理解したり、説明したりすることが不可能になってきた。
ニュートン力学=古典力学の世界から更に発展して、
電子や原子核などの微視的な粒子を対象にした物理学が誕生し、
粒子と波動の二重性や確率的解釈、不確定性原理、等々、それ
までの古典物理の常識が通用しなかった自然現象の解明が可能
となった→現代物理学の成立。
現代物理学は、アルバート・アインシュタインが光電効果、ブラウ
ン運動、特殊相対性理論の3つの重要な理論を発表した1905年
に始まるとされている。
地球温暖化という現象を厳密に理解する
ためには、現代物理学の知識が必要、
ここでは中学・高校レベルでの理科の知識、古
典物理学の世界にとどまる。
速度が光の速度以下であり、物質の大きさが
分子レベルであれば、古典力学は通用する。
冒頭で「地球温暖化はエネルギー問題である」
と述べた。
エネルギーは、“熱”または“仕事”として日常
的に経験され、しかも両者は共通の単位で測
定される。
熱量は、常識的に、カロリーで測定される
水1gの温度を1℃上昇させる熱量を1カロリー
(1cal.)であるとされているが、
1948年の国際度量衡総会でカロリーを使用しな
いようにと決議され、
我が国では1999年10月以降、栄養学・生物学の
分野を例外として、カロリーの使用は禁止された。
理由は、水の比熱が温度により異なるため、
0℃の水1gを1℃上げるのと、15℃の水1gを1℃
上げるのとでは、必要エネルギーが異なるからで
ある。
ジュール(1818~1889)の実験
熱量は仕事量に転換される
左右の重りの重量差(重力)
により攪拌機が回転する。
攪拌されると、水の温度が上
昇する。
仕事量を物差しの目盛りで測
定、水の温度の上昇を温度
計で測定、カロリーで計算し
たところ、
約4.2の仕事量が1Cal.の熱
量に等しいことを発見した。
仕事量約4.2J=熱量1Cal.
1J=0.238Cal
水の比熱は温度により異なるので、
15℃の水:1Cal=4.185J
20℃の水:1Cal=4.182J
0℃の水 :1Cal=4.219J
熱量、仕事量の測定には、時間を加味する必
要がある。即ち、1秒間に何ジュールの仕事か、
何ジュールの熱量か、と言う具合に。
単位時間当たりの仕事量=仕事率をワットで
表す。
ワット(W)=仕事(J)÷時間(秒)
力・仕事・熱
ニュートン力学における“力”の源は“重力”
10kgの物体を垂直に1秒間で1m引き上げる力を
計算すると、重力は1秒間に9.8m落下する速度に
重量を掛けた値だから、計算式は:
10kg × 9.8m/秒 ×1m = 98J、
10kgの物体を1秒間に垂直方向に1m引き上げる
力を持つモーターは98J/秒=98ワット
仕事率の単位として馬力が使われる:
フランス式馬力(PS):1kg/75m/1s=735.5W
英式馬力(hp):1bf/550ft/1s=745.7W
フランス式馬力は当分の間使用できるが英式馬力
の使用は昭和33年以来禁止されている。
以上をまとめると→国際単位系
Le Système International d‘Unités :SII
熱量、仕事量に関するSIIはジュール=Joule=J
で表現される。
日常的感覚では、ジュールは小さいのでKjを使
うと、
1Kwの装置が1秒間に行う仕事量=1Kj
1Kjの熱量で0℃の氷3gを溶かすことが出来る。
地球上で100 kgの物体を1 m(または1 kgの物
体を100 m)持ち上げたときの仕事は、約1 kJで
ある 。
エネルギー=熱量、仕事量の源泉
我々人間は、体温を維持しながら仕事をしている。
中程度の活動をする人の、一日一人当たりカロリー摂
取必要量は、体重1kg当たり、30~35Kcal (平均
32.5Kcal)←日本医師会
日本人の平均体重は、厚生労働省の「国民栄養調査」
によると、男子=65kg、女子=50kg、 平均=57.5Kg
32.4 x 57.5 = 1,863Kcal
1,864Kcalを人間は食物から得ていると同時に、
食物を得るためにエネルギーを消費している。
議論の単純化のために、
人間は全てのエネルギーをトウモロコシから
得ていると仮定して、
1ha(約3000坪=1町歩)当たりトウモロコシ
産出量(Kg)と、産出のための必要エネル
ギー投入量(1000Kcal)を、人力、家畜力、
機械力に分けて計算した数値が
Energy and Agricultureという学術誌に載っ
ていたので引用する。
3000坪当たりのトウモロコシ収穫量
人力・畜力
人力・機械力
A)収量Kg
1,944
7,000
B)労働時間
1,144
12
C)投入エネルギー1,000Kcal
642
6,958
D)産出エネルギー1,000Kcal
6,901
24,500
10.7
3.5
産出/投入比 D/C
人力・畜力VERSUS人力・機械力
機械力を使うと産出エネ
ルギーは増加するが、
投入エネルギーも増加
する。
結果として、単位当たり
エネルギー投入量では
人力・畜力の方が効率
的。
ただし、経済的には機械
を使う方が効率的。
その理由は、エネルギー
価格が安いからである。
人力・畜力
人力・機械力
A)収量Kg
1,944
7,000
B)労働時間
1,144
12
C)投入エネルギー
1,000Kcal
642
6,958
D)産出エネルギー
1,000Kcal
6,901
24,500
産出/投入比 D/C
10.7
3.5
我々の豊かさとは、
我々が必要とするエネルギーを、
安価なエネルギー源を大量に使って、
経済効率的に大量に生産し、
生産されたエネルギーを、
大量に消費することで実現している。
エネルギーは何故“安価”とされているのか。
石油の採掘可能年数で考えると、
石油の確認埋蔵量と可採年数
億バーレル
石油の確認埋蔵量
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
1975
1985
1995
西暦
2000
2005
石油の採掘可能年数
50
40
可採年数
30
20
10
0
1975
1985
1995
西暦
2000
2005
技術的に採掘可能であるこ
とが確認されている石油の
埋蔵量を確認埋蔵量という。
確認埋蔵量をその年の生産
量で割った数値が可採年数。
2005年可採年数は45年、
つまり2005年の生産量で採
掘を続ければ45年で石油は
枯渇する。
そのような資源の価格を、
誰がどのように決めている
のか。
ちなみに、石炭の2005年の
可採年数は147年、天然ガ
スは63年、ウランは85年。
我々が使うエネルギーの元の元は、
石油でもなく、天然ガスでも、ウランでもなく、実は、
太陽である。
水力は水の落下=重力の利用であるが、水を重力に逆
らって下から上に運んでいるのは蒸発=太陽エネルギー
化石燃料は全て太陽エネルギーを使って地球に生息した
生物が起源
そもそも地球は46億年前に、原始太陽の周りに渦巻いて
いた高温の塵やガスが冷えて集まり微惑星を作り、微惑
星がぶつかりあって大きな原始惑星が作られ、原始惑星
(地球)はさらに小さな惑星との衝突を繰り返し大きくなり、
衝突による高熱で表面はマグマで覆われ大気は噴出ガス
(CO2,N2、水蒸気)で覆われていた。やがて衝突がおさま
り表面が冷えて雲を作り雨が降り続いて海が作られたの
だから、全てのエネルギーの源は太陽。
そこで、地球と太陽について考える
赤道半径は6,378,137m
極半径は6,356,752m
平均半径6,367km ≒球形
右は、縮尺41,849,600:1の地球
儀で半径15cm
地球から太陽までの距離は、
150,000,000km
これを1/41,849,600にすると
3584m=3.6km
半径15cmの地球儀から3.6km
離れたところが太陽の位置
同様縮尺で太陽半径:16.6m
太陽は、地球から1億5000万Kmの
彼方にあって
赤道半径696,000Km、
地球の109倍
表面温度5,780K(5,507℃)
総輻射量:3.85 x 1026W
1026=10億x10億x1億
太陽のエネルギー源:重水素(原子量2)
をヘリウム(原子量4)に変える核融合に
よってエネルギーを放出している。
地球における太陽エネルギー収支
年平均見積もり(IPCC2007年)
IPCCのエネルギー収支表は
複雑で解り難いので、
Oklahoma Climatological Surveyと
いう、
オクラホマ州政府が州民啓蒙のため
に掲載している
Earth Energy Budget (地球エネル
ギー収支)を参照する。このサイトは、
http://climate.ok.gov/
地球の年平均エネルギー収支
地球のエネルギー収支のパーセント表示
地球に到達するエネル
ギーの30%は反射される。
残りの70%は地球に吸
収されるが、
再び大気圏に向けて再放
射される。
エネルギー輻射と放射が
同じであれば、地球の温
度は変化しない。
単位の名称
0の数
欧文名称
記号
漢字名称
15
peta
P
千兆
12
tera
T
一兆
9
giga
G
十億
6
mega
M
百万
3
kilo
K
千
2
hecto
H
百
1
deca
Da
十
deci
D
十分の一
centi
C
百分の一
milli
M
千分の一
micro
μ
百万分の一
nano
n
十億分の一
pico
p
一兆分の一
地球の大気圏を通過して、
地球に到達する太陽エネルギーの総量は、放射
照度で1平方メートル当たり342ワット、
“放射照度”=球体である地球が受ける放射を、
平面が受ける量に換算したもの
地球全体で、174ペタワット、生物の生存に適度
にして、極めて十分なエネルギー量である。
このような“適度”性は、地球の太陽からの距離
と地球大気の存在とその性質のお陰である。
太陽からの距離が地球の0.72倍
(約3割太陽に近い)
大きさは地球とほぼ同じ
で、大気圏を持ち、
大気圏の組成が96.6%
二酸化炭素である金星の
表面温度は、
最低228K (零下45℃)
最高773K (500℃)
右の写真は地球との比較
金星に海は存在しない
太陽から地球に放射される、
エネルギーの30%は反射され、70%は地球に吸収され、
地球は暖められるが、
地表からは、遠赤外線(熱線)としてエネルギーが大気
圏を通して宇宙空間に向けて放射される。
遠赤外線とは、太陽光の内、波長8~15ミクロン(μm=
百万分の一メートル)の電磁波で赤外線(波長0.75~
1000μmの電磁波)の一種で、
生物の生存に不可欠な要素の一つ。
ちなみに、可視光線の波長は0.36~0.83μm、
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順番で短波長となる。
三原色:R=0.700μm, G=0.546μm, B=0.436μm
極めて大ざっぱな例えでいえば、
厳寒の野原(宇宙空間)で、電気コンロ(太陽)
で湯(地球)を沸かすと、
電気コンロに電気が付いている間は(昼)は湯
は温度を保つが、
電気が切れれば(夜)湯はどんどん冷える。
しかし、熱を反射する反射板(大気圏)がある
ので、湯は暖められ、適度な温度に保たれる。
例え話を事実関係に置き換えると、
太陽からの放射は大気圏でフィルターされ、紫外
線~可視光線~赤外線となって地表面に入射し、
この入射量につり合うために、顕熱、潜熱に加え、
地表面はそれに見合う長波放射を行う。
地表面からの長波放射は、大気中の特定ガスに
吸収され、再び地表に放射される。
そのようなガスが“温室効果ガス”と呼ばれる。
その結果、地表の平均大気温度は、
15℃前後に保たれている。
地表の平均大気温度が、
288.15K(15.15℃)に保たれているという事実は、極
めて重要な意義を持つ。
地球の誕生は46億年前と推定されている。
地球の誕生から人類の誕生までの期間を総称して
“地質時代”(geological age)と呼ぶ。
地質時代は、25億年前に始まる原生代から古生代、
中生代、新生代に区分され、
65万年前から始まる新生代は、更に6期の“世”に細
分され、最近世が更新世(洪積世)であり、
更新世は180万年前から1万年前まで続いた。
更新世の次の“世”が完新世で、我々は完新世時代
に暮らしている。
更新世時代の地球は、
ほとんど氷河に覆われていた。
約1万年前から氷河が溶け始め、気温が安定し、
春夏秋冬の四季が定期的に訪れるようになり、
農業発祥の気候的環境が整い、文明の誕生と人類の
一大繁栄の時代を迎えた。
大気の平均温度が15.15℃前後に保たれてきたのは、
太陽エネルギーの入射と地表からの遠赤外線放射が
微妙なバランスを保ってきたからであり、
その微妙なバランスを保っているのが、温室効果ガス
の存在である。
温室効果ガス(Greenhouse Gas)
地表面からの長波放射は、
大気中の温室効果ガスに吸収され、
再び地表に放射される。
「温室効果」を持つガスは数多く知られているが、
1997年12月11日京都国際会議場において「国連気
候変動枠組条約」の下で調印された「京都議定書」
は、「温室効果ガス」を次の6種類規定している。
Greenhouse Gas(温室効果ガス)
別名Kyoto Gas
二酸化炭素(CO2)
メタン(CH4)
一酸化二窒素(N2O)
クロロフルオカーボン(CFC-11)
ハイドロフルオカーボン(HFC-23)
四フッ化炭素(CF4)
温室効果ガス(Kyoto Gas)
の諸特性
CO2
CH4
N2O
CFC-11
280
715
270
存在せず 存在せず
存在せず
ppm
ppb
ppb
319
251
ppm
1774
ppb
ppb
ppt
18
ppt
濃度の変
化率
1.9ppm
per year
1.6ppb
12 years
0.7ppb
Per year
-1.9ppt
per year
0.6ppt
Per year
74
ppt
--
大気中の
寿命
50~200
years*
12
years
114
years
45
years
270
years
産業革命
以前濃度
2005年濃 379
度
HFC-23
CF4
50,000
years
Kyoto Gasの温暖化係数と存在量
CO2
温暖化 1
係数
CH4
N2O
CFC-11
HFC-23
CF4
21
310
不詳
不詳
不詳
3桁少
ない
6桁少
ない
6桁少
ない
6桁少
ない
存在量 2005年 3桁少
379ppm ない
CO2濃度379ppmとは、
具体的に何を意味しているのか。
ppmはparts per million=百万分比、
パーセント(per cent)より3桁少ない。
379ppm=0.0379パーセント
大気中の二酸化炭素濃度は0.0379パーセント
という数字は、何を意味しているのか。
まず、大気の量はどのくらいあるのか。
2006年度名古屋大学大学院環
境学研究科入学試験問題の一つ
地球の地表面における大気圧は平均約
1気圧で、これは1,033g重/c㎡に相当
する。これから、地球上の大気の総重量
は何兆トンになるかを概算せよ。ただし、
地球は球形とみなし、その半径は
6,700kmとせよ。
大気の総重量を計算する
地球を球形と見なして、
地球の表面積:4π6,367,4442
答え:509,494,811,271,860m2
読み方: 509兆4948億1127万1862平方
メートル
大気の重量:10.34トン/1m2
地球全表面では: 5,268,176,348,551,040トン
読み方:5268兆1763億4855万1040トン
大気の平均分子量は、
窒素の分子量( N2=28 )に近く、
その値は29である。(酸素=O2の分子量=32)
CO2の分子量=44であるから、44/29=1.5172、
5334,410,674,016,370×1.5172×10-6
答えは、 8,093,589,880トン、約81億トン
10-6とは、100万分の一(ppm)のことである。
即ち、CO21ppm当たりの重量は81億トン。
379ppmであれば、 3,067,470,564,520トン
3兆674億7056万4520トン
現象の発見と仮説の誕生
長期的傾向として大気の温度が上昇している(気温上
昇)という現象の発見と、
その原因が温室効果ガスの大気中濃度の上昇にある
のではないかという仮説の誕生。
地表温度の決定要因として大気が果たす役割に注目
した最初の科学者は、
数学者としても有名なジョセフ・フーリエ(Joseph
Fourier )であった。(1827 年)
19世紀末から20世紀初頭に活躍したスウェーデンの
科学者スヴァンテ・アレニウス(Svante Arrhenius )は、
スヴァンテ・アレニウス(18581927)
水に溶けて水素イオン(H+)を
生ずる物質を酸性、OH-を生ず
る物質をアルカリ性と定義した。
化学反応の速度は温度に依存
することの発見と証明。
CO2が温室効果ガスであること
に初めて言及した。
以上がアレニウスの3大功績。
1903年ノーベル化学賞受賞
大気中CO2濃度の本格的測定
200年前の氷から氷柱を切り出し、氷柱に封じ込め
られている大気のCO2濃度を測定、
大気中のCO2濃度の測定は、1958年から本格的に
開始された。
1957年の「地球観測年」を契機として、ハワイのマ
ウナ・ロア山頂に設けられた観測施設で、
1958年からRoger Revelle教授の指導の下で観測
が開始された。
我が国では岩手県大船渡綾里の観測所で気象庁
が1988年からCO2濃度の観測を開始した。
その結果、
日米CO2濃度の観測データ
気温の実測
WMO (世界気象機関)の規則により、
地上から1.25~2.0m の高さ(日本の気象庁の基準で
は1.5m)で、温度計を直接外気に当てないようにして
測定する。
温度計はファン付きの通風筒や百葉箱に入れられる。
気温は場所、季節により異なるので、
平均気温の算出のために測定時期と測定場所が定め
られる。
日本の気象庁は、北は稚内から南は南鳥島まで、
156カ所の観測地点を定めている。
更に、南極昭和基地も観測地点となっている。
日本における気温の計測
気象庁が1971~2000年まで、全国81カ所で
計測した月別平均気温の年平均気温を、
札幌の12.5℃から那覇の25.3℃まで全国平
均すると、
18.04℃となる。
この平均気温に対する各年の平均気温の差
を平年差という。
1900年から2005年までの平年差をグラフに
示すと、
平均気温の平年差の推移
世界の気温計測は
ジュネーヴに本部を持つ世界気象機関が
世界各国からの計測データをまとめている。
ノルウェーのオスロからフィリピンのアキノ
国際空港まで、世界204地点の、
年間平均気温と平年差の推移を示したの
が次のグラフである。
世界の平均気温と平年差
世界の気温上昇率に変化が見られる
1860~2000年の傾向線
1900~2000年の傾向線
1960~2000年の傾向線
1980~2000年の傾向線
を比較すると、10年毎の
上昇率が変化しているこ
とが読み取れる。
0.045, 0.047, 0.128,
0.177℃と上昇率が高く
なっている。
大気中のCO2濃度と気温上昇
1850-2005年の155年間に、
大気中のCO2濃度は280ppmから380ppmに増加した。
重量換算では、1ppm=8億トンであるから、2,280億トン
~3,040億トン、155年間で800億トンの増加。
その結果大気の地表温度は、1861-1900平均温度に対
する平年差で+0.7℃となった。
即ち、2005年の平均地表温度は1900年と比べて0.7℃
上昇したことになる。
約100年間で0.7℃の上昇。グラフで示すと、
過去約100年間の大気温度上昇
以上の分析で、大気中の温室効果
ガス増加と地表温度上昇の因果関
係は確認できた。そこで、
地表温度上昇がもたらす諸問題と、
温室効果ガス増加の原因の分析に移る。
大気の地表温度が平均1℃上昇すると、
小規模氷河は消滅する。例えば、南米アンデス山脈の
氷河は完全に消滅した。
氷河は貯水池であるから、氷河の消滅は地球人口
5000万人に水不足の事態をもたらす。
温帯地域の穀物生産量を若干増加させる。
マラリア、下痢等の熱帯性疾患による死亡者が地球全
体で30万人程度増加する。
永久凍土の氷解によりカナダ北部、ロシア北部の住宅
が倒壊する。
生物多様性の内、約10%の種が絶滅の危機に瀕する。
珊瑚礁の80%は死滅する。
大気の地表温度が平均2℃上昇すると、
南アフリカと地中海地方において20-30%水供給が減
少する。
熱帯地方の食料生産が減少する。アフリカでは5-10%
減少する。
アフリカでは4000-6000万人がマラリアに罹患する。
沿岸地域に住む人々約1億人が洪水の脅威にさらされ
る。
生物種の40-50%は絶滅の危機に瀕する。特に極地
の動物(例:北極熊)は絶滅する。
グリーンランドの陸地を覆う氷床は氷解し、海面水位
は7m上昇、突然の気象変動、例えばモンスーンの時
期と地域が大きく変化する等のリスクが増大する。
大気の地表温度が平均3℃上昇すると、
ヨーロッパ南部で10年周期の大干ばつ、世界的
規模で1-40億人が水不足、1-50億人が洪水。
農業生産は、亜寒帯地方で増加、地球全体では
減少、最大5億5000万人に食糧危機が発生。
最大300万人が栄養失調で死亡。
1億7000万人が沿岸地方の洪水で住居を失う。
生物種の20-30%が絶滅の危機に瀕する。特に
哺乳類、鳥類、昆虫では蝶の多くが絶滅する。
南極大陸西海岸の氷床が溶け始め、海水水位
のさらなる上昇と、海流の大変動。
大気地表温度が平均5℃上昇すると、
ヒマラヤの氷河の大部分が溶けて、中国と
インド亜大陸に大規模洪水をもたらし、中国
人口の1/4(3000万人)とインド亜大陸にお
いては数億人規模で洪水による犠牲者が発
生する。
海水の酸性度が上昇、魚類は激減、
海面水位の上昇は更に続く。
地球はもはや人類の文明的生存に適さない
状態に変化する。
温室効果ガス増加の原因の
分析に移る前に、
温室効果ガスはCO2だけではないという事実をここで想
起したい。英語ではKyoto Gasesと複数扱い。
少量だが、メタンガスと酸化窒素の温暖化係数大
CO2
CH4
温暖化 1
21
係数
存在量 2005年 3桁少
379ppm ない
N2O
CFC-11
HFC-23
CF4
310
不詳
不詳
不詳
3桁少
ない
6桁少
ない
6桁少
ない
6桁少
ない
メタンガス(CH4)と亜酸化窒素
(N2O)の主な発生源
メタンガスは、湿原の有機物分解で大量に発生する。
シベリアのツンドラ地帯が温暖化で湿原化すると大
量に発生することが危惧される。
亜酸化窒素は、化学工場(ナイロン66の原料である
アジピン酸製造工場など)、汚泥・ゴミ処理焼却炉、
自動車の排気ガス、耕作地の土壌、畜産業
及び、
自然界からの発生(海洋・熱帯土壌など)。
Kyoto Gasesの増加をCO2増加に換算したグラフを
示すと、
CO2の増加とKyoto Gasesの増加
をCO2に換算したグラフ
メタンガスと亜酸化窒素の発生・循環メカニ
ズムは十分に解明されていないこと、および
そのコントロール方法を直接的に政策に組
み込むことの困難性のため、
議論、特に政治的論議の対象はCO2にほぼ絞られ
ている。
大ざっぱにいえば、CO2は100年で100ppm増加、
大気温度は1℃上昇した。
1750年から今日までの温室効果ガスの増加は、
1750年以前の650,000年間の増加を上回っている、
という。
CO2の大気濃度は、炭素循環によ
りほぼ一定に保たれるはず。
葉緑素を持つ植物は、光合成により水(H2O)と
二酸化炭素(CO2)からデンプン=(C6H10O5)nを
合成、光合成中はCO2を吸収する。
(植物=CO2のsink)
動物はデンプンの摂取から始まる食物連鎖によ
り生命を維持し、呼吸によりCO2を大気中に放出
する。(動物=CO2の供給)
植物はCO2を吸収し。。。。。
このような炭素循環によりCO2濃度は300ppm弱
に維持されてきたが、
人類が化石燃料を大量消費するよ
うになってから、バランスが崩れた
化石燃料としては比較的単純な分子
構造を持つプロパンガスを例に取ると、
プロパンガス( C3H8 )の燃焼とCO2:
燃焼とは酸化であるから、
C3H8 + 5O2 = 3CO2 + 4H2O
大気の組成と大気温度との関連は、
19世紀以来科学者により関心を持たれてき
たが、
環境問題として地球温暖化が科学者の間で
取り上げられるようになったのは、
1960年代以降のことである。
環境問題は当初は、環境汚染問題として取り
上げられた。
環境汚染を告発した科学者としてレイチェル・
カーソン(Rachel Carson)が知られている。
カーソンは、農薬、特に殺虫剤の
使用により虫が減り、鳥が減り、
鳥のさえずりが聞かれないので春が沈黙してしまった
と、『沈黙の春』(1962)を著し、
人間を含む生物に対する農薬の危険性について警告
を発した。
オリヴェッティ社の副社長アウレリオ・ペッチェイ
(Aurelio Peccei)は、資源、人口、環境破壊等の世界
的規模の問題を研究するためのシンク・タンク「ローマ
クラブ」(Club of Rome)を1968年に設立、
ローマクラブは、1972年『成長の限界』を発表、地球は
無限ではないとして、世界が経済成長を続けることへ
の警鐘を鳴らした。
地球温暖化が環境問題として
取り上げられるようになるのは、
1980年後半以降である。
1987年米国上院の公聴会で、専門科学者が地球温暖
化がもたらす脅威について証言した。
1988年国連にIntergovernmental Panel on Climate
Change (IPCC)が設立された。
IPCC=専門科学者集団が提出する温暖化に関する報
告書に基づき、
国連加盟国は温暖化対策のための協定(Convention)
締結のための国際会議開催を始める。
United Nations Framework Convention
on Climate Change (UNFCCC)
気候変動枠組条約は締約国会議
(Conference of Parties=COP)において討
議される。
COP-1は1995年ベルリンで開催された。
1997年12月のCOP-3で京都議定書(Kyoto
Protocol)が調印された。
2008年12月1~12日ポーランドのポズナン
において京都議定書調印国によるCOP-14
が開催される。
世界の、というより人類の政策
目標としての温暖化進行の防止
大気温度がジワジワと上昇しつつある。
原因は大気中の温室効果ガス濃度の増加。
因果関係は突き止められた。
温室効果ガスの中でも、人間活動に起因する、
英語で表現すると、Anthropogenic origin,
CO2は政策目標として管理しうる、という発想。
COP-3で調印された京都議定書は、
アメリカ、ロシア、日本、ドイツ、英国、カナダ等34カ国
(これら諸国はいわゆる先進国で、議定書では“付属書
Ⅰ記載国”と総称された)は、2008~2012年までに、
1990年の排出量に対し、
アメリカは7%
EU諸国は8%
日本は6% それぞれ削減することを義務づけた。
付属書Ⅰ記載国の1990年排出量合計は、
13,738,306million ton CO2(13兆7300億トン)
CO2削減が政策課題となり、
国連の主導で各国に数値目標が義務づけ
られた。
数値目標の“数値”には2種類あり、
一つはCO2の量、
他は“炭素換算量”である。
前者をtCO2、後者をtCと表現する。
二酸化炭素トン、炭素トン、という意味。
tCO2とtCの両方が必要なわけ
大気中のCO2濃度はppmで実測されるが、
大気中のCO2をどの国が排出したのか、
どこの工場が排出したのかを特定することは出来ない。
そこで、消費された化石燃料に含まれる炭素の量を計
算し、“炭素換算”としてCO2排出量を計算する。
Cの分子量12、CO2の分子量44より換算は、
C→CO2 :3.667倍、CO2→C:0.2727倍する。
国連主導によりCO2排出量削減は、
国連加盟国(スイスは国連加盟国ではないが条約に
参加)の共通の政策目標となった。
京都議定書は目標達成のために、
数値目標設定の他に、
排出量取引、
Clean Development Mechanism (CDM)=クリーン開
発メカニズム)を定めた。
それでは、排出量削減数値目標の達成状況は?
目標の達成状況を検討する前に、
各国の毎年のCO2排出量を何を根拠に計算したかにつ
いて明らかにする必要がある。
アメリカ連邦政府エネルギー省(U.S. Department of Energy)に
所属する、
The Carbon Dioxide Information Analysis Center
(CDIAC) と言う機関が発表する数値を根拠とした。
CDIACは各国から提供される化石燃料消費量、セメント
生産量おおびフレアリング(flaring)の量から計算された
CO2排出量を集計する。
化石燃料消費とフレアリングが
CO2発生原因であることは
プロパンガスを例にスライド65で説明した。
セメントの主原料は石灰石(炭酸カルシウム=CaCO3 )
であり、石灰石が固定してきた炭素Cは、セメント製造工
程で空気中に放出され、
クリンカー燃焼に用いられる燃料は化石燃料であるから、
二重にCO2を放出する。
IPCCの研究によると、1850年以前の850年間の大気中
CO2濃度は一定であったことから、
1850年以降のCO2濃度急増の原因を化石燃料消費とセ
メント生産と考えて、両者によるCO2排出量を計算、グラ
フ化したものが次の図である。
化石燃料消費とセメント生産によるCO2(The Stern Review p200)
因みに2005年世界CO2排出29GtCO2であった。
京都議定書付属書Ⅰ記載主要国
1990年と2007年CO2排出量
unit:million ton, %
Parties
United States
Russian Federation
Japan
1990
4,957,022
2007 Change
2,388,720
1,173,360
5,816,641
1,585,925
1,237,112
17.34
-33.61
5.43
1,012,443
768,693
-24.08
United Kingdom
584,078
530,711
-9.14
Canada
457,441
530,755
16.03
Germany
12月1日付Timeに気になる
記事が載っていた
Germany lagging on Kyoto Goalsという見出
しで、
世界全体のCO2増加率は1990年に比べ5%
減ったが、
2000年を基準とすると2.3%増加している。
以下の19カ国は2012年の目標に向けて後れ
を取っている:オーストリー、ベルギー、カナダ、
デンマーク、フィンランド、ドイツ。。。日本。。。
そこで、数値をよく調べてみたら、
例えばドイツの場合、
ドイツ:1990年基準と2000年基準
Germany CO2 Emission
Germany CO2 Emission
104
103
100
GtDO2 Index 2000=100
GtCO2 Index 1990=100
120
80
60
40
20
102
101
100
99
98
97
96
95
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
Year
2000
2001
2002
2003
Year
2004
2005
1990年主要国排出量のグラフ
主要国CO2排出量
5,000,000
4,500,000
4,000,000
3,500,000
3,000,000
百万トンCO2
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
US
A
Ru
ss
ia
Ja
pa
n
Ge
UK
rm
an
y
国名
Ca
na
da
I ta
ly
Po
l an
d
Fr
an
ce
Au
st
ra
l ia
主要国の1990~2007年人口
1人当り排出量比較
人口1人当り年間CO2排出量
20,000
18,000
16,000
14,000
1990
2007
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
国名
ia
al
st
r
Au
Fr
an
c
e
d
Po
lan
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Ca
n
G
er
m
an
y
n
Ja
pa
Ru
ss
i
a
0
US
A
トン
12,000
削減目標
日本の場合、2008年~2012年までに、
1兆1734億トンの6%:704億トンの削減
ところが、2007年の実績では、1兆2371億トンで
637億トンの増加となっている。
ドイツの場合は、
1兆124億トンの8%:810億トンが削減目標。
2007年実績は、7,687億トンで、2,438億トン
(24%)の減、目標を大幅に上回る前倒し達成。
京都議定書の削減目標達成を
2007年の実績で評価すると、
アメリカ、カナダ、オーストラリアは大幅未達、
フランスは1990年以前に既にCO2排出をかなり削
減しており、1.6%の減、
ドイツは24%の大幅減、
ロシアも33%の大幅減、
英国は9.14%減、
日本は5.43%増、
という具体に足並みは不揃いである。
2008年7月の洞爺湖サミットは、
日、ロ、米、仏、独、伊、英、加8カ国が参加して
開催され、
地球温暖化対策とCO2削減が主要議題であっ
たが、
国別削減目標の再検討は行われず、
2050年までに“半減させる”という文言が再確
認されたに過ぎなかった。
“2050年までに半減”は2007年のドイツ・ハイリ
ゲンダムサミットにおける共同声明を再確認し
たに過ぎない
温室効果ガス削減はグローバル
問題(Global Issue)である
その意味で、世界の主権国家により構成されている
国連がKey Playerとならざるを得ない。
現在我々が手にしている確かなよりどころは「気候変
動枠組条約」 (UNFCCC)以外にない。
UNFCCCのCOPを通じて各国がGlobal Issueに対処す
る以外に道はない。
一市民として出来ることはエネルギーの“倹約”である。
最後に、GDP(つまり生活の物質的豊かさの指標)と
CO2排出量との相関をアメリカの例で検証する。
一人当りGDP額とCO2排出量