幼児におけることばの学習の メカニズム

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Transcript 幼児におけることばの学習の メカニズム

メンタルレキシコンの学習: 子どもはどのように単語の 意味を学習するか

子どもはことばをどのように おぼえるか • • • 親が教えてそれを模倣する? ほめられようとしてことばを覚える? 何度も何度も繰り返し教えられてはじめて覚 える? • 何度も間違いを直されて覚える?

ことばの学習のパラドックス • ことばの内包をもたず、状況中の手がかりの みからことばの指示対象を同定し、その外延 範囲を決定することは論理的には不可能に 近い • それにもかかわらず子供はことばの一事例を 与えられただけで即座ことばに意味付与をし ている。

カテゴリーの推論 「リンゴ」 「どれがリンゴ?」

ことばの意味の二側面 • • 「内包」と「外延」 外延:当該のことばの指示対象の集合 内包によって決定される • 内包:当該のことばが指示する概念

外延と内包の関係 • • 内包は外延の成員の共通性から帰納される 外延は内包によって決定される

ことばの学習のパラドックス • ことばの内包をもたず、状況中のてがかりの みからことばの指示対象を同定し、その外延 範囲を決定することは論理的には不可能 • それにもかかわらず子供はことばの一事例 あるいは少数の限られた事例を与えられただ けで即座にことばに意味付与をしているよう にみえる。

こどもはどのように初めて遭遇す ることばの意味の推論をしている のだろうか?

子供が語に意味を推論するため にしなければならないこと • ことばが発せられた状況下でことばの指示対 象を正しく同定する • 覚えたことばを他の事物に般用できる。(他 のどの事物にそのことばが適用でき、どの事 物に適用できないかを正しく判断することが できる。)

指示対象を同定し、般用するため には … • まず、当該の語がどのような種類(品詞)の語 であるかどうか決定できなければならない • 各々の品詞がイベント中のどの要素に対応 するのかがわからなければならない • 何に基づいて般用がされるのかがわからな ければならない これらのことを暗黙の知識として子どもは持っ ている。ただし意識的にはわからない

名詞、動詞、形容詞の意味 • 名詞と動詞では指示する概念の種類、般用 の基準が大きく異なる – 名詞 → 事物 – 動詞 → 行為や関係 – 形容詞 → モノの属性

( 事物)名詞の特徴 • • • 環境から「切り出されている」 時空間的に恒常性を持つ 階層構造を持つ

動詞の特徴 • • • 指示対象が環境中で切り出させれていない 時間軸に沿ってダイナミックに変化 モノとモノとの関係を指示する → モノは変数

形容詞の特徴 • • 観察できるのはモノ モノには様々な属性があるが、形容詞が指す のはそのひとつだけ • 般用はモノに関わりなく、属性の同一性を基 準にして行う

子どもは名詞の意味をどのように 学習しているか

日本語における名詞学習の問題 • 日本語の場合、名詞の中の種類が文法的に 指標されない → 固有名詞対普通名詞、物質名詞対物体名 詞が形態としては区別されない • 文法的手がかりの欠如は日本人幼児の名詞 の語意推論に影響を与えるのか?(つまり欧 米の子どもに比べ、日本人の子どもは名詞 の学習が困難なのか?)

知らない人工物についた 新しいことば

知らない動物についた 新しいことば

未知の事物につけられた未知の 名詞の般用 • 幼児は対象が動物(つまり固有名詞がつきや すいもの)でも人工物でも、まず新しい名詞は 普通名詞と想定する。 • 色やサイズ、素材の違いは無視して形の類 似性にしたがって般用する。 (形状類似バイ アス)

物質の名前と物体の名前 • 日本人幼児は物質と物体を区別する文法的 手がかりなしで、物体名と物質名では異なる 般用の基準を適用しなければならないことを 理解しているか? – 物体 → 全体の形状の類似性 – 物質 → 形状は無関係、物質の同一性に注目

Imai & Gentner, 1997

Imai & Gentner, 1997

ただしこのようなモノが命名対象 の場合、モノの見方が言語で違う

• 2歳になったばかりの子どもでも、アメリカ人 幼児と同様に物質名と物体名に対して異なる (そして正しい)般用の基準を用いることがで きた。 • しかし、単純な形の物体にラベルが付与され たときには日本語話者と英語話者で、大きな 違いがあった

日英話者の違いは何を意味する のか • 日本人の子どもは結局、存在論的理解をもた ず、形、素材という知覚できる属性の目立つ ほうが同じモノを選んでいたに過ぎないのか • 日本語話者、英語話者のラベル般用の違い は、「モノの認識の違い」を反映するのか、そ れとも、「ラベル付与と般用の方略の違い」を 反映するのか

言語課題でなくても日英話者の違 いは見られるのか • 日本語話者、英語話者 4 歳児と成人に非言 語カテゴリー形成課題 • 「同じものをとって」

• 成人はラベル般 用と非言語カテゴ リ形成課題での 行動がまったく一 致 • 子どもは2つの 課題での行動が 大きく異なる

ラベル般用 非言語カテゴリ形成

英語話者に文法カテゴリ情報つき でラベルを与えたら • Ambiguous syntax “Look at this dax. Can you find the dax?

• Count syntax “Look, this is a dax. Can you find another dax?” • Mass syntax “Look, this is some dax. Can you find some more dax?”

• 文法情報が曖昧な場 合と可算文法条件での 反応がほぼ同じ • 英語話者の形への注 目度が強いのは、曖昧 なモノを「可算名詞で現 される物体 (object) 」 と考えるからではない か

日本人は存在論的制約に従って 名詞の般用をしているのか • 物質とみなすか物体とみなすかが曖昧なモノ のときの日本人の反応 → もしかしたら日本人は単により目立つ属性 が同じのほうを選んでいただけかもしれない

名詞語意の存在論的制約 • 名詞は「この種類の物体あるいはこの種類の 物質」という離接的 (disjunctive) なカテゴ リーは指さない • 形と素材が同時に般用の基準にならない – AND は OK 〔この形、かつ、この素材) – OR はダメ{この形 あるいは この素材) • この決まりを日本人の子どもが理解している か

• ラベル般用条件 – ネケをみんなとって • 非言語カテゴリ形成条 件 – これと同じのをみんな とって

それぞれのテストアイテムの選択 数

存在論的制約に従った反応(*) の割合 Complex Simple Substan ce Average across three trial types Word extension 0.91

(0.20) No-word classificatio n a 0.55 (0.50) 0.86 (0.31) 0.57 (0.44) 0.85 (0.17) 0.36 (0.42) 0.87

(0.17) 0.49

(0.26) * 形、素材刺激のどちらか一方しか選択しない

今日のまとめ • 名詞語意の学習にとって、概念的制約の役 割は非常に大きい • 文法クラスの情報の有無はモノの「みなし方」 に影響を与えるが、文法クラスの情報がなく ても概念知識を制約に使い、子どもは名詞語 意を苦もなく学習する