事前的観点からの「再評価」

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Transcript 事前的観点からの「再評価」

公共経済学(上級Ⅰ)
三井清
12/04/12
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【講義の概要と目標】
• 本講義は公共事業(プロジェクト)の評価手法
である費用・便益分析の理論と実践に関して
概観することを目的としている。
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<成績評価の方法・基準>
テスト(60%)
レポート(40%)
出席(20%)
<参考文献>
1. Boardman, Anthony E. et al., Cost-Benefit
Analysis, 2nd Edition, Prentice Hall, 2000
2. 大野栄治『環境経済評価の実務』勁草書房部、
2000年
3. T・F・ナス『費用・便益分析』勁草書房, 2007年
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3
【講義の内容と進行計画】
1.
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10.
11.
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13.
14.
15.
費用・便益分析(CBA)への入門(参考書(1)の第1章と第6章)[4/12]
CBAの基礎1(第3章) :消費者余剰と補償変分・等価変分[4/19]
CBAの基礎2:仮説的補償原理とマスグレイブ主義[4/26]
CBAの基礎3:プロジェクト採否基準 [5/10]
プライマリー・マーケットにおけるCBA(第4章)[5/17]
セカンダリー・マーケットにおけるCBA(第5章)[5/24]
不確実性の処理(第7章):期待値、感度分析、情報の価値[5/31]
顕示選好法1(第13章):市場類似法[6/7]
顕示選好法2(第13章):トラベルコスト法と環境質改善の便益評価[6/14]
顕示選好法3(第13章):ヘドニック価格法と過大評価定理[6/21]
顕示選好法4(第13章):仮想評価法(CVM) [6/28]
費用便益分析のマニュアル・事例の紹介と検討1[7/5]
費用便益分析のマニュアル・事例の紹介と検討2[7/12]
公的資金の限界費用とランダム効用理論[7/19]
試験[7/26]
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1章 CBAへの入門
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1.1 費用便益分析の目的と適用対象
1.2 費用便益分析の種類と有用性
1.3 社会的便益と社会的費用
1.4 将来の便益と費用の割引
1.5 CBA に対する需要
1.6 CBA の基本的な手順
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1.1 費用便益分析の目的と適用対象
<基本的な目的>
社会的意思決定(効率的な資源配分達成)の支援
<適用対象>
(1) 事業(project)
(2) プログラム(programs)=事業の集まり
(3) 政策(policy)=プログラムの集まり
(4) 規制(regulations)
<公共プロジェクトの例>
ダム建設、空港整備、道路整備、下水道整備、
公園整備、都市開発、予防接種事業など
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1.2 費用便益分析の種類と有用性
<種類と目的>
事前(ex ante)評価=事業実施前の評価
再(in medias res、中間)評価=事業継続中の評価
事後(ex post)評価=事業終了後の評価
(問題 1-1)以下の表にある 3 種類の評価について、有用性の大きい場合は○、ある程度期待で
きる場合は△、ほとんど期待できない場合は×を記入しなさい。また、その理由を説
明しなさい。
有効性
事業の採否
事業の見直し
類似事業の採否
事前評価
○
△
△
再評価
×
○
△
事後評価
×
×
○
種類
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事前的観点からの再評価
事後的観点からの再評価
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1.3 社会的便益と社会的費用
<消費者余剰と生産者余剰>
N =個人数(人口)
CS i =個人 i の消費者余剰(consumer’s surplus)の増分
CS =(集計的)消費者余剰の増分
CS  CS1    CS N
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(1-1)
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R j =企業 j の収入(revenue)
VC j =企業 j の可変費用(variable cost)
 j =企業 j の利潤(profit)
事後的観点からの「再評価」
FC j =企業 j の固定費用(fixed cost) 回収できない費用
埋没費用(sunk cost)
PS j =企業 j の生産者余剰(producer’s surplus)
PS j = R j - VC j
=  j + FC j
事前的観点からの「再評価」
[←  j  R j  (VC j  FC j ) ]
(1-2)
PS j =企業 j の生産者余剰の増分
M =企業数
PS =(集計的)生産者余剰の増分
PS  PS1    PSM
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(1-3)
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<社会的便益と社会的費用>
純歳出(net expenditure)
=「歳出(expenditure)」-「歳入(revenue)」
純歳出の機会費用(opportunity cost)
=「歳出の機会費用」-「歳入の機会費用」
便益 B (social benefit)= CS + PS
費用 C (social cost)=(政府の)純歳出(の機会費用)
純便益 NB (net social benefit)=便益 B -費用 C
あるプロジェクトが「効率性」の観点から採択されるためには、
純便益が正、すなわち
NB >0
(1-4)
という条件が成立しなければならない。
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<便益と費用の例>
ダム事業の便益
=① 発電(発電用水の供給)→ 発電された電力の価値
② 利水(水道用水、農業用水、工業用水)→ 増大した農産物の価値
(広義の)利水
③ 治水(洪水調節)→ 低下した洪水被害額
ダム事業の費用
=① ダムの建設費、② 維持管理費(堆砂対策費)
貯砂ダム
洪水バイパストンネル
(問題 1-2)道路整備に関してそのプロジェクトがもたらす便益の項目は?
<便益と費用を考慮する当事者の範囲>
当事者=国 or 都道府県
(問題 1-3)ダム湖の湖畔に作られたレストランの収益は便益として考慮すべきか。
(問題 1-4)整備新幹線の建設によって並行在来線の収益が低下した場合、その収益の減
少分はどのように考慮すべきであろうか。
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1.4 将来の便益と費用の割引
将来の便益と費用を割り引くことで時点の異なる便益と費用を集計
する方法について検討しよう。
議論を簡単化するために、
① 現金
② (1 年満期の)定期預金
③ 1 種類の財
が存在する経済を想定する。
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<名目利子率と実質利子率の関係>
t 期=t-1 年後から t 年後までの 1 年間
t 期の期首=t-1 年後
t 期の期末=t 年後
t期
t期の
期首
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t期の
期末
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it =t期の(定期預金の)名目利子率(nominal interest rate)
:1 単位の現金を t 期の期首に定期預金すると
t 期の期末に 1  it 単位の現金が得られる。
Pt =t 期の期末の財の価格(物価水準)
mt =t 期の財の価格上昇率(インフレ率):
P  Pt 1
mt  t
Pt 1
t期
t-1期
t-1期の
t期の
=
期末
期首
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(1-5)
Pt 1
t期の
期末
Pt
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rt =t 期の実質利子率(real interest rate):
1  it
rt 
1
1  mt
1  rt 
(1-6)
1  it
1  mt
(問題 1-6)実質利子率の意味を理解するために、次のような 3 つの取引を行うことを考え
てみよう。
① 1 単位の財を t 期の期首に現金と交換する。
② 交換した現金を t 期の期首に定期預金して t 期の期末に満期になる定期
預金を現金に交換する。
③ その交換した現金を t 期の期末に財と交換する。
以上の取引で、t 期の期末に何単位の財が得られるであろうか。
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① 1 単位の財を t 期の期首に現金と交換する。
② 交換した現金を t 期の期首に定期預金して t 期の期末に満期になる定期預金を
現
金
・
預
現金に交換する。
③ その交換した現金を t 期の期末に財と交換する。
金
の
世
界
財
の
世
界
(1  it ) Pt 1円
Pt 1円
t-1年後
t-1年後の
1個
t期
t年後の
Pt =t 期の期末の財の価格
it =t期の名目利子率
mt 
t年後
(1  it ) Pt 1
1  it
個 =
個
Pt
1  mt
1  mt 
Pt
Pt 1
= 1  rt 個
1  rt 
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Pt  Pt 1
Pt 1
1  it
1  mt
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名目利子率 it が一定であることを仮定 ⇒
インフレ率 mt が一定であることを仮定 ⇒
i
m
⇒
実質利子率 rt も一定 ⇒
r
(問題 1-7) i と m が小さいときは、近似的に
r ≒i  m
(1-7)
の関係が成立することを確認しなさい。
im
(i  m ) m
 1 i

r  (i  m)  
 (i  m)  
 1  (i  m) 
1 m
1 m
1 m 
iと mが小
(*)&(**)
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i  mと mが小
(i  m) mが微小
(*)
(**)
r  (i  m) ≒ 0
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<割引現在価値(名目)>
n =プロジェクトの事業期間
Bt =t 年後に発生する(名目)便益
( B0 , B1 ,, Bn ) =便益の流列
B =(名目)便益(の流列の名目利子率を用いて割り引いた割引現在価値)
B  B0 
Bn
B1
B2




1  i (1  i) 2
(1  i) n
(1-8)
(問題 1-8)1 年後の便益 B1 が現在の便益 B1 /(1  i) と「同等」である理由
を説明しなさい。
現在の現金 B1 /(1  i ) を定期預金すれば 1 年後に B1 の現金が得られる。
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(例) B1  110, i  0.1 のケースは B1 /(1  i)  100 である。
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Ct =t 年後に発生する(名目)費用
(C0 , C1 ,, Cn ) =費用の流列
C =(名目)費用(の流列の名目利子率を用いて割り引いた割引現在価値)
Cn
C
C2
(1-9)
C  C0  1 



1  i (1  i) 2
(1  i) n
NBt  Bt  Ct :t 年後に発生する(名目)純便益
( NB0 , NB1 ,, NBn ) =純便益の流列
NB =(名目)純便益(の流列の名目利子率を用いて割り引いた割引現在価値)
NBn
NB1
NB2
(1-10)
NB  NB0 




2
n
1  i (1  i)
(1  i)
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このとき、純便益が便益と費用の差に一致することが次のように確認できる。
NB  NB0 
NBn
NB1
NB2




1  i (1  i) 2
(1  i) n
 B0  C0 
Bn  C n
B1  C1 B2  C 2




1 i
(1  i) 2
(1  i) n

Bn 
B
B2

  B0  1 



2
n 
1

i
(
1

i
)
(
1

i
)



Cn 
C
C2

  C0  1 



2
n 
1  i (1  i )
(1  i ) 

 BC
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(1-11)
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(問題 1-9)あるプロジェクトの費用と便益(の流列)が次の表で与えられているとする。この
とき、t 年後の純便益の値を記入しなさい。また、利子率 i =0 のケースと、i =0.1
のケースについて、便益の割引現在価値 B と費用の割引現在価値 C をそれぞれ求
めなさい。そして、それぞれのケースでこのプロジェクトを実施すべきかどうか検
討しなさい。
t
Bt
Ct
0
1
2
0
220
121
210
110
0
NBt
-210
110
121
< i =0 のケース>
B  0  220  121  341
C  210  110  0  320
BC
< i =0.1 のケース>
220 121

 0  200  100  300
1.1 1.12
110
0
C  210 
 2  210  100  0  310
1.1 1.1
B  0
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BC
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<名目値を名目利子率で割り引いた純便益と
実質値を実質利子率で割り引いた純便益の同等性>
bt 
Bt
:t 年後に発生する(現在の物価水準 P0 を1に標準化したときの)実質便益
Pt / P0
と定義すれば、
bt 
Bt
(1  m)
t
の関係が成立する。
(b0 , b1 ,, bn ) =実質便益の流列
b =実質便益の流列の実質利子率を用いて割り引いた割引現在価値
bn
b
b2
(1-12)
b  b0  1 



1  r (1  r ) 2
(1  r ) n
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ct 
Ct
:t 年後に発生する(現在の物価水準 P0 を1に標準化したときの)実質費用
Pt / P0
と定義すれば
ct 
Ct
(1  m)
t
の関係が成立する。
(c0 , c1 ,, cn ) =実質費用の流列
c =実質費用の流列の実質利子率を用いて割り引いた割引現在価値
cn
c2
c



c  c0  1 
(1-13)
1  r (1  r ) 2
(1  r ) n
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(1-6)を用いれば、 b が(名目)便益 B と一致することを示すことができる。
b  b0 
bn
b1
b2




n
1  r (1  r ) 2
(1  r )
bn (1  m)
b (1  m) b2 (1  m)
 b0  1




2
n
1 i
(1  i )
(1  i )
2
 B0 
Bn
B1
B2




B
1  i (1  i) 2
(1  i) n
(1  6)  1  rt 
1  it
1  mt
n
(1-14)
(問題 1-10) c が(名目)費用 C と一致することを確認しなさい。
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(1-14)と問題 1-10 の結果より、
bc  B C
(1-15)
が成立するので、「実質便益と実質費用の流列を、実質利子率を用いて割
り引いて求めた b と c の差」と「(名目の便益と費用の流列を、名目利子
率を用いて割いて求めた)便益 B と費用 C の差」は一致することになる。
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(問題 1-11)問題 1-7 の表で名目の便益と費用の流列が与えられており、
インフレ率 m  0.1 、名目利子率 i =0.1 であるとき、(1-15)が成
立することを確認しなさい。
t
Bt
Ct
0
1
2
0
220
121
210
110
0
bt 
m  0.1
r im 0
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t
bt
0
1
2
0
Bt
(1  m) t
200
100
ct
210
100
0
b  0  200  100  300  B
c  210  100  0  310  C
27
1.5 CBAに対する需要
<アメリカ>
•
•
•
•
1981年=レーガン大統領がCBAの一般的使用を発令
規制影響分析RIA(Regulatory Impact Analysis)
1994年=クリントン大統領がCBAへの参画を確認
1995年=UMRA(Unfunded Mandates Reform Act)
年度の費用が1億ドルを超える可能性 ⇒ CBAを実施
2000年=TGGAA
(Treasury and General Government Appropriation Act)
1. 行政管理予算局にCBAに関する情報を提供する報告書の発行
2. CBAの測定方法を標準化する指導方針の提示
<カナダ>
•
「連邦・州フレーザー河川洪水管理協定」=事前CBA
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1.6 CBAの基本的な手順
:コキアラ・ハイウェーの例
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
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一連の選択肢を明示する。
便益・費用を計算する当事者の決定
影響力を分類し測定の尺度を選定
事業の影響を数量的に予測
影響を貨幣価値に換算
割引現在価値の計算
各代替案の割引現在価値を計算
感度分析を実施
推奨案の作成
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30
1.1 費用便益分析の目的と適用対象
1.2 費用便益分析の種類と有用性
1.3 社会的便益と社会的費用
1.4 将来の便益と費用の割引
1.5 CBA に対する需要
1.6 CBA の基本的な手順
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