Transcript 山羊関節炎・脳脊髄炎
山羊関節炎・脳脊髄炎 届出伝染病: 山羊。 病原体: (caprine arthritis-encephalomyelitis) 動物衛生研究所 「家畜の監視伝染病」 レトロウイルス科レンチウイルス属、山羊関節炎・脳脊髄炎ウイルス。 疫学: 主な感染経路は初乳・常乳を介した垂直感染であるが、飛沫 による水平感染の可能性もある。1974年の最初の報告以来、世界各 国で発生が報告されている。CAEVに感染した山羊は終生ウイルスを 保持するが、その多くが症状を示さないため臨床症状を指標として摘 発淘汰することは困難である。日本では、2002年に初めて本病の存 在が確認された。 2002年 12戸47頭: 山梨(2戸11頭)、長野(7戸21頭)、愛知(1戸1頭)、 茨城(1戸8頭)、宮城(1戸6頭) 2003年 5戸23頭: 宮城(1戸1頭)、福島(1戸2頭)、茨城(1戸1頭)、 千葉(2戸19頭) 2004年 3戸4頭: 長野(2戸3頭)、香川(1戸1頭) 2005年 4戸4頭: 福島(1戸1頭)、福井(1戸2頭)、香川(1戸1頭) 2006年 発生なし 2007年 2戸5頭: 福島(1戸4頭)、岐阜(1戸1頭) 主症状: 成獣における慢性持続性関節炎及び乳房炎、幼獣におけ る急性進行性脳炎及び脊髄炎が挙げられる。また、稀に成獣に肺炎 及び脳炎がみられることもある。発症率は成獣で10~20%であるが、 世界中で広く発生が見られ、山羊で最も重要視されている疾病の一つ である。 USDA APHIS 体重減少と後脚麻痺 関節腫大と麻痺 頭部を壁に押付ける子山羊: 脳脊髄炎の典型的症状 種雄の精液から感染? 2~4ヶ月齢の子山羊では、脳と脳幹部 の炎症が著しく、麻痺は後脚から始まり旋 回や歩行異常を示し、四肢に及んで起立不 能となる。 実験感染雄の精液からCAEVが分離されたが、自然感染の場合については確 証がない。メスへの伝播は精液よりも接触感染による確率が高いとされている。 CAE罹患山羊の手根関節(上)。滑膜 は薄くなり絨毛様を呈している。滑液は 暗黄色から赤褐色で、リンパ球とマクロ ファージを含み、有核細胞数は1,000/μℓ 以上である。滑膜上皮の著しい増殖(関 節軟骨)、骨増殖体形成、米粒体、関節 軟骨の糜爛と潰瘍、関節周囲組織の鉱 化などが見られる。 組織学的には滑膜下に多数の単核球 が浸潤し、リンパ濾胞を形成する(下)。 滑膜絨毛肥厚ならびに滑膜と関節周囲 組織の壊死巣がしばしば見られる。 University of Georgia 罹患した山羊の肺: 腹側上葉が腫大 肺は硬化して灰色を帯 び、多数の白色小病巣 がみられるが、肺虚脱 (無気肺)には至らない。 肺病巣がない山羊でも気 管支リンパ節が腫大する。 組織学的には、肺胞間 中隔、脈管周囲および気 管支周囲に単核球の浸 潤を伴う慢性間質性肺 炎像を示す。間質性肺炎 は、CAEの特徴病変の 一つである。 脳炎型では、脳脊髄液の単 核球性細胞増加を伴って蛋白 濃度が増加する。剖検では、脳 と脊髄の両方またはどちらか一 方に、非対称性の灰色からピン ク色の病巣が見られる(上)。 組織学的には、単核球によ る囲管性細胞浸潤が広範囲に 認められ、それは、マクロファー ジ、リンパ球、プラスマ細胞から なる(下)。白色物質を含む凝固 壊死と髄鞘脱落も観察される。 このことから、 CAEはかつてウ イルス性白質脳症と呼ばれた。 国内初発の事態に、どう対処したか? ● 確実な診断: 様々な海外病に対する備え 「病性鑑定指針」 何時、どのような形で侵入したか・・・ なぜ短期間で全国的に発生したか・・・ (1)疫 学 調 査 家 保 血清 (2)臨 床 検 査 EDTA血、乳汁 (3)剖 検 EDTA血、肺、乳房、関節包膜、 血清、乳汁、関節液等 動 衛 研 (5)血 清 学 的 検 査 (寒天ゲル内沈降試験) 専門家会議 (7)PCR 検査 (4)病理組織 学的検査 判定 (6)ウイルス 学的検査 (2)臨床検査 ① ほとんどが無症状 ① 世界的に発生。先進国に多い。欧 ② 子山羊の脳脊髄炎:後肢に始まり,前肢 米では,主に乳房炎による被害が重 に及ぶ進行性の運動失調や麻痺 要視されている。 ③ 成山羊の関節炎:主に手根関節に見ら ② 感染母山羊から初乳または常乳 れる関節の腫脹から,歩行困難,起立困難 を介して垂直感染する。呼吸器飛沫 ④ 硬結性の乳房炎,泌乳量低下 による水平感染も成立する。 ⑤ 発咳等の呼吸器症状 (1)疫学調査 ③ 感染後,抗体が陽転するまで数ヶ (3)剖 検 月から数年かかる事もある。 ① 子山羊の脳脊髄炎:脳脊髄白質の巣状 ④ 感染個体は終生ウイルスを保有 軟化。病変は脳室上衣下及び脊髄軟膜下 で好発 するが,発症率は低く(10%程度), ② 成山羊の関節炎:関節液の増量,フィブ 多くが不顕性感染に終わる。 リンの析出,関節包膜の増殖,まれに石灰 ⑤ 生後4ヶ月未満の子山羊では主に 沈着や,腱断裂。手根関節前部では嚢水 白質脳脊髄炎,成山羊では主に関節 腫がみられることが多く,嚢水腫腔は関節 炎,乳房炎または肺炎が認められる。 腔や腱鞘と連続 ⑥ 症状の進行は緩徐だが,治療法 ③ 乳房の硬結 ④ 肺の多発性~癒合性の退色,硬化病変 及び予防法はない。 山羊関節炎・脳脊髄炎の調査及び診断法の確立 動衛研研究報告 (平成19年) A B 羊胎児肺細胞 を用いた野外 症例からのウ イルス分離: 発症個体の関 節液を接種 CAEVの属するレトロウイルスに 特徴的な多核巨細胞が観察された (A)。また,それらの細胞質は抗 CAEV抗体に反応し特異蛍光を示 した(B)。電顕観察によりC型レトロ ウイルスと考えられるウイルス粒子 の出芽像が見られた(C)。 C 全国から任意抽出された山羊血清についてAGID法を用いて抗体 調査を行った結果、3,255頭中714頭(21.9%)が抗体陽性であった。 また、PCRの結果、720頭中298頭(41.4%)が陽性を示した。PCR に供した720頭についてのAGIDとPCRの結果を表に示した。 未だ未産生 過去の感染 手根関節腫脹 により起立困 難なシバ山羊 抗体陽性個体及びこ れらと閉鎖環境下で集団 飼育されていた雌28頭 の主要臓器及び泌乳生 殖器について病理組織 学的に精査した。その結 果、非化膿性乳腺炎が 80.8%、間質性肺炎が 17.9%で観察された。 A B 関節部病変 (A)手根関節腫脹 部:腫脹部の皮下で 嚢水腫の形成 (B)同部位組織病 変:関節滑膜におけ るリンパ球と形質細 胞の高度浸潤および 絨毛状増生 関節以外の主な組 織病変 (C) 乳腺における非 化膿性炎症像:間質 にリンパ球の高度浸 潤。 (D) 肺における非化 膿性炎症像:間質に おけるリンパ球の高 度浸潤,Ⅱ肺胞上皮 の肥厚,肺胞腔内の 液体貯留。 C D 2007 2008 2005 2006 2007 2005 1-6 2006 7-12 スペインは常在化しており、主要先進諸国(欧州、南北アメリカ、 オーストラリア・ニュージーランド)でも臨床例が確認されている。 日本に輸入された感染山羊が、どの国に由来するかは判ってい ないが、一旦感染すると終生ウイルスを保有しているが無症状であ ることから、検疫で侵入阻止することは困難か。