Transcript 中田 節也
Cordón Caulle 地球化学研究協会 霞ヶ関環境講座 Chaiten, 低頻度大規模噴火は どこまで分かっているか? 中田節也 東京大学地震研究所 2014/12/06 1 講演の内容 • • • • • 2014/12/06 噴火の規模の規則性 噴火予測の現状とモニタリング 火山災害の多様性 大規模噴火(カルデラ噴火) 原子力施設への影響評価 2 火山噴火の規模 2014/12/06 Newhall and Self (1988), Self (2006)3 火山爆発指数 日本の最近の火山活動度 日本にVEI 5以上がない時期 VEI 4以上がない時期 2014/12/06 最近は,火山活動が異様に静かな日本 4 火山弧毎に見られる規則性 火山弧の長さ比較 • インドネシア:3000 km • 日本:2500 km • チリ:4000 km インドネシアでより活発で 大粒のものが多い。 日本はチリより日本が活発 に見える。 2014/12/06 5 日本の火山における規則性 火山毎に規則性が認めら れるが,その勾配や切片 は微妙に異なっている。 2014/12/06 6 火山噴火予知研究の現状 昭和49年から火山噴火予知計画がスタート 火山噴火予知の5要素:時期,場所,規模,様式,推移 気象庁噴火警戒レベル 【噴火予測の発展】 段階1.観測により,火山活動の異常が検出できる. 段階2.観測と経験則により,異常の原因が推定できる(経験的予測). 段階3.現象を支配する普遍的な物理法則が明らかにされており,観測結 果を当てはめて,将来の予測ができる. ○現在は第二段階にようやくたどり着いたところ ○進行中の計画では噴火シナリオ(噴火事象系統樹)を採用し,代表的な活 火山で試行。 2014/12/06 7 Seismicity Felt earthquakes in 1910 Eruption Unzen volcano, Kyushu Usu volcano, Hokkaido Eruption Large earthquakes in 2000 • Data from Kyushu University, 2014/12/06 guided in Nakada et al. (1999). 8 Deformation (GPS) Shinmoedake Mauna Loa, Hawaii 2014/12/06 Shinmoedake (Kirishima), Kyushu 9 Example of observation suggesting caldera eruption Sparks et al. (2008) Hickey et al. (2013) 2014/12/06 10 1991 eruption sequence at Pinatubo, Philippines Plume height Volcanic gas (SO2) Pinatubo 1991 2014/12/06 11 富士山噴火による火力発電所への影響 2014/12/06 Yamamoto and Nakada (submitted) 12 火山灰によるガスタービンの障害 火山灰によるジェットエンジンの停止事件 • インドネシアのガルングング火山の1982年噴 火とアラスカのリダウト火山の1989年噴火では, それぞれ,British AirとKLMの航空機があわや 墜落の危機。 • ヨーロッパの航空業界はアイスランドのエイ ヤーフィヤトラの2010噴火(約2週間)で 17億ド ルの損害 航空機のジェットエンジンの仕組み 火力発電システム 2014/12/06 2010年4月アイスランド火山噴火の火山灰 13 桜島大正噴火の降灰域 VEI = 4 降灰確認期間:1月12-16日 VEI=4 Observed during Jan 12-16, 1914 2014/12/06 14 火山灰のよる首都圏への影響 2014/12/06 気象庁のまとめ 15 富士火山の噴火の特性と想定される噴火災害 降灰による電力への影響:送電網 送電への影響は,噴火様式や気象条件による. 湿った火山灰が付着する場合は降灰量が少なくとも影響が 大きい 碍子の絶縁破壊 変圧器の故障 送電線への崩落物 計画的な停電 送電線の切断 Wardman et al. (2012) 2014/12/06 16 (超巨大噴火,破局噴火) 超巨大噴火の影響 # # # # 大規模火砕流による火山体周囲(〜100 km)の壊滅 火山灰の広範囲への拡散(〜1,000 km) 海域の場合,巨大津波の沿岸域への襲来(〜1,000 km) 地球規模での寒冷化 火山灰に埋もれた街 USGS 壊滅した米空軍基地 Alberto Garcia (Corbis) 迫り来る火砕流 1991年フィリピン・ピナツボ火山噴火 2014/12/06 R.L. Rieger, 1991 (U.S. Navy) 17 Aso ash 4.0万年前 日本の超巨大噴火噴火 110万年前 ○約9万年前の阿蘇カルデラ 12 万年前 噴火の火山灰は北海道根室 1.3万年前 市で15cm以上の厚さで堆積。 ○阿蘇カルデラ噴火に伴う火 砕流は最大150kmの距離を 9 万年前 流走。 2.9 万年前 Kikai ash 11 万年前 日本第四紀地図より作成 防災科学研究所HPから 2014/12/06 18 黄色:火砕流到達範囲 日本の超巨大噴火 の頻度 VEI 6-7の噴火間隔 15万年/14回=約1 万年 産総研活火山データベースHPから 2014/12/06 Geology of Japan (submitted) 19 地殻に溜まるマグマの厚さ(d) ピナツボ 1991年 トバ 74000年前 2800 km3 クラカタウ 1883年 10 km3 d=0.2 km 8 km 阿蘇 9万年前 5 km3 d=1 km ~300 km3 d=1 km 2.5 km 鬼界 20 km 7300年前 ~100 km3 d=0.4 km 20 km イエローストーン 64万年前 d=0.4 km d=0.8 km 1000 km3 70 km 60 km カルデラ径 d 2014/12/06 岩石学的モデル 高々1km程度の厚さのマグマ部分 が噴出した。 20 マグマの蓄積率とタイムスケール (地質データから見た休止期間と噴出量) マグマ蓄積率 噴出量 噴火休止期間 カルデラ噴火 3 4 5 6 7 8 9 VEI F. Costa (2008) 噴出量 2014/12/06 21 超巨大噴火マグマの蓄積時間 (ギリシャ・サントリニー,米国ロングバレーの例) 最近のモデル: カルデラ噴火の前,マグマ溜まりは,数百年から数千年で,一気に充填。 結晶中の元素の分布と拡散モデル 2014/12/06 Druitt et al (2012), Gualda et al. (2012) 22 結晶の年代から見た滞留時間1 Zou et al (2010) Lithos 119, 289-296. 白頭山9世紀の噴火 VEI=6 ジルコン結晶のU-Th放射非平衡年代:約9千年 ジルコンは,噴火したマグマからではなく,地殻の再溶 融などによってリサイクルしうる。そのため, マグマの滞留時間:<9千年 2014/12/06 23 (資料4)結晶の年代から見た滞留時間2 Global compilation of crystal residence ages. 普通の火山における滞留年 代:数百年〜数千年: リサイクルや再溶融を考慮す ると,最大値に近い滞留時間 と捉えられる。 真の滞留時間は,元素拡散や 結晶サイズ分布から推定され る年代に近い(Th-Ra 年代より 若い)と考えれている。 KM Cooper & AJR Kent (2014) Nature 506, 480-483 doi:10.1038/nature12991 カルデラ噴火の結晶滞留時間を数千年(資料1),その間にマグマが溜まり 続けると仮定すれば → 噴出量/滞留時間=平均蓄積速度 2014/12/06 100 km3/5000年→0.05 km3/年(5x107 m3/年) 24 インドネシア,フィリピンの(超)巨大噴火の前兆現象 高田 亮・古川竜太(2014)岩波科学,84,(1), 64-68 1. インドネシアのカルデラ噴火の前には数ヶ月前から明 らかな表面的な前兆現象。 2. 長期的にみると,噴出率の低下,マグマ組成の変化 2014/12/06 が明瞭に認められる。 25 姶良カルデラのマグマ発達史 関口悠子・他(2014)月刊地球,36, (8), 303-309 1. 姶良カルデラにおいても,カルデラ噴火前にマグマ組成の変化が認められている。 2. 分化したマグマが地下に大量に蓄積されることにより,噴出するマグマ組成に変化が生 じると考えられている。 2014/12/06 26 Precursory and repose times Passarelli and Brodsky (2012) Krakatau Shinmoe Unzen 1 year before Tambora Pinatubo 1 month before Precursory period Fuji Ontake Usu Miyakejima 1 day before 1 hour before 2014/12/06 1yr 10 yr 100 yr Repose time 1 kyr 10 kyr27 Genkai NPP Aso caldera Target volcanoes in Sendai NPP Kakuto-Kobayashi caldera Sendai NPP Aira caldera 迫り来る火砕流 Alberto Garcia (Corbis) Ata caldera Kikai caldera 2014/12/06 1991年フィリピン・ピナツボ火山噴火 28 姶良カルデラの地殻変動 Nakao et al. (2013) 2003年~12年の姶良カルデラの体積変化 実線:左目盛 姶良カルデラ深部のソース 波線:右目盛 南岳直下の浅部ソース 2003年4月~2009年4月の地殻変動 2014/12/06 DV/dt 6x107 m3/9 y = 8x106 m3/y 29 大規模噴火(特にカルデラ噴火)の予測について • 大規模噴火は広域的捉えれば十分な頻度で発生:統計的にある程度扱 える。 • 大規模噴火ではマグマが数百年〜数千年程度で蓄積する。 • 噴火に備えてマグマの組成は進化して来ている。 • 噴火の前兆は地球物理学的に捉えられる。 • 多くの大規模噴火には,数ヶ月前から先行現象がある。「人間の」避難は “準備さえできておれば”十分間に合う。 • しかし,原子力施設が要求する数年前に前兆を掴むことは不可能。 • 先行・前兆現象をモニターし,観測結果から緊迫性を如何にきちんと評 価できるかどうかが課題。 • 広域避難の点で国家的課題。 • 将来のカルデラ噴火に備えて,国内外,専門を越えた準備体制が必要。 • ただし,より高頻度のより小規模の噴火に備えることが現実的で,むやみ にカルデラ噴火恐れる必要はないだろう。 2014/12/06 30