平成21年度戦略的開発研究(工学)報告書

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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
平成24年度戦略的開発研究(工学)報告書
研究課題名
惑星探査にむけたパラフォイルEDLシステムに関する研究
研究代表者(所属)
山田和彦(JAXA/ISAS宇宙飛翔工学研究系)
研究分担者(所属)
安部隆士,永田靖典(JAXA/ISAS 宇宙飛翔工学研究系)
東野伸一郎(九州大学)、平木講儒(九州工業大学)
莊司泰弘,福家英之(JAXA/ISAS 大気球実験室)
伊藤健(JAXA/ARD 風洞技術開発センター)
高橋裕介(北海道大学)
活動区分
□WG
研究活動期間
平成
平成24年度 研究費
平成24年度
研究成果
評価ポイント
■要素研究
24 年度 から 平成
1,200 (千円)
27 年度(予定)
平成25年度 研究費要求額
6,000 (千円)
今年度は、本研究課題で着目するパラフォイル型の惑星探査機について、過去の研究成果を
踏まえて、目標ミッションの策定、探査機の概念検討、システムの成立性について検討を行っ
た。その結果から、本研究課題では、大気のある惑星において、複数の小型エントリモジュー
ルによる上空からの広範囲探査と観測器のピンポイント輸送を実現することを目標に定めて
ることにし、それに必要な要素技術を洗い出し、重点的に実施する技術として、パラフォイルの
揚抗比向上、安全確実な展開手法の確立、惑星環境で使用できる推進系の開発、自律航法
システムの開発を設定した。そして、それを解決するための方針を策定した。
今年度は、追加予算のタイミングでの採択であったため、主に来年度にむけて準備を行いまし
た。概念検討、研究体制の構築、技術課題の抽出、必要な物品の購入などを行いました。そ
のため、具体的な成果は乏しいですが、来年度早々から本格的な研究活動を行う計画です。
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
本研究の目的
本研究の背景,目的,意義など
(背景)
現在、さまざまな惑星探査ミッションが検討されているが、米国等に先行されている現状で、日本国内にお
いて、独自性、先進性を出すためにはどのような技術が必要かという議論がある。その一つの候補となりう
る技術は、惑星大気内を自在に飛行する技術であると考える。広範囲な探査に加え、物資をピンポイントに
輸送する技術を獲得すれば、惑星探査ミッションをより自在にする有意義な選択肢を与えることができる。
(目的)
将来に計画される惑星探査を自在にし、より有意義なものにするために、惑星大気圏内を自由に飛翔し、物
資(観測器等)を目的地に正確に送り届ける技術を獲得することが、本研究課題の大目標である。本研究課
題では、その手段として、収納展開が可能なパラフォイル型の飛翔体に着目し、重要な技術課題に対して、
大気球実験などの機会を活用し、システムレベルでの実証を目指し、その有効性を実証する。
(意義)
惑星大気内を自在に飛行する技術は、惑星探査にユニークな選択肢を与え、より有意義なものとできる。さ
らに、この技術は人類の活動範囲を他の惑星へ拡大する際に重要な技術であり、そこに、独自のアプロー
チ(パラフォイル型の飛翔体)で挑戦することは、大いに意義のあることと考える。また、ここで構築された技
術は、大気球実験、観測ロケット実験での回収手段や、低軌道からの帰還システムへの応用も期待される。
本研究のゴール
本研究のゴールは、惑星探査用のパラフォイル機について、1)安全確実な展開手法、2)低密度環境で
の巡航飛行、3)自律飛行にて観測器をピンポイントで着陸させること、を大気球試験等のフライトの機会
を活用して、フライト環境において、本技術をシステムレベル実証することである。それを踏まえて、惑星探
査用のパラフォイル型飛翔体の有用性や将来性について評価を行う。
柔軟な飛翔体について、地上試験での技術開発とフライト試験をひとつの開発の流れの中で行い、地上
試験とフライトのフィードバックの方法や、一連の開発の流れを確立することも重要なゴールと考えている。
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
研究計画と方法
研究計画・方法(開始年度から)
平成24年度(研究費:1,200千円)
年度後半の追加予算での採択&予算配算であったため、主に、来年度以降にむけての研究体制の構築と
準備、研究課題の洗い出し、その解決にむけ、来年度以降の研究活動の方針の決定を行った。
パラフォイル型惑星探査機の成立性の実証において、早急に行うべく課題として下記の4点を抽出した
 パラフォイル型飛行体の揚抗比向上
 パラフォイル型飛行体を安全確実に展開するシステムの構築
 低密度環境での高性能かつ収納可能なプロペラ推進器の開発(電源の確保を含む)
 GPSのない環境で自律的に飛行する航法誘導システムの構築
平成25年度(研究費:6,000千円(予定))
H24年度の準備を踏めて、フライト試験にむけた準備と,実験室レベルでの事前試験を重点的に行い、翌
年度以降のフライト試験に備える。特に、下記に上げる項目が重要な技術課題となる。
 風洞試験と数値解析によるパラフォイル傘体の空力特性評価と最適設計
 投下試験による展開挙動の確認と安全確実な展開手法の確立
 (収納展開可能な)惑星探査用プロペラ推進器の開発とその性能評価
 フライト試験用搭載機器(制御部,航法システム,電子回路部など)の開発
平成26年度(研究費:12,000千円(予定) )
H25年度の準備,検討を踏まえて,フライト試験用の試験機を完成させる.
試験機は繰り返しの試験に耐えうる堅牢なものを構築し、 その試験機を用いた小規模なフライト試験を
繰り返し,データを蓄積するとともに,システムを洗練していく.
H26年は、例えば、下記のような目的を絞った小規模の試験が中心となると考えている。
 ヘリからの投下によるピンポイント&着陸実証試験
 ラジコン機による航法&制御アルゴリズムの実証試験
 低密度環境でパラフォイルの特性を把握するための小型気球を利用した高空での飛翔試験
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
研究計画と方法
研究計画・方法(つづき)
平成27年度(研究費:10,000千円(予定) )
最終年度であるH27年度は、大気球試験など比較的大規模な試験を実施し,パラフォイル機の技術要
素を段階的に,部分的に実証してきたことをシステムとしての実証し,本研究課題の目的を完了する.
主に実証すべき項目は、下記の3点と考えている
*安全確実な展開手法
*低密度環境での巡航飛行
*自律飛行にて観測器をピンポイントに着陸
なお、陸上着陸までの実証を想定すると,海外での実験も視野にいれて計画を進める。
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
平成24年度研究成果の概要
研究成果
今年度は、本研究課題で着目するパラフォイル型の惑星探査機について、過去の研究成果を踏まえて、目標ミッ
ションの策定、探査機の概念検討、システムの成立性について検討を行った。また、それを基に重要な技術課題の
洗い出しとそれを解決するための方針の検討を準備を進めた。その結果は下記にまとめる。
目標ミッション:複数の小型エントリモジュールによる上空からの広範囲探査と観測器のピンポイント輸送
技術的な課題の洗い出しと来年度の研究計画の策定
・パラフォイル型飛行体の揚抗比向上 → 風洞試験、数値計算により空力特性を把握し、最適な設計を探る
・収納可能なプロペラ推進器の開発(電力の確保を含む) →プロペラを実際に製作し、低密度風洞で性能を評価
・パラフォイル型飛行体を安全確実に展開するシステムの構築 →小型気球からの投下試験により試行錯誤で確立
・GPSの内環境で自律的に飛行する航法誘導システムの構築 →画像&慣性航法を実証するたけの小型機を準備
目標の達成状況
本研究課題の最終的なゴールは、惑星探査用のパラフォイル機に必要な技術について、研究開発を進め、
それらを集約して試験機を開発し、フライト試験においてシステムレベルでの実証を行うことである。
今年度は、追加予算での採択ということもあり、期間が短かったため、現状は、概念検討、システムの成立
性検討を踏まえて、重要な技術課題の抽出、及び、その解決方法について方針を策定し、その準備を進めて
いる段階である。本格的な研究活動は来年度以降と考えている。
継続理由(3年以上継続研究)
今年度が研究初年度である。全体では、今年度を含めて4年間の研究計画である。
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
平成24年度研究費内訳
パラフォイルの空力特性取得用計測機(小型6分力計)
推進器開発用機器(試験用電源、及び、工作機器)
打ち合わせ旅費
691 千円
368 千円
141 千円
合計
1,200千円
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
平成24年度研究業績(研究発表,特許,表彰など)
国内発表
柔軟構造飛翔体の火星探査への応用に関する研究
谷繁樹林,山田和彦,高橋裕介,安部隆士
(日本航空宇宙学会第43期年会講演会,本郷,2012年4月)
柔軟エアロシェル機と密閉型パラフォイル機による火星表面探査ミッション
安部隆士,山田和彦、永田靖典、谷繁樹林、高橋裕介、平木講儒、東野伸一郎、鈴木宏二郎
(第56回宇宙科学技術連合講演会,別府,2012年11月)
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
平成24年度研究成果の詳細
非公開希望の有無
パラフォイルによる惑星探査についての整理
<パラフォイル型の惑星探査機の利点と特徴>
*収納性がよく、小型(省スペース)化を指向した乗り物である。
→限られたリソースの有効利用、複数分散型の探査の可能性を拓く。
*推進器を組み合わせることにより、巡航飛行による上空からの広範囲探査を可能にする
→探査だけでなく、輸送機としては上空から目的を確認しながらの誘導が可能
*惑星表面の狙った地点へ物資(観測器)を送り届ける輸送手段となりうる。
→ローバではたどり着けない地点にも、観測器を上空から投下できる。
→パラフォイル自体の着陸も可能(着陸方法は今後の技術課題である)
惑星探査ミッションの例
<目標ミッションの定義>
地表到達重量15kg(単独で成立する最小規模の
観測器)の火星エントリモジュールを目標とする。
ミッションシークエンス例
①母船から離脱
②大気圏突入(柔軟エアロシェルの利用を検討)
③高空でのパラフォイルの放出、展開
④巡航飛行による上空からの探査
⑤狙った地点(ローバが到達できない場所(クレーター
の中、斜面、断崖、縦穴など))へランダを投下
⑥ランダによる地上探査
⑦(オプションでパラフォイル機も着陸)
①~⑦のシークエンスを実施する小型モジュール
を想定し、それを複数装備した探査機を提案
エントリモジュールの全備重量は50~70kgを目標とする→パラフォイル機は全備30kg程度を想定
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
平成24年度研究成果の詳細
非公開希望の有無
パラフォイル機の成立性検討
<想定する惑星探査用パラフォイルの概念図>
完全密閉型パラフォイルの採用で優位性を高める。
(揚抗比の向上、能動的な展開、低密度&ガスト対策)
翼面上へ太陽電池の
搭載も検討
慣性&画像航法で
自律的に目標点へ
誘導
オプションで
パラフォイル機
自体の着陸も検討
高高度(高度10km)で
パラフォイル機を放出
プラペラ推進器を搭載し
巡航飛行が可能
火星上の特徴点に
観測器を投下
<成立性検討の基準とした条件(ノミナルケース)>
総重量
30kg
モータ効率
0.8
翼面積
20m2
プロペラ効率
0.5
巡航距離
100km
0.2kg/m2
大気密度
0.005kg/m3
(高度10km)
(パラフォイル)
面積あたりの重量
(モータ)
重量あたりのパワー
3.24kW/kg
150Wh/kg
揚力係数
0.45
抗力係数
0.15
(バッテリー)
重量あたりの容量
<巡航条件>
<重量内訳>
揚抗比
3.0
パラフォイル重量
4.0kg
巡航速度
70.3m/s
バッテリ重量
17.2kg
必要推力
37N
モータ重量
1.6kg
必要パワー
2.61kW
プロペラ重量(固定)
0.5kg
必要電力
6.52kW
余剰重量
6.7kg
既存の技術(地球用のラムエア型パラフォイルを参
照等)を基にした成立性検討では、成立はするもの
の、巡航に必要なパラフォイル、バッテリ、モータ、プ
ロペラを除いた重量が6.7kg(目標15kg)と十分なペ
イロード重量を確保できない。
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
平成24年度研究成果の詳細
非公開希望の有無
~技術目標の抽出1(パラフォイルの揚抗比の向上)~
揚抗比のシステム重量への影響
(ノミナルケースから空力係数のみを変化)
(過去の成果より)翼幅2mのパラフォイルを用いて
JAXA調布の6.5m×5.5m大型低速風洞で風洞試験を実施.
密閉型パラフォイルの試作品
ノミナル
CD=0.15
CL=0.45
CD=0.1
CL=0.5
CD=0.08
CL=0.56
揚抗比
3.0
5.0
7.0
巡航速度
70.3m/s
66.7m/s
63.1m/s
必要推力
37.1N
22.3N
15.9N
必要パワー
2.61kW
1.49kW
1.00kW
必要電力
6.52kW
3.71kW
2.51kW
パラフォイル重量
4.0kg
4.0kg
4.0kg
バッテリ重量
17.2kg
10.3kg
7.4kg
モータ重量
1.6kg
0.9kg
0.6kg
プロペラ重量
0.5kg
0.5kg
0.5kg
余剰重量
6.7kg
14.3kg
17.5kg
揚抗比4~5
揚抗比2~2.5
揚抗比の劇的な向上を
実験的に確認
比較用の既存のラムエアパラフォイル
成立性検討から、揚抗比を向上させること(5.0以上目標)は劇的にペイロード重量を増やす効果がある。通常用い
られるラムエア型ではその実現は困難であるが、密閉型パラフォイルを採用したことで、その実現の可能性は十分
にある。その効果は過去に行った風洞試験においても確認されている。
来年度以降は、風洞試験や数値計算を詳細に行い、密閉型パラフォイルの空力特性を理解した
上で、その最適な設計を行う(揚抗比5.0以上を目指す)。試作機のような全体が膨張するタイプの
ほか、部分的にインフレータブル構造にするタイプも候補として、さまざまな形態を検討する予定。
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平成24年度 戦略的開発研究(工学)
非公開希望の有無
平成24年度研究成果の詳細
~技術目標の抽出2(推進系の開発、電力の確保)~
太陽電池によるモータ電力確保についての検討
プロペラ効率の影響
(ノミナルケースからプロペラ効率のみを変化)
ノミナル
揚抗比5.0とし翼面積の80%に薄膜太陽電池を搭載したと仮定
太陽電池の重量は0.1kg/m2、効率(es)は30,60W/m2
(CD=0.1,CD=0.5)
なし
es=30
es=60
es=60
プロペラ効率
0.3
0.5
0.7
翼面積
20m2
20m2
20m2
50m2
巡航速度
70.3m/s
70.3m/s
70.3m/s
巡航速度
66.7m/s
66.7m/s
66.7m/s
42.2m/s
必要推力
37.1N
37.1N
37.1N
必要推力
22.3N
22.3N
22.3N
22.3N
必要パワー
2.61kW
2.61kW
2.61kW
必要パワー
1.49kW
1.49kW
1.49kW
0.94kW
必要電力
10.9kW
6.52kW
4.66kW
必要電力
3.71kW
3.71kW
3.71kW
2.35kW
バッテリ重量
28.6kg
17.2kg
12.3kg
太陽電池発電量
-----
0.48kW
0.96kW
2.4kW
モータ重量
2.7kg
1.6kg
1.2kg
パラフォイル重量
4.0kg
4.0kg
4.0kg
10.0kg
余剰重量
-5.8kg
6.7kg
12.1kg
バッテリ重量
10.3kg
9.0kg
7.6kg
-----
モータ重量
0.9kg
0.9kg
0.9kg
0.6kg
太陽電池重量
-----
1.6kg
1.6kg
4.0kg
余剰重量
14.3kg
14.1kg
15.3kg
14.9kg
プロペラ効率は、バッテリー重量に直接影響があ
るため、システム成立性に大きな影響がある。低
密度環境で想定した効率(0.5以上)を実現するプ
ロペラ推進器を設計、製作し、その性能を風洞試
験等で実証することが来年度の目標となる。
(展開型プロペラのプロトタイプモデル)
高効率の薄膜太陽電池(火星上で効率60W/m2以上、重量
0.1kg/m2以下)が実現すれば、太陽電池の利用により、ペイ
ロード重量が増加させられる。また、翼面積との兼ね合いで、
太陽電池のみで巡航飛行できる可能性もある。
モータ電力の電源確保もシステムの成立性の鍵であり、来
年度は、プロペラの開発と並行して、畜電池、薄膜太陽電池
の動向を調査しながら、電源系の検討も進める。
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