Lecture 5 Cancer and Immunology

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がんと免疫
生命基礎科学講座
小林正伸
TEL/FAX:0133-23-1508
Mail: [email protected]
免疫監視機構
1.非特異的免疫(自然免疫)
1)物理的・機械的
通常健康な皮膚や粘膜は最近の侵入を許さない。
2)液性因子
涙、唾液、鼻汁、胃酸などは微生物を洗い流したり、生育を阻害する 。
3)細胞性因子
好中球とマクロファージは、微生物を貪食して破壊する。
2.特異的免疫
1)液性免疫
血漿タンパク中に含まれる免疫グロブリン(抗体)が、抗原と結合することで細菌の溶解、毒
性物質の中和、抗体依存性細胞傷害などの反応を起こして、自己を守るシステム。Bリンパ
球の最終分化細胞である形質細胞が免疫グロブリンを産生する。
2)細胞性免疫
免疫担当細胞の「食べる」「殺す」機能が中心となる免疫応答を細胞性免疫といい、ヘルパーT
細胞の制御のもとでB細胞の抗体産生やキラーT細胞の実働部隊を動かして自己を守ってい
る。細胞性免疫が効果を発揮するのは、抗体が届かないところであり、細胞内に寄生するウイ
ルスや結核菌、サルモネラ菌などの細胞内寄生細菌、真菌が標的となる。
癌細胞を攻撃できる免疫細胞
単球
マクロファージ(組織内を移動し、異物を飲み込んで貪食)
樹状細胞(高い抗原提示能力。T細胞に抗原情報を伝達し活性化)
リンパ球
T細胞(B細胞やキラーT細胞などを助けるヘルパーT細胞、ウイルス感染細胞や
がん細胞を殺すキラーT細胞、免疫を抑制する制御性T細胞などがある)
B細胞(抗原特異的な抗体を分泌)
NK細胞(体内をパトロールし、ウイルス感染やがん細胞を監視し傷害)
NKT細胞(NK細胞とT細胞の性質を併せ持つ。免疫調節作用あり)
抗原提示細胞によるMHCクラスIIを介した抗原提示
1.マクロファージ、樹状細胞による抗原提示
異物の貪食
異物の消化・分解
MHCクラスIIにのせて提示
これが異
物だよ!
了解!
2.B細胞による抗原提示
結合しないので
取り込まない
B細胞
これが異
物だよ!
結合するので
取り込む
B細胞
了解!
抗原特異的Tリンパ球の増加
抗原特異的リンパ球の増加
抗原提示細胞により活性化されたTリンパ球は、分
裂・増殖して自らのクローンを増やす。
CD8陽性T細胞はその過程で成熟し、細胞質内に
パーフォリンやグランザイムなどを含んだ細胞傷害
顆粒を持つエフェクター細胞になる。
CD4陽性T細胞は、Th1またはTh2のパターンを示す
サ イ トカ イ ン産 生 細 胞 へ と 分 化 す る 。
エフェクター細胞はリンパ節を離れ、血流に従って
全身を巡る。その過程で炎症の起こっている組織に
近付くと、そこでは血管内皮細胞に接着分子発現
の変化が起こっている。それを検知したエフェクター
Tリンパ球は血管の外に出て、局所のマクロファー
ジなどによる抗原刺激を受けてサイトカインを産生
したり(CD4陽性T細胞の場合)、ウイルスに感染し
た標的細胞を破壊したりする(CD8陽性T細胞の場
合)。
抗原提示とMHCクラスI
パターン1
自己ですね。放置します。
パターン2
非自己ですね。死刑!
T細胞
一致
T細胞受容体
標的細胞
一致せず
抗原ペプチド
抗原ペプチド
MHC
MHC
非自己
私が作っている
蛋白質の一部で
す。良く調べて
ください。
MHCクラスIによる抗原提示
自己
非自己
排除へ
MHCクラスIによる抗原提示後の
T細胞の反応
がんに免疫が働いていると考えられる根拠
1)がん組織にリンパ球が浸潤している。
2)がんが最初の治療後、長期にわたって眠っていることがある。
3)小児、高齢者など免疫力の弱いヒトに発がんし易い。
4)免疫不全患者、免疫抑制処置を施行された患者は、発がん
リスクが高い。
5)患者のリンパ球が試験管内で癌細胞を殺す。
6)癌細胞にがん抗原が検出される(がん抗原ペプチド)。
腫瘍免疫の概念
異物性
(抗原性)
エフェクターの主体
ヘルパーT 細胞
サイトカイン
自然抵抗性
獲得免疫
免疫逃避
医療の役割
感染症
強い
臓器移植
強い
がん
弱い
液性免疫
Th2
IL-4,-5
IL-10
あり
あり
少ない
免疫増強
細胞性免疫
Th1
IL-12,2
IFN-γ,TNF-α
なし
あり
なし
免疫抑制
免疫逃避の誘導
細胞性免疫
Th1
IL-12,2
IFN-γ,TNF-α
あり
あり
あり
免疫増強
免疫逃避の解除
感染免疫と腫瘍免疫
侵入してきた異物である病原体に
対して、樹状細胞などの抗原提示
細胞が抗原をリンパ球に提示し、
抗体産生、killer T lymphocyteの
増殖が起こり、最終的に排除する。
遺伝子の変異によってがん化した
細胞に対して、変異遺伝子やがん
関連抗原を標的としてkiller T
lymphocyteの増殖が起こると考え
られている。
癌細胞の抗原性
(1)新しい遺伝子情報がウイルスによってもち込まれる
(例,子宮頸癌のヒトパピローマウイルスE6およびE7蛋白)
(2)発癌物質により癌遺伝子や腫瘍抑制遺伝子が変異し,それ
らが新しい蛋白配列を直接的につくるか,または正常では発
現しないか,したとしても非常に低レベルの蛋白を蓄積する
ように誘導するかのいずれか(ras, p53)
(3)正常ではかなり低レベルか(例,前立腺特異抗原,悪性黒
色腫関連の抗原)または胚発生期のみに発現する(癌胎児抗
原)蛋白の蓄積量が異常に高まる
(4)腫瘍性細胞により細胞膜の恒常性が損われ,正常では細胞
膜内に埋もれている抗原が露出する
(5)腫瘍性細胞が死ぬと,正常では細胞内または細胞小器官内
に隔離されている抗原が放出される
がん抗原の本態
1.がんの免疫は、
癌細胞に正常細胞にはない非自己分子(抗原)が存在する
ことを前提にしている。
2.最近、がん抗原が少数個のアミノ酸から成る(ペプチド)
として同定された。
3.がん抗原ペプチドは癌細胞膜面の主要組織適合抗原に組み
込まれて発現される。
4.主要組織適合抗原に組み込まれたがん抗原ペプチドはTリ
ンパ球の受容体に認識される。
5.がん抗原ペプチドが認識されると同時に共刺激分子(CD80、
CD86)がないと免疫の記憶が残らない。
6.がん抗原ペプチドをワクチンとして用いた免疫療法が検討
されている(活動免疫療法)。
ひとのがん抗原
ヒトのがん抗原ペプチドの例
遺伝子名称
MAGE-1
MAGE-3
BAGE
GAGE1,2
RAGE
MART-1
Gp100
F4.2
SURVIVIN
SART-1,2 &3
NY-ESO-1
MUC-1
HER2/neu
由来がん細胞
メラノーマ細胞
(MZ2-MEL)
メラノーマ細胞
乳癌細胞
グリオーマ
腎がん細胞
メラノーマ細胞
同上
胃癌細胞
各種がん細胞
扁平上皮がん細胞
メラノーマ細胞
乳がん細胞など
乳がん細胞など
拘束MHC
HLA-A1
HLA-Cw16
HLA-A1 or A2
HLA-Cw16
HLA-Cw6
HLA-B7
HLA-A2
HLA-A2
HLA-A31
HLA-A2
HLA-A2601
HLA-A2
MHC非拘束
HLA-A2
報告者
Bruggen,
Boon ら
Kawakami,
Rosenbergら
佐藤ら
佐藤ら
伊東ら
中山ら
癌の免疫逃避機構
1.腫瘍側
抗原発現の低下
MHC発現低下
ペプチドのMHCへの結合低下
共刺激分子(CD80,CD86)
発現低下
免疫抑制因子の産生
TGF-β, PGE2など
IL-10, IL-6など
免疫エフェクターの
腫瘍集積性の低下
2.宿主側
免疫寛容
サプレッサーの誘導
Th1/Th2バランスの異常
(Th2型サイトカイン優位)
APCの機能不全
血清免疫抑制因子
アネルギー
ひと腫瘍における免疫抑制機構
担癌患者では、癌細胞が産生
する様々な分子がトリガーと
なり、癌細胞自体が産生する
免疫抑制分子に加えて、制御
性T細胞や骨髄由来抑制性細胞
や制御性樹状細胞などの各種
免疫抑制性細胞のカスケード
的誘導により、免疫抑制環境
が構築される。悪性黒色腫、
大腸癌などでは、活性型
BRAF(V600E)共通変異やRAS変
異などによるMAPKシグナルの
恒常的亢進により、癌細胞の
増殖・浸潤亢進や、さらに、
IL-10, VEGF, IL-6などの多様
な免疫抑制性因子産生を介し
て、樹状細胞成熟化の阻害、
制御性樹状細胞誘導などの免
疫抑制にも関与する
免疫回避機構の例
−腫瘍局所でのTGF-bの産生−
マウス移植腫瘍における腫瘍局所
のTGF産生を免疫染色した。右はブ
レオマイシン処理したマウスで、
TGF産生が抑制されている。
担癌マウスにブレオマイシンを投
与するとIL-2さん性能が回復する
ことがわかる。
免疫応答機構の老化メカニズム(仮説)
老化に伴ってPD-1というマーカー陽性
の新しいTリンパ球集団増加する。通
常Tリンパ球は、リンフォカインと呼
ばれる多様な生理活性因子を産生して、
抗体産生、キラー細胞誘導、炎症反応
などの免疫反応を起こす。しかしこの
PD-1陽性Tリンパ球集団はそのような
獲得免疫応答能を完全に欠質し、かわ
りにマクロファージなどの自然免疫系
の細胞が作るオステオポンチンという
強力な炎症性サイトカインを大量に産
生する。このような機能的変化は、主
にC/EBPαという遺伝子の発現に起因
している。C/EBPαはマクロファージ
などの骨髄球(白血球)の分化と機能
を司るマスター遺伝子であり、通常の
Tリンパ球には発現されない。従って、
PD-1陽性Tリンパ球は骨髄球(白血
球)へあたかも「先祖返り」した細胞
のように見える。
新しい免疫療法−NKT細胞療法−
NKT細胞は、1990年代になって解析が進み、T細胞、B細胞、NK細胞に次ぐ
「第4のリンパ球」と呼ばれるようになったが、末梢血中ではリンパ球全
体のわずか0.1パーセント以下しかない。NKT細胞にはたった1つの受容体
しかない。その1つの受容体に結合し、NKT細胞を活性化することができる
のは、糖脂質のα-ガラクトシルセラミドという物質。
新しい免疫療法−NKT細胞療法の効果−
これまでに、17名の進行肺がん患者
(第IIIB、IV期あるいは再発症例)を
対象に第1相・第2相臨床試験を終了
した。平均余命6ヶ月とされる標準治
療終了後の進行期肺がんあるいは再発
肺がんの場合で、 免疫反応の得られ
た60%の患者さん(10例)の生存期間中
央値は31.9ヶ月で、症例全体でも生存
期間の延長(19ヶ月)が認められた。
新しい免疫療法−樹状細胞療法−
抗原提示細胞である樹状細胞に腫瘍抗原ワクチンとともに投与することで、生
体内でkiller T細胞を続々と誕生させて、癌細胞を破壊しようとする治療法。
新しい免疫療法−樹状細胞療法−
進行膵がん患者に対してWT1ペプチドワクチンと樹状細胞療法を試みた成
績
効果判定ができたのは18症例だった。18症例の成績をまとめると、完全寛
解が2例、部分寛解が7例、不変が5例となっている。
新しい免疫療法−自家がんワクチン療法−
さん(59歳)の場合 2004年2月に左乳房潰瘍・呼吸困難で来院、胸水貯留・多
発性骨転移・肝転移があった乳がんの手術を4月施行、術後CEF治療(ファルモル
ビシン+エンドキサン+5-FU)6クール終了後、同年10月自家がんワクチン投与
開始(この患者さんの場合、例外的に3クールを希望)翌年3月まで肝転移巣長期
不変(SD)。しかし腫瘍マーカーが上昇。その後、通常よりも低い用量の化学療
法(タキソテール40ミリグラム/日)を再開、2006年5月、腫瘍マーカーがほぼ
正常化。大型骨転移巣が激減、一部消失(上の写真)した。
日本におけるペプチドワクチンの臨床試験
1. 病院名 高知大学医学部分子免疫学
WT1ワクチン臨床試験事務局
臨床試験の免疫療法 WT1ペプチドによるガンワ
クチン療法
2.病院名 大阪大学大学院医学系研究科
WT1ワクチン臨床試験事務局
臨床試験の免疫療法 WT1ペプチドによるガンワ
クチン療法
3.病院名 東京大学医科学研究所付属病院 外科
臨床試験の免疫療法 ペプチドワクチン療法
4.病院名 愛知県がんセンター病院 血液・細胞療法部
研究所 腫瘍免疫学部
臨床試験の免疫療法 同定済みマイナー組織
適合
抗原ペプチドを用いた、同種造血細胞移植後
に再
発した造血器腫瘍に対する免疫療法
養子免疫療法(免疫細胞療法)、マイナー組織適
合抗
原以外の抗原を標的とした免疫療法
5.病院名 東京大学医学部付属病院 脳神経外科
臨床試験の免疫療法 樹状細胞療法
6. 病院名 金沢大学大学院医学系研究科
補完代替医療学講座
臨床試験の免疫療法
WT1ペプチドによ
るガンワクチン
療法
7. 病院名 九州大学大学院 医学研究院
先端医療医学部門 腫瘍制御学分野
臨床試験の免疫療法
難治性固形がんに
対する「免
疫監視機構構築療法」
8. 病院名 慶應義塾大学医学部 先端医科学研究所
細胞療法研究部門
臨床試験の免疫療法
樹状細胞療法
FDAで承認された癌ワクチン
Provengeの問題点
Provengeは、患者自身の白血球から作製されるワクチン。患者から採
取した細胞を薬剤で処理して患者の身体に戻すことにより免疫反応を
惹起(じゃっき)させ、正常な細胞を損傷することなく癌細胞を死滅
させる。FDAによると、2週間おきに3回静脈注射(静注)するという。
このワクチンを開発したのは米Dendreo社(シアトル)。同社がホル
モン療法に不応性の進行前立腺癌患者を対象に最初の臨床試験を実施
した結果、Provengeにより平均4.5カ月の生存期間の延長がみられ、
患者によっては2~3年の延長も認められた。
Provengeの投与時期が課題となっており、化学療法またはホルモン療
法の前に使用する方がよいかどうかは明らかにされていないという。
また、患者が白血球を定期的に提供しなければならない点や、予測さ
れる費用が計7万5,000ドル(約705万円)と極めて高額な点など、い
くつかの問題もある。
免疫の神経支配
1)免疫に関与する2種類の細胞(PとL)
病気を防ぐ
細胞群には
リンパ球(L)と
顆粒球(P)がある。
リンパ球と
顆粒球の比率は
自律神経によって
調節されている。
免疫の神経支配
1)免疫に関与する2種類の細胞(PとL)(続き)
リンパ球系の細胞は
自分以外のものを
貪食する
マクロファージから
進化してきた。
免疫の神経支配
2)自律神経の臓器支配
昼
外に向かう活動
体内に向かう活動
夜
免疫の神経支配
3)ナチュラル・キラー(NK)細胞
自
己
で
な
い
細
胞
を
殺
す
「絵でわかる免疫(安保)による」
ナ
チ
ュ
ラ
ル
・
キ
ラ
|
細
胞
は
免疫の神経支配
これらリンパ球活性を
高めるためには
まず意欲をもつこと
免疫の神経支配
4)ストレスと免疫
がん患者に
おいてがん細胞が
殺されにくいのは
リンパ球の比率が
少ないからである。
「絵でわかる免疫(安保)による」
免疫の神経支配
4)ストレスと免疫(続き)
がん予防や
治療には、
極力ストレスを
少なくする
ことが大切
「絵でわかる免疫(安保)による」
免疫の神経支配
4)ストレスと免疫(続き)
いろいろなストレスがたまると
顆粒球が増加して、
その影響が
上皮細胞の増殖を促進し、
リンパ球機能が抑制され
癌の発生を促す
免疫の神経支配
4)ストレスと免疫(続き)
神経内分泌系による免疫抑制(1)
交感神経系
アドレナリン受容体
顆粒球/貪食細胞系
活性酸素/組織破壊
副交感神経系
アセチルコリン受容体
リンパ球系
免疫能上昇
免疫の神経支配
4)ストレスと免疫(続き)
神経内分泌系による免疫抑制(2)
神経緊張
下垂体刺激によるACTHの産生
副腎刺激グリココルチコイド産生
Tリンパ球の抑制
免疫の神経支配
4)ストレスと免疫(続き)
ストレスと実験がん細胞の増殖
1)ストレスは発がんを促進する(内田ほか)
2)ストレスはがん細胞の転移を促進する
(広川ら)
3)がんの治療に有効なBRMは
ストレスを緩和する
(羽室ら、内田ら)
免疫の神経支配
4)ストレスと免疫(続き)
神経内分泌系による免疫抑制(3)
ストレス
NK細胞活性の抑制
免疫の神経支配
5)笑いによる
NKの活性化
NK細胞のがん細胞
傷害性は
「笑い」や「リラックス」
で増強される。
「ストレス」や「過労」
で減弱される。
「絵でわかる免疫(安保)による」
老化と免疫
加齢とともに免疫能は低下するが、個体差大きい。
T細胞系
健康高齢者(60歳以上)では
末梢のリンパ球数が減少し始める。
ナイーブT細胞の減少と
メモリーT細胞の増加
細胞性免疫反応(ツベルクリン反応など)
の低下
老化と免疫
・B細胞系
一般に、 加齢による変化は少ない。
血清中の免疫グロブリン増加、
免疫グロブリン陽性B細胞の増加。
外来性抗原に対する抗体産生は低下するが、
自己抗体産生は増加する。
つまり、自己免疫疾患になりやすい。
高齢者の免疫能低下は日和見感染に結びつく。