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城野 克広
産業技術総合研究所
計測標準研究部門
[email protected]
1
この資料は、産業技術総合研究所内のサーバに設置されている
城野克広のホームページ http://staff.aist.go.jp/k.shirono/ 内
ダウンロード http://staff.aist.go.jp/k.shirono/download_j.html
にて、公開しているものです。上記サイトでは、他にも不確かさ関連の資
料を公開しております。このサイトでは初歩的なセミナーなどでは飛ばして
しまいがちな話やトピカルな話題、研究レベルの話題をとりあげておりま
す.基本的には個人的な勉強などの私的利用を想定してアップロードして
おります.私的利用の範囲を越えると判断される場合にはご一報下さい.
プログラムは自分が分かればよいというつもりで書いているので,あまり
綺麗なものではありません.プログラム含め資料に誤りがあった場合にも
責任は持ちません.ご自身で内容をよく精査してお使い下さい.
また、不確かさに関する一般的な情報は「不確かさWeb
http://www.nmij.jp/~mprop-stats/statspartcl/uncertainty/uncerta inty.php 」をご参照下さい.
産業技術総合研究所 計測標準研究部門
ナノ材料計測科 粒子計測研究研究室 城野克広
Katsuhiro Shirono @ AIST, NMIJ, JAPAN
e-mail: k.shirono*aist.go.jp (*を@に置き換えて下さい。)
2
内容
5分で不確かさをオーバービュー
勘所① せっかくのデータを捨てていませんか?
勘所② うっかりダブル・カウントしてませんか?
勘所③ その合成方法はおかしくないですか?
3
5分で不確かさをオーバービュー

5 minutes overview on uncertainty
4
1
2
3
4
5
秒前
5
4M
Environment
(品質管理の4M) + 環境
標準不確かさ(標準偏差)を評価する
平均値の標準不確かさ
=
Aタイプ
(平均値からの差)2の足し算
(繰返し数)(繰返し数-1)
Bタイプ
正規分布の標準不確かさ
= 95 %の信頼区間半幅/2
一様分布の標準不確かさ = 半幅/√3
7
感度係数cを求め,
出力
出力の標準偏差
=感度係数 c×入力の標準偏差
y ~ ci  xi  b
b
u(x)
入力
単位を揃えて,合成する
u c y  
m
2




c
u
x
 i i
i 1
8
不確かさを拡張する
拡張不確かさUは、合成標準不確かさに包含係
数kを乗じて求める。(正規分布なら2で95 %。)
U  ku c  y 
95 %
標準偏差
2.5 %
2.5 %
x
9
勘所①
せっかくのデータを
捨てていませんか?

Do not throw data away.
10
繰返しの標準不確かさ
一回の測定値の標準不確かさ
=
(平均値からの差)2の足し算
(繰返し数-1)
平均値の標準不確かさ
=
一回の測定値の標準不確かさ
繰返し数
11
伊藤さんの横着
100サンプルもの濃度測定試験を行った実績を持つ伊藤さ
ん。実験は好きですが、標準偏差の計算など解析の作業は
大嫌いです。伊藤さんは最近、「この実験は平均値が違って
も、ばらつきはいつも同じだな。」ということに気がきました。
昔のデータからばらつきを評価でき
ないかな?
12
伊藤さんの横着
今日も3回濃度測定をして、その平均値を報告する。過去
100セット各3回のデータから、1回の試験のばらつきの標準
偏差はspであると知っています。さて、今日も二乗して、足し
て割って、平方根をとらないといけないのでしょうか?
平均値の標準偏差は?
① sp
① s
③
p
3
sp
② sp
②
3  100
3
100
sp
100
③
s
p秒前
6
7
8
9
10
1
2
3
4
5
秒前
3  100
13
平均値の標準偏差
平均値の標準不確かさ
=
一回の測定値の標準不確かさ
平均値を計算するのに用いたデータ数
上の式の右辺には”平均値”自体は出てこ
ない。一回の測定値の標準不確かさが既
知なら、平均値の標準不確かさも実は既知。
14
標準偏差の推定精度
不確かさの不確かさ
3回の繰返し
から求めた標
準偏差は大
きくばらつく。
本当の
標準偏差
推定した標準偏差
出現頻度
出現頻度
実は伊藤さんは横着しながら、解析の精度を高めている。
100サンプルの
繰返しから求め
た標準偏差はば
らつきが小さい。
本当の
標準偏差
推定した標準偏差
15
標準不確かさの計算
100セット各3回のデータから、100個の“標準不確
かさ”を計算することができる。この試験の一回のば
らつきの標準偏差は、以下のように求める。
(この試験の標準不確かさ)2
=
100個の(標準不確かさ)2の和
100個
=
(標準不確かさ)2の平均
16
もっと複雑な場合(分散分析)
試料による違いなら不確かさに含めなくてよいが、
例えば今日の試験と明日の試験の間に繰返しの効
果以上の差があるなら、それは不確かさとして評価
しなくてはならない。
「分散分析」を行って、日にちごと
のばらつきを評価する。
分散分析の不確かさ評価への利用のWebサイト
http://staff.aist.go.jp/k.shirono/downloadANOVA.html
17
もっと複雑な場合(分散分析)
日ごとのばらつきの標準不確かさが一日につきu日間
で、繰返しのばらつきの標準不確かさが一回の測定
値につき、u繰返しと、分散分析の結果分かった。実際
の試験は2日間に各10回の繰返し試験をして、その
20個の平均値を報告する。標準不確かさは?
① u 
① u 
② u 

u
u
2
 u 繰返し
2
 u 繰返し
2
2
日間
日間
2
u 日間 202  u 繰返し
 20
u 
2②
20
u 日間
2
u
9
6
7
8
10
1
2
3
4
5
2
2
繰返し
秒前
秒前
20
18
100個試料がある。うち10個の試料の濃度を測定
し、標準偏差u試料を得た。残り90個を10個の濃度
の平均値を付して、標準物質として頒布する。その
標準不確かさは?(試料間のばらつきが、濃度計測
の実験のばらつきよりずっと大きいとする。)
① u  u 試料
② u 
③ u 
u 試料
u 試料
2
2
6
7
8
9
10
1
2
3
4
5
秒前
秒前
10
10  u 試料
2
19
破壊試験での標準物質の値付け
■90個の試料の1つの値xの標準偏差は
u試料で与えられる。
■平均値の標準偏差が√(u試料2/10)で推
定される。
■結局、90個の試料の1つの値xの平均
値の周りでの標準偏差は
√(u試料2/10 + u試料2)で与えられる。
JIS Q 0035の式(2)のucharとubbがそれぞれ、
u試料2/ √10とu試料2にあたる。
20
勘所②
うっかりダブルカウント
していませんか?

Are they mutually exclusive?
21
佐々木さんの挑戦
佐々木さんはある測定の試料の前処理時間に幅があ
ることが気になっていた。考え得る範囲で前処理時間を
変えることにより、その感度係数を確かめた。
測
定
量
の
値
y ~cxb
前処理の時間
22
佐々木さんの挑戦
佐々木さんはその測定で、人によって結果が異なること
が気になっていた。実験計画を立てて、測定者が異な
るとどのくらい値がばらつくかを確かめた。
23
佐々木さんの挑戦
他には校正値の不確かさ以外には不確かさ要因はな
いと考え、以下のような不確かさ評価をした。(前処理
時間の不確かさは考えられる半幅の√3分の1。)
ci
測定量の標準不確かさ
|ci|u(xi) (g/g)
10.00 分
(=考えられる半幅の
√3分の1)
0.010
(g/g)/分
0.1000
測定者による違い
0.1200 g/g
1
0.1200
校正値の不確かさ
0.05000 g/g
1
0.0500
不確かさ要因
前処理時間
合成標準不確かさ
標準不確かさ
u(xi)
感度係数
0.1640
24
これじゃだめだ。多分。
どこが?
ci
測定量の標準不確かさ
|ci|u(xi) (g/g)
10.00 分
(=考えられる半幅の
√3分の1)
0.010
(g/g)/分
0.1000
測定者による違い
0.1200 g/g
1
0.1200
校正値の不確かさ
0.05000 g/g
1
0.0500
不確かさ要因
前処理時間
合成標準不確かさ
標準不確かさ
u(xi)
感度係数
0.1640
25
測定者が変わると、前処理も変わる
「測定者が変わる」という変化には、「前処
理時間が変わる」という変化も含まれるか
も知れない。
前処理の不確かさを
二回評価してしまっている。
26
どうしたらよいのか?
①測定者を変えたときの不確かさのみ評価する。
②物理的要因を明らかにし、項目ごとに評価して
合成する。
6
7
8
9
10
5
1
2
3
4
②は計測には非常に有用な情報になるが、不確かさ評価とい
秒前
秒前
う観点からは意味がない。また、完全に明らかにするのは通
常不可能である。
①はとりあえず「測定者が変わったとき」に何か起きるのかは
分からないが、不確かさの評価は妥当にできる。
27
28
29
逆に言うと
■測定者が変わっても、前処理時間が変わらな
いように注意深く統制されている試験所では、別
に影響を考える必要がある。
■繰返しの最中には温度は一定だが、目標とす
る温度からはずれている場合には、その分補正
する必要がある。
■デジタル表示の計測器で、何度測っても同じ
値を示す場合には、繰返しの標準偏差は0だが、
分解能による不確かさを考慮する必要がある。
30
True or False (○×) クイズ
■ある質量測定の繰返しの標準不確かさが0.2 g。
■その測定器の校正値の不確かさは0.1 gであった。
■校正値の不確かさにはばらつき成分も含まれて
いるから、0.2 gと0.1 gを合成したものは、本当は
“繰返しのばらつき”をダブルカウントされていて、
標準偏差としては過大に評価されている。
6
7
8
9
10
1
2
3
4
5
秒前
秒前
31
勘所③
その合成方法は
おかしくないですか?

Do the right combination.
32
正しい例
標準液Aの
濃度はCA
Aのピーク強
度はSA
u(CA)/CA
= 5%
u(SA)/SA
= 5%
未知試料X
Xのピーク強度
はS X
u(SX)/SX
= 5%
未知試料Xの濃度CX = SX/SA·CAの相対標準不確かさ
√[(5 %)2 +(5 %)2 +(5 %)2 ] ~ 8.6 %
不確かさ要因が3つで、すべての相対標準不確かさが5%だから。
33
間違えた例
前スライド
の内容
空測定
空測定の
ピーク強度は
S0
u(S0)/S0 = 5%
未知試料Xの濃度CX = (SX−S0) /(SA−S0) ·CAの相対標準不確かさ
√[(5 %)2 +(5 %)2 +(5 %)2 +(5 %)2 ] ~ 10 %
不確かさ要因が4つで、すべての相対標準不確かさが5%だから。
どこが違うのか?
34
不確かさを合成する
感度係数cを求め,
出力
出力の標準偏差
=感度係数 c×入力の標準偏差
y ~ ci  xi  b
b
u(x)
入力
単位を揃えて,合成する
u c y  
m

c iu
2
x i 
i 1
35
感度係数を考える
この差は出力の変化である。
Y
標準不確かさ2つ分の。
通常、2つ
の方向で値
が変わる。
この傾きが感度係数
になる。
y
u(x)
u(x)
x
X0
36
感度係数を考える
「標準不確かさ分の変化の直線の傾き」と
「入力値の点での接線の傾き」は同じくらい。
Y
標準不確かさ分の変化の直線
y
入力値の点での接線
x
X0
37
感度係数 =
出力値の標準不確かさ
入力値の標準不確かさ
出力値の標準不確かさ = 感度係数
×入力値の標準不確かさ
出力値の標準不確かさ
= 微分 ×入力値の標準不確かさ
38
相対不確かさの伝播則
以下のモデル式の場合を考えてみよう
SX
C X  f S X , S A , C A  
SA
CA
感度係数をモデル式を微分して求め、合成し、最
後にCX2 = (SX/SA·CA)2 で割ると下を得る。
 u C X  
 u S X  
 u S A  
 u C A  

 
 
 

 C

 S

 S

 C

X
X
A
A








2
2
2
2
39
相対不確かさの伝播則
実はモデル式が以下の場合、つまり入力量の掛け算と割り算
のみで測定量が表わされる場合には、
x 1 x 2 ...
z  f  x 1, x 2 ,..., y 1, y 2 ,...  
y 1 y 2 ...
相対的な標準不確かさの単純な二乗和で測定値の相対的な標
準不確かさの二乗が求まることが知られている
 u x1  
 u x 2  
 u y 1  
 u y 2  
 u z  
 
  ...  
 
  ...

  







x
x
y
y
 z 
1
2
1
2








2
2
2
2
2
40
つまり、
モデル式が割り算と掛け算のみのとき、
「合成相対標準不確かさの二乗」 =
「相対標準不確かさの二乗和」
それ以外のときには、モデル式を微分するか、標準不
確かさ分だけ増減した差を二で割るかして、入力量を
出力量に変換しないといけない。
41
ホームワーク
①身近な測定のモデル式を立ててみて下さい。
②それが掛け算と割り算だけの式か、足し算や引き算
もある式か考えてみて下さい。
③足し算や引き算もある式ならモデル式の微分から、
感度係数を計算する式を導き、その測定の不確かさの
合成の式を立ててみて下さい。
42
あれこれと

Appendix
43
GUM
“Evaluation of measurement data- Guide
to the Expression of Uncertainty in
Measurement”
BIPM, IEC, IFCC, ISO, IUPAC, IUPAP, OIML, ILAC (2008年修正)
http://www.bipm.org/utils/common/documents/jcgm/JCGM_100_2008_E.pdf
不確かさ関連情報
(独) 製品評価技術基盤機構HP (http://www.nite.go.jp)
公開文書一覧に、「測定の不確かさの関する入門ガイド」「校正の不確かさに
関する表現」と各量の不確かさの見積もりの事例が公開されている。
不確かさWeb (http://www.nmij.jp/statspartcl/uncertainty/uncertainty.html)
私の所属する粒子計測研究室が運営するHP。初心者用不確かさセミナーテ
キストの半分をダウンロードできる。分散分析のソフトも無償配布中。
日本電気計器検定所HP (http://www.jemic.go.jp)
初心者用不確かさセミナーテキストの残り半分がダウンロードできる。
城野克広HP (http://staff.aist.go.jp/k.shirono/download_j.html)
不確かさや統計関連のちょっと難しめの話題を取り上げて、解説資料などを無
料配布。不確かさ評価に特化した回帰分析のソフトを配布中。
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クイズの答え
スライド
スライド
スライド
スライド
スライド
スライド
4
12
17
18
26
30
:
:
:
:
:
:
①
①
②
③
①
×(“繰返しのばらつき”がどちらにも含まれているが、単に「同じ名
前」の成分なだけで、「同じ成分」ではない。)
スライド 41のヒント:例えばCX = (SX−S0) /(SA−S0) ·CAは引き算が混じっ
ていますが、もし(S0、SA、SX)という値のセットを何サイクルか取っているなら、
S* = (SX−S0) /(SA−S0)という値が何回か計測されて、そのばらつきが評価でき
ます。このときモデル式はCX = S*·CAとなって、掛け算のみの式になります。意
外とこのような例は多いので、ぜひ考慮に入れてみて下さい。
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