現職者研修「精神科作業療法の基礎知識」:pps 2006年

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精神科作業療法の基礎知識
日本作業療法士協会 現職者研修
加世田病院 堀木周作
Ⅰ 臨床家の「知識」

臨床での「知識」とはなにか
1) 二つの知識論
2) 知識体験の流れと組織化
3) 精神科作業療法に必要な知識
1). 二つの知識論

宣言的知識:「そもそもそれは何であるのか」という
ことを明確に宣言する知覚的な知識

操作的知識: 「どうすればよいのか」に関する行動
的な知識
※ 学究の目的は宣言的知識の正確性を検証し、
新たなる宣言的知識を打ち立てること 。
※ 一方、「臨床で役立つのは操作的知識」と言わ
れている。
宣言的知識
=「わかるため」の知識

「患者が抱える問題は~である」「問題の原
因は~である」「今後の目標は~である」と
いった知識のこと。
※自分は優秀だと思い込んでいる臨床家の多
くは、実は宣言的知識だけしかもっていない
ことが多いと言われている。
宣言的知識の功罪

宣言的知識は、前向きで創造的なものであれば、ま
だましである。→他者の意欲や発想を駆り立てる。
しかし・・・
「~という制約があるので、それはできない」 「アプ
ローチ上の問題点は人的資源の不足にある」など、
行動化しないような方向性の発言や否定的なことば
かり宣言する人は、チームの思考を停止させ、リハ・
サービス全体の発展を完全に阻害する。
思考の材料としての知識をあやつる
操作的知識=「できるため」の知識
課題や目標を「どうやったら実現できるのか」
についての知識。
 ケースバイケースに柔軟な切り替えをする。
 宣言的知識を基に、直感と発想によって発揮
される。
 因果律(~の原因は~)に繋がらない思考。
 論理的誤謬に陥らない思考。
 目的に対する「効果的手段を考える」もの。

宣言的知識 VS 操作的知識
臨床で求められている知識は操作的知識。
 宣言的知識を振りかざす「うん蓄」家はウザイ。
 でも、操作的知識を成り立たせている材料は
宣言的知識と「ひらめき」。即ち、文献や情報、
経験に基づいて知り得た知識と直感や感性。
 操作的知識は、「対処のためにはどうすればよ
いのか」を具体的行動に移すための知識。

あなたの知識はどっち優勢?
症例)
 統合失調症、24歳、男性、職歴なし、22歳
で入院、時に被害妄想あり、日中は病室に閉
じこもったまま過ごす、食事と服薬はNs監視
下でOK、毎日10分程度の散歩、会話可能。

「2ヶ月後の退院就労」を目標に設定できるだ
ろうか?
2).知識体験の流れと組織化
専門職にとっての知識と技術
1.臨床家にとって中核となる知識
①既存の知識・技術
(学校や教科書で学んだ基礎知識)
②文献や情報、経験による知識や技術の組織化
(臨床で得た知識:関係する分野・領域)
③コレクション形成(脈絡的知識の形成)
(関連資料・論文、資料選択のセンス、コレクショ
ン構築と取捨選択、主題とコンテンツの形成)
専門職にとっての知識と技術
2.現場環境からの知識と技術情報の管理
職場の知識・技術情報の基準や水準、そのネッ
トワーク(勉強会・研修会の実施や参加、情報
ネットワークの利用、他職との協力、プライバ
シーや知的権利の保護etc.)などを知る。
3.情報や知識の流通と管理
知的自由と責任、文化差や価値観差の存在、
教育・学習事情、知識格差などに留意して行う。
専門職にとっての知識と技術
4.汎用的・移転可能な知識や技術向上のために
①伝達機能(コミュニケーション:相互、交互、片
側)を持つ。
②情報処理技術(データ処理、統計手法、ネット
ワーク利用)を得る。
③知識や技術の管理(管理の理論・手法)を知る。
④社会的・文化的生活観や価値観の差違を尊重。
(普遍的なものと個人的な見方の存在を知る)
3).精神科作業療法に必要な
基礎知識
OT協会が皆さんに求めている知識
基礎知識アウトライン-1/3
評価
 他部門からの情報:(検査、治療歴、現病歴と日常
生活活動、治療方針や看護方針など)
 面接:(主訴、生活機能の履歴や将来への思い、OT
参加の意思や意欲、インテークなど)
 観察:状況や場面を限定した観察
 検査・尺度:→量的指標(量的研究)
 作業を用いた評価:(行動特徴、作業能力、症状と
の関連、表現されたものなど)→質的指標(質的研
究)
基礎知識アウトライン-2/3
介入前
全体像の把握:(患者・家族・関係者のニーズ、
援助対象となる生活機能、患者の環境・個人
因子を考慮)
OT計画立案(リハゴール、長・短期目標、作業
活動選択、実施方法計画、関与・介入計画)
 介入期
疾患別、時期(相)、クリティカルパスに合わせ
て

基礎知識アウトライン-3/3

関連する制度
診療報酬(厚労省、中央社会医療協議会)
精神障害者保健福祉関連の制度(手帳ほか)
障害者自立支援法(自立支援医療ほか)
※自立支援法はH18年10月から新サービスへの移
行期間中:障害福祉計画と医療計画の両面から理
解することが必要。
これらは、基本的留意事項として作業療法士に必要
な知識。
Ⅱ 臨床での普遍的な知識
1)
2)
3)
4)
契約としての診療報酬とその基準
共通概念と共通言語
チームアプローチ
専門職の倫理
臨床家に必要な知識
1.契約としての診療報酬とその基準
2.共通概念と共通言語
「健康」:WHO、 ICF
3.チームアプローチ
4.専門職の倫理
1.診療報酬
診療契約と準委任契約
診療契約の流れ
 患者→医療機関に受診を申し込む。
 医療機関→医療サービスを提供する。
 患者→反対給付として診療費を支払う。
準委任契約とは・・・
法的に「~しなければならない」と定められた契約でな
いが、相手を信頼して仕事を依頼するような場合の
契約のこと。
OTの診療報酬と基準
医療機関での作業療法の場合
1)施設基準と人員(入院基本料に係る基準)
2)取り扱い件数と時間
診療報酬請求の常識
専門職への準委任契約(OTを信頼しての契約)であ
るが、 給付基準は、OTRの個人的善意に基づく価
値観ではなく中医協や保険者にある。
個別出来高とDRG、PPS


現在、OTの診療報酬支払い方式は、各診療行為に
ついて評価を行い、個別に行った診療行為の合計
額を、診療報酬として支払う個別出来高払い方式。
将来:DRG(Diagnostic Related Groups診断
関連群)PPS(Prospective Payment System
予定定額払い)が導入されるか?
→医療保険での作業療法への期待は、明?暗?
OTもサービス契約とすれば・・・

成熟社会、情報化社会においては、供給者
から需要者への説明・説得性(アカウンタビリ
ティ)や透明な情報提供(トランスペアレン
シー)が要求される。その上で、依頼者(患
者)が契約を依頼し、或いは選択する。
いわゆるインフォームド・コンセント
↓
最近では、インフォームド・チョイス
2).共通概念と共通言語
共通概念:健康とは
1998年~;WHO執行理事会
「健康とは、完全な肉体的、精神的、Spiritual
及び社会的福祉のDynamicな状態であり、
単に疾病又は病弱の存在しないことではな
い。」とすることを採択し提案。現在も調整中。
共通言語としてのICF

ICF(国際生活機能分類):上田(2001)による
ICFは・・・
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クライエントの生活と人生については、「本人が専門
家である」という本人の主観も尊重するスタンス 。
専門家の権威主義、パターナリズムからの脱却をめ
ざし、クライエントの自己決定を専門職チームが支え
る。→専門家は客観的に何が必要かを考える。
→ ケースマネージメントの重要性。
医療・福祉・介護など各領域連携と共通認識を持つ。
病歴ばかりでなく、生活機能の履歴 も捉えることが
大切。
例) 社会福祉が考える自立
1.労働的・経済的自立
2.精神的・文化的自立
3.身体的・健康的自立
4.活技術的・家政管理的自立
5.社会関係・人間関係的自立
6.政治的・契約的自立
3).チームアプローチ
チーム医療
医療環境のモデルのひとつ。医療従事者が
お互い対等に連携すること患者中心の医療
を実現しようというもの 。円環型。
 チームアプローチ(広義)
医療・福祉などの専門家集団の連携に加えて、
ボランティア、地域の人々(近所の人)、家族、
友人、宗教家などを含む。

チームアプローチは
保健・医療・福祉分野で活躍する異なる専門
職が互いに尊重しあい実践する。
 医療領域における連携、地域の保健医療福
祉計画、保健福祉領域の連携を目指す。
 クライエントの要望や必要により、ボランティ
ア、地域の人々(近所の人)、家族、友人 など
にもチームの一員として入ってもらう。

患者中心型医療チーム
職場や学校
病院や施設
公衆衛生
患者や家族
福祉ネットワーク
政策・施策
地域やコミュニティー
地域の人材
4).専門職の倫理

専門職とは高い知識や技術と大きな自由裁
量権を持つ「集団」であり、個人というより集
団に対して高い信頼が与えられている。これ
により、専門職には高い道徳性と公益性が求
められる。
専門職の倫理について
専門職の倫理は専門職として働く人たちの倫
理によって支えられている。
 専門職の仕事は社会に対する影響も大きく、
「内」より「外」に開かれた意識を持つべきで
ある。
 また、目的を達成する方法や態度も問題にな
る。どのような仕方で達成するのか、という部
分を「倫理的価値」という。

日本作業療法士協会 倫理綱領
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作業療法士は、人々の健康を守るため、知識と良心を捧げる。
作業療法士は、知識と技術に関して、つねに最高の水準を保つ
作業療法士は、個人の人権を尊重し、思想、信条、社会的地位等によっ
て個人を差別することをしない。
作業療法士は、職務上知り得た個人の秘密を守る。
作業療法士は、必要な報告と記録の義務を守る。
作業療法士は、他の職種の人々を尊敬し、協力しあう。
作業療法士は、先人の功績を尊び、よき伝統を守る。
作業療法士は、後輩の育成と教育水準の高揚に努める。
作業療法士は、学術的研鑚及び人格の陶冶をめざして相互に律しあう。
作業療法士は、公共の福祉に寄与する。
作業療法士は、不当な報酬を求めない。
作業療法士は、法と人道にそむく行為をしない。
Ⅲ 操作的知識のために・・・
附1.精神症状と経過
附2.薬物療法
附3.セルフヘルプグループ
附4.就労支援
附5.障害福祉計画
附6.医療計画
附1.精神症状と経過
:精神症状:意識、知能、思考、知覚、感情、意
欲、行動、記憶、身体症状として出現する症
状(転換、自律神経、心気症状など)
Dr:精神機能の異常としてとらえる
OT:機能異常を持った生活者としてとらえる
Dr:症状→状態像→疾患(診断)
OT:活動と参加→生活機能→具体的対策
附2.薬物療法
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処方された薬から
主作用:医師の見立てを知る。
副作用:身体機能への影響を知る。
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コンプライアンスからアドヒアランスへ。

服薬管理指導業務と心理教育との連携。
附3.SHG(セルフヘルプグループ)
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SHGにはいろいろなグループがある(障害・難病・不登校・アルコール依存症な
ど)
患者の思いから出発するものである
かしこい患者にならなくてはいけないことを学習する場である
当事者にとって専門職は煩わしくもあり、頼りになる存在である
専門職とSHGは援助特性が違う(専門知識⇔自らの体験)
専門職の知識、当事者の体験経験の両方の力が必要である
難病の場合、医療への関心が高い(医者への対峙と依存)
当事者のQOLを上げるためには様々な面での対応が必要だが、視野が医療に
のみ向きがちである
エンパワーメントの土壌としてSHGが必要
みんなの意見を引き出し、集約していくファシリテーターが必要(一人一人の思い
を引き出す必要がある)
参加者は、セルフヘルプグループ抜きではやっていけない
当事者参加は当事者が望んでいなければQOL向上に結びつかない
SHG組織は運動体であり、行動することそのものに存在意義がある。
附4.就労支援
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ACT-JとIPSモデルを合体した発想の展開
包括型地域生活支援(ACT-J)プログラム
個別職業紹介とサポートモデル(IPSモデル)
→リカバリーモデルに依拠した考え方
意志決定への利用者(当事者)の参加
附5.障害福祉計画
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
地域の受け入れ条件を整える→退院促進
入所施設・入院から地域生活への移行促進
サービス量の数値目標を設定し計画的に整備してゆく。
(訪問系・日中活動系・住居系サービス);県・市町村
精神障害者支援体制作り
(退院促進事業、住居サポート事業など・・・)
附6.医療計画
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平均残存率の低下、退院率の向上を目指す。
→精神病床数約7万床の減少促進
精神病床の機能分化強化
入院形態別の退院促進
地域における体制作り