第15回講義資料

Download Report

Transcript 第15回講義資料

法学部 1年生配当科目 民法入門
第15講
相続法
大阪大学大学院国際公共政策研究科
教 授
大久保 邦彦
1
民法典はパンデクテン体系を採っている
民法典の構造
第1編
第2編
第3編
第4編
第5編
総
物
債
親
相
則
権
権
族
続
財産法
家族法
2
親族の効果
親族
扶養
相続
3
相続編の構造
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
第7章
第8章
総 則
相続人
相続の効力
相続の承認及び放棄
財産分離
相続人の不存在
遺言
遺留分
4
契約内容の確定方法
合意
狭義の
解釈
付随的部分
目
的
物
目的物
核心的部分 の
引
代金
渡
公序良俗違反 場
所
修正的解釈
契約
欠缺
代
金
の
支
払
補充
時 補充的解釈
期
慣 習
5
任意法(規)
相続法の基本構造
意思
表示
狭義の
解釈
法定相続
遺言
遺留分
欠缺
補充
任意法(規)
6
法定相続
7
相続の一般的効力
(民896)
相続人は、相続開始の時から、
被相続人の財産に属した
一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属
したものは、この限りでない。
8
相続の開始
民882(相続開始の原因)
相続は、死亡によって開始する。
民883(相続開始の場所)
相続は、被相続人の住所に
おいて開始する。
9
裁判管轄:土地管轄
(民訴5)
(財産権上の訴え等についての管轄)
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地
を管轄する裁判所に提起することができる。
14 相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死
亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え
相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地
15 相続債権その他相続財産の負担に関する訴えで前号
に掲げる訴えに該当しないもの(相続財産の全部又は一
部が同号に定める地を管轄する裁判所の管轄区域内に
あるときに限る。)
10
同号に定める地
相続人
11
相続人

血族相続人
①子(民887Ⅰ)
②直系尊属(民889Ⅰ①)
③兄弟姉妹(民889Ⅰ②)

配偶者相続人(民890)
12
代襲相続
民887Ⅱ 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡し
たとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除に
よって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれ
を代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑
属でない者は、この限りでない。
Ⅲ 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡
し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によっ
て、その代襲相続権を失った場合について準用する。
民889Ⅱ 第887条第2項の規定は、前項第2号の場
合について準用する。
13
相続欠格(民891)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
1 故意に被相続人又は相続について先順位
若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、
又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
3 詐欺又は強迫によって、
被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、
取り消し、又は変更することを妨げた者
5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、
14
変造し、破棄し、又は隠匿した者
相続人の廃除(民892)
遺留分を有する推定相続人(相続が開
始した場合に相続人となるべき者をい
う。以下同じ。)が、被相続人に対して
虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を
加えたとき、又は推定相続人にその他
の著しい非行があったときは、被相続
人は、その推定相続人の廃除を家庭
裁判所に請求することができる。
15
相続の承認・放棄
16
相続の承認・放棄をすべき期間
(民915)
① 相続人は、自己のために相続の開始があったこと
を知った時から3箇月以内に、相続について、単
純若しくは限定の承認又は放棄をしなければなら
ない。
ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請
求によって、家庭裁判所において伸長することが
できる。
② 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相
続財産の調査をすることができる。
17
相続の承認・放棄
①単純承認(民920)
②限定承認(民922)
③放
棄(民939)
18
単純承認の効力
(民920)
相続人は、
単純承認をしたときは、
無限に被相続人の権利義務を承継する。
19
法定単純承認(民921)
次に掲げる場合には、
相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1. 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えな
い賃貸をすることは、この限りでない。
2. 相続人が第915条第1項の期間内に
限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3. 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であって
も、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを
消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載し
20
なかったとき。・・・
限定承認(民922)
相続人は、
相続によって得た財産の限度に
おいてのみ被相続人の債務及び
遺贈を弁済すべきことを留保して、
相続の承認をすることができる。
21
限定承認の手続
民923(共同相続人の限定承認)
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続
人の全員が共同してのみこれをすることができる。
民924(限定承認の方式)
相続人は、限定承認をしようとするときは、
第915条第1項の期間内に、
相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、
限定承認をする旨を申述しなければならない。 22
相続放棄の効力(民939)
相続の放棄をした者は、
その相続に関しては、
初めから相続人と
ならなかったものとみなす。
23
相続人の不存在
24
相続人の不存在
民951(相続財産法人の成立)
相続人のあることが明らかでないときは、
相続財産は、法人とする。
民952Ⅰ(相続財産の管理人の選任)
前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係
人又は検察官の請求によって、相続財産の
管理人を選任しなければならない。
25
管理人選任後に行われること
相続人の捜索
相続財産の管理・清算
26
権利を主張する者がない場合
(民958の2)
前条の期間内に相続人としての
権利を主張する者がないときは、
相続人並びに相続財産の管理人
に知れなかった相続債権者及び
受遺者は、その権利を行使するこ
とができない。
27
特別縁故者への相続財産の分与
(民958の3)
① 前条の場合において、相当と認めるときは、
家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくして
いた者、被相続人の療養看護に努めた者
その他被相続人と特別の縁故があった者の
請求によって、
これらの者に、清算後残存すべき相続財産
の全部又は一部を与えることができる。
② 前項の請求は、第958条の期間の満了後
3箇月以内にしなければならない。
28
残余財産の国庫への帰属
(民959)
前条の規定により
処分されなかった相続財産は、
国庫に帰属する。
この場合においては、第956条
第2項の規定を準用する。
29
相続の効力
30
相続の一般的効力
(民896)
相続人は、相続開始の時から、
被相続人の財産に属した
一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属
したものは、この限りでない。
31
帰属上の一身専属権
代理権(民111Ⅰ)
 使用借人の地位(民599)
 組合員の地位(民679)
 扶養請求権(民881)
 生活保護受給権(朝日訴訟)

32
祭祀に関する権利の承継
(民897)
① 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規
定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀
を主宰すべき者が承継する。
ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭
祀を主宰すべき者があるときは、その者が
承継する。
② 前項本文の場合において慣習が明らかでな
いときは、同項の権利を承継すべき者は、
家庭裁判所が定める。
33
共同相続
34
共同相続
X
35
共同相続の効力(民898)
相続人が数人あるときは、
相続財産は、
その共有に属する。
36
金銭債権・金銭債務



相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭そ
の他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割
され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する
債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の
金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各
共同相続人がその相続分に応じてこれを承継する
相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した
金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、
自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはでき
ない
出典: 順に、最判S29・4・8、最判S34・6・19、最判H4・4・10
37
相続分
38
相続分の算定方法
法定相続分(民900-901)
 指定相続分(民902)

民902Ⅰ 被相続人は、前2条の規定にかか
わらず、遺言で、共同相続人の相続分を定
め、又はこれを定めることを第三者に委託
することができる。
ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に
関する規定に違反することができない。
39
法定相続分(配偶者)
配偶者(1/2)
子 (1/2)
配偶者(2/3)
配偶者(3/4)
直系尊属
(1/3)
兄弟姉妹
(1/4)
40
法定相続分(子)
嫡出子
嫡出子
嫡出子
嫡出子
嫡出子
非嫡
出子
1
1/2
41
最判H7・7・5


所論は、要するに、嫡出でない子(以下「非嫡出子」という
。)の相続分を嫡出である子(以下「嫡出子」という。)の相
続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規
定(以下「本件規定」という。)は憲法14条1項に違反する
というのである。
憲法14条1項は法の下の平等を定めているが、右規定は
合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、
各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上
の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けること
は、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反
42
するものではない。
最判H7・7・5

本件規定を含む法定相続分の定めは、右相続分に従って
相続が行われるべきことを定めたものではなく、遺言によ
る相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能
する規定であることをも考慮すれば、本件規定における嫡
出子と非嫡出子の法定相続分の区別は、その立法理由
に合理的な根拠があり、かつ、その区別が右立法理由と
の関連で著しく不合理なものでなく、いまだ立法府に与え
られた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認めら
れる限り、合理的理由のない差別とはいえず、これを憲法
14条1項に反するものということはできないというべきであ
43
る。
〔ケース〕
Y
X
A
B
Z
C
44
代襲相続(民901)
2400
X
Y
P
A
Q
B
C
45
代襲相続人の相続分
(民901)
① 第887条第2項又は第3項の規定により相続人と
なる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受け
るべきであったものと同じとする。
ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の
直系尊属が受けるべきであった部分について、前
条の規定に従ってその相続分を定める。
② 前項の規定は、第889条第2項の規定により兄弟
姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
46
特別受益者の相続分
(民903)
みなし相続財産
持戻し
① 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、
又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の
資本として贈与を受けた者があるときは、
被相続人が相続開始の時において有した財産の
価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産
とみなし、前3条の規定により算定した相続分の
中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額
をもってその者の相続分とする。
47
具体的相続分
一応の相続分
特別受益者の相続分
民903Ⅱ 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に
等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、
その相続分を受けることができない。
Ⅲ 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したとき
は、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない
範囲内で、その効力を有する。
民904 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為に
よって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の
増減があったときであっても、相続開始の時において
48
なお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
寄与分(民904の2)
みなし相続財産
① 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供
又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法
により被相続人の財産の維持又は増加について特別の
寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時に
おいて有した財産の価額から共同相続人の協議で定め
たその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、
第900条から第902条までの規定により算定した相続分
に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
具体的相続分
一応の相続分49
寄与分(民904の2)
②
前項の協議が調わないとき、又は協議をすることがで
きないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をし
た者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財
産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
③ 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財
産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることが
できない。
④ 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があ
った場合又は第910条に規定する場合にすることができ
る。
50
相続分の譲渡と取戻し
(民905)
①共同相続人の1人が遺産の分割前にそ
の相続分を第三者に譲り渡したときは、
他の共同相続人は、その価額及び費用
を償還して、その相続分を譲り受けるこ
とができる。
②前項の権利は、1箇月以内に行使しな
ければならない。
51
同時死亡の推定
52
同時死亡の推定
(民32の2)
同時に死亡した者同士は、
互いに相続できない。
一方が死亡した時、
他方に権利能力
がないから。
53
〔ケース〕
Xには、妻Y、子C、母Mがいた
が、XとCが乗っていた船が沈
没し、両者とも死亡した。
 Xには2400万円、Cには600
万円の財産があった場合、誰
がいくら相続するか?

54
〔ケース〕
M
2400万
X
600万
Y
C
55
遺産分割
56
共同相続
X
57
共同相続の効力(民898)
相続人が数人あるときは、
相続財産は、
その共有に属する。
58
遺産分割
X
59
遺産分割の方法
指定分割(民908)
協議分割(民907Ⅰ)
調停分割(家審11)
審判分割(民907Ⅱ)

60
遺産の分割の基準
(民906)
遺産の分割は、遺産に属する物
又は権利の種類及び性質、
各相続人の年齢、職業、心身の
状態及び生活の状況その他一切
の事情を考慮してこれをする。
61
分割の遡及効(民909)
遺産の分割は、
相続開始の時にさかのぼって
その効力を生ずる。
ただし、第三者の権利を
害することができない。
62
遺 言
63
遺 言(いごん・ゆいごん)




一定の方式に従った遺言者の死後の
法律関係を定める最終意思の表示。
要式行為であり、
方式に違反する遺言は無効となる。
遺言は相手方のない単独行為であり、
いつでも撤回でき、遺言者の死亡前には
何ら法律上の権利を生じさせない。
遺言は法定事項に限って行える。
出典: 『法律用語辞典〔第3版〕』(有斐閣)
64
遺言の成立~効力発生
成立要件:遺言者の意思表示+方式
無効・取消原因
撤 回
効力発生要件:遺言者の死亡(民985)
65
遺言能力
民961 15歳に達した者は、遺言をする
ことができる。
民962 第5条、第9条、第13条及び
第17条の規定は、遺言については、
適用しない。
民963 遺言者は、遺言をする時におい
てその能力を有しなければならない。
66
共同遺言の禁止
(民975)
遺言は、2人以上の者が
同一の証書ですることができない。
遺言の自由・
遺言の撤回の自由を
確保するため
一方の遺言に
無効原因がある場合
他方の遺言の処理が困難
67
遺言の効力発生時期
(民985)
①遺言は、遺言者の死亡の時から
その効力を生ずる。
②遺言に停止条件を付した場合にお
いて、その条件が遺言者の死亡後
に成就したときは、遺言は、条件が
成就した時からその効力を生ずる。
68
遺言の方式
69
遺言の方式(民967)

普通方式




自筆証書遺言(民968)
公正証書遺言(民969,969の2)
秘密証書遺言(民970-972)
特別方式(効力につき、民983)




死亡危急者遺言(民976)
伝染病隔離者遺言(民977)
在船者遺言(民978)
船舶遭難者遺言(民979)
70
自筆証書遺言(民968)
① 自筆証書によって遺言をするには、遺言者
が、その全文、日付及び氏名を自書し、これ
に印を押さなければならない。
② 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言
者が、その場所を指示し、これを変更した旨
を付記して特にこれに署名し、かつ、その変
更の場所に印を押さなければ、その効力を
生じない。
71
自筆証書遺言の例
遺言書
遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、妻宮崎ひ
とみ(昭和35年5月5日生)に相続させる。
平成16年7月1日
住所
福岡県久留米市六ツ門町19番地10
遺言者
宮崎 信幸 ㊞
出典: http://www.igonsho.net/bunrei/01.html
72
公正証書遺言(民969)
1.
2.
3.
4.
5.
公正証書によって遺言をするには、
次に掲げる方式に従わなければならない。
証人2人以上の立会いがあること。
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
公証人が、遺言者の口述を筆記し、
これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、
各自これに署名し、印を押すこと。
ただし、遺言者が署名することができない場合は、
公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って
作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。73
秘密証書遺言(民970)
① 秘密証書によって遺言をするには、
次に掲げる方式に従わなければならない。
1. 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
2. 遺言者が、その証書を封じ、
証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
3. 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、
自己の遺言書である旨並びに
その筆者の氏名及び住所を申述すること。
4. 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を
封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、
印を押すこと。
74
② 第968条第2項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
遺言の撤回
75
撤回の自由
民1022
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、
その遺言の全部又は一部を撤回することが
できる。
民1026
遺言者は、その遺言を撤回する権利を
放棄することができない。
76
撤回の擬制
民1023 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、
その抵触する部分については、
後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
②前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他
の法律行為と抵触する場合について準用する。
民1024 遺言者が故意に遺言書を破棄したとき
は、その破棄した部分については、遺言を撤回し
たものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を
77
破棄したときも、同様とする。
撤回された遺言の効力
(民1025)
前3条の規定により撤回された遺言
は、その撤回の行為が、撤回され、
取り消され、又は効力を生じなくなる
に至ったときであっても、その効力を
回復しない。
ただし、その行為が詐欺又は強迫に
よる場合は、この限りでない。
78
遺言の執行
79
遺言の執行
効力発生要件:遺言者の死亡(民985)
遺言書の検認(民1004)
遺言執行者の選任・就職
遺言の執行(民1006・1010)
80
偽造・変造の防止
遺言書の検認
(民1004)
① 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅
滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認
を請求しなければならない。
遺言書の保管者がない場合において、相続人が
遺言書を発見した後も、同様とする。
② 前項の規定は、公正証書による遺言については、
適用しない。
③ 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続
人又はその代理人の立会いがなければ、開封す
81
ることができない。
過 料(民1005)
前条の規定により
遺言書を提出することを怠り、
その検認を経ないで遺言を執行し、
又は家庭裁判所外において
その開封をした者は、
5万円以下の過料に処する。
82
遺言の執行
遺言の執行=遺言内容の実現
遺言による認知(民781Ⅱ)
 遺言による相続人の廃除(民893)
 遺贈の実現

目的物の引渡し
 登記の移転

83
遺贈義務者(民987)
=遺贈の履行をする義務を負う者
相続人(民896)
 相続財産法人(民951,957)
 包括受遺者(民990)

84
遺言執行者の権限
民1012Ⅰ
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執
行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
民1013
遺言執行者がある場合には、相続人は、
相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき
行為をすることができない。
民1015
85
遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
遺言執行者の指定・選任
民1006 遺言者は、遺言で、1人又は数人の遺言執行者を
指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
② 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その
指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
③ 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そ
うとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなけれ
ばならない。
民1010 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家
庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任す
ることができる。
86
遺 贈
87
遺贈の意義・種類
88
遺 贈(民964)
(包括遺贈及び特定遺贈)
遺言者は、包括又は特定の名義で、
その財産の全部又は一部を
処分することができる。
ただし、遺留分に関する規定に
違反することができない。
89
受遺者
遺言により遺贈を受ける者として指定された者
 相続人でも、第三者でもよい。
 自然人だけでなく、法人でもよい。
 遺言の効力発生時に、
存在している必要がある(民994Ⅰ)。


胎児の例外(民965→886)
受遺欠格者(民965→891)
出典: 潮見佳男 『入門民法(全)』(有斐閣・2007)508頁
90
包括受遺者の権利義務
(民990)
包括受遺者は、
相続人と同一の権利義務を有する。
単純承認・限定承認・放棄ができる。
 遺産分割:相続人と同様に扱われる。
 法人も包括受遺者になれる。
 代襲の問題は生じない(民994)。
 遺留分権はない。

出典: 阿部徹『新版注釈民法(28)〔補訂版)』220-224
91
条件付遺言(遺贈)
(民985)
①遺言は、遺言者の死亡の時から
その効力を生ずる。
②遺言に停止条件を付した場合にお
いて、その条件が遺言者の死亡後
に成就したときは、遺言は、条件が
成就した時からその効力を生ずる。
92
負担付遺贈(民1002)
① 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の
価額を超えない限度においてのみ、
負担した義務を履行する責任を負う。
② 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、
負担の利益を受けるべき者は、
自ら受遺者となることができる。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思
を表示したときは、その意思に従う。
93
負担付遺贈に係る
遺言の取消し(民1027)
負担付遺贈を受けた者がその負担した
義務を履行しないときは、相続人は、
相当の期間を定めてその履行の催告を
することができる。
この場合において、その期間内に履行
がないときは、その負担付遺贈に係る
遺言の取消しを家庭裁判所に請求する
ことができる。
94
遺贈の承認・放棄
特定遺贈のみに妥当する。
包括遺贈:相続の規律が妥当する
(民990)。
95
遺贈の放棄(民986)
① 受遺者は、遺言者の死亡後、
いつでも、遺贈の放棄をする
ことができる。
② 遺贈の放棄は、遺言者の
死亡の時にさかのぼって
その効力を生ずる。
96
受遺者に対する遺贈の承認
又は放棄の催告(民987)
遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者
をいう。以下この節において同じ。)その他の
利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間
を定めて、その期間内に遺贈の承認又は
放棄をすべき旨の催告をすることができる。
この場合において、受遺者がその期間内に
遺贈義務者に対してその意思を表示しない
ときは、遺贈を承認したものとみなす。
97
遺贈の承認・放棄の撤回・
取消し(民989)
①遺贈の承認及び放棄は、
撤回することができない。
②第919条第2項及び第3項
の規定は、遺贈の承認及び
放棄について準用する。
98
遺贈の無効・取消し
99
無効・取消事由
法律行為一般の無効・取消事由(民90,96)
 方式違反(民960)
 被後見人の遺言の制限(民966)
 遺言者の死亡以前の受遺者の死亡(民994Ⅰ)
 停止条件成就前の受遺者の死亡(民994Ⅱ)
 遺贈の目的物が、遺言者の死亡時点で
相続財産に属していなかった場合(民996)

出典: 潮見佳男『入門民法(全)』(有斐閣・2007)509頁、中川善之助=泉久雄『相続法〔第4版〕』(有斐閣・2000)561頁
100
遺贈の無効・失効の場合
の財産の帰属(民995)
遺贈が、その効力を生じないとき、
又は放棄によってその効力を失った
ときは、受遺者が受けるべきで
あったものは、相続人に帰属する。
ただし、遺言者がその遺言に
別段の意思を表示したときは、
その意思に従う。
101
遺留分
102
遺留分の意義・割合
103
遺留分の意義


一定の相続人が受けることを保証するため
に、遺産について法律上必ず留保されなけ
ればならないこととされている一定割合(民
1028等)。
遺留分の制度は、個人財産処分の自由、取
引安全と遺族の生活の保障、遺産の公平な
分配という相対立する要求の妥協、調整の
上に成り立っている。
出典: 『法律用語辞典〔第3版〕』(有斐閣)
104
遺産=遺留分+自由分
遺留分 自由分
遺 産
105
遺留分権利者・
遺留分の割合(民1028)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、
次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該
各号に定める割合に相当する額を受ける。
1. 直系尊属のみが相続人である場合
被相続人の財産の3分の1
総体的
2. 前号に掲げる場合以外の場合 遺留分
被相続人の財産の2分の1
106
代襲相続・相続分の
規定の準用(民1044)
第887条第2項及び第3項、
第900条、第901条、第903条
並びに第904条の規定は、
遺留分について準用する。
総体的
遺留分
民1044
個別的
遺留分
107
遺留分減殺請求権
(民1031)
遺留分権利者及びその承継人は、
遺留分を保全するのに
必要な限度で、
遺贈及び前条に規定する贈与の
減殺を請求することができる。
108
遺留分の放棄(民1043)
① 相続の開始前における遺留分の
放棄は、家庭裁判所の許可を受け
たときに限り、その効力を生ずる。
② 共同相続人の1人のした遺留分の
放棄は、他の各共同相続人の
遺留分に影響を及ぼさない。
109
遺留分算定の基礎財産
110
遺留分の算定
民1029 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有
した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額か
ら債務の全額を控除して、これを算定する。
② 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭
裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定
める。
民1030 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、
前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が
遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき
は、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。
111
基礎財産の確定
基礎財産(民1029)
=被相続人が相続開始時に有していた財産
+贈与財産(民1030, 1044→903, 1039)
-相続債務の全額
★評価の基準時:相続開始時(最判S51・3・18)
112
最判H10・3・24

民法903条1項の定める相続人に対する贈
与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にさ
れたものであって、その後の時の経過に伴う
社会経済事情や相続人など関係人の個人的
事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認
めることが右相続人に酷であるなどの特段の
事情のない限り、民法1030条の定める要件
を満たさないものであっても、遺留分減殺の
対象となる
113
遺留分の減殺
114
遺留分の減殺




遺留分減殺請求権者(民1031)
減殺の方法:意思表示による。訴えの提起は不要。
減殺の限度:遺留分の保全に必要な限度(民1031)
遺留分減殺請求の効果
 形成権=物権説(最判S35・7・19)
 取り戻された財産の帰属先:贈与・特定遺贈・全部包括遺贈
の場合には、減殺請求者の固有財産になる(最判S51・8・
30, 最判H8・1・26) 。但し、割合的包括遺贈・指定相続分に
よる遺留分侵害の場合には、相続財産に復帰し、遺産分割の
対象となる(多数説)。
出典: 潮見佳男『入門民法(全)』(有斐閣・2007)515-517頁、中川善之助=泉久雄『相続法〔第4版〕』(有斐閣・2000)664頁(注3)
115
減殺の相手方・順序
相手方:受遺者・受贈者・その包括承継人・
悪意の特定承継人・権利取得者(民1040)
 順 序
 遺贈⇒贈与(民1033)
 数個の遺贈(民1034)
 数個の贈与:後の贈与⇒前の贈与(民1035)
★受贈者無資力の危険
遺留分権利者が負担(民1037)

出典: 潮見佳男『入門民法(全)』(有斐閣・2007)517-518頁
116
受贈者が贈与の目的を
譲渡した場合等(民1040)
① 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を
他人に譲り渡したときは、遺留分権利者に
その価額を弁償しなければならない。
ただし、譲受人が譲渡の時において
遺留分権利者に損害を加えることを
知っていたときは、遺留分権利者は、
これに対しても減殺を請求することができる。
② 前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき
権利を設定した場合について準用する。
117
遺留分権利者に対する
価額による弁償(民1041)
①受贈者及び受遺者は、
減殺を受けるべき限度において、
贈与又は遺贈の目的の価額を
遺留分権利者に弁償して
返還の義務を免れることができる。
②前項の規定は、前条第1項ただし書
の場合について準用する。
118
減殺請求権の期間の制限
(民1042)
減殺の請求権は、遺留分権利者が、
相続の開始及び減殺すべき贈与又
は遺贈があったことを知った時から
1年間行使しないときは、
時効によって消滅する。
相続開始の時から10年を経過した
ときも、同様とする。
119