Transcript 研修会で使用した資料
災害後3年目以降 課題 集団での表現活動 はじめに 今東日本で起こっていること 1 被災時に乳幼児だった児童の問題 2 地域の崩壊による影響→問題行動多発の兆し 3 チェックリストを巡る問題 ・ チェックリストへの忌避感 ・ チェックリストはPTSDを測っているのか ・ チェックリストでは震災の広範囲の影響は読 み取れない 4 喪失をめぐる問題 様々のトラウマ トラウマ:こころの外部からの影響による心の傷 ・ 災害のトラウマ ・ 戦争その他の争いごとによるトラウマ ・ 事件・事故によるトラウマ ・ 性的な被害によるトラウマ ・ 虐待によるトラウマ ・ DV、家庭内暴力によるトラウマ ・ いじめ、ハラスメントによるトラウマ ・ 大切な人の死亡、その他の喪失によるトラウマ ・・・・・その他様々のトラウマが考えられる 日常語としてのトラウマ 個体の外側の出来事によって個体が心理的な影響を受け、それ が心の傷になって心理的な苦痛を生じるような事態、あるいはそ の傷そのもの。また、その外部の出来事。 トラウマ 「トラウマに 苦しむ」 苦痛を生じ させる出来事 トラウマ 「トラウマ体験」 トラウマ 「~がトラウマとなる」 外傷後ストレス(バイパス活性化の影響) 1 思い出したくないのに勝手に思い出す(再体験) → フラッシュバック、悪夢 2 関連する刺激に敏感になる(過覚醒) → 揺れや、水や、音が怖い 過剰に怯える、眠れなくなる 診断基準によると、 回避と麻痺が関連付 けられているが、麻 痺は過覚醒と関連 づけた方がよい 3 関連する刺激を避ける(回避) → その場所に近づかない、テレビを消す 話さない、考えない トラウマが回復しないと→PTSD 回復 実際の 恐怖体験 フラッシュバック(想起)の繰り返し PTSR PTSD 想起への回避を繰り返すと・・・ (体験に向き合うことを避け続け ると・・・) では、「こころのケア」とはどのような ことなのだろうか? PTSR こ こ ろ のこころのケア ケ ア 日常性の回復 連続的 PTSD 初期のこころのケアの目的は PTSRがPTSDに移行しないように予防し、日常性の回復を 促進すること。 こころのケアのための二つの方法論 PTSD:想起の回避に主原因 → 回避せず体験に向き合うことが重要 そのためには 初期に表現を 促すことは、 回避を強める ので不適切 A 体験が想起されるときのいやな感覚を軽減する ・ リラックス法 ・ マッサージなどの身体的なアプローチ → ストレスマネージメント B 体験の記憶を積極的に表現し、それに向き合う ・ 体験を話す ・ 体験を絵や作文で表現する → 表現活動 初期の「心理援助」=ストレスマネージメント つらいこと、大変なことがあって こころが変化しているね。 例えば・・・・・ でもそれはだれにでも起こること 心理教育 安全な環境 の保障が 重要 そんな時どうすればいいのかな? 例えば・・・・・ いろんな方法があるけど リラクセーション ストレスマネージメント はとてもよい方法だよ 再確認=3.11以降こころのケアはどのよう に進められてきたか ストレスマネージメント 初期・急性期 スクリーニング 個別の体験の表出のための表現活動 6ヶ月 1年 回復期 集団としての表現活動=体験の社会化 3年 初期の教員の役割は? 被災した子供たちに向き合うときに 何を考えておかなければならないのか 学校での教員の心理学的な役割は? 1 まず教員は、児童・生徒に安心感・安全感を与える存在で なければならない。 (教員は、児童・生徒が何を求めているかを的確に把握し、 それをゆるぎなく与えることができなければならない。) 2 教員は、児童・生徒に希望と明るさを与える存在でなけれ ばならない。 (辛いことがあったけれど、きっとまた元気になれるんだ、 辛いのは僕だけ、私だけじゃないんだ、誰かのために何かを してあげれるんだ・・・など) 3 教員は、児童・生徒とのコミュニケーションチャンネルを いつも開いていなければならない。 (辛くなったり、困ったりしたら、いつでも先生が話を聞い てくれるんだ・・・など) 初期・急性期の教員の役割 初期・急性期の「こころのケア」として、児童・生徒が自分で 外傷後ストレスに対処できる(ストレスマネージメント)環境を、 早急に作り出す。 1 安心感・安全感の保障 2 心理教育 3 様々なストレス対処法の提示 教員の仕事1-安心感、安全感の保障 次の3つの安心感を十分に満たすよう最大限の努力をする 1 あの時のような怖い目に合うことはないよという安心感 ・ 避難経路や避難場所の確認、現実的な対処法を教える ・ 先生たちはいつも通り頼れる存在だということを知らせる ・ 災害に関する情報を的確に知らせる 2 あなたは独りではない、孤立していないという安心感 ・ 双方向的なコミュニケーションをいつも以上に心がける ・ 不安な時はどうすればよいかを的確に教える ・ いつも親や先生が一緒にいるのだと自覚させる 3 不安になったり敏感になったりしているのは異常なことで はないし、あなただけでもないという安心感 ・ 災害の後の心理状態についての心理教育 ・ それにどう対処すればよいかの心理教育 ・ 不安なときに相談できるカウンセラーなどの派遣 〈実習1〉 子どもや保護者から次のような相談がありました。どのように答 えればよいですか? 1 また同じような地震が来るのではないかと心配で眠れないよ 2 10年後の○月△日にはもっと大きな地震がくるとみんなが 言ってるけど本当ですか? 3 先生、余震がバリ怖いねん。ちょっと揺れたらもう何もでき んくなんねん。みんな平気な顔をしとぉけど、うちってへん かなぁ? 4 子供が夜ひとりでトイレに行くのを怖がります。叱った方が いいですか? 教員の仕事2-心理教育 様々な内容の情報の提示が心理教育の役割を果たしている 1 災害の情報を教える ・ 災害のメカニズムを教える → 本震より大きな余震は来ない、一度動いたプレート や断層はしばらくは動かない・・・など ・ 災害への対処法を教える → 地震が来たらまず頭を守る、すぐに外に逃げない、 津波が来たら高台に逃げる・・・など このような情報を知っていると、災害に冷静に対処でき、パニッ クを防止し、トラウマ反応(主に過覚醒)を最低限に抑えることが できる。 教員の仕事2-心理教育 2 災害を体験した後の心理的変化を教える ・ 思い出す、敏感になる、避けるなどのトラウマ反応が誰 にでも起こり、反応が起こらない方が異常なのだということ ・ その反応は、一定の時間がたつと自然に収まるのだとい うこと・・・など 3 災害後の心理的変化にどのように対処するかを教える。 ・ トラウマ反応を避けるのではなく、冷静にそれに向き合う 方がよいということ ・ リラクセーションなどを行うと楽に向き合える・・・など これらを知っていると、外傷後ストレスに自分で向き合えるよう になる。また不必要な回避をしなくてすみ、PTSDを予防するこ とができる。 二極分化後 A 被災した子供たち ストレス マネージメント ス ト レ ス チ ェ ッ ク Red zone の子供たち 個別対応=医療 カウンセラー B 表現活動 Yellow Zone Green の子供たち Zone 教員によるストレスマ ネージメント 表現活動 6ヶ月 初期・急性期対応 中・長期対応 Check List31(中・高生),19(小学生) ZONE MODEL= 学校での援助者の目的と役割 災害 red zone Red zone←医療 被災した子供 Yellow zone←カウンセラー 教員 green zone←教員 教員は子供に心理教育を行い、そのセルフケア を援助し、ⅠzoneからⅡzoneへの移行 をくいとめる。カウンセラーは子供がどの領域 にいるかを見極め、適切な援助を提供するとと もに、カウンセリングやリラクゼーションなど によってⅡからⅢへの移行をくいとめる。 : PTSDや抑うつ、身体化 によって日常生活が困難 になっている児童生徒、医 療によるケアが必要。 yellow zone : 単独でのセルフケア が難しくなっている児童 生徒。カウンセラーの 関わりが必要。 green zone : 教員による心理教育に よってセルフケアの可能な 児童生徒。 二極分化と教員の役割 1 災害後一定期間がたつと、児童・生徒は回復した子供たち(Green Zone)と、回復していない、または悪化した子供たち(Red Zone)に二極分化する。 2 Red Zoneは、PTSD化しているかまたは、喪失の反応が重 くなっている子供たちと考えることができ、医師やカウンセラーの関与 が必要な対象である。 3 二極分化の起こる時期には、ストレスチェックリストなどを用いて、 回復の度合いを査定することが必要である。 この時期の教員の役割は、 A 十分に安全が保障された状態でチェックリストを実施すること。 (1授業時間を使い、ストレスマネージメント授業の中で実施する) B Red Zoneの子供たちに対して、カウンセリングや治療を受 けることができる環境を保障する。 ・・・の2点である。 中・長期のこころのケア 中・長期の こころのケア PTSR こ こ 日常性の回復 ろ 初期・急性期の の ケ こころのケア ア PTSD 全体対応としての 表現活動 ・個別課題としての表現 →体験をまとめる ・集団としての表現 →伝え、繋がる 治療的係りとしての 表現活動 ・様々の直面化技法 (表現技法) トラウマが回復しないと→PTSD 回復 実際の 恐怖体験 フラッシュバック(想起)の繰り返し PTSR PTSD 想起への回避を繰り返すと・・・ (体験に向き合うことを避け続け ると・・・) こころのケアのための二つの方法論 PTSD:想起の回避に主原因 → 回避せず体験に向き合うことが重要 そのためには A 体験が想起されるときのいやな感覚を軽減する ・ リラックス法 ・ マッサージなどの身体的なアプローチ → ストレスマネージメント B 体験の記憶を積極的に表現し、それに向き合う ・ 体験を話す ・ 体験を絵や作文で表現する → 表現活動 二つの防災教育と そのこころのケアとしての意味 1 地震や津波について科学的に学ぶ 避難訓練の充実 → 安心感の増大 過覚醒反応の抑制 2 表現活動と語り継ぎ → 体験の整理、再意味づけ 器としての物語の創造 体験を抱えやすくする 二つの防災教育 1 阪神大震災以前 避難訓練を中心とした防災教育 避難訓練、防災マップ、防災グッズ、机の下・・・など 2 阪神大震災以降 「命の教育」の導入(兵庫県教委) 命を大切に、体験の教訓化、語り伝え → 3 東日本大震災 再び避難訓練を中心に据える動き 表現活動 なぜ再び避難訓練なのか? 阪神大震災では、逃げることができなかった → 多くの犠牲に対してあきらめざるを得ない → 犠牲者への追悼をこめた語り継ぎ 東日本大震災では、逃げるための時間があった → その時間を活用できなかったことの反省 → 避難訓練の充実によって犠牲を減らすことが できる 個別課題としての表現 集団としての表現 個別課題としての表現 ・ それぞれの私的な体験を表現する=記憶の整理 ・ 自分の体験に向き合う=直面化→認知の変容 ・ 他者の私的な体験を聞く=受容し共感し繋がる ケア >教育 集団としての表現→防災教育との結合 ・ 私的な体験の共通項を見つける ・ 共同の体験として意味づける ・ 共同の体験として伝え、繋がる →他の地域、他の国 教育 >ケア 表現活動と防災教育の結合 体験を抱えていくために、 器としての物語を作ることは重要である 個人的な物語 集団(学校)の物語 地域の物語=語り伝え、伝説 ZONE MODEL= 学校での援助者の目的と役割 災害 red zone Red zone←医療 被災した子供 Yellow zone←カウンセラー 教員 green zone←教員 教員は子供に心理教育を行い、そのセルフケア を援助し、ⅠzoneからⅡzoneへの移行 をくいとめる。カウンセラーは子供がどの領域 にいるかを見極め、適切な援助を提供するとと もに、カウンセリングやリラクゼーションなど によってⅡからⅢへの移行をくいとめる。 : PTSDや抑うつ、身体化 によって日常生活が困難 になっている児童生徒、医 療によるケアが必要。 yellow zone : 単独でのセルフケア が難しくなっている児童 生徒。カウンセラーの 関わりが必要。 green zone : 教員による心理教育に よってセルフケアの可能な 児童生徒。 Red Zoneの子供たちに対して 教員が行えること 1 不調が通常のものなのか災害の心理的影響によるものなのか を、スクールカウンセラーを交えて協議できるシステムの構築 → 教育相談委員会などの活用 2 不調が災害の心理的影響である場合、スクールカウンセラーが 校内で継続してカウンセリングできる体制、また重篤な場合は、 外部の専門家の治療を受けることのできるシステムの構築 → 外部専門機関との連携 3 保護者への説明を行う機会の設定、また保護者が不調な場合の 外部機関との連携、またその家族支援の体制の構築 Green Zoneの子供たちへの 教育的ななかかわり ストレスの自己コントロール力を 回復している子供たちへの心理的な支援は どのように行えばよいのか あるいは必要がないのか??? Green Zoneをどう考えるかは 医療と心理では異なっている 医療:回復している人々は、サービスの対象とはならない → 寝た子を起こすな 心理:病理がなくても、心理的なケアが必要である場合もある → 生き方への積極的な関与、また自己実現への協力 など ・ この違いは、児童や思春期が対象となるときに大きくなる ・ また、この考え方の違いが、「心理は患者を抱え医療に回 さない」という批判を生む。 ・ さらに、生き方への関与、自己実現への協力に対しても、 「問題のないところに火をつけて回っている(寝た子を起こ すな)」という批判を受けることがある。 〈実習3〉物語の創造のためのイベントを 考えよう 1 個人や家族の物語を広く知らしめるための イベントを考えよう 2 コミュニティの物語を創造するためのイベントを 考えよう 3 「語り部」になってみよう 心の回復をめぐる 災害後3年間の取り組み(1) ・0~1年目の取り組み ・体験を穏やかに抱えることが目標 ・心理教育とリラクセーションを中心とした ストレスマネージメント 表出を促すことは、回避を強めPTSDが 起こりやすい状態を作るので不適切 ・6ヶ月~1年の間にスクリーニングを行い、二極分化に 対処する 心の回復をめぐる 災害後3年間の取り組み(2) ・1~2年目の取り組み ・体験を抱える器としての物語作りが目標 →辛かったけれども意味があった ・それぞれの個人の表現活動(作文=文集や描画) つらく苦しい作業となる場合もあるので 心理教育やリラクセーションと組み合わせる 子供たち自身がそれを望んでいることを 忘れてはいけない ・喪失のトラウマが表れてくる時期 → 喪失体験への対処(恐怖体験とは違う対処) 心の回復をめぐる 災害後3年間の取り組み(3) ・2~3年目の取り組み ・集団としての表現活動=繋がりを求める語り伝え ・災害はつらかったけれども、そこから新しい未来を 回復していったという誇りを持つ ・集団の表現活動と防災教育の結合 様々の社会的な活動を積極的に 行っていく ・生活の変化による様々の日常ストレスへの対処 ・直接災害とは関連しない様々な問題に、災害への対処の 中で獲得した方法論を適用していく 新たな防災教育の事例 (3) ポプラの命を通した学習(小学校) 2004年 台風23号 日本全国で98人の死者・行方不明者 新たな防災教育の事例 台風18号で倒れたポプラ 新たな防災教育の事例 田んぼに立つポプラ 新たな防災教育の事例 1年後、生徒発案の感謝祭 ⇒ 命、元気、感謝といった“価値”をポプラという“象 徴”を通して発信する