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派遣隊員のご家族の皆様へ
作成:香川大学医学部精神神経医学講座 臨床心理士 篠原朝美
Kagawa CIS project 、全国救護活動研究会
このたびの東日本大震災による甚大な被害は、テレビ等を通じて、ご存じのことと思います。映像を見ている
だけでも心が折れてしまうほどの現場に出場した隊員の方々には心から敬意を表するとともに、深く感謝いた
します。また、派遣に際し、ご家族としてもご心配やご苦労があったかと思います。ご家族の皆様に対しても深
く感謝しています。ここでご家族の皆さんにお伝えしたいことがあります。
伝えたいこと
今回のような大きな災害で救助にあたった隊員には、「惨事ストレス」が懸念されます。
惨事ストレスとは
凄惨な現場活動に従事し、悲惨な経験をした消防職員に生じるストレス反応の事を言います。
今回の東日本での活動は、ご存じの通り、現場がかなり凄惨な状況です。多くの方がなくなり、
未だ多くの方が行方不明の状況です。損傷の激しいご遺体に接したり、生存者が見つからない中
で続く作業に強い精神的ショックを受けている可能性があります。
このような場合に、非日常的な異常体験から自分の心を守るために「正常な反応」として、「惨事
ストレス」の症状が生じることがあります。
「惨事ストレス」は、異常なことではなく、「大きなショックによって現れる普通の反応」です。多くは
一時的なもので、ご家族の中で受け止めていただければ、やがて自然に落ち着いてきます。
もう一枚の用紙に惨事ストレスとストレスケアについて、お示ししたいと思います。「家族は心の支え」です
が、そのご家族にも当然不安があると思います。ご家族でストレスを感じるようになりましたら、ご家族も ス
トレスケアを実施してください。
ご家族様へ 「惨事ストレスの影響と対応」
作成:香川大学医学部精神神経医学講座 臨床心理士 篠原朝美
Kagawa CIS project 、全国救護活動研究会
強い精神的ショックを受けると、次のような症状が生じることがあります。多くは一時的なもので、自然に消失していきます。異常
なことではないので、おかしくなったのではないかと慌てずに、冷静に対応していきましょう。
「惨事ストレスの影響」
主な精神的な反応
うつ症状
・意欲がわかない。楽しめない。
解離症状
・気持ちが落ち込んでいる。
・ぼうっとして反応がない。
・集中力が低下する。
・出来事の一部を覚えていない。 ・考えがまとまらない。
覚醒亢進症状
再体験症状
・イライラする。怒りっぽくなる。
・神経が過敏になり、落ち着きが
ない。非番でも出勤してしまう。
・眠れない。
・出来事の場面が繰り返し目の
前に現れるような気がする。
・出来事に関連する悪夢を見る。
自責館
回避症状
・自分の行動を責める。
・出来事を思い出させるような人・場所・状況・ニュース等を執拗に避ける。
主な身体の症状
・頭痛や腹痛、吐き気などを訴える。
・体のだるさ、疲れなどを訴える。
・寝つきが悪く、夜中に目を覚ましたりする。
・食欲がない。お酒の量が増える。
「ストレスケア」
とにかくゆっくり休ませる。
とにかくねぎらう。
・ゆっくり休める場所と時間を提供してください。
・安眠、栄養のバランスのとれた食事を提供してください。
・気持ちの逃げ場を作ってあげてください。
・「大変さを理解してあげよう」「励まそう」と思っても、実際に体験し
た人でないとわからないほど悲惨な状況もあります。難しいことは
考えずに「本当に御苦労さま」とねぎらってあげてください。
話を聞いてあげる。
気分転換
・本人が自分から話してきたときには、さえぎらずに最後まで話を聞いてあげてください。
・「なんとなくいつもと違う」と感じられたときには、そっと見守ってください。
・自分を責めるようなことを言う場合には、「そんな気持ちでいるんだね。」とそのまま十分
受け止めてください。聞くだけでストレスケアになります。アドバイスの必要はありません。
・十分に休養して、本人も望めば、
気分転換に家族で出かけたりして
もいいかもしれません。
ここに書かれている症状や対応がすべてではありません。家族がいつもと違うと思ったら、それは何らかの症状かもしれませんし、
その家族なりの対応の仕方もあると思います。何かあった時にあわてないように「惨事ストレス」の事を知っていただくことは大切で
すが、特に気負う必要はなく、家族がいつもどおりに暖かく迎えてくれることが一番だと思います。
しつこいようですが、「惨事ストレス」は「凄惨な体験をした時におこる普通の反応」、「異常な事態への正常な反応」です。家族が
落ち着いて暖かく見守ることで徐々に落ち着いてきます。しかし、心配になるほど症状が重い場合には、専門家に相談しましょう。