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平成24年度 オープンソースソフトウェア調査報告書
はじめに
本報告書は、「平成24年度オープンソースソフトウェア調査業務」についての調
査結果をとりまとめたものです。
近年、オープンソースソフトウェアは、民間企業のみならず、一部の地方自治体
において積極的に導入・推進されているものの、一般には余り知られていない点も
多く、必要以上に忌避しがちであったり、逆に、メリットにのみ着目する余りリス
クの理解が疎かになってしまったりするなど十分な理解のうえで検討を進める素地
に欠けるきらいがあります。
そこで、本調査では、主として、地方自治体等でオープンソースソフトウエアの
導入について検討を担当する職員の皆さんを想定して、オープンソースソフトウェ
アの概要や動向について概観しています。
また、オープンソースソフトウェアのメリット・デメリットといった特徴につい
て詳しく解説したうえで、オープンソースソフトウェアの適用範囲や具体的な製品
を紹介しています。
さらに、地方自治体や民間企業等を中心としたオープンソースソフトウェアの導
入事例を紹介したうえで、さらに情報収集をしたい方のための参考書やWebサイト
の紹介を行っています。
本報告書が、少しでも業務の参考となれば幸いです。
平成25年2月
(平成25年11月 一部内容修正)
静岡県 企画広報部 情報統計局 情報政策課
(委託先:西日本電信電話株式会社静岡支店)
株式会社情報通信総合研究所 社会公共システム研究グループ
目
次
1.オープンソースソフトウェアの概要
(1)オープンソースソフトウェアとは
(2)オープンソースソフトウェアのイメージ
(3)オープンソースソフトウェアの分類
1
1
3
4
2.オープンソースソフトウェアの動向
(1)オープンソースソフトウェアを取り巻く環境
(2)オープンソースソフトウェアの市場
(3)オープンソースソフトウェアの今後の方向性
10
10
13
15
3.オープンソースソフトウェアの特徴
(1)オープンソースソフトウェアの特長
(2)オープンソースソフトウェアの注意点
17
17
23
4.オープンソースソフトウェアの適用範囲
27
5.主なオープンソースソフトウェア製品
28
6.オープンソースソフトウェアの利用事例
(1)自治体でのオープンソースソフトウェアの
利用事例
(2)民間企業等でのオープンソース
ソフトウェアの利用事例
42
7.まとめ
50
【さらに情報を収集したい方のために】
51
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42
47
1
1.オープンソースソフトウェアの概要
(1)オープンソースソフトウェアとは
【一般的なソフトウェアの開発と利用】
ユーザ(購入、使用)
開発(プログラミング)
製品
変換
(ソースコード)
実行
(バイナリコード)
非公開
(出典)オリジナル作成
一般的なソフトウェアは、開発者が「コンピュータがどのように動作する
か」を「人間が理解できる形式」(ソースコード)で記述します。
これを、ソフトウェアとして使用するためには、数字の0と1のみで表現さ
れた「コンピュータが実行できる形式」(バイナリコード)に変換します。
一般的に商用のソフトウェアは、事前にバイナリコードに変換された形式
でパッケージ化された製品として流通しており、ユーザはソフトウェアの変
換前の状態(ソースコード)を知ることはできません。このため、ユーザがソ
フトウェアに修正や改良を加えることは事実上、不可能と言えます。
コード
特徴
ソースコード
人間が理解でき、修正や改良をすることができる
これだけではコンピュータが実行できない
バイナリコード
コンピュータが実行できる
人間が理解することは難しい
また、多くのソフトウェアは、製品を複製(コピー)したり、他人に譲渡し
たり、といったことができない契約条件となっていることが一般的です。
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【オープンソースソフトウェアの開発と利用】
ユーザ(入手、使用、利用)
開発(プログラミング)
製品
変換
(ソースコード)
実行
(バイナリコード)
自由に利用できる形態で公開
(出典)オリジナル作成
これに対して、ソースコードを公開しているソフトウェアがあります。
そのようなソフトウェアのうち、予めソフトウェアの複製(コピー)・再頒
布・改良を認め、ユーザが自由に利用できる形態で公開しているものを
「オープンソースソフトウェア」と呼びます。
ソフトウェア
ソースコードを公開しているソフトウェア
オープンソースソフトウェア
複製(コピー)
改良・改造
自由に利用できる形態で公開
(修正・新機能追加等)
再頒布
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(2)オープンソースソフトウェアのイメージ
【著名なオープンソースソフトウェアの例】
(出典)各プロダクトWEBサイト
現在、無数のオープンソースソフトウェアが流通していますが、中には、
非常に有名で一般的にも良く使用されているソフトウェアも少なくありませ
ん。(詳細については第5章で説明します。)
ウェブブラウザの「Mozilla Firefox (モジラ ファイアフォックス)」
(Mozilla Foundation)や、ワープロ・表計算ソフトなどの業務用オフィスス
イートである「OpenOffice.org (オープンオフィス・オルグ)」
(OpenOffice.org)などは、多くのエンドユーザが使用しています。
また、代表的なWEBサーバソフトである「Apache HTTP Server (アパッチ
エイチティーティーピー サーバ)」、OSカーネルまたはOS環境としての
「Linux (リナックス/リヌックス)」、日本で開発されたオブジェクト指向ス
クリプト言語である「Ruby (ルビー)」、など、非常に広い範囲で使用されて
いるオープンソースソフトウェアもあります。
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(3)オープンソースソフトウェアの分類
【ライセンスの構造】
(出典)NTT
オープンソースソフトウェアは、著作権の取り扱いの観点から、幾つかの
種類に分類されます。
そもそも、ソフトウェアの著作権は、一般的な芸術・学術上の著作権と同
様に、登録や申請といった手続きをとる必要はなく、作成と同時に自動的に
発生します。ソフトウェアの場合、ソースコードや関連ドキュメント等が著
作物となります。
ソフトウェアの使用者は、著作権者から使用許諾を得て、ソフトウェアを
使用(プログラムを実行)します。多くの場合は、ソフトウェアの代金という
対価を支払うことによって、使用許諾を得ますが、著作権者が無償で使用許
諾を与えるソフトウェアも少なくありません。
オープンソースソフトウェアの場合、そもそも、自由に使用できるもので
すが、著作権の取り扱い(利用についての考え方)について、ライセンスが規
定されています。
ここで言う「著作権の利用」とは、具体的には、
 複製(コピー)すること
 改良・改造(修正・新機能追加等)すること
 再頒布(頒布)すること
を指しています。
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【コピーレフトとは】
著作権(copyright)
コピーレフト(copyleft)
すべての利用者にソフトウェ
アを再頒布し変更する自由を
与えることを目的に編み出さ
れた概念もしくは手法
(出典)オリジナル作成
著作権を放棄することなく保有し続けた上で、頒布条件として、そのコー
ドおよびそれから派生したいかなるソフトウェアに対しても、複製・頒布・
変更の自由を与える一方、これらを再頒布する人にも、まったく同じ条件で
再頒布させる手法をコピーレフトと呼ぶことがあります。
初期のソフトウェア自由化運動である「GNUプロジェクト」では、成果物で
あるGNUソフトウェアの頒布条件に、それがクローズドな製品に転用されるこ
とを防止する文言を盛り込む必要がありました。その目的は、ソフトウェア
を自由なものにしておく権利、すなわちソフトウェアの変更と再頒布の権利
の法的保護にあります。そこで考え出されたのが「コピーレフト」です。
コピーレフトは、ソフトウェアに加えられた変更部分も自由に使用できる
と規定しています。この規定が適用できないと、修正版のユーザの自由が保
証されないからです。
オリジナルのコピーレフトの内容に変更を許さないことで、ユーザがコ
ピーレフトのソフトウェアを自由に使用する権利を、何人も奪うことのでき
ない権利として保証しています。
オープンソースソフトウェアのライセンス条項は、このコピーレフトを実
現するための具体的な規約文書であるという性格を持っています。
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【コピーレフトの作用】
(出典)NTT
コピーレフトには大きく2つの作用があります。
①ソースコードの開示
オープンソースソフトウェアを再頒布する際、改変や組合せの有
無に応じ、どのソースコードを開示しなければならないかが規定
されています。
②ライセンスの伝搬
オープンソースソフトウェアを再頒布する際、改変や組合せの有
無に応じ、どの著作物に対し元のオープンソースソフトウェアと
同じライセンスを適用させなくてはならないかが規定されていま
す。
この観点から、オープンソースソフトウェアは、そのコピーレフトの作用
の強さに応じて、
GPL型 (コピーレフト型)
MPL型 (準コピーレフト型)
BSD型 (非コピーレフト型)
の3つに分類されます。
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【GPL型(コピーレフト型)のオープンソースソフトウェア】
(出典)NTT
オープンソースソフトウェアのうち、最もコピーレフトの作用が強い形態
のものを「GPL(General Public License)型」のオープンソースソフトウェア
と呼びます。
このオープンソースソフトウェアのライセンスは、プログラム頒布に際し、
改変追加部分を含むソースコードの開示を要求します。
自社開発のソースコードと組み合わせて一つのプログラムとした場合、自
社開発のコードについてもライセンス条件が波及し、そのソースコードの開
示とGPL化を要求します。(自社開発のコードが独立した別個の著作物である
と合理的に判断され、別個のプログラムとして頒布される場合は対象外とな
ります。)
自社の知的財産が含まれている場合でも無償での利用を許諾しなければな
りません。
このため、GPL型はオープンソースソフトウェアの中でも、最も注意を要す
るライセンスですが、同時に、最も数多い形態でもあります。
この形態に分類されるオープンソースソフトウェアでは、「Linuxカーネ
ル」「GIMP」などが有名です。
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【MPL型(準コピーレフト型)のオープンソースソフトウェア】
(出典)NTT
オープンソースソフトウェアのうち、GPL型のように改変、追加部分のソー
スコード開示を要求しますが、伝搬性が低いという特徴を持つ形態のものを
「MPL(Mozilla Public License)型」のオープンソースソフトウェアと呼びま
す。
このオープンソースソフトウェアのライセンスは、ソースコードの改変、
追加に対し、該当部分を含むソースコードの開示を要求します。
伝搬性は強くなく、ソースコードの開示は組み合わせたプログラムまでは
波及しません。
このため、MPL型は、商用ソフトウェアの一部もしくは旧版を戦略的にオー
プンソースソフトウェア化したケースでよく見られます。
この形態に分類されるオープンソースソフトウェアでは、「FireFox」
「Thunderbird」などが有名です。
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【BSD型(非コピーレフト型)のオープンソースソフトウェア】
(出典)NTT
オープンソースソフトウェアの中で最も制約の少ないライセンスで、規定
された著作権表示と免責条項さえ含めれば頒布できる形態を「BSD (Berkeley
Software Distribution)型」のオープンソースソフトウェアと呼びます。
このオープンソースソフトウェアのライセンスは、著作権表示と免責条項
を含めて頒布することのみを要求します。ソースコードの開示条件は規定さ
れていません。
再頒布時に他のライセンスに変更することも許されています。
この形態に分類されるオープンソースソフトウェアでは、「FreeBSD」
「PostgreSQL」などが有名です。
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2.オープンソースソフトウェアの動向
(1)オープンソースソフトウェアを取り巻く環境
【ユーザサイドからみたオープンソースソフトウェアの利用】
利用状況
(出典)リクルート社(キーマンズネット)調査(2011年)
ユーザ企業に対する調査によれば、4割強の企業が何らかのオープンソース
ソフトウェアを利用しており、導入検討企業を合わせると、半数弱に達して
います。他方、導入にネガティブな企業は半数強あり、オープンソースソフ
トウェアを利用しようという企業とそうでない企業にちょうど二分されてい
る状況であることが分かります。
これを、企業の規模別に見てみると、1000人規模以上の大企業では利用企
業が上回っているのに対し、100人規模以下の中小企業ではネガティブな企業
の方が多く、現時点では、オープンソースソフトウェアは、比較的規模の大
きな企業から導入・利用が進んでいる状態であることが分かります。
また、企業の業種別に見てみると、IT製品関連業の企業では多くの企業で
オープンソースソフトウェアが利用されているのに対し、それ以外の業種の
企業では3~4割の企業が導入しているのみで、オープンソースソフトウェア
は、IT関連の企業から導入・利用が進んでいる状態であることが分かります。
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利用分野
(出典)リクルート社(キーマンズネット)調査(2011年)
オープンソースソフトウェアを利用している企業の中で、最も多く利用さ
れているのは『Linux』などの「OS」分野で、75%以上の企業に利用されてい
ます。
次いで、利用率が高い分野は、6割以上の企業に利用されている『Apache』
などの「Webサーバ」分野、約半数の企業に利用されている『MySQL』などの
「データベース」分野などとなっています。
『Java』『Ruby』などの「開発言語・開発フレームワーク」、『Samba』
『Sendmail』などの「ファイルサーバ、メールサーバ、認証サーバ」なども3
~4割程度の利用率がありますが、それ以外の分野でのオープンソースソフト
ウェアは、まだ普及している状態にはありません。
また、「データベース」は大企業よりも中小企業での利用率が高く、「デ
スクトップアプリケーション」はIT系以外の企業での利用率が高いなど、企
業の特徴別に利用されているオープンソースソフトウェアも異なっている状
況です。
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【サプライヤーサイドからみたオープンソースソフトウェアの利用】
(出典)情報処理推進機構調査(2010年)
ユーザ企業に対して、ソフトウェアや情報処理サービスなどを提供するサ
プライヤーサイドの企業のオープンソースソフトウェアの提供の状況につい
て見てみると、2009年度にサプライヤー1社当たりのオープンソースソフト
ウェア関連事業の売上げが、売上高・案件数ともに伸びています。
1社平均46件のオープンソースソフトウェア関連案件から、372百万円の売
上げをあげており、オープンソースソフトウェア関連事業は、成長ビジネス
になっているものと考えられます。
(出典)情報処理推進機構調査(2010年)
同調査によると、「商用製品より低コストで開発できるOSS活用のシステム
開発案件が増えている」とするサプライヤー企業が多く、長引く不況下で、
相対的に低価格であることが多いというオープンソースソフトウェアの特長
に着目したユーザ企業が増えている傾向がうかがえます。
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(2)オープンソースソフトウェアの市場
【オープンソースソフトウェアの市場規模】
(出典)情報処理推進機構調査(2010年)に基づき作成
独立行政法人情報処理推進機構の推定によれば、「ソフトウェア業」「情
報処理・提供サービス業」「インターネット付随サービス業」により構成さ
れるIT関連市場の規模は、約20兆円と推定されています。(2008年度)
それに対して、オープンソースソフトウェアの市場規模は約2.1兆円と推定
されており、IT関連事業市場の1割強がオープンソースソフトウェア市場化し
ているものと推定されています。
中でも、規模は小さいものの、インターネット付随サービス業では、5,000
億円強の事業規模の大半がオープンソースソフトウェア市場化しており、特
定業種においては、オープンソースソフトウェア市場が既に大きな存在を占
めているものと考えられます。
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【オープンソースソフトウェアのターゲット市場】
(出典)情報処理推進機構調査(2010年)に基づき作成
独立行政法人情報処理推進機構の調査によれば、従来、サプライヤーサイ
ドがオープンソースソフトウェアのターゲットとしている市場は、「サービ
ス業」「製造業」などの業種のユーザ企業が多いものの、今後は、「官公
庁・自治体・外郭団体・学校」などといった公的セクタや、民間企業でも
「金融・保険業」「公益企業(電気・ガス・水道・電話等) 」などといった社
会システム系の企業をターゲットとして、オープンソースソフトウェアを展
開しようとしているサプライヤーが多いようです。
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(3)オープンソースソフトウェアの今後の方向性
【オープンソースソフトウェアのターゲット市場】
(出典)情報処理推進機構調査(2010年)に基づき作成
独立行政法人情報処理推進機構によって、2008年度に約2.1兆円と推定され
ていたオープンソースソフトウェア市場の規模は、2011年に約2.6兆円に拡大
しているものと推定されています。これは、年率に換算すると、約8.5%に相
当する高成長と推定されていることになります。
また、後述するオープンソースソフトウェアの阻害要因(サポート、技術ス
キルなど)が解消されたと仮定すると、オープンソースソフトウェア市場規模
は約4.8兆円規模に拡大し、さらに、
・オープンソースソフトウェアの性能向上による適用領域の拡大
・オープンソースソフトウェア活用ビジネスの成長
・政府を中心とするオープンな標準に基づくIT調達の拡大
などが実現した場合に到達するであろう潜在的な市場規模を推定すると、約
9.7兆円に達し、これは、IT関連事業市場規模の4割以上を占めるものと推定
されています。
まさに、オープンソースソフトウェアは、成長中の市場と考えることがで
きます。
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【利用拡大が期待されるオープンソースソフトウェア】
(出典)情報処理推進機構調査(2010年)
今後、利用拡大が期待されるオープンソースソフトウェアには次のような
ものがあります。
◆既に利用規模が大きく、かつ、着実に利用が拡大しているオープンソース
ソフトウェア
(例)OpenOffice.org, Ruby, Ruby on Rails, Xen, Python,
Ubuntu Linux, NetBeans, Seasar2, OpenSolaris
◆新しいオープンソースソフトウェアで利用が急拡大しているもの(クラウ
ド技術に関するものや、携帯電話向き基盤ソフトウェアが多い)
(例)Hadoop, Google Chrome OS, Eucalyptus, Android
◆ミッションクリティカル分野での利用が拡大しているオープンソースソフ
トウェアのRDBMS
(例)MySQL Cluster , PGCluster
◆既存のCMSにくらべて新規性があり注目を集めているオープンソースソフ
トウェア
(例)島根県CMS, Geeklog
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3.オープンソースソフトウェアの特徴
(1)オープンソースソフトウェアの特長
【ユーザサイドからみたオープンソースソフトウェアのメリット】
(出典)リクルート社(キーマンズネット)調査(2011年)
ユーザは、オープンソースソフトウェアのメリットについて、次のような
ものを挙げています。
・コスト(導入コスト・運用コスト)の削減が可能
・特定ベンダに依存しなくて良い
・関連情報が豊富に存在する
・ソースコードを参照し、自社仕様に変更することができる
・納期の短縮が可能
このうち、実際にオープンソースソフトウェアを利用している企業が特に
重視しているのが「導入コスト削減」で、特に中小企業やIT製品関連業の企
業に際だっています。
大企業の場合は、「導入コスト削減」を最も重視する傾向は変わらないも
のの、「特定ベンダ依存回避」や「運用コスト削減」も重視する傾向にあり
ます。
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【サプライヤーサイドからみたオープンソースソフトウェアのメリット】
(出典)情報処理推進機構調査(2010年)
サプライヤーは、オープンソースソフトウェアのメリットについて、次の
ようなものを挙げています。
・低価格で提供可能
・特定ベンダに依存しない
・多くの種類のオープンソースソフトウェアから選択可能
・関連情報が豊富に存在する
・ソースコードを参照し、変更することができる
・納期の短縮が可能
このように、サプライヤーが評価するポイントは、ユーザが重視するポイ
ントと、ほぼ同様の傾向を示していることが明らかです。
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【コスト削減(導入コスト・運用コスト)】
①資産コスト
ハードウエア・ソフトウエア
の購入費等
②技術サポートコスト
TCO
Total Cost of Ownership
=所有総費用
ユーザ教育やヘルプデスク等
の費用
③運用・管理コスト
資産管理やセキュリティ対策
等の費用
④エンドユーザコスト
データ管理やユーザ同士の
サポート等の費用
(出典)オリジナル作成
情報システム等を所有する際には、その購入費用だけでなく、使い続ける
ための諸費用なども含んだ総コスト(TCO)で評価することが一般的です。
TCOは大きく4つのコストに分類されますが、オープンソースソフトウェア
を活用することによって、いずれのコストも削減することができると考えら
れます。
①資産コスト
オープンソースソフトウェアは一般的な商用ソフトウェアと比べて、安価
に提供されていることが多く、ソフトウェアの購入費を低減させます。ソフ
トウェアを購入する場合はイニシャルコストを、ライセンス提供を受ける場
合はランニングコストを低減させます。
②技術サポートコスト・④エンドユーザコスト
多数の開発者用端末に入れてもコストが嵩まないため、すべての開発環境
において本番環境と同じソフトウェア構成を構築でき、トラブルを減少させ
ることができます。また、著名なオープンソースソフトウェアの場合は、多
くの情報が出回っているため、ユーザのトレーニングやスキル向上に要する
コストの低減が期待できます。
③運用・管理コスト
保守期限切れによる強制的なアップデートもなく、ソフトウェアを安定的
に使用できます。また、セキュリティ対策が容易なケースも多く、運用・管
理コストの低減が期待できます。
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【特定ベンダ依存回避】
一般的なソフトウェアの場合
ユーザ(購入、使用)
開発(プログラミング)
製品
変換
実行
改良・改造
したいとき
(ソースコード)
非公開
×
(バイナリコード)
開発者以外
開発者に改良・改造を依頼するしかない
(出典)オリジナル作成
一般的なソフトウェアの場合、ユーザはソフトウェアを使用する権利を得
ているのみであって、ソフトウェアの機能を向上させたり、ユーザにとって
使用しやすい形態に加工するなどといった改良・改造を行う権利は有してい
ません。
また、たとえそのような権利を有していたとしても、ソフトウェアのソー
スコードが公開されていないため、開発者以外の者がソフトウェアを改良・
改造することはできません。
その結果、ユーザがソフトウェアを改良・改造したい場合は、開発者に依
頼するしか選択肢がなく、費用などの面でユーザにとって不利な条件であっ
ても甘受するしかありません。
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オープンソースソフトウェアの場合
ユーザ(入手、使用、利用)
開発(プログラミング)
製品
変換
実行
改良・改造
したいとき
(ソースコード)
(バイナリコード)
自由に利用できる形態で公開
○
開発者以外
誰でも改良・改造できる
(出典)オリジナル作成
オープンソースソフトウェアの場合、ユーザはソフトウェアを利用する権
利も許諾されていることから、ソフトウェアの機能を向上させたり、ユーザ
にとって使用しやすい形態に加工するなどといった改良・改造を行うことも
できます。
また、オープンソースソフトウェアは、ソフトウェアのソースコードが公
開されているため、そのソースコードを利用して、開発者以外の者でもソフ
トウェアを改良・改造することができます。
その結果、ユーザがソフトウェアを改良・改造したい場合は、開発者に限
らず、任意の者に依頼することができ、費用などの面でユーザにとって有利
な条件で改良・改造することが可能になります。
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【その他(セキュリティ・サポートなど)】
一般的なソフトウェアの場合
ユーザ
開発
セキュリティ対応
製品
変換
実行
サポート
オープンソースソフトウェアの場合
開発コミュニティ
ユーザ
セキュリティ対応
サポート
(出典)オリジナル作成
ソフトウェアにセキュリティ上の問題が見いだされた場合、一般のソフト
ウェアの場合は、その開発会社のみが対応することになります。
が、オープンソースソフトウェアの場合、開発コミュニティの多くのメン
バが協力して対応することになるため、迅速な対応を期待することができま
す。
技術サポートについても同様と言えます。
但し、オープンソースソフトウェアの場合、セキュリティの保護や技術サ
ポートに責任を負う主体が不明確な面もあり、近年では、オープンソースソ
フトウェアの保守運用を請け負う企業も増えています。
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(2)オープンソースソフトウェアの注意点
【ユーザサイドからみたオープンソースソフトウェアのデメリット】
(出典)リクルート社(キーマンズネット)調査(2011年)
ユーザは、オープンソースソフトウェアのデメリットについて、次のよう
なものを挙げています。
・サポートが得にくい
・今後の存続が不明
・セキュリティ
・投資額が高くなるおそれ
・機能追加が常時行われる
このうち、実際にオープンソースソフトウェアを利用している企業が特に
感じているデメリットが「サポートが得にくい」ことです。
デメリットについては、企業の規模や業種などによる差異は大きくなく、
どの企業もおしなべて似たようなデメリット感を抱いていると言うことがで
きます。
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【サプライヤーサイドからみたオープンソースソフトウェアのデメリット】
(出典)情報処理推進機構調査(2010年)
サプライヤーは、オープンソースソフトウェアのデメリットについて、次
のようなものを挙げています。
・緊急時の技術サポートが得にくい
・今後の存続が不明
・バグ改修・顧客要請対応に手間がかかる
・機能追加が常時行われる
・セキュリティ
・投資額が高くなるおそれ
このように、サプライヤーが感じるデメリットは、ユーザが抱くデメリッ
ト感と、ほぼ同様の傾向を示していることが明らかです。
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【隠れたリスク~著作権リスク】
商用ソフトウェア
GPLソフトウェア
リバースエンジニアリング等
による発覚
企業評価の低下
風評被害
商用ソフトウェア
ルータ
プリンタドライバ
(出典)日本OSS推進フォーラムWEBサイトを基に作成
スキャナおよびプリンタ用のLinux版ドライバ・プログラムをダウンロー
ド・サービスなどの方法で無償頒布していたA社が、そのプログラムの中に、
GPLで頒布されていたコードが流用されているにも関わらず、ソースコードを
開示せずにオブジェクトコードを無償で頒布したとしてライセンス違反の指
摘を受けたことがあります。(2002年)
具体的には、多国語化のためにA社で利用しているソフトウェアのソース
コードの一部 がGPLであるにもかかわらず、それをA社のパッケージ内に取り
込み、非GPLのソースコードおよび非公開のバイナリと共に、その個々のファ
イルのライセンスを明確にしないまま二次配付を行っていた点などが、ライ
センス違反と指摘されたものです。
A社の場合、速やかにWebサイトで謝罪し、ソフトウェアの差し替えとライ
センス修正を実施したため、企業イメージをダウンさせることはありません
でしたが、対応を誤ると、企業評価の低下や風評被害を招くリスクが内在し
ており、注意が必要です。
このようなリスクは、簡単に再利用が可能なオープンソースソフトウェア
を活用して効率的に商用ソフトウェアを作成したいという欲求にかられる際
に顕在化しやすいため、ライセンスに関する理解を深めることが重要と言え
ます。
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【隠れたリスク~特許権リスク】
欧州:
ソフトウェア特
許を容認するも、
世論からの反発
も強い
米国:
ソフトウェア特許に
対し先進的。ただし
最近では行き過ぎた
という反省もある
日本:
米国を追随する。
2001年からソフト
ウェア特許が認めら
れるようになった
(出典)日本OSS推進フォーラムWEBサイトを基に作成
ソフトウェアにも特許が認められるようになるに従い、オープンソースソ
フトウェアの特許権をめぐるトラブルも顕在化しています。オープンソース
ソフトウェアは、一般に多くの人の目に晒されていますが、といって特許侵
害が一切ないというわけではありません。むしろ、ソースコードが公開され
ているだけに、特許権侵害の際には発覚しやすいと言えます。
特許権をめぐるトラブルの事例で最も有名なのは、米国企業がLinuxへの
コード流用についてIBM社などの有力大企業を訴えた事件です。訴訟対象を
Linuxディストリビュータやエンドユーザにも拡大したことや、10年近い長期
に亘って訴訟が継続したことから、大きな影響を与えました。
オープンソースソフトウェアの場合、開発者等は責務を負わず、訴訟相手
として利用者が狙われるケースが多いという特徴があります。パテントト
ロール(休眠している特許を買収し、その技術を使って製品やサービスを提供
している会社に、特許権の侵害を理由に訴訟を起こし巨額の和解金をせしめ
ようとする者)に狙われるリスクもあり、また、彼らとはビジネスで競合して
いないためクロスライセンスによる訴訟回避もできません。
このため、特許権行使を防ぐために、ディストリビュータが特許を買い取
るケースが増えてきています。また、ベンダとオープンソースプロジェクト
の両方を特許リスクから守るべく、オープンソースプロジェクトの特許共有
権の実現を目指す団体もあります。
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4.オープンソースソフトウェアの適用範囲
(出典)「日経コンピュータ」2012年4月26日号
従来は、オープンソースソフトウェアの代表格と言えば「Linux」やアプリ
ケーションサーバーソフトウェアが活用されていましたが、RDB(リレーショ
ナルデータベース)や、ストレージ、ネットワークなどでもオープンソースソ
フトウェアの存在感が増し、近年では、オープンソースソフトウェアは、
様々な分野に広がっています。システムインフラからミドルウェア、アプリ
ケーションに至るまで、幅広い分野でオープンソースソフトウェアが活用さ
れています。
マイクロソフトが分散バッチ処理ソフトウェア「Hadoop」を採用した分散
システム分野や、IaaS構築分野などの最新分野では、オープンソースソフト
ウェアが商用ソフトウェアよりも優れた評価を得ている分野もあります。
また、近年、アプリケーションソフトウェアやデータベースなどをユーザ
側のコンピュータではなく、インターネット経由でサービスとして利用する
形態である「クラウドコンピューティング」が急速に普及しています。(SaaS
などもその一形態と考えられます。)
クラウドコンピューティングを実現するソフトウェアや、クラウドコン
ピューティングによって提供されているソフトウェアにも、オープンソース
ソフトウェアが多く利用されています。オープンソースソフトウェアはユー
ザが認識していないケースでも幅広く浸透しつつあると言えるでしょう。
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5.主なオープンソースソフトウェア製品
【情報システム部門向けのオープンソースソフトウェアの例】
(出典)NTT
【エンドユーザ向けのオープンソースソフトウェアの例】
(出典)オリジナル作成
オープンソースソフトウェアは、様々な分野で各種のソフトウェアが展開
されています。
ここで、主として企業や自治体等の情報システム部門が導入することの多
いソフトウェアや、企業や自治体(原課)のエンドユーザが使用することの多
いソフトウェアを取り上げます。
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29
Web3層のアーキテクチャ(ECサイトのイメージ)
(出典)NTT
Web3層システムは、クライアントサーバシステムを3層に分割して構築した
システムです。
複数の階層に分離して配置することで、変更を加える必要が生じた際にも
柔軟に対応できるようになっています。
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30
【Apache】
Webサーバ
(出典)NTT資料を一部加工
Webサーバはインターネットブラウザからの要求を受けて、コンテンツや画
像ファイルなどを配信します。また、ブラウザからの要求をAPサーバに中継
し、対応するプログラムを動かして、実行結果を返却することもできます。
Webサーバソフトウェアである「Apach」(正式名はApache HTTP Server)は、
Webサーバソフトウェアでは世界中で最も利用者数が多く、シェアは6割を超
えていると言われています。
1995年に「NCSA httpd 1.3」をベースに開発がスタートしたもので、最新
バージョンは2.4.3になっています。
LinuxやUNIXだけでなく、MacOSやWindowsでも動作します。
CGI・SSIをサポートし、HTMLの中に埋め込まれた特別な命令を実行し、動
的なWebページを構築します。
競合する市販製品には、例えば「Microsft Internet Informationサーバ」
などがありますが、市販品とApacheは、ほぼ同等の機能を具備しています。
詳細については、日本Apacheユーザ会というコミュニティをご参照くださ
い。(http://www.apache.jp/)
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31
【Tomcat/JBoss】
APサーバは、Webサイトのロジックの部分を担当し、主に下記の3点の動作
を行います。
ユーザ認証
動的コンテンツ(条件により表示内容が異なるコンテンツ)の生成
データベースへアクセスし、
取得したデータを表示するためのHTML形式への変換
APサーバのオープンソースソフトウェアとしては、「Tomcat」と「JBoss」
が有名です。
「Tomcat」は、世界で最も使われていると言われているオープンソースの
アプリケーションサーバソフトウェアです。
旧Sun Microsystems社が開発していた「JSWDK」と「Servlet/JSP」のライ
センスをApache Software Foundationが譲り受け、1999年に「Tomcat3」をリ
リースしました。
最新バージョンは7.0.34になっています。
Servlet/JSP機能、クラスタリング機能、DB接続プール機能を搭載していま
す。
詳細については、http://tomcat.apache.org/ (Apache Software
Foundation)をご覧ください。
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32
「JBoss」は、「Java EE」に対応したオープンソースのアプリケーション
サーバソフトウェアです。
「Tomcat」の機能に加え、EJBコンテナ機能、Webサービス機能、メッセー
ジング機能を搭載しています。
従来は、JBoss社により開発・サポートされていましたが、2006年にRed
Hat 社がJBoss社を買収しました。
2007年よりRed Hat社が各種コンポーネントを組合せ、統合品質テストを行
い「JBoss Enterprise Middleware」として提供しています。
「JBoss EAP」と「JBoss SOA Platform」の2タイプが存在しており、最新
バージョンはそれぞれ、5.1.2(EAP)、5.2.0(SOA)となっています。
市販のパッケージ製品のAPサーバソフトウェアには、「WebLogic」(BEA
Systems社)などがあります。
(出典)NTT
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33
【PostgreSQL】
DBサーバは、データベース管理システムと呼ばれるデータ管理専用のサー
バを指します。
データベースを使うことにより、大量のデータを効率よく、高速にアクセ
スすることが可能となります。
また、不正アクセス、人間やアプリケーションの誤り、ハードウェアから
の障害からデータを守る機能もデータベースの重要な役割となっています。
オープンソースのデータベース管理ソフトの
「PostgreSQL」は、日本のIT企業の50%超が利
用していると言われているDBサーバソフトウェアで
す。
大規模システム(1TB規模)への適用実績、クラスタ
リングソフトウェアと 組み合わせた24時間365日運
転システムへの適用実績(エンタープライズ系システ
ムへの適用実績)があります。
元々、カリフォルニア大学バークレー校(UCB)で研究目的に開発された
「Ingress」(1977年)が源流で、「Ingress」から「Postgre」、
「Postgre95」、「PostgreSQL」と名前を変えながら機能拡充を繰り返して来
ました。
「PostgreSQL」は1997年のver.6.0からスタートし、最新バージョンは
9.2.2となっています。(拡張BSD型ライセンス)
年1回のメジャーバージョンアップを実施。「VACUUM自動化」や「同期レプ
リケーション」機能が追加され、性能の向上や運用性が向上しています。
SQL標準に準拠し、最新の機能をサポートしています。
また、運用支援ツールやクラスタ機能等の開発ツールも充実しています。
高速データローダ(pg_bulkload)、正常情報収集ツール(pg_statsinfo)、高
可用化クラスタ(PostgreSQL-REX)などのツールが存在しています。
詳細については、http://www.postgresql.org/ をご覧ください。
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34
【Pacemaker】
高可用クラスタ
(出典)NTT
高可用クラスタとは、複数のサーバでシステムを冗長化し、故障時や保守
時の切り替え制御を行うことで、システムの可用性(システム稼働率)を向上
させる技術を指します。
オープンソースの高可用クラスタソフトウェアであ
る「Pacemaker」は、Linux-HAより2008年に
「Heartbeat 2.1.4」の後継ソフトウェアとしてリ
リースされ、最新バージョンは1.0.12-1.1となって
います。
基本機能として、クラスタ制御機能とリソース制御機能を提供しています。
多様なノード構成(1+1, N+1, N+M)に適用可能となっています。
詳細については、http://clusterlabs.org/ をご覧ください。
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【UltraMonkey】
internet
ロードバランサ
リクエストはロードバランサが受付、
Webサーバに分散
レスポンスはWeb
サーバから戻す
ロードバランサ
Webサーバ
Webサーバ
ロードバランサ
Webサーバ
(出典)オリジナル作成
負荷分散装置(ロードバランサ)とは、クライアントからの要求を一元的に
管理し、複数のサーバに要求を転送する装置を指します。
なるべく多くのサーバに要求を分散して送信し、各サーバが快適な応答速
度を保つことを目的としています。
オープンソースのロードバランサソフトウェアである
「UltraMonkey」は元々、Simon Horman氏が開発しました。
振り分ける情報の違いから、「UltraMonkey-L4」と
「UltraMonkey-L7」の2種類が存在しています。最新バージョンは
「UltraMonkey-L4:3.13」と「UltraMonkey-L7:3.0.4-3」となっています。
「Pacemaker」と組合わせることにより、高可用性、高信頼性のシステム構
成が可能となります。
必要に応じてOSの機能(iptables等)を自由に組み合わせて使用可能です。
詳細については、下記をご覧ください。
L4:http://www.ultramonkey.org/
L7:http://sourceforge.jp/projects/ultramonkey-l7/
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36
【KVM】
仮想化
(出典)NTT
サーバ仮想化技術は、1つのハードウェア(物理サーバ)で複数のOSを動作さ
せる技術です。仮想化技術によりハードウェアの能力を柔軟に活用でき、
サーバ統合 によるシステム構築費用の削減、運用費用の削減などに貢献する
ことができます。
KVM(Kernel-based Virtual Machine)とは、Linuxカーネルに実装される仮
想化技術です。
イスラエルのQumranet社が中心となり開発、Red Hat社がQumranet社を買収
し、RHEL (Red Hat Enterprise Linux) ver.5.4よりKVMを同梱しています。
現在の最新バージョンは「RHEL6.3」となります。
詳細については、http://www.linux-kvm.org/ をご覧ください。
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【WordPress/Joruri】
CMS(コンテンツマネジメントシステム)
Webサーバ
●●部門Web編集担当者
CMSサーバ
○○部門Web編集担当者
▲▲部門Web編集担当者
(出典)オリジナル作成
Webページを作成し運用するためには、 従来は、HTMLなどに関する知識が
必要でしたが、CMS(コンテンツマネージメントシステム)の登場により、技術
的な知識がなくても、コンテンツ(テキストや画像等)を容易に編集し、Webに
よる情報発信をおこなえるようになりました。
CMSによっては、予め数種類のテンプレートが用意されており、全体のデザ
インを容易に変更することもできます。
従来は、Webページの制作を、専門業者に委託していたり、組織内の専任者
が担当していたり、といった方法で運用されていたため、コスト負担が大き
かったり、タイムリーなページ更新が困難であったりしました。
が、CMSを使うことによって、Webページで情報を発信する各部門の担当者
が、自らページを制作し、情報発信をすることができるようになり、コスト
低減やリードタイムの削減に貢献しています。
(CMSの設定によっては、管理者や専任担当者の承認を経ないとページが更新
されないケースもあります。)
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ワープロのような平易な編集画面
様々なWeb画面が生成
(出典)WordPress Webサイト
「WordPress」は元々はブログを編集するためのブログソフトウェア(サー
バ上で動くWebアプリケーション)です。
しかし、ブログに限らず、「WordPress 」を使うことによって、Webページ
を作成する技術やスキルがなくても、ワープロのような平易な編集画面でコ
ンテンツ(テキストや画像・写真等)を編集すればWebページを自動的に生成す
ることができます。
一般的に Webサイトを作る時、HTMLやCSS(Cascading Style Sheets)により
ソースコードを記述して、サーバーにアップロードしますが、「WordPress」
を使うことによって、ページの新規作成や更新を容易に行うことができるよ
うになります。
また、「WordPess」には、ブログやWebサイトに機能を追加することができ
るプラグインソフトウェアが多数用意されており、それらのソフトウェアも
オープンソースソフトウェアになっています。
このように簡便性や豊富な機能が評価され、世界で最も多く使われている
CMS(W3Techs によると約55%のシェア)とされています。(2012年)
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39
ワープロのような平易な編集画面
様々なWeb画面が生成
(出典)Joruri Webサイト
「Joruri」は、2010年に徳島県と地元企業が共同開発したCMSソフトウェア
です。(Japan Originated Ruby-based RESTful and Integrated CMS)
やはりオープンソースソフトウェアである島根県CMSを参考に、Ruby+MySQL
で開発されたもので、主として地方自治体での活用を想定して、「自治体OSS
キット」という名称のオープンソースソフトウェアの一プロダクトとして公
開されています。
勝浦町や阿南市などの徳島県内自治体や、徳島大学・鳴門教育大学などの
県内公共機関のみならず、大阪府・秋田市・綾川市(香川県)などといった県
外の自治体・公共機関などで活用されています。
自治体のWebサイトで必要となる分野・組織・属性・地域での記事分類機能
を持ち、パンくずリストにも表示できます。
公式Webサイト以外の議会Webサイトや観光PR用Webサイトなど、別ドメイン
の各種Webサイトも一元的に管理でき、記事等を広報用紙媒体などにも転載し
やすい構成になっているなど、自治体での利用に適した機能を備えています。
また、読み上げ、ふりがな、背景色や文字色の変更など、JIS X8341-3に準拠
したバリアフリー機能も備えています。
PC向けWebサイト用に登録した記事を携帯向けサイトに自動的に変換して掲
載でたり、更新業務をブラウザにより簡便に行えるなど運用が容易です。
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40
「NetCommons」は、国立情報学研究所が開発しているオープンソースソフ
トウェアのCMSです。
当初、XOOPSをベースに開発されGPLライセンス下で公開されていました
(NetCommons1.x系)が、2008年8月リリースのNetCommons2.0以降のバージョン
はMapleをベースとしてBSDライセンス下で公開されています。
以下のような機能をモジュール化して提供している点に特徴があります。
①お知らせ
②日誌
③カレンダー
④キャビネット
⑤掲示板
⑥汎用データベース
⑦アンケート
⑧フォトアルバム
⑨動画配信
また、開発当初からe-Learning機能を持っていたことから、教育機関を中
心に普及して来ましたが、現在では、外部向けのポータルサイトやグループ
内のコミュニティサイト、個人向けのファイル管理システムを一元的に管理
でき、また、携帯電話向けのサイトも生成できることから、地方自治体や民
間企業などでの利用も増えてきています。
静岡県では、オープンデータのポータルサイト「ふじのくにオープンデー
タカタログ」が「NetCommons」で作成・運用されています。
(出典)静岡県Webサイト
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41
【Open Office.org/Open Office】
オフィススイート
「オフィススイート」は、一般のオフィスワーカーの業務に必要な一般的
なソフトウェアをセットにした、ソフトウェアスイートを指します。ワープ
ロ、表計算、プレゼンテーション、データベースなどのアプリケーションが
組み合わされることが多くなっています。
ロータス(その後IBM)やジャストシステムなどもオフィススイートの販売実
績がありますが、現在ではマイクロソフトの「Microsoft Office」が圧倒的
シェアを占めています。
統一的なインターフェースでソフトウェアを使用することができ、オフィ
ススイート内でのデータの利用も可能ですが、各ベンダーが独自のファイル
形式を採用しており、多くの場合、ファイル仕様が非公開のバイナリ形式で
あるため、ファイル形式の互換性がないことが課題となっています。
(出典)
Apache Open Office Webサイト
Libre Office Webサイト
オープンソースソフトウェアとして提供されているオフィススイートとし
ては、「OpenOffice.org(オープンオフィス・オルグ)」がメジャーです。
商用のオフィススイートと遜色ない機能を持つことや、特定ベンダーに依
存しないODF(OpenDocument Format)形式のファイルを標準文書形式としてい
たことなどから、公共機関等を中心に利用が広がっています。(日本では地方
自治体による導入のケースが多くなっています。)
制作プロジェクトであるOpenOffice.orgが2011年に解散し、その後、
「Apach Open Office」と「Libre Office」が受け継いでソフトウェアを提供
しています。 いずれも、文書作成、表計算、プレゼンテーション、図形描
画、データベース、数式作成、などのソフトウェアが統合されています。
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6.オープンソースソフトウェアの利用事例
(1)自治体でのオープンソースソフトウェアの利用事例
【会津若松市(福島県)】
従来:商用オフィスソフトを利用
OpenOffice.orgへ移行
無料ソフトのため840台で
約1,500万円の経費節減
(5年間)
ODF形式を文書の標準に
2008年~
文書管理システム添付文書のファイル形式比率
新しいオフィスソフトでは
古い文書を取り扱えない
市から頒布する文書ファイ
ルの利用に有料のソフト
ウェアを必要とするケース
がある
会津若松市では、パソコン導入時の費用削減と、パソコン文書の管理効率
化を目的として、無償で利用できるOSSオフィスソフトを全庁的に導入してい
ます。
例えば、2008年から全庁のPCのオフィススイートを「OpenOffice.
org」に移行しました。
これは、主として、システム環境の変化に伴って文書を取り扱うことがで
きなくなることがないように「電子文書の保存・保管の適正化」や、市民な
どの「利用者の利便性向上」を企図したものですが、オフィスソフトが無償
となることで約1,500万円の「費用削減」を図ることができ、オープンソース
ソフトウェアの積極導入にあたって、地元企業の参入を促進し、「地元産業
の振興」にもつなげるものです。
移行前には文書管理システムで取り扱う文書ファイルの8割以上がマイクロ
ソフトオフィス形式の文書でしたが、2012年には過半がODF形式文書になって
います。
また、会津若松市では、「OpenOffice.org」への移行にあたって生じた課
題や解決策など、詳細な経緯について情報公開を推進し、オープンソースソ
フトウェアの利用者の拡大に貢献しています。
(会津若松市では、2012年より「OpenOffice.org」 から「Libre Office」に
移行しています。)
また、より迅速なWebサイトの管理のため、にオープンソースソフトウェア
のCMSを活用しており、2012年からは「Joruri」を使用しています。
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43
【山形県】
従来:商用オフィスソフトを利用
OpenOffice.orgへ移行
2011年
全庁5,600台のPCに適用
(一部例外あり)
ODF形式を文書の標準に
ベンダによる支援サービス
を利用
メーカーによる製品サポ
ートが2011年に終了
セキュリティ更新プログ
ラムの配信も終了(脆弱性
を解消できないリスク)
最新ソフトウェアへのバー
ジョンアップが必要
「OpenOffice.org」を導入している自治体は市町村レベルでは多数ありま
すが、都道府県レベルで初めて、山形県が全面移行に踏み切りました。
従来、使用していた商用オフィススイートのメーカーサポートが2006年に
終了し、2011年までは延長サポートを受けてきましたが、そのサポートも同
年夏に終了することとなりました。
サポート終了後は、オフィススイートに脆弱性などが発見されてもセキュ
リティ更新プログラムの提供(配信)が行なわれず、脆弱性を悪用する攻撃が
行われても対策を講じることができないため、使い続けることが非常に危険
な状態になり、最新のオフィススイートへのバージョンアップが必要です。
しかし、多数のPCのバージョンアップには多額の費用が必要となることから、
山形県では、全庁5,600台のPCを原則として「OpenOffice.org」に移行し、コ
スト削減を図りました。ただし、すべてのPCを「OpenOffice.
org」に移行するのではなく、外部の組織向けに商用オフィススイートの形式
のファイルを作成する必要があるPCや、マクロを利用しているパソコンなど
については、従来の商用オフィススイートを継続利用しています。
また、移行にあたっては、ベンダの評価検証支援サービスを利用して庁内
のすべてのPCを対象に移行の可否を検証し、利用促進や職員研修にベンダに
よる研修・サポートを利用している点に特徴があります。
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【徳島県】
(出典) (財)地方自治情報センター「月刊LASDEC」(2012年5月号)
徳島県では、2008年頃から県で使用するソフトウェアについて、地場企業
に委託してオープンソースソフトウェアとして開発してきました。
例えば、CMSの「Joruri CMS」や、グループウェアの「JoruriGw」、オンラ
インストレージシステムの「DECO」、内部統制管理ツールの「Ai」など、
様々なシステムをRubyによって開発しました。
徳島県では、これらのシステムを、庁内で利用するだけでなく、「自治体
クラウド」として県内の多くの市町村との共同利用を行い、同時に、システ
ム群を「自治体OSSキット」と名付けてパッケージ化し、「OSSなので導入コ
ストが安い」「すでに徳島県で使われているシステムなので安心して利用で
きる」「導入が簡単」「組み合わせが自由」「商用製品と同等以上の機能が
ある」などをセールスポイントとして、全国への展開を図っています。
「Joruri CMS」は既に全国60以上の自治体等への導入実績があり、オープ
ンソースソフトウェアの開発を活用した地場産業の振興策として注目されて
います。
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【島根県】
編集画面
Webページ
実は、徳島県が「Joruri」の開発に当たって参考としたCMSが島根県の開発
した「島根県CMS」と言われており、地方自治体によるオープンソースソフト
ウェアの開発・活用の草分け的存在と言えます。
島根県では、Webサイトの運営に際して、各部局で企画したWebページを制
作会社に委託して制作していましたが、2006年に職員自身がWebページの制
作・管理が行えるシステムを新たに開発・導入しました。
このとき、
 Rubyで記述され、データベースにPostgreSQLを採用するなど、
すべてオープンソースで構成され、ライセンス料が不要
 パソコンに詳しくない職員でもコンテンツの作成・編集が可能
 視覚障害者向けにアクセシビリティを向上させる機能を持つ
とのコンセプトにより開発されたソフトウェアが「島根県CMS」です。
2008年には「島根県CMS」をオープンソースソフトウェアとして公開してい
ます。これにより、オープンソースによって、構築を担当した企業以外の企
業もソースコードを参照できるようになるため、システムの保守や拡張によ
り多くの企業が参加しやすくなるという県にとってのメリットに加え、もと
もとのシステムを構築した地元IT企業にとっても、そのソフトを別のシステ
ム構築に展開しやすくるなるため、地域のIT産業振興につながることも期待
できるというメリットもあると考えられます。
「島根県CMS」は、その後、当別町・小樽市(北海道)、球磨村(熊本県)、邑
南町・川本町(島根県)など、全国の自治体を中心に活用されています。
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【長崎県】
従来:大手メーカーに開発・運用を一括発注
コストの増大
地元企業は大手企業の下請け
長崎県では、2002年度以降、電子申請システムや庁内庶務事務システムな
どの電子県庁システムの開発の多くを、県が自ら詳細な仕様書を作成し、地
元IT企業が受注できる規模に分割し、発注する「ながさきITモデル」方式で
開発するようになりました。
その結果、これまでは大手メーカーの下請けの立場でしか受注できなかっ
た、地元IT企業が直接、県の仕事を受注できるようになりました。
また、2005年度からは、職員総合(給与)、財務会計、予算編成などの基幹
的なシステムのダウンサイジングを行っていますが、ライセンス料などの負
担が大きいことから商用パッケージソフトウェアを採用せず、特定企業の技
術に依存しないオープンソースソフトウェアを活用しています。
その際、県が地元企業と協力しながら詳細な仕様書を作成したうえで、分
割発注を行う「ながさきITモデル」によりシステム開発を行うとともに、大
型電算機廃止までに長期間の猶予を予定することで、県内企業が無理なく受
注できる環境づくりを行い、地元企業の直接受注を実現しました。
「ながさきITモデル」により開発したシステムは、オープンソースで開発
しており、他の自治体での利用が可能です。このため、長崎県が事業主体と
なって、「長崎県自治体クラウドサービス」として「長崎県電子県庁システ
ム」を、ネットワークを通じてサービスとして提供します。利用する自治体
は、一定の利用料を支払うのみで、自らシステムの構築・運用を行うことな
く、アプリケーションシステムの利用が可能となります。
また、他自治体が長崎県からソースコードの提供を受け、独自のカスタマ
イズを行うことも可能で、オープンソースソフトウェアならでは、と言えま
す。この仕組みは、徳島県や和歌山県が利用しています。
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(2)民間企業等でのオープンソースソフトウェアの利用事例
【ヤマハモーターソリューション】
ヤマハ発動機グループのITシステムを担うヤマハモーターソリューション
社は、世界各地における拠点のシステム群の標準化、統合化を推し進めるた
め、移植性、保守性、信頼性に優れた基幹業務システムを新規開発するにあ
たって、基幹業務基盤としての信頼性を確保しながら、費用対効果の高い
オープンソース基盤を構築しました。
商用製品の保守切れという問題から脱却するため、自由度の高いシステム
を志向するとともに、ライセンス費用を削減するため、システム基盤として、
オープンソースソフトウェアを全面採用することになりました。
OSは「Red Hat Enterprise Linux (RHEL)」、データベース管理システムは
「PostgreSQL」、J2EEベースのアプリケーションサーバーとして実績のある
「JBoss」を採用しています。
このシステムの構築によって、商用アプリケーションの保守切れの問題か
らの脱却、オープンソース全面採用によるライセンス費用の削減、信頼性の
確保、といった導入効果をあげることができました。
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【国立国会図書館】
(出典)国立国会図書館Webサイト
国立国会図書館が2010年から提供している検索サービス「国立国会図書館
サーチ(開発版)」では、オープンソースソフトウェアを活用してシステムを
構築しています。開発したソフトウェアは、将来的にはオープンソースソフ
トウェアとして公開し、公共図書館等での利用に供することを想定していま
す。
「Next-L Enju」(統合図書館システム)
→検索機能、検索画面、外部提供インタフェース等のベースとして使用し
ています。
「Hadoop」(分散コンピューティングソフトウェア)
→データ変換、書誌同定処理、グループ化処理、インデックス作成に使用
しています。「Hadoop」の分散処理機構により、高速・効率的に処理
を行なっています。
「GETAssoc」(連想検索エンジン)
→連想キーワードの抽出に使用しています。
「Heritrix」(ウェブサイトクローラシステム)
→国立国会図書館ホームページのテキスト情報収集に使用しています。
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【住友電工】
住友電工は、2008年から社内標準オフィススイートとして「Open
Office.org」を導入しました。
社内のPCのスペックでは最新の商用オフィススイートが動作しない、とい
う課題も背景にありましたが、国や地方自治体を中心に文書ファイルの標準
化(ODFの採用)が進行し、将来、住友電工の顧客先との情報交換でODFが使わ
れる可能性が高まってきたことから、「業務スタイルの変更」に近い性質を
持つオフィススイートの変更に早い時期から取り組み、慣れておくことを主
目的としたものでした。
商用ソフトウェアの使用をやめて「OpenOffice.org」に切り替えるのでは
なく、15,000台のPCを対象に「OpenOffice.org」を推奨オフィススイートと
し、ユーザの希望により商用ソフトウェアも使用できるようにしました。
「『OpenOffice.org』情報サイト」を開設し、インストール方法・FAQ・研
修テキストを掲示したり、インストールを支援したり、集合研修や e-ラー
ニングによるトレーニングを実施したり、 ヘルプデスクを設置したり、と
いった手厚いサポート体制も奏効し、コスト意識も高まった結果、コンスタ
ントに「OpenOffice.org」導入率が高まっており、導入後2年間で対象14,792
台のPCの約18%に相当する2,612台で使用されるようになっています。
住友電工グループでの「OpenOffice.org」インストール数
(出典)OpenOffice.org仙台ユーザーズグループ「住友電気工業でのOOo導入事例」(2010年5月)
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7.まとめ
オープンソースソフトウェアは、情報システムのあらゆる分野で製品が開
発され、商用ソフトウェアと比較して遜色のない性能を持つものも少なくあ
りません。
このことから、こんにちでは、多くの企業・自治体等が導入し、2兆円規模
の市場が成立していると考えられ、今後も成長が期待されています。
しかしながら、大規模な企業や、官公庁・公益企業などを中心に導入が進
んでいたり、OS・Webサーバ・DBなど、特定の分野でのソフトウェアの利用が
中心であるなど、まだまだ社会全体に広く普及している状況にはないようで
す。
オープンソースソフトウェアには、利用促進に作用するメリットと考えら
れる特徴もあれば、利用阻害要因となり得るデメリットと考えられる特徴も
あります。
メリットと考えられることがらの例
デメリットと考えられることがらの例
コストが削減できることが多い
著作権リスクが懸念される
改良・改造(カスタマイズ)できる
特許リスクが懸念される
特定ベンダへの依存を回避できる
サポートに不安が残る
開発期間が短縮できることが多い
今後の存続に不安が残る
セキュリティが堅固なことが多い
常に改変が加えられ続け安定しない
情報が豊富に出回っていることが多い
セキュリティに不安が残る
(出典)オリジナル作成
ともすれば、「オープンソースソフトウェア=無料」という側面にのみ注
目が集まりがちですが、自治体や企業等による導入事例の多くが、無料であ
ることやコスト削減を主目的に導入している訳ではありません。
特定の商用ソフトウェアに依存せざるを得ないファイル形式を避け、国際
標準形式の文書を取り扱うことを主眼としていたり、地場産業の育成・振興
を目的としていたり、あるいは、システム構築の自由度を求めていたり、と
いった明確な目的を持ったうえでオープンソースソフトウェアを導入してい
る事例が多いようです。
今後、地方自治体や企業による情報システムの構築やソフトウェアの導入
にあたっては、目的や要件を明確にしたうえで、オープンソースソフトウェ
アの活用も視野に冷静な比較検討を進めていくべきではないでしょうか。
株式会社情報通信総合研究所 社会公共システム研究グループ
51
【さらに情報を収集したい方のために】
■参考書籍
情報処理推進機構オープンソースソフトウェアセンター(編)
「自治体にオープンソースソフトウェアを導入しよう!―デスクトップ編」
オーム社 (2006年12月)
情報処理推進機構オープンソースソフトウェアセンター(編)
「自治体にオープンソースソフトウェアを導入しよう!―システム基盤編」
オーム社 (2007年12月)
情報処理推進機構オープンソースソフトウェアセンター(編)
「オープンソースで構築! ITシステム導入虎の巻」
オーム社 (2007年11月)
可知豊(著)
「図解 オープンソースのことがわかる本」
日本実業出版社 (2005年4月)
可知豊(著)
「ソフトウェアライセンスの基礎知識」
ソフトバンククリエイティブ (2008年9月)
吉田智子(著)
「オープンソースの逆襲」
出版文化社 (2007年9月)
湯澤一比古(著)
「オープンソースじゃなきゃ駄目」
イデア出版局 (2004年11月)
恒川裕康(著)
「オープンソースでメシが食えるか!?―成功するシステム構築のためのOSS活用術」
秀和システム (2008年11月)
Karl Fogel(著)、高木正弘・高岡芳成(訳)
「オープンソースソフトウェアの育て方」
オライリー・ジャパン (2009年7月)
Chris DiBonaほか(著)、倉骨彰(訳)
「オープンソースソフトウェア―彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか」
オライリー・ジャパン (1999年7月)
Richard M. Stallman(著)、長尾高弘(訳)
「フリーソフトウェアと自由な社会」
アスキー (2003年5月)
株式会社情報通信総合研究所 社会公共システム研究グループ
52
■Webサイト
□オープンソースソフトウェアの動向について情報を得られるWebサイト
OSS iPedia (IPA:独立行政法人情報処理推進機構)
http://www.ipa.go.jp/software/open/ossc/ossipedia.html
日本OSS推進フォーラム
http://ossforum.jp/
オープンソースソフトウェア協会
http://www.ossaj.org/
NTT(日本電信電話株式会社)OSSセンタ
https://www.oss.ecl.ntt.co.jp/ossc/index2.html
□本報告書で紹介したオープンソースソフトウェアについて情報を得られる
(コミュニティなど)
Apache
http://www.apache.jp/
Tomcat
http://tomcat.apache.org/
PostgreSQL
http://www.postgresql.org/
Pacemaker
http://clusterlabs.org/
UltraMonkey-L4
http://www.ultramonkey.org/
UltraMonkey-L7
http://sourceforge.jp/projects/ultramonkey-l7/
KVM
http://www.linux-kvm.org/
WordPess
http://ja.wordpress.org/
Joruri
http://joruri.org/
NetCommons
http://www.netcommons.org/
Apach Open Office
http://www.openoffice.org/
Libre Office
http://ja.libreoffice.org/
株式会社情報通信総合研究所 社会公共システム研究グループ
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