星の海へ、漕ぎ出そう

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星の海へ、漕ぎ出そう
guicheng
2011/09/17
エンド・ゴール サイエンスカフェ
@クラシティ半田
自己紹介
専攻
趣味
本職
分析化学(水溶液中金属の超微量定量)
宇宙工学(特に輸送系というか、エンジン)
プログラマー
(AutoCADのカスタマイズ、ソフトウェアテスト)
HN
guicheng(ぐいちぇん)
ブログ
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http://d.hatena.ne.jp/guicheng/
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@guicheng
イントロダクション
大航海時代
• 15世紀中頃から17世紀中頃までの、ヨー
ロッパ人による海外進出の時代
1492年
コロンブス
新大陸発見
1497~1498年
バスコ・ダ・ガマ
インド航路発見
1519~1521年
マゼラン艦隊
世界一周
大航海時代
• 「大航海時代」とは、ヨーロッパからアジア
への航路発見の歴史。
– 貿易により、ヨーロッパでは貴重な香辛料を得
ることが目的だった。
– その後、「大通商時代」へと移行する。
• 現在では地球上のほぼどこへでも行ける
ようになった。
– 船舶の大型・高性能化による。
– しかし、航路の重要性は現在も廃れていない。
• より効率的に移動するためには、適切な航路を選
択する必要がある。
宇宙大航海時代
• 現在は「宇宙大航海時代」である。
– 適切な「航路(=軌道)」をたどらなければ目的
地へたどり着けない時代。
• 星系内を好き勝手に移動するには至っていない。
– 今でも「航路」の開拓が行われている。
• もちろん、「船」の高性能化も積極的に研究されて
いる。
• 今回は「軌道」の視点から、日本の深宇宙
探査の歴史を振り返ってみる。
– 「深宇宙」とは月より向こう側の世界。惑星探
査など。
日本の深宇宙探査機
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さきがけ(MS-T5 1985年)
すいせい(PLANET-A 1985年)
ひてん(MUSES-A 1991年)
GEOTAIL(1992年)
のぞみ(PLANET-B 1998年)
はやぶさ(MUSES-C 2003年)
あかつき(PLANET-C 2010年)
IKAROS(2010年)
さきがけ(MS-T5)
すいせい(PLANET-A)
さきがけ(MS-T5)・すいせい(PLANETA)
アンテナ
撮像装置
打上
本体寸法
質量
運用停止
1985年1月8日(M-3SII 1号機)
直径1.4m、高さ70cm(円筒形)
138kg
1999年1月7日
打上
本体寸法
質量
運用停止
1985年8月19日(M-3SII 2号機)
直径1.4m、高さ70cm(円筒形)
140kg
1991年2月22日
ⒸJAXA/ISAS
さきがけ(MS-T5)・すいせい(PLANETA)
• ハレー彗星探査機
– 米ソ欧の探査機とともに「ハレー艦隊」の一角
• ICE(アメリカ)、ベガ1号・2号(ソ連)、ジオット(ヨー
ロッパ)、さきがけ・すいせい(日本)を合わせて「ハ
レー艦隊」と呼ぶ。
• 日本初の深宇宙探査機
– 初めてづくしの技術開発
• 世界初の全段固体ロケットによる惑星間
軌道投入
– この技術を持っているのは日本だけ
深宇宙探査に必要な要素
• 惑星間軌道へ投入できるロケット
– M-3SII
• ハレー彗星を観測する探査機
– さきがけ・すいせい
• 深宇宙と通信する地上局
– 臼田64mパラボラアンテナ
• 探査機を導く惑星間航行技術
– 惑星間航法ソフトウェア
ロケットエンジンの概要
固体燃料ロケット
液体燃料ロケット
酸化剤(液体酸素)
燃料(ポリブタジエン)
+酸化剤(過塩素酸カリウム)
燃料(液体水素)
燃焼室
ロケットエンジンの特徴比較
固体燃料ロケット
液体燃料ロケット
• 短時間で準備できる。
• 構造が単純で安価。
• 推力・燃焼時間の調整がで
きない。
• 推力が大きい
• 推力・燃焼時間の調整がで
きる。
⇒ 低軌道への小型衛星の打ち上げ、
補助ロケットとして使用する。
⇒ 大型・重量物の打ち上げ、惑星間軌
道への投入に使用する。
M3-SIIの特徴
• 全段固体燃料の三段式ロケット
– オプションでキックモーター(固体燃料)を搭載
可能。事実上の四段目。
• 重力ターン打ち上げ方式を採用。
– 一段目は無誘導。
• 探査機を惑星間軌道に投入可能。
⇒ 推力・燃焼時間の調整ができない風まかせのロケットで、
惑星間軌道投入という高出力・高精度の打ち上げが可能。
M-3SIIの特徴
• 全段に固体燃料を採用した3段式ロケット。
– オプションとしてキックモーター(事実上の4段
目)を搭載可能。
• 打ち上げ方式として斜め打ち上げによる重
力ターン式を採用。
– つまり、一段目は無誘導。言い換えれば「風ま
かせ」。
• キックモーターを使用することで、探査機を
惑星間軌道に投入可能。
– しかも超高精度。初号機は衛星側での軌道修
正の必要がなかった。
さきがけ・すいせいの軌道
「さきがけ」打ち上げ
1985/1/8
ハレー彗星
目標へ直行する、非常に
素朴な軌道。ゆえに、探
査機は軽量にならざるを
得ない。
太
地
「すいせい」打ち上げ
1985/8/19
「さきがけ」再接近
1986/3/11
「すいせい」最接近
1986/3/8
さきがけ・すいせいの軌道
• 目標へ直行する、非常に素朴な軌道。
– ゆえに、探査機は軽量にならざるを得ない。
– しかし、間違いのない軌道でもある。
• 2010年打上の「あかつき」は、直行軌道を採用した。
• ロケットのパワーアップが最大の要因。
• 当時(1985年打上)の日本には直行軌道以
外を選択するだけの技術がなかった。
– 1990年打上の「ひてん」でスイングバイ技術を
習得。
ひてん(MUSES-A)
ひてん(MUSES-A)
打上
本体寸法
質量
運用停止
1990年1月24日(M-3SII 5号機)
直径1.4m、高さ79cm(円筒形)
197kg
1993年4月11日(月面落下)
ⒸJAXA/ISAS
ひてん(MUSES-A)
• スイングバイ技術の習得
– 天体の公転を利用して加減速
• GEOTAILの予行演習として、二重月スイングバイ
の実証。
– 太陽の摂動を利用した月周回軌道への投入
• 月スイングバイ+太陽重力で近地点高度を引き上
げ、月スイングバイで月公転軌道に合わせた後に
月周回軌道投入。
• この軌道はLUNA-Aで採用されるはずだった。
• エアロブレーキングの実証
– 空気抵抗を利用した減速
• SF用語が単なる技術用語に転落した瞬間。
スイングバイ
公転方向の後を通すと
最終速度が上がる
=加速スイングバイ
公転方向の前を通すと
最終速度が下がる
=減速スイングバイ
スイングバイとは、速度を変えつつ楕円を乗り換える技術
二重月スイングバイ
二重月スイングバイの実施は世界
でも「ひてん」「GEOTAIL」「のぞみ」
の3機のみ。いずれも日本の探査機。
月
地
月
ひてんの軌道
• スイングバイをはじめとする軌道制御技術
を習得。
– スイングバイのほか、エアロブレーキングなど。
• 世界初の二重月スイングバイを実証。
– 二重月スイングバイの実施は「ひてん」のほか、
「GEOTAIL」と「のぞみ」のみ。
– 日本の独自技術。
• 太陽摂動を利用した月周回軌道投入経路
を開拓。
– 従来の1/3程度の燃料消費量。
のぞみ(PLANET-B)
のぞみ(PLANET-B)
打上
寸法
質量
運用停止
1998年7月4日(M-V 3号機)
1.6m×1.6m×0.58m
541kg
2003年12月9日
ⒸJAXA/ISAS
のぞみ(PLANET-B)
• 日本初の火星探査機
– 地球スイングバイ時にトラブルが発生し、当初
予定の火星遷移軌道を取れなかった。
• 計画軌道も修正軌道も奇想天外。
– 精緻を極める軌道計画
• 懸命の救出運用が続けられるも、火星周
回軌道投入失敗
– 1bit通信をはじめとする緊急運用能力を取得
した。
「のぞみ」の軌道
地
第一回月スイングバイ
1998/9/24
月
地球パワースイングバイ
1998/12/20
エンジンが途中で止まる
トラブル発生!
⇒火星へ向かう軌道に
乗れなくなった
第二回月スイングバイ
1998/12/18
火
ロケットが非力なため、火星に重量物を投入するには
前準備として複雑な軌道を採用せざるを得なかった。
「のぞみ」の新軌道
速度と時間を稼ぐために北天方向へ
跳ね上げる軌道を採用
ⒸJAXA/ISAS
のぞみの軌道
• 二重月スイングバイ+地球パワースイング
バイを採用した火星周回軌道投入計画。
通称「バナナンオービット」。
– ロケットの非力が最大の原因。
– 日本は非常に高度な軌道計画能力を持つに
至った。
– パワースイングバイ時にトラブル発生。
• 黄道面を大きく外れた修正軌道
– 軌道計画のセオリーを外れた奇想天外な軌道。
– 「絶対にあきらめない」伝統のはじまり。
はやぶさ(MUSES-C)
はやぶさ(MUSES-C)
打上
寸法
質量
運用停止
2003年5月9日(M-V 5号機)
1m×1.6m×2m
510kg
2010年6月13日(消滅)
ⒸJAXA/ISAS
はやぶさ(MUSES-C)
• イオンエンジン搭載
– メインエンジンとしての採用は世界初
– 累計4万時間を超える稼働実績
• 往路・復路ともにほぼ吹きっぱなし
• 地球スイングバイ
– イオンエンジン併用は世界初
• 自律航行
– 「はやぶさ」が自分で考えて航行する。
– 地上側の運用は圧倒的に省力化した。
イオンエンジンの特徴
• 燃費がいい
– 液体ロケットエンジンの数倍に達する。
• 少ない燃料で大きな加速を得られる
• 推力が極端に小さい
– 全力でも一円玉一枚を持ち上げる程度。
• 地上からの打ち上げに使用することは不可能
– 宇宙空間で長時間運転するタイプ
• 液体ロケットエンジンが数分で燃え尽きるのに対し
て、イオンエンジンは数千時間運転する
はやぶさのイオンエンジン
世界初の要素
効果
マイクロ波誘電方式
圧倒的な長寿命化(保証寿命:14000
時間)。
探査機のメインエンジンとして採用
燃費の向上。
地球スイングバイとの併用
イオンエンジンによる超高精度航行技
術を確立。
累計4万時間に及ぶ宇宙空間での動
作実績
宇宙空間での使用実績を積んだ。ただ
し、4機合計の累積時間で、一機あたり
では最大14000時間。
クロスドライブ
異なる中和器とイオン源の組み合わせ
による動作。イオンエンジンのロバスト
性を上げた。
超高精度誘導
イオンエンジンのみの運用でリエント
リーカプセルを目標のど真ん中に落と
した。
「はやぶさ」の軌道
ⒸJAXA/ISAS
はやぶさの軌道
• イオンエンジンをメインエンジンとする航行。
– 時々刻々と軌道が変わっていくため、運用は
困難を極める。
• イオンエンジン併用の地球スイングバイを
実施。
– 秒速30kmの速度ながら、許される誤差はわず
か直径1km。
• 完璧なリエントリーカプセル投入。
– 満身創痍ながらも、目標のど真ん中に落とし
た。
まとめ
• 「さきがけ」に始まる日本の新宇宙探査技
術は連綿と受け継がれている。
– 航行技術に限らず、すべての要素が対象。
• 例) 「GEOTAIL」の磁気遮蔽技術は「のぞみ」「はや
ぶさ」「かぐや」にも生かされている
• プロジェクトごとに大きく成長してきた。
– 特に「のぞみ」「はやぶさ」の経験は顕著
• これからも、さらに飛躍していく。
– 「IKAROS」に始まるソーラーセイル技術
参考文献
• JAXA(宇宙航空研究開発機構)
– http://www.jaxa.jp/
• ISAS(宇宙科学研究所)
– http://www.isas.jaxa.jp/
• NEC宇宙航空システム
– http://www.nas.co.jp/
• 三菱重工 航空宇宙事業本部
– http://www.mhi.co.jp/aero/
• IHIエアロスペース
– http://www.ihi.co.jp/ia/
参考文献
• 文系宇宙工学研究所(金木犀)
– http://bookworms.blog12.fc2.com/
• 天壇茶房(mitsuto1976)
– http://blog.goo.ne.jp/mitsuto1976
• 岩日誌(岩本塚)
– http://d.hatena.ne.jp/iwamototuka/
• 人生ご縁となりゆきで(たけしますばる)
– http://notserious.jugem.cc/