Transcript 科学技術と規制を考える
科学技術と規制を考える 科学技術と社会安全の関係を考える市民講座 2008年11月1日 竹 内 哲 夫 元東電副社長 日本原燃社長 (日本原子力学会シニアネットワーク会長) 於 東京大学武田先端知ビル 1 規制問題に思う • 私は45年前から30年間東電の火力現場で、旧電気事 業法での規制にかかわった。昔(火力)では規制は阿吽 の呼吸で問題無しだった。 • 最近の10年間は主に原子力分野で全国訪問して、問題 の深刻さを訴えられている。 • アクセル「原子力立国宣言」とブレーキ「規制」は両輪で、 使い間違えると失速して、破壊する。規制当局の分離独 立を訴える者ではない。金融や食品と違う。 だが専門的過ぎて、内部問題で放置せずに場合によっ ては外部からもメスを入れる時期に来ている。 ・・要は「国益」と「安全」の合理的なバランスを官民で情報 公開して取る。現状はブレーキが強くて走行性に難。 ・「日本の技術は一流国で制度は三流国」を直したい。 議論すれば直せる筈だ。 2 序.本日のテーマの全体構成 規制の現状認識 改善の方向① 法制度・検査制度 原子力発電特有の問題 改善の方向② 国と関連自治体 との役割分担 改善の方向③ 事業者自身の 取り組み 3 1.規制の現状認識 (1/2) ・官は公益の代表者として事業者を規制 ⇒事業を守るとともに規制からの逸脱、違反を諌めている。 ・国民、関連自治体もこれで納得しないといけない ⇒しかし、官への公益性への不信。官の(安全)判断が受 け入れられない。 ・法は大綱であり、実際は省令、施行規則、更に行政指導で 縛られる ⇒規制の実態が法制だけでは外部からは分かりにくい ・原子力稼働率低下、世界でビリの要因に規制問題は大き く関与(この実態は外部からの透明性が無い) ⇒官の判断と関連自治体の意向打診に時間がかかり、 運転再開が遅れる。 4 世界に誇れる日本の原子力発電 計画外停止の頻度(回数/年)の比較 フランス 米国 スウェーデン ベルギー スペイン フィンランド 先進諸国に比べて日本はズバ抜けて 安定な運転 自信と誇りを持とう ! 韓国 ドイツ 日本 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 5 日本の原子力発電の稼働率 合理的な規制と管理で 停止期間の短縮化と 長期運転を! 原因究明 ・ 対策検討 官庁・自治体への説明 100 設備利用率(%) 日米で2~4倍の期間差 企業倫理 安定運転の継続が 安心の原点 米 独 仏 日 保安管理 ・ 運転中に停めずに保守 ・ 故障停止 → 直してすぐ立上げ ・ 日本: トラブルで長期停止 50 運転をナゼ継続しないの ? ・ 規制の在り方・ 国民の冷静な理解 中越沖地震 安全文化 ★ 我が国の今後の課題 070515 HO 6 現在の悪循環が現場に溜まる トラブル発生 現場疲弊、自助努 力阻害、停止期間 延長、稼働率低下、 被ばく線量増加 規制強化 不安をあおるメデイ ア報道 事業者の説明不足 国民の不安 7 望ましい循環とは 電力の正常 化透明性向 上 国民の受容 性向上 国民の理解向上に 向けた報道 規制・ 検査 の合理化 安全性の向上 効率的運用の両立 8 計画外停止期間の日米比較 作業上必要な最短工程を比較 △ 原子炉停止 クールダウン 現場調査 起動 原因対策プレス 補修工事 原因追求・対策検討工程 官庁説明 並列 起動準備 自治体説明 停止工程 復旧工程 日本はここに 時間がかかる 日米で大差なし データ採取条件 米国 日本 日米で大差なし 「作業上」必要な最短工程 平均値 データ採取条件 実績停止日数 7.3日 基数:103基 採取年数:1年(2004) データ54件 実績停止日数(根拠明確) 14.4日 推定最短工程日数 (停止+復旧 工程) 6.8日 同等 基数:52~53基 採取年数:6年(1999~2004) データ 31件 9 1.規制の現状認識 (2/2) ・現行検査は、古い時代の官主導からの脱却の動き 事業者の保全活動を評価し、プラントに応じた定期検査の 実施 ⇒官の検査への信頼の問題が残っている ・官民の改善指向は一致している。 許認可の合理化 →トピカルレポート制度の導入 検査制度の改善 →保全プログラムに基づく保全活動の 充実 ⇒事業者は規制の改善にもっと参画を。被告ではない。 ・官民の中央での未来志向の議論と現場実態には大きなズ レがある。 官尊民卑の古い日本。向上策を双方で語りあっていない。 検査官の資質アップと指導標準が要る。 10 (参考)原子力発電所への官の立ち入り • 常駐駐在員(1人 / プラント) 保安検査官としてアクセス自由 中央制御室に毎日 ・定期検査 毎13ヶ月 実働50日程度 ・使用前検査 ・保安検査 年4回 2-3週間 一本化、合理化、見直しの余地がある 定検後の機器故障件数の推移 発生件数 SA機器故障事例の併入日からトラブル発生までの日数 故障発生件数分布(調整運転中に発生したものは0日) 12 2.原子力発電特有の問題 ・原子力発電所だけが「電事法」と「炉規制法」で二重規制。 この2法は元来、目的、体系は別。 現状では相互関係が複雑化し、制度疲労を起こしている。 ⇒事件、事故、トラブルごとに省令改正でパッチ当て。 加えて現場では行政指導(個人差大)が加わる。 ・「東電問題」の原因の一つには、法制の不備もある。 ⇒維持基準の欠落は新品仕様への改修を要した。 ・不正防止のためにISO、JEAC4111の品質保証を導入 ⇒この導入で証拠証明のための膨大な資料の作成。技術 者は書類漬けで現場、現物の管理に手が回らなかった。 ただし最近は業務の適正化が図られつつある。 ・ライン、品質保証、安全とマトリックス化した組織の肥大。 ⇒責任の不明確を避けるために優秀な指揮官を追加配置。 ⇒責任者は社長。細部までの報告を求める。 13 3.改善の方向①ー法制度・検査制度 (根源は法制度の改革) ・電事法と炉規制法の二重規制の整合化、抜本改正が必要。 法改正でなく事件毎の省令改正でバチアテ。 国民を揺るがす程の大事件化はなく、食の問題や官製談 合などと違い内部問題。外部からは見えない疾患で外部か らの抜本改革の圧力が弱い。 ・原子力の規制は超専門的で、関係者の内部問題にし過ぎて いる。外部の目が必要。そうしないと相撲協会の二の舞。 ⇒IAEA IRRS(INTEGRATED REGULATORY REVIEW SERVICE:総合規制評価サービス)の活用など 外部の目で法制度の見直しの要。 ⇒規則改正にパブコメ以外の事業者意見を反映する機会を 設ける。事業者はいつも被告席で声を出していない。 ⇒事業者以外の関係者(メーカー等)の参加も必要。例えば、 原子力産業協会の関与。 14 3.改善の方向①ー法制度・検査制度 (相互不信から信頼へ、事業者の自主体制へ 官は監査型検査へ) ・物の検査は、基本的に事業者検査とすべき。 ⇒現在でも、定期事業者検査がベースとなっているのが現実 ・官の検査は重点的に、重要な検査に絞る。 ⇒ランダムにピックアップして事業者検査の結果を監査して評 価(抜き打ちの実施) 現状では書類の証拠的審査に重点。 ⇒事業者の検査体制と運用成績を監査型で評価。 ・このためには検査官能力・資質を向上せねばならない。 ⇒専門性向上のため、知識技能の蓄積が要る。JNESの活用。 ・また、監査型検査の判断基本は、発電所のPerformance主体 に。手順書の整備・遵守といった事業者の行為審査は従に。 ⇒事業者の違反行為(例えば、不作為によるPerformance の 低下、データの改竄等)は厳罰に。コンプライアンスの自律化。 15 3.改善の方向①ー法制度・検査制度 (許認可手続きの合理化) ・設置許可と工事認可の役割分担の見直し。 ⇒工事認可の代わりとなる民間独立機関による認証制度を 導入。(行政官が専門性の高い分野を扱うのは難がある) 認証があれば工事認可は簡素化し、代わりに国は監査型 検査でチェック ・メーカーと原子力事業者の役割分担の見直し。 ⇒新型炉の型式認定 メーカーが許認可取得。メーカーも規制対象に。 米国型の導入・検討 公認時間の短縮 16 4.改善の方向②ー国と関連自治体との役割分担 ・ 安全に関わる判断は国の専決事項。 しかし、関連自治体が国の判断を信用できる仕組みが必要。 関連自治体の判断に時間がかかる。 Time is Money ⇒規制当局とは別個の原子力安全委員会の存在が重要 ⇒関連自治体の役割の再定義。地震防災など。 ・定検間隔延長は自治体に不安を与えて、かつ地元雇用の関 係で不評。しかし、新検査制度の導入により、分解点検時の 機器の劣化状況のデータや、運転中機器の状態監視データ 等を収集し、点検方法・頻度に反映することにより原子力の 安全をより一層向上 ⇒国、自治体、事業者の更なる対話を要する。 ・自治体への電源三法交付金はKWhインセンティブにする。 17 (参考) 保全活動の充実による信頼性向上の概念図 点検周期の最適化、設備診断技術の導入、保全作業等の品質向上など今後の保 全活動を充実することで設備の信頼性向上に資する。 18 5.改善の方向③ー事業者自身の取り組み (品質保証と品質管理) ・言葉が似ているが外部からは見えない。品質管理を目的とす べきで品質保証は使い方に注意がいる。 ISO、JEAC4111の品質保証によって構築されるQMSシステ ムは平成16年から保安規定に導入。 但し、品質保証の本質は書類作成ではない。これを勘違い すると現場でQMSシステムが定着しない。 ⇒データ入力には作業と時間。アルゴリズム不備。 ・但し、品質保証は、本来、事業者自らの自律的な改善活動で あるべきで、これの規制化は本来なじまない。 ⇒品質保証を保安規定で縛る場合には判断基準を明確に。 19 5.改善の方向③ー事業者自身の取り組み (明るい職場環境) ・国策の下、国の威を頼りすぎた電力は反省、自律化を。 ・原子力技術者は職人カタギ。黙して語らず自分の世界に引 きこもり。 その結果、原子力を理解しない周りからの公開 イジメ教室が続く。 ⇒原子力が不評であるほうが自分に良いステークホルダー が圧倒的に多い。(一部の識者、メデイアなど) ⇒原子力職場への配転忌避。モラル維持も限界。 ・引きこもり脱出・原子力職場の活性化のためには他部門交 流も必要。多くの電力で実施中。 ⇒しかし、逆に「技の匠」の流出と、職場の自立改善意欲も 喪失。電力会社で差はあるが、原子力は火力に比べ補修 職場に3~4倍の要員(但し、補修費や設備費も2~3倍)。 責任の中核(棒心)が見えず、所内の情報連絡すらママな らない。 ・国・自治体への説明(言い訳)書類つくりに忙殺される。 機械、現場に疎遠になり、「技術の腕」が身に付かぬ。 20 参考:日米の主要な原子炉許認可プロセス比較 設計段階 基本設計 原子炉設置許可 日 本 一次審査 原子力安全・保安院 ダブルチェック 二次審査 原子力委員会 原子力安全委員会 建設段階 詳細設計 運転段階 建設時の検査 運転開始前 工事計画認可 使用前検査 保安規定認可 審査 原子力安全・保安院 燃料体検査 定期検査 溶接安全管理審査 定期安全管理審査 ・主要寸法 ・材料,容量 ・制御方式 ・強度計算書 ・耐震計算書 等 溶接事業者検査 運転中の検査 保安検査 定期事業者検査 【従来】 建設許可(CP) 【新規】 米 早期サイト許可 (ESP) 建設段階検査 ・日常的に監視 (パトロール,会議傍聴等) ・抜き取り的に事業者の 活動を監視,記録確認 ・事業者活動を妨げない 国 建設運転認可(COL) 設計証明 (DC) ASME公認検査機関 による検査確認 運転認可(OL) 運転段階検査 COL申請書中 の技術仕様書 (Tech.Spec.) を再確認 ・日常的に監視 (パトロール,会議傍聴等) ・抜き取り的に事業者の 活動を監視,記録確認 ・事業者活動を妨げない 検査・試験・解 析・承認基準 (ITAAC)への 適合性を確認 供用期間中検査(ISI) 供用期間中試験(IST) CVリーク試験 等 21 検査制度等改正への私的提言 1.設置許可と工事計画認可 2段方式ダブルチェックで時間が掛かる。簡素化。 2.工事計画認可の審査の外部公的機関化は出来ないか。 強度計算、耐震計算など膨大な専門度のある審査は 今後、技術士会などを育て公的機関にする。 施主側と審査側で活用する。 →米国PE(Professional Engineer=登録専門技術者)制度を 参考 3.定期検査を大幅に事業者検査で代替。 国のチェックも事業者の行為からプラントのPerformance評価 を主体に。 行為認証のための膨大な資料作りを直ちに止める。 4.米国型の許認可方式導入の検討。 22 原子炉などメーカーによる型式認定取得の検討。 最後にまとめ • 原子力の健全・透明化は資源小国日本の喫緊の課題 。兆円オーダーの損失が現実に発生。 ・法制・制度は国民合意に必要だが、公開した議論が 要る。改善への議論は始まっているが、この実行に は時間遅れが大きい。改定で現場に混乱を与えては ならない。現場は器用でなく、習熟に時間が要る。 ・ヒトは決めた制度でヒトを縛りつけてはならない。 不正行為の無いコンプライアンスを前提にして、 「立国計画」推進を目指し、もう一度国・事業者はオ ープンな議論を双方が対等な立場ですべきだ。 ・現場の閉塞感を早く解消し、資源・環境の優等生の 原子力職場に元気を与えたい。電力で最重要の職場