第7章 不確実性の処理 :期待値、感度分析、情報の価値

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7章 不確実性の処理
期待値、感度分析、情報の価値
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7.1 期待値分析 (expected value)
7.2 感度分析
(sensitivity analysis)
7.3 情報と準オプション価値
(value of information)
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2
7.1 期待値分析
n = ( 独立な ) 事象の数
C =事象 i における費用
i
B =事象 i における便益
i
NB  B  C :事象
i
i
i における純便益
i
NB  ( NB 1 , NB 2 ,  , NB n )
p =事象 i の発生する確率
i
E [ NB ]  p NB  p NB    p NB :期待純便益
1
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1
2
2
n
n
3
小惑星衝突に対する地球防衛プロジェクト
防災基盤型社会資本整備
表7.1
偶発事象
確率
大規模 (直径
1km 以上の)
小惑星と衝
突
0.001
行動
中規模(直径
20m 以上 1km
未満の)以下の
小惑星と衝突
0.004
中 規 模 ( 直 径
20m)以上の小惑
星と衝突しない
0.995
便益
0.001×25000+0.004×5000-60
費用
期待純便益
前進基地
25000
5000
0
60
-15
近地球基地
20000
4000
0
20
16
0
0
0
0
0
防衛なし
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4
予防接種事業分析のための意思決定ツリー
□=意思決定分岐(node)
○ =「(自然による)無作為選択(random selection)の分岐」
=「機会ノード(chance node)」
Vaccination Program
=予防接種事業
NV =予防接種事業なし
V
予防接種をすると 2 年間にわたりその効果が続くとする。
インフルエンザは、ある年に流行すると、次の年は免疫が残るので流行
しない。
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5
意思決定ツリー
<2年目>
<1年目>
V
1
0
NV
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2
6
上側の大枝:予防接種事業
C a =直接的な行政費(administration cost)
C s =有害な副作用の費用(costs of adverse side effects)
Pt =第 t 年にインフルエンザが流行(epidemic)する確率
1  Pt =第 t 年にインフルエンザが流行しない確率
C e |v =予防接種しているときにインフルエンザが流行したときの費用
インフルエンザが流行しなかったときの費用=ゼロ
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<2年目>
意思決定ツリー
<1年目>
P1
Ce/v
免疫が残る
2年間にわ
たる効果
1-P1
NV
P2
Ce/v
1-P2
0
V
Ca+Cs
1
0
0
NV
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2
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下側の大枝:予防接種事業なし
C e|nv =予防接種していないときにインフルエンザが流行したときの費用
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<2年目>
意思決定ツリー
<1年目>
P1
P2
Ce/v
Ce/v
1-P2
0
1-P1
V
1-P2
1
Ca+Cs
0
0
V
0
P2
Ce/v
Ca+Cs
NV
1-P1
2
0
1-P2
0
NV
P1
P2
Ce/nv
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免疫が残る
Ce/nv
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意思決定ツリーの解の求め方
将来から現在に向かって(後ろ向きに)解いて行く
「分岐2」における意思決定:
P2 C e | nv =予防接種事業を開始しなかったときの期待費用
C a  C s  P2 C e |v =予防接種事業を開始したときの期待費用(全体)
流行確率
仮定: C a  C s  P2 ( C e |nv  C e |v )
検討すべきケースを絞るための仮定
この仮定の下では「分岐2」おける最適な意思決定
=「予防接種事業なし NV 」
流行の有無にかかわらず
生じる予防接種の費用
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流行したときの予防接種
による費用軽減の便益
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<2年目>
意思決定ツリー
<1年目>
P1
P2
Ce/v
P2Ce/v
1-P2
0
1-P1
V
Ca+Cs P2Ce/v /(1+d)
1-P2
1
0
0
V
Ca+Cs +P2Ce/v
Ca+Cs
P2Ce/nv /(1+d)
NV
Ce/v
1-P1
0
P2
Ce/v
2
0
1-P2
0
NV
P2Ce/nv
P1
P2
Ce/nv
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Ce/nv
仮定 : Ca+Cs >P2(Ce/nv - Ce/v)
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「分岐0」における意思決定:
E [ C v ] =予防接種事業を開始したときに生ずる期待費用の現在価値
E [ C nv ] =予防接種事業を開始しないときに生ずる期待費用の現在価値
d
=割引率
とすれば、
E [ C v ]  C a  C s  P1 C e |v  (1  P1 ) P2 C e |v /( 1  d )
E [ C nv ]  P1C e | nv  (1  P1 ) P2 C e | nv /( 1  d )
である。
E [ C nv ] - E [ C v ]
=予防接種事業における期待純便益の現在価値
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<2年目>
意思決定ツリー
<1年目>
P1
P2
Ce/v
P2Ce/v
E[Cv]
1-P2
0
1-P1
V
Ca+Cs P2Ce/v /(1+d)
1-P2
1
0
0
V
Ca+Cs +P2Ce/v
Ca+Cs
P2Ce/nv /(1+d)
NV
1-P1
0
P2
Ce/v
2
0
E[Cnv]
1-P2
0
NV
P2Ce/nv
P1
P2
Ce/nv
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Ce/v
Ce/nv
仮定 : Ca+Cs >P2(Ce/nv - Ce/v)
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7.2 感度分析
感度分析の3つの方法:
①
部分的感度分析
partial sensitivity analysis
②
最悪・最善ケース分析
worst- and best-case analysis
③
モンテカルロ感度分析
Monte Carlo sensitivity analysis
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① 部分的感度分析
感度分析を綿密に行うためには、重要度の高い想定に
関する部分的な限界効果を考察する必要がある。
しかしながら、
ここには「鶏が先か卵が先か」という問題が存在する。
つまり、
重要度の高い想定を見分けること自体、感度分析を行
う前にはできない場合が多い。
なぜなら、
想定の重要度は、想定の範囲や想定の変化に対する
純便益の限界的な反応に左右されるからである。
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② 最悪・最善ケース分析
情報が異なる選択に導く潜在的な可能性が大
⇒ 意思決定における情報の価値は大
最悪ケースの純便益がプラス
⇒ 最悪ケースの情報的価値が大
最善ケースの純便益がマイナス ⇒ 最善ケースの情報的価値が大
最悪ケースの分析は次のようなバイアスに対するチェックになる。
•
•
認識上の限界(cognitive limitations)
楽観的予測を生み出す官僚主義的誘因
(bureaucratic incentives)
純便益がパラメーターの非線形関数 ⇒ 注意が必要
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③ モンテカルロ感度分析
<モンテカルロ分析の3段階>
1.
重要度の高いパラメーターについての確率分布を指定
2.
各パラメーターの確率分布から無作為抽出を行って得た
パラメーターの値の組を用いて、純便益の実現値を計算
3.
2段階の作業を何回も繰り返して、純便益の実現値を大
量に作り出す。それらの実現値の平均値が純便益の期
待値の推定値になる。また、ヒストグラムを作成すること
で純便益の分布の特徴を捉える。
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7.3 情報と準オプション価値
科学者が次のような探査装置の開発を提案したとする。
その装置は
1. 「大型小惑星と地球が衝突するという探査情報」
または
2. 「大型小惑星と地球は衝突しないという探査情報」
のどちらかを知らせてくれるものとする。
そして、この情報は「確実な情報」であるとする。なお、
「情報が確実である」とは、 「大型小惑星と地球が衝突
するときは必ず大型小惑星と地球が衝突するという探査
情報が得られること」であり、その逆は逆である。
このような「情報の価値」は次のようにしても求められる。 19
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表7.2
ゲーム1
=「大型小惑星と地球が衝突するという探査情報」
がもたらされた場合のゲーム
ゲーム2
=「大型小惑星と地球が衝突しないという探査情報」
果がもたらされた場合のゲーム
これらの情報は「確実な情報」であるとする。
そのとき、表7.1で与えられた「事前確率」は表7.2で
与えられる「事後確率」に修正される。
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小惑星衝突に対する地球防衛プロジェクト
防災基盤型社会資本整備
表7.1
偶発事象
確率
大規模 (直径
1km 以上の)
小惑星と衝
突
0.001
行動
中規模(直径
20m 以上 1km
未満の)以下の
小惑星と衝突
0.004
中 規 模 ( 直 径
20m)以上の小惑
星と衝突しない
0.995
便益
0.001×25000+0.004×5000-60
費用
期待純便益
前進基地
25000
5000
0
60
-15
近地球基地
20000
4000
0
20
16
0
0
0
0
0
防衛なし
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表 7.2
ゲーム1
費
便益
ゲーム2
期待純便益
便益
期待純便益
用
偶
大規模小惑星
中規模小惑星
中規模以上と
発
と衝突
と衝突
衝突なし
0.004/0.999
0.995/0.999
事
象
確率
1
60
前進基地
25000
24940
5000
0
-39.98
20
近地球基地
20000
19980
4000
0
-3.98
0
0
0
0
0
0
防衛なし
(0.004/0.999)×5000-60≒-39.98
(0.004/0.999)×4000-20≒-3.98
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ベイズ・ルールと情報による確率修正
1. 同時確率と条件付確率
P ( X ) =事象 X が起こる(生じる)確率
X  Y =事象 X と Y が同時に起こる事象
「同時確率」
)
P ( X  Y ) (または P ( X , Y ) )=事象 X  Y が起こる確率(
X  Y =事象 X と Y の少なくともどちらか一方が起こる事象
P ( X  Y ) =事象 X  Y が起こる確率
このとき、
P ( X  Y )  P ( X )  P (Y )  P ( X  Y )
(1)
が成立する。また、『事象 X と Y は「排反(事象)」である』ことは
(2)
P(X  Y )  0
と定義する。さらに、
「事象 Y が起こるという条件のもとでの事象 X が起こる確率 P ( X | Y ) 」
を、
P ( X |Y ) 
P( X  Y )
(3)
P (Y )
と定義し、「条件付確率」と呼ぶことにする。
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(問題 1)事象として「サイコロを振るときにある条件を満たす目が出ること」を考える。
事象 X が「奇数の目が出ること」であり、事象 Y は「3 以下の目がでること」で
あるとする。そのとき、 P ( X ) 、 P (Y ) 、 P ( X  Y ) 、 P ( X  Y ) 、 P ( X | Y ) を求
めることで、(1)と(3)が成立することを確認しなさい。
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様々な規模の小惑星が地球に衝突する可能性と探査衛星でその可能性について調査する状況
について考える。そして、
事象 A1 =大規模小惑星が衝突するという情報を探査衛星から取得
事象 A 2 =大規模小惑星が衝突しないという情報を探査衛星から取得
事象 B 1 =大規模小惑星が衝突
事象 B 2 =中規模小惑星が衝突かつ大規模小惑星は衝突せず
事象 B 3 =小規模小惑星だけが衝突
とする。なお、また以上のように事象を定めれば、事象 A1 と A 2 は排反かつ事象 B j と B k は
排反である。つまり、
P ( A1  A 2 )  0
(4a)
P(B j  Bk )  0
(4b)
である( j , k  1, 2 , 3 ; j  k )。さらに、上述の想定のもとでは A1  A 2 と B1  B 2  B 3 は
「全ての事象(全事象)  」である。つまり、
A1  A 2  
(5a)
B1  B 2  B 3  
(5b)
である。以上のような状況のもとで、事象 A i  B j に関する確率 P ( A i  B j ) に着目して議論
をする場合は、 P ( A i ) と P ( B j ) を「周辺確率」と呼ぶことにする( i  1, 2 ; j  1, 2 , 3 )
。その
とき、(4b)より事象 A i  B j と A i  B k も排反である( i  1, 2 ; j , k  1, 2 , 3 ; j  k )
。した
がって、(5b)を用いれば、 P ( A i ) は
P ( Ai )  P ( Ai  B1 )  P ( Ai  B 2 )  P ( Ai  B 3 ) 

3
j 1
P ( Ai  B j )
(6)
と求めることができる( i  1, 2 )
。
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(問題 2)探査衛星から情報を取得する前の段階に知ることができる「(事前)確率」はどの
確率(同時確率、条件付確率、周辺確率)かを説明しなさい。
(問題 3)探査衛星から取得する「大規模小惑星が衝突するという情報」と「大規模小惑星
が衝突しないという情報」が「確実な情報」であるとすれば、条件付確率 P ( A i | B j )
がどのような値であるかを説明しなさい( i  1, 2 ; j  1, 2 , 3 )
。
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2. ベイズ・ルール
(3)より、
(7)
P ( Ai  B j )  P ( Ai | B j )  P ( B j )
である。したがって、(6)と(7)より
P ( Ai ) 

3
j 1
(8)
P ( Ai | B j )  P ( B j )
となる。また、(3)より、
(9)
P ( Ai  B j )  P ( B j | Ai )  P ( Ai )
である。したがって、(7)、(8)、(9)より、
「ベイズ・ルール」と呼ばれる関係
P ( B j | Ai ) 
P ( Ai | B j )

3
j 1
P ( Ai | B j )  P ( B j )
 P(B j )
(10)
が導かれる( i  1, 2 ; j  1, 2 , 3 )。なお、「ベイズ・ルール」は、条件付確率 P ( Ai | B j ) に関
する情報をもとにして、
「事前確率 P ( B j ) 」を「事後確率 P ( B j | Ai ) 」に修正するルールで
あると解釈できる。
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(問題 4)探査衛星から取得する情報を得る前の事前確率 P ( B j ) が P ( B 1 )  0 . 001 、
P ( B 2 )  0 . 004 、 P ( B 3 )  0 . 995 であり、条件付確率 P ( Ai | B j ) に関する情報が問
題 3 で求められたものであるとする( i  1, 2 ; j  1, 2 , 3 )。そのとき、事後確率
P ( B j | Ai ) を求めなさい( i  1, 2 ; j  1, 2 , 3 )
。
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表7.2における期待純便益
=0.001×24940+0.999×0=24.94
情報の価値
=「表7.2における期待純便益」
-「表7.1における期待純便益」
=24.94-16
=8.94
である。
したがって、探査装置が8.94(兆ドル)以下であれば、
この装置に投資する価値があることになる。
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準オプション価値
意思決定に関係するより良い情報が将来入手可能で
あれば、意思決定を遅らせるほうが賢明かもしれない。
準オプション価値
=取り消し不可能な意思決定を遅らせることによって得
られる情報の期待価値
適切な意思決定問題の定式化
⇒ 準オプション価値の計算
⇒ 正確な期待純便益の計算
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開発に関連した準オプション価値
「開発」のタイミングは第 1 期と第 2 期の 2 回ある。
FD
=全体の開発(Full Development)
LD
=限定的な開発(Limited Development)
ND
=開発せず(No Development)
また、開発は不可逆的であり「ND→LD→FD」と
いう方向しか移行できない。
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第1期
第2期
FD
LD
ND
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事象「低価値(Low Value)」
=将来世代が自然保護区域の保存に現世代と同じ価値をおく。
事象「高価値(High Value)」
=将来世代が自然保護区域の保存に現世代より高い価値をおく。
p
=事象「低価値」の発生確率
1 p
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=事象「高価値」の発生確率
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第1期
第2期
FDを選択すると第2期
← 不可逆性
に選択の余地はない。
p
1-p
FD
p
LD
1-p
ND
p
1-p
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各期の純便益を「開発せず(ND)」を基準に測る。
「低価値」の下で、
B F =「 ND → FD 」で生じる純便益
B L =「 ND → LD 」で生じる純便益
B F - B L =「 LD → FD 」で生じる純便益
「高価値」の下で、
 C F =「 ND → FD 」で生じる純便益
 C L =「 ND → LD 」で生じる純便益
 ( C F  C L ) =「 LD → FD 」で生じる純便益
仮定: B F  B L  0   C L   C F
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第1期
第2期
BF - BL
BF
FD
p
-CF
LD
1-p
FD
p
0
BL
FD
LD
0
1-p
ND
-(CF - CL)
-CL
LD
FD
LD
p
0
ND
1-p
0
FD
LD
BF>BL>0>-CL>-CF
BF
BL
0
-CF
-CL
ND
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0
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外生的学習(exogenous learning)のケース
• 1期経過後に、どちらの事象が発生したかを確実に知るこ
とができるとする。
E [ FD ]  pB F  (1  p ) C F
E [ LD ]  p [ B L  ( B F  B L ) /( 1  d )]  (1  p ) C L
E [ ND ]  pB F /( 1  d )
QOV
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 p ( B F  B L ) /( 1  d ) =LDを選択することで得られる準オプション価値
 
=NDを選択することで得られる準オプション価値
 pB F /( 1  d )
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7.1 期待値分析 (expected value)
7.2 感度分析
(sensitivity analysis)
7.3 情報と準オプション価値
(value of information)
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