資料 - 東北大学附属図書館

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Transcript 資料 - 東北大学附属図書館

平成22年度 東北地区大学図書館協議会
テーマ「図書館を守る」 基調講演
図書館を災害から守る
-東日本大震災にあたって-
図書館・アーカイブズ(LM)の危機管理と災害救助
国文学研究資料館
青木 睦
e-mail [email protected]
2011.7.29
1
本日の要点
アーカイブズの災害対策・防災対策について、国内におけるアーカイブズ
の被災事例や諸外国の事例を交え、災害に対する基本的考え方と具体的
防災計画の立案とその実施方法について考える。これまでの災害から学ん
だことは、第一にしっかりとした日常の保存管理こそ、優れた危機管理、万
全の防災対策であり、第二に災害に見舞われたときには、支援を得る心の
準備と助け合いネットワークの必要性である。
災害対策の観点から、アーカイブズ保存のための物理的コントロール、保
存プログラムの在り方、アーカイブズの基本的機能を前提としての建築の
あり方や建築計画、配架・収納方法や保存容器の選択方法などを見直す。
唯一の代替性のきかないアーカイブズの保存責務を負う機関として、さま
ざまな災害から守り保存する行動指針を持ち、防災体制の整備や防災対
策の強化を図ることが求められている。
それぞれの館にあった施設管理やリスクマネージメント、危機管理に関す
る基本的な方針、適切な対処方針を策定したガイドラインをまとめる際の参
考となればと思う。(アーカイブズ=ライブラリー)
・普段「不断」の努力は必ずや報われる!!!
自己紹介
• 1957年、茨城県生まれ
• 立正大学文学部史学科卒業
• 近世村落史研究・古文書研究
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1981年、国文学研究資料館史料館非常勤職員
1993年、国文学研究資料館史料館助手
2004年、国文学研究資料館アーカイブズ研究系助教授
2007年、国文学研究資料館アーカイブズ研究系准教授
2011年、国文学研究資料館研究部准教授
専門分野は、アーカイブズを未来に遺すための保存学。
MLA(ミュージアム・ライブラリー・アーカイブズ)、企業など
に収蔵される紙資料を中心とした保存修復に関する調査
研究を行っている。
アーカイブズと図書館・博物館
アーカイブズ
記録records
個人または組織がその活動の中で
作成・収受した情報で、何らかの媒体に
定着され、蓄積されたもの
記録史料archives
記録の内、組織運営上、研究上、その他
さまざまな利用価値のゆえに永続的に
保存された(る)もの
ライブラリー
文化財
地域史料
ミュージアム
MLA-ミュージアム・ライブラリー・アーカイブズの視点
4
1998年版の刊行
IFLA国際図書館連盟の原則
IFLA
図書館資料の予防的
保存対策の
原則
シリーズ本を残す9
 2003年7月刊行
 国立国会図書館
ホームページから
ダウンロード
5
第2章 IFLA 防災計画の範囲
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セキュリティと防災計画
セキュリティ
1 建物とその周辺の安全確保
2 犯罪や反社会的行為の防止
3 閲覧スペースのセキュリティ
4 図書館資料のセキュリティ
5 非常時のための小冊子→防災ウィール
6
防災計画の範囲
• 防災計画の立案
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危険度評価
1 館外における危険要因の確認
2 館内における危険要因の確認
3 現在講じている予防策の点検
予防
1 火災報知設備
2 手動式消火装置
3 自動消火システム
4 日常的な維持管理
備え
対処
1 水に濡れた資料の乾燥
2 空気乾燥
復旧
7
防災と災害対策 1992年作成
8
9
資料保存のための防災・災害対策
• 災害対策は、災害が起きた場合の資料被害
を最小限にすることを第一の目標とする。災
害発生時の緊急対応・救助マニュアルにおい
ても被災資料を迅速かつ適切に救助し、被害
を最小限にとどめ拡大させないよう努力する。
資料を保存する立場にある場合、日頃からの
防災・災害対策のための計画を立て、どのよ
うに資料を救助することが求められているの
か。まず考えておくべきポイントをまとめておく。
• 防災対策(一般的な) 防災体制、防災計画、防災組
織、防災マニュアル
→人、施設・設備のための一般的な対策は基本である。
• 災害対策(資料を最優先の対象とした) 緊急対応・救
助マニュアル
(1)救助組織-災害が起きたときの組織内の体制、緊急
連絡網(計画・方針の策定、基本的考え方)
(2)資金-緊急対応にあたって資金確保
(3)緊急援助要請-人員の配置、連絡すべき外部組織と
のネットワーク
(4)資材リスト-救助に必要な資材の購入先と入手先
(5)処置機関リスト-災害救助時に利用可能な施設・機
関
(6)資金(リスク・ファイナンシング)-損害対応のための必要な財
源を想定し概算しておく
12
資料の救助優先リストの作成
○被災時の救助対象となる資料の目録と所在を明確にする。
○資料の救助評価=現物の優先保存(重要性)と素材ごと
(災害過敏性)の評価はできているのか。
○最優先保存を要する資料の選別は、対象資料目録(概要)
を基に、現物保存の優位性(重要性)を決定し、資料の状
態調査・把握を行う。平常時に評価検討の組織をつくり決
定しておく。
○選択評価 すべて代替不能なのか。その場合の保存処置
のコストはどれくらいかかるのか。代替物があり、代替可
能な場合は廃棄するのか。
○発生場所として想定される被災場所はどこか。被災規模
による救助順番は決めているか。
○配架リスト(図面)への資料情報の記入→配架リストの別置
および分散保管(被災場所で共に消失しない)
災害別の被害予想
初期の被害
救助時の
被害
二次被害
0時間→48時間・72時間
48時間・72時間
→
○日後→○月後
被災内容
水害
水
火災
地震
水損●・汚損○・破損○ 変色●黴害●
固着△・腐食△・虫害-・黴害○
火・水
焼損●・水損●・汚損○・破損○ 変色●黴害●
固着△・腐食△・虫害-・黴害○
倒壊・火・水
焼損●・水損●・汚損○・破損● 変色●黴害●
固着△・腐食△・虫害-・黴害○
災害による資料被害
• 災害が起きた場合、資料にどのような被害が起きるのか。
• 水害は水による被害である。しかし、災害は単独で発生す
るだけでなく、複合して資料を襲う。水害での被害は、濡れ
るだけではなく物の倒壊さらに泥や汚物にも埋もれて汚損
する。次に災害の発生後、資料に対してどのような被害が
起きるか。水害においては、水損の後、時間が経過するこ
とによって膨潤となり変色し、圧着し、ゆがみ、さらにカビ
が発生する。時間が経過すればするほど、資料の現物と
しての価値の維持や今後の利用が不可能な状態となる。
資料の災害救助マニュアルでは、48時間ないし72時間以
内の救助が必要だと言われている。3日以内に緊急救助
しなければならないのは。時間経過による資料被害の拡
大を防止するためである。
水損被災の規模ごとの救助方法
広域災害
激甚災害
被災
100,000以上
~10,000
~100,000
全国的規模(他地域から)での
協力・支援体制整備
協力要請(周辺地域)
→凍結施設要請etc.
重災害
~1,000
程度
軽災害
100未
満程度
協力要請(単一機関)
→乾燥→一部凍結etc.
単独での対応→乾燥→一部凍結etc.
水損被害の規模ごとの救助方法
• 100点未満の被災ならば、すぐ何らかの救助対応ができる。
それが大規模になり、1万点が水浸しになったとしたら、単
独で救助できる可能性は低く、簡易な対応では被害が拡
大する。さらに、阪神・淡路大震災のような場合には、被害
が地域全体に面的に広がって厖大な資料が一度に被害
を受ける。遠方地域からの救助計画を立てることが必須と
なる。同じ災害であっても、被害の程度によっては救助方
法や処置を適切に選択していかなければならない。
• 被災資料の救助や処置には、被災資料の総量と被害の
程度、さらに救助にかかる時間と労力を勘案して判断する
ことが求められるのである。
• 1万点以上の「被害大」のレベルは、専門機関への協力要
請と水損資料の凍結施設を要請すべきと判断するケース
である。
被災度のランク→救助順位ABC
• A 良好
- 400箱
→自然乾燥
|
• B 一部水損
- 400箱
→送風乾燥
→吸水乾燥
|
• C 完全水損
約1300箱
→低温除湿乾燥
被災の段ボール数
2,100箱
→真空凍結乾燥
乾燥の基本手順
• 自然乾燥
• 送風乾燥
• 低温除湿乾燥
• 凍結→乾燥
• 真空凍結乾燥
-今後の対応-全庁・全職員
による被災文書の管理体制
整備が求められる
- 短所・ + 長所
-
-
-
-
紙の波打ち・変形がかなりひどくおきる
カビ害が発生する
乾燥期間1ヶ月以上、作業の継続、
人海戦術であるため人手と時間がかかり、職員・アルバイト
を1日10人延べ300人以上必要
- 広い場所の確保と土日も窓開放、室内監視体制が必要
+ 被災後すぐに、手順を説明すれば誰でも対処できる
-
-
-
+
+
+
+
-
-
冷房・除湿設備の設置
人手がかからない
カビ害が発生しにくい
閉室・施錠できるので管理しやすい
冷凍したままで、乾燥できるシステム
もっともよい復元状態で再生
カビ害が発生しない
冷凍庫の確保が困難
専門的施設へ委託-経費がかかる
早期に冷凍することが必須!!!
救助の経緯と作業内容1-青木案
手順
作業内容
①乾燥場所確保
Cランク(完全水損)は大量→近地区・広大な場所。Bランク(一部水損)は中量→遠地区可・できれば冷
房除湿設置場所。Aランク(良好)→適宜な乾燥した場所・分散保管も可。
②搬 出
水害現場から乾燥場所への資料の搬出。Aランク(良好)→ Bランク(一部水損)→Cランク(完全水損) 状
態の良い資料から。
③開 放
搬出容器(濡れたダンボール箱)からの開封・開放。識別記号の添付→箱の必要情報を採録し廃
棄。
④初期乾燥
Bランク(一部水損)→Cランク(完全水損)の順で資料の乾燥開始。
・全ての資料を乾燥体勢に整え、資料の塊まとまりごとに乾燥状態・形状を決める→資料の置き
変え→下敷き新聞紙の取替え→塊を4分割程度での吸い取り紙挿入、一部ページめくり、カビの
拭取り等) 強制的に扇風機で風をあてて乾燥を速める。
・乾燥機器の導入:◎扇風機→◎低温機(冷房)→○低温除湿乾燥、除湿機、熱蒸散型除湿機
⑤継続乾燥
・個別の乾燥体勢を変えながら、乾燥を促進する。塊ごとの乾燥から1枚ごとの乾燥を実施。市販
ファイル・フォルダーが乾燥を阻害する場合は、記録を採録し、表題ラベルなどを剥がし、異物と
なる錆る金属等の除去を開始。
・廃棄すべき資料の評価選別の開始→廃棄目録の作成
⑥通常乾燥
しっとりした感覚まで湿り気レベルが下げられたら、開放的な棚置きに置き換え、低温除湿な乾燥
場所または扇風機を稼働させた場所へ移動する。通常乾燥期にカビが発生する危険があるため、
湿度とともに空気環境を制御し、空気循環をよくする。通常乾燥に移行してから1年間以上継続し
て管理することが求められる。決して、段ボール箱に収納してはならない。
⑥特殊乾燥
○凍結すべき対象-重要文書、水に過敏に影響を受ける媒体、脆弱になって乾燥できない資料
は、凍結→個別に乾燥処置を実施する。
○凍結→真空凍結乾燥機の利用。元の状態への復元を求める最重要資料について実施する。
施設への利用申請と処置計画の立案。
救助の経緯と作業内容2-実際の対応
手順
作業内容
①場所の確保
旧中石小学校校舎(新和町)・旧魚浦中学校体育館(牛深町)
②運び出し
水害現場から乾燥場所へ、資料の運び出し( 上位ランクの資料
から)
③開
持運び用の袋から取出し、濡れたダンボールを開封・除去
封
④1次乾燥
資料を乾燥させる(資料の置き直し、新聞紙の取替え、ページめ
くり、カビの拭取り等)乾燥機器の導入:扇風機、低温除湿乾燥
機、除湿機、熱蒸散型除湿機
⑤2 次乾燥
1 次乾燥後、コンテナに入れ、低温除湿乾燥室にて2 次乾燥(今
後3 年間継続)
⑥その他
重要文書は冷凍保存(食品冷凍会社)
真空凍結乾燥機の利用申請(協力:福岡市埋蔵文化財セン
ター)
媒体のタイプごとの救助優先順位と注意事項
媒体
優先順位
注意事項
文書
(1枚単位)
○
水に敏感な筆記具・印字・印写でないかを確認する。
文書
(簿冊・ファイル)
◎
水に敏感な筆記具・印字・印写でないかを確認する。
極薄紙・加工紙・図面などが綴じられていないか点検する。
書籍
○
加工紙が綴じてないか点検する。
雑誌
○
加工紙が綴じてないか点検する。
アート紙
◎
密着したまま完全に乾燥させない。
コート紙
◎
密着したまま完全に乾燥させない。
青写真・青図(シアノ)
●
吸い取り紙で水を取り除くと同時に表面の文字・画像を取り除いてしまうため、そのまま乾燥さ
せる。感光剤・現像剤多種多様で取扱注意。
青焼き(ジアゾ)
●
吸い取り紙で水を取り除くと同時に表面の文字・画像を取り除いてしまうため、そのまま乾燥さ
せる。感光剤・現像剤多種多様で取扱注意。
白黒紙焼き
○
密着したまま完全に乾燥させない。水洗い可能。
カラー紙焼き
●
密着したまま完全に乾燥させない。乳剤層が動く場合は平らに静かに置く。
白黒フィルム・マイク
ロフィルム
○
密着したまま完全に乾燥させない。水洗い可能。
カラーフィルム
●
乳剤層が動く場合は平らに静かに置く。カラースライドも含め、専門家が48時間以内に処置
しなければ、乳剤は分離してしまい、退色したり混色する。処置ができなければ、凍結させる
方法しかないが、氷の結晶が乳剤層を破壊しキズを残すことがある。
電磁的媒体
●
早急に専門業者に依頼する
●緊急◎急ぐ○その後
被災資料救助の流れ(模式)
被災
事前調査
• 災害発生
• ①記録 ②工程表・スケジュールの決定
確保 ⑤安全の確保 など
救助
• ①救助の実施 ②二次災害の防止
④凍結、乾燥 ⑤仮収納 など
復旧
• ①資料の修復
⑤代替化 など
再生
改正
②収納容器の復旧
• 復興 ①開館 ②利用・活用
③経費の概算 ④救助用具等の
③選別(修復順位/要不要)
③施設の復旧 ④施設への再配架
③報告書・記録集の作成 など
• 見直し→マニュアルの改正 ※長期計画の立案・検討
被災文化財レスキュー事業 情報共有・研究会(第1回) 2011.5.10. 東京文化財研究所
水または塩水で浸水した紙資料のレスキュー法 試案 (フロー案)
110506 東京文化財研究所 木川りか・佐藤嘉則
浸水した文書・書籍等
ほとんど
乾いている
やや
湿っている
カビ、臭い
ほとんど
なし(海水)
濡れている
カビ、臭い
ほとんど
なし(海水)
カビ、臭い
がひどい
(少量ずつ小分けした形で)
風乾して
そのまま
開いて
・送風乾燥
・除湿乾燥
至急、
冷凍庫で冷
凍!*
真空
凍結乾燥
量はそう
多くない、
人手もある
(場合によっては)
(少量ずつ小分けした形で)
(あとで泥をはらう)
*注意: (特に塩水に浸った資料で)
どうしても資料の泥汚れなどを洗いた
いときには、冷凍または速やかな乾燥
の直前に洗う。
(真水で洗って時間が経過すると、か
えってカビ、悪臭の原因になる可能性
がある。)
塩水を使用する可能性ついては、どう
いう場合が適しているか、今回、議論
を望む。
大量、
人手がない
冷凍庫で冷凍
*
スクウェルチ法
(+)塩水がぬける
(-)水溶性のインクなどはにじ
む?
(少量ずつ・・)
真空
凍結乾燥
スクウェルチ法
(+)塩水がぬける
(-)水溶性のインクなどはにじ
む?
青木睦氏の文献、今津節生氏のメモを参考に作成