なぜ情報実験か? Unix (Linux) / Internet の歴史と

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Transcript なぜ情報実験か? Unix (Linux) / Internet の歴史と

なぜ情報実験か?その1
Unix (Linux) / Internet の歴史と
学問の情報化への展開を踏まえて
北海道大学理学研究科
地球惑星科学専攻
林 祥介
[email protected]
2006年10月06日
目次
• 情報実験では
科学の情報化
ご近所の活動
• 電子計算機から情報環境への発展
特に, Unix(Linuxの元), Internet, X
フリーウェア, オープン開発な文化
計算機のダウンサイジングと Internet 爆発
• 計算機科学・情報科学
V.Bush1945
計算機に知識を教えること
情報実験では
情報化時代の科学とは
• 科学者
– 新たな知見を見出す人
– 情報を作る人
– 一次生産者
• 情報化時代の科学(V.Bush1945)
– 細分化専門化,情報の爆発
– 情報の流通,加工,掌握が科学においても大きな役割
• 「先進国」の要件
– 情報の掌握
– 情報利用者だけの国は先進国から脱落
– グローバリゼーションの恐怖
地球惑星科学での展開
• 現在まさに研究開発中のさまざまな活動
– ネットワーク透過なデータ構造とユーティリティーの設計
• http://www.unidata.ucar.edu/
– スーパーコンピューティング, GRIDコンピューティング
• 大規模シミュレーション・データ解析のためのネットワーク透過な並列計
算・並列データ処理
– 遠隔計算・遠隔観測
• 観測装置(望遠鏡など)の制御と観測
• データの分散統合的利用
– 観測データを使った数値計算
• 分散型リアルタイム気象データアーカイブ
– データをネットワーク上に分散させたままあたかもひとつのデータセットして
利用可能にする
– 例:米国で研究教育用の道具として開発中のTHREDDS
– 知見情報アーカイブ
• 計算機に知識をおしえること
情報実験では
• 計算情報環境の技術的基本概念を構成している
– Unix (Linux)
– Internet
– X window system
をひもとき,自分の情報環境は自分で維持できるようになる.
• 自分がおかれている情報環境の総体に思いをはせる
– ネットワーク社会人(常識や作法を知る)
– 安全性,安定性への理解
• 地球惑星科学の情報化へ貢献できる人材が生まれれるきっ
かけになれば幸い
– 情報利用者から,情報提供者へ,そして,科学の情報インフラのデ
ザイナーへ
電子計算機から
情報環境への発展
電子計算機の黎明
• 1930’ 計算(機械)の原理(アルゴリズム)
Gödel (1931): 不完全性定理
Turing (1936) : TM (Turing Machine)
• (配線型)電子計算機
ABC (Atanasoff Berry Computer, Atanasoff & Berry, 1939)
ENIAC(Electronic Numerical Integrator And Calculator, Eckert &
Mauchly, 1946)
弾道計算
気象計算(順圧非発散二次元渦度方程式,岸保)
• ノイマン型(プログラム内蔵型)計算機
EDVAC (Eckert , Mauchly, Neumann),Neumann 1946
EDSAC (Wilkes, 1949) 世界初のノイマン型計算機(英)
電子計算機の黎明
ENIAC(1950.4.4)
Namias
Wexler
Frankel
Von Neumann
Fjortoft
Charney
Freeman Reichelderfer
UCSD ECPC(Experimental Climate Prediction Center) 写真集より http://ecpc.ucsd.edu/general/pics/eniac-50.html
計算機としての計算機
1950’ 計算機らしい(?)
計算機
• IBM701(1952)
汎用大型計算機(Mainframe)
研究(軍事)機器から
実用的な機器へ IBM701
http://www-1.ibm.com/ibm/history/exhibits/701/701_141512.html
気象庁最初の数値予報?計算機IBM704, 1959
• OS= Operating System(基本ソフト)
計算作業の順番待ちを自動化するソフトウェアとしてはじまる
バッチシステム(batch systems)
• I/O(Input/Output)の標準化
デバイスドライバー(device driver)
計算機としての計算機
1950’ 高級プログラム言語の登場
コンパイラ(compiler)によって機械語に翻訳する
FORTRAN:数値計算
(FORmula TRANslator System,
J. Backus, IBM, 1954)
COBOL:事務処理(帳票)計算
(COmmon Business Oriented Language,
The Conference on Data System Languages
(CODASYL), 1959)
計算機は計算のための道具として普及しはじめる
計算しない計算機
文字処理
• Unix :1969 年に発明され開発が始まったOS.
骨子は, 計算する機械に文字(アルファベット)
処理させること.
– プログラム(=文字列)開発環境(ファイルエディター,文字
やファイルの処理)
– プログラムのドキュメンテーション(解説文章作成)環境
– IBM 大型計算機は数値処理のみを念頭に設計,文字処理
は苦手.
• 1byte(=8bit)単位の処理 vs. 1word(=4byte)単位の処理
• 文字処理を得意とするプログラミング言語 C
Unixの普及(1)情報科学業界
Unix は情報科学研究用環境として普及発展
• 情報科学研究者(プログラム開発者)フレンドリー
– 開発者身内用のプログラミング環境
• 米国電信電話会社(AT&T) の Bell 研で作られたのだが,売りもんじゃな
かった.
• ソースコードをタダで公開, 改変,再配布することも許容していた.
– 自分たちに都合よく改編可能.
– 米国の情報科学科でソースコードが教科書として 利用され広まる.
• 開発の幸せなフィードバック
– 使う人が作る人 (/usr) :お互いに資源を出し合い, 使いあい, 修正改良
しあう
– たくさんの人が使うのでどんどん鍛えられる
– 便利になるので使う人が増え, 作る人も増える
• Internet, Linux へ続くフリーウェア文化, オープン開発文化
Unixの普及(2)一般研究業界
(計算機を使う)一般科学者の研究用環境として普及
• プログラム開発環境+ドキュメント処理機能→便利.
– ソフトウェアが作りやすい
– 計算ができる(そもそも計算機)
– マニュアル作成ユーティリティーを使えば文章(論文)が清
書できる
– その整理(情報処理)ができる
計算機から情報処理環境(パソコンがない時代の「パ
ソコン」=文房具)へ(ただし英語だけ)
Unixの普及(3)一般研究業界
(計算機を使う)一般科学者の研究用環境として普及
• 米国の大学では1970’ 後半にはUnixが普及
– 科学技術用計算機が Unix (Linux)を OS とするように
なったルーツ
• 科学諸分野と情報科学分野とが交流する土台
– 情報科学が目指していることが他分野にも流れ出しそれぞ
れの分野での情報化を促す
– 今日の科学の情報化に結びつく基盤,グローバリゼーショ
ンの土台
Digital‘s VT100 video terminal (1978)
http://vt100.net/
Unixの普及(4)軍
米国での諸々の活動のスポンサーは軍
• ソースコードが公開されていることは軍にとっても望ま
しい.
– 特定の企業に国防「情報」が支配されるのは喜ばしくない
– 国防総省 ARPA (Advanced Research Projects
Agency, 今の DARPA) 核戦略・防衛兵器のための基礎
研究を推進
Unixの普及(5)軍
大学が研究中心
• 特定の企業に情報基盤を支配されたくないので研究
開発は大学に委託.
– 結果として軍がオープン開発を支援
– カリフォルニア大学バークレー校 (UCB)→BSDUnix, Free
BSD,MIT, CMU, SU, …
• 70年代から80年代にUnixは大学で大きく発展
– 1980年代後半には研究環境といえばUnix
通信する計算機:Internetの黎明
ARPAnet
• 1960’s終りから核戦争を想定した防衛システム基礎
研究としてARPAが行うパケット通信計算機接続の研
究
• 中心のないシステム, 分散統合システム
– どこのホストコンピュータが核攻撃によって 蒸発してもどこ
かのコンピュータが生き残り, ネットワーク全体としては機能
が維持される
Internetの黎明(2)
ARPAnet
• ARPAnetの研究中心:例によって全米の主要大学
– スタンフォード大学 (SUN = Stanford University
Network)
– カリフォルニア大学バークレー校
• TCP/IP
– Transmission Control Protocol / Internet Protocol
Internetの黎明(3)
An atlas of cyber spaces
http://www.cybergeography.org/atlas/arpanet_sept1973_large.gif
Internetの黎明(4)
ARPAnetとTCP/IPとUnix (1980)
• 国防総省 ARPA が OSとしてバークレー版Unix
(BSD Unix)を採用
→ Unix と ARPAnet の諸々の技術が結合
TCP/IP が事実上の標準に
• 1980 年, バークレー版 Unix (BSD Unix) が TCP/IP を
実装, TCP/IPはUnixをOSにしている機器に一挙に広
まる
• Unixは米国の研究高等教育機関現場にすでにある程
度ひろまっていたので, TCP/IPは米国研究教育業界で
の通信プロトコルの事実上の標準 (Defuct Standard)
となった
Internetへ(1)
internet (小文字):
• TCP/IP でつながれたネットワークの集まり, メタネット
ワークのことをいう.
– 複数の network を相互につないだもの (米国では高速道
路網を interstate という, そのもじり).
• TCP/IP 接続の特色はこのメタネットワークがあたか
も一つのネットワークのごとく利用者からは見えるとこ
ろにある.
– 複数のネットワークが接続されてできていることを全く意識
しないで良い.
Internetへ(2)
Internet (大文字):
• TCP/IP で接続されたネットワークのうちの,
ARPAnet をルーツに持つネットワークのことをいう.
– Internet とは国際的な共同運営団体に加盟し, 整合性を
保ったアドレス管理, 経路制御などの運営をしているものた
ちである.
• 日本では
–
–
–
–
JUNET(1984慶応ー東工大)
WIDEプロジェクト(村井純,1988)
TISN(釜江常好,1989,東大ーHawaii)
民間プロバイダ1992
絵を描く計算機:X
(アルファベットからの脱却)
ビットマップ(bitmap)ディスプレーの登場とX
• ビットマップディスプレー: 文字と絵を同時にあつかえ
るディスプレー
– それまでは:
• 英数字のみをあつかうキャラクターディスプレーと絵の
みをあつかうグラフィックディスプレーを別個に持たねば
ならなかった.
• でもハードウェアがあっただけではそれだけ
じゃ制御が難しい→X
X window system(2)
ビットマップ(bitmap)ディスプレーの登場とX
• MIT:産官学共同研究開発の中心 (MIT X コンソーシ
アム)
• ワークステーション
– 三種の神器 BSDUnix+TCP/IP+X を備えた, 汎
用大型計算機に対する机上サイズの小型計算機
のこと
X window system(3)
Xは何が偉い
• 規格化(標準化)とサーバー・クライアント
– 個々の命令セットが体系化され標準規約化
• Athena Widget
– ディスプレー, マウス, キーボード, スピーカーなどの人間機
械インターフェースを支配するサーバ
– 文字の表示, 絵の表示, 音の発生等々は個々のソフトウェ
ア(クライアント)が担当する
X window system(4)
Xは何が偉いか(2)
• ネットワーク透過(network transparent)
– Internet技術の上に構築
• internet という通信手段と結合することにより遠方の資源を仮想資
源としてあたかも手もとの計算機に付随する資源のごとく利用.
• ウインドウを飛ばす: 遠方の計算機が出力する画像を手元の計算
機のディスプレー上に表示.
X window system(5)
Xは何が偉いか(3)
• 日本語が表示できるようになった
→やっと日本の一般研究者にもUnixが
• もちろん,すでに日本語入出力技術は日本でも進んでいたから, す
みやかな導入が可能だった
• 日本語ワープロ(1981)
– ようやく日本でも計算機から情報処理環境(文房具)へ
• それまでは文字処理(ワープロ)と数値処理(汎用大型計算機)とは
まったくの別物として扱わなければならなかった
計算機の普及と文房具化
ダウンサイジング第一期
1980 年代後半~1990 年代前半: ワークステーション
• ハードウェアの進歩, 普及と低価格化
→ ダウンサイジング (downsizing)
汎用機からワークステーションへ
• 計算作業環境の変遷
– 計算機の配線
– 紙テープ, カード
– 端末
– ディスプレー端末
– ワークステーション(X)
ダウンサイジング第二期
1990 年代後半: パソコン
• ハードウェアの進歩, 普及と低価格化
→ ダウンサイジング (downsizing)
ワークステーションから
パソコン(Macintosh, WindowsとAT互換機)へ
• 計算作業環境からのワークステーションの衰退
– ワークステーションは特殊用途へ
– ほとんどの作業はPCで
• パソコンの登場は1980年代, どちらかというとゲームから出発し, 文
房具(清書道具)として実務で本格的に使われるようになったのは
1980年代後半(DOSの登場と一太郎などのワープロソフト)
Internetの大発展(WWWとブラウザ)
1990 年代後半の爆発 =WWWとブラウザ(1995ごろ)
• 下地
– Windows と AT 互換機 (MS-Intel 帝国)の普及
– Internetの民営化 (ISP, 日本では 1992)
• 真の起爆剤=WWW (サーバ)と ブラウザ(クライアント)
–
–
–
–
–
CERN → Apache
NCSA mosaic → Netscape
WWW = W3 = World Wide Web
html = hypertext markup language
URL = Uniform Resource Locator
(プロトコル://アドレス/ファイルパス名)
– http = hypertext transfer protocol
情報社会の到来が一般に体感されるようになる
Internetの大発展(検索エンジン)
検索エンジン(21世紀)
• Yahoo1995
• Google1998
– ネットワーク上の情報が使いもんになるようになってきた
– Bush (1945)の夢
計算機科学・情報科学
V. Bush 1945
V.Bush (1945)
• V. Bush:
• MITの副学長, 第二次大戦中は国防研究委員会議長, レーダー
から対潜水艦作戦, マンハッタン計画にいたるまでの兵器開発計
画の監督.
– 人類にとっての真の挑戦は原子をさらに細かく調べたり
生命の複雑さを探求したりすることではなく, 科学技術が
氾濫させる情報のよりよい管理方法を発見することだ.
• 人間の知識と経験が驚異的な速度で増大しているというのに,必
要な情報を捜し出す方法が依然として「帆船時代」のままなのは
おかしい, 情報を整理する新しい方法と技術が必要である.
V.Bush (1945)
• 「メメックス」(memex)
– 関連がある異種の情報を一つに結び付ける装置
で, これにより, 誰もが自分専用の情報を整理蓄
積できるようになる.
– 弁護士はボタンを押すだけで, 彼自身の経験ばかりでなく 友
人や関係当局の経験から得られた関連意見や決定を呼び出
せる. 弁理士も依頼人の希望に応じて, 数百万件もの特許を
即座に調べることができる. 医師も診断に迷った場合には類
似した症例を手早く調べたうえ, ついでに解剖学や組織学な
どの書物まで参考に引くことができる. 膨大な記録を整理して
誰もが活用できるようにすることによろこびを見いだす, 先駆
的な新しい職業も生まれてくるだろう.
V.Bush (1945)の実践
• 計算機に地球惑星科学の知識を教えていく
こと
– 我々の知識の形を明らかにすること
– コンピュータが相互にやり取りできる知識データ
の構造
– それぞれの専門分野の人々が情報科学の発見
発明を実際に活用して行うことが必要
日本での情報化
• 情報科学者が目指していたこと(計算機に知識を教えていく
こと)のかがなかなか広まらなかった
– 大学は情報化の触媒としてはあまりうまく機能してこなかった
• Unix が情報科学の外側になかなか普及しなかった
• 数値計算する機械と文字処理する機械とはべつべつに発達し,特に後
者は民需主導であった
• ちなみに大学はInernetの触媒としてはうまく機能した(WIDE project :
村井純1988-,TISN釜江常好1989- など)
– 米国のUnixや坂村健のTronがやろうとしていたことがなかなか理解
されなかった
– 日本では 90 年代後半になって, ようやく情報科学がやろうとしてきた
ことたちが知られるようになって来た.
– 知の爆発といわれ,情報収集能力が先進国の基盤として認識される
今日,大幅な出遅れ
• 日本問題は後半に続く…
参考書, 参考文献
• Bush, V., 1945: As we may think. Atlantic Monthly, 1945
July, 101-108.
• 村井純, 1997: インターネット, 岩波新書 新赤 416, 岩波書
店.
• 村井純, 1998: インターネットII, 岩波新書 新赤 571, 岩波書
店.
• 歌田明弘, 2000: 本の未来はどうなるか 新しい記憶技術の
時代へ, 中公新書 1562, 中央公論新社
• D. Libes & S. Ressler 著, 坂本 文 訳, 1990: Life with Unix,
アスキー.
• 坂村健, 2002: 痛快! コンピュータ学, 集英社文庫.
• 山口 英, 2002: ブロードバンド時代のインターネットセキュリ
ティー, 岩波科学ライブラリー85