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組織心理学からみた火山危機管理
慶應義塾大学商学部
吉川肇子(きっかわとしこ)
本報告
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噴火予知連絡会の議事録の分析
科学者は社会的な意思決定にどの程度関
与すべきか
集団浅慮(groupthink)
内集団の圧力によって、考えていることが現
実場面に適切に当てはまるかどうかを検
証する能力や、問題の道義的側面に対す
る判断力が損なわれる現象
例:ケネディ大統領のキューバ侵攻
チャレンジャー号爆発
先行条件(1)
Ⅰ凝集性の高い集団であること
Ⅱ構造的欠陥
Ⅱ-1集団の孤立化
Ⅱ-2公平無私なリーダーシップ伝統の欠如
Ⅱ-3体系的な手続きについての規範の欠如
Ⅱ-4メンバーのバックグランドイデオロギーの同質性
誘因となる状況的文脈
Ⅲー1外部のストレスが強く、リーダーの解決策よりよい案が
出そうにない
Ⅲ-2下記の原因による一時的な自尊感情の低下
Ⅲ-2-aメンバーとして不適任さを目だたせる最近の失敗
Ⅲ-2ーb意志決定作業の困難さ二より、メンバーが自分の
能力を低く感じる
Ⅲ-2-c倫理基準をはずれた代替案しかないように思われ
るモラルジレンマの出現
観察できる結果
Ⅰ集団への過剰評価
Ⅰ-1不敗の幻想や過度の楽観主義
Ⅰ-2その集団固有の道徳を無批判に受け入れて決定のもたらす倫理的結果を
考慮しなくなる
Ⅱ閉鎖性
Ⅱ-1不都合な情報や警告を割り引いて解釈して、合理化する集合的努力
Ⅱ-2敵のリーダーを強くないとか賢くないなどとステレオタイプ化する
Ⅲ意思の斉一化へのプレッシャー
Ⅲ-1集団から逸脱しないように発言の自己検閲が起こる
Ⅲ-2満場一致の幻想
Ⅲ-3意義を唱える者に対して圧力がかかる
Ⅲ-4不都合な情報から集団を守ろうとする「監視人」が現れる
意思決定の結果
1.選択可能な選択肢を不完全にしか探索・検討しない
2.目標を不完全にしか検討・考慮しない
3.乏しい情報収集
4.手持ちの情報の分析に選択的なバイアスがかかる
5.前に退けた代替案を再考しようとしない
6.選んだ選択肢の持つリスクやコストを検討しない
7.状況に即応した選択肢の実行プランが欠如している
分析対象とした議事録
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第86、87回火山噴火予知連絡会会合議
事録(案)
第1回~第18回伊豆部会議事録(案)
仮説を知らない評定者2名が独立に判定
結果(1)先行条件と状況
Ⅱ-1
Ⅱ-2
Ⅱ-3
Ⅱ-4
Ⅲー1
Ⅲ-2
Ⅲ-2-a
Ⅲ-2ーb
Ⅲ-2-c
2
20
2
結果(2)集団思考の兆候
Ⅰ-1
1
Ⅰ-2
Ⅱ-1
1
Ⅱ-2
Ⅲ-1
Ⅲ-2
Ⅲ-3
4
Ⅲ-4
3
結果(3)欠陥意思決定の兆候
1
3
2
1
3
6
4
9
5
2
6
2
7
16
考察
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メンバーのバックグラウンドの同質性が指
摘できる
状況に即応した選択肢の実行プランが欠
如していると判定された発言が多い
課題
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ただし、評定者間の一致度が高くない
議事録の精度が揃っていない
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発言が明確なものは比較的判定が一致
さらに分析を進める必要
まとめ
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集団浅慮の研究結果からは、多様なメン
バーで構成する必要が指摘できる
可能であれば、個人の資質に依存しない
仕組み作りが必要
人文・社会科学者との公式なルートでの意
見交換があれば望ましい
ワークショップ形式で上記の課題を今後検
討する予定