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科学技術と社会 物理教室セミナー 2013.1.26

肱黒長憲

目次

1.科学技術と社会(古くて新しい問題) 2.最近のいくつかの問題 2.1. イタリア・ラクイラ地震裁判 2.2. ドイツのエネルギー政策転換 2.3. 日本のエネルギー政策 3.科学技術と社会についての動き 3.1. 科学技術白書(平成24年版)から 3.2. 科学技術コミュニケーション 3.3.

3.4.

3.5.

科学者の役割 市民に求められるもの まとめにかえて

1.科学技術と社会(古くて新しい問題)

(1)近代科学の成立 科学とは 科学者の知的欲求 ただ知る(知識を蓄積する) (2)産業革命と科学の隆盛 科学の役割 自然を変える、人間の役に立つモノをつくる 科学技術と社会との関係 (3)原子の時代 20世紀の物理学 原子爆弾の製造 (A) 科学 の 純潔主義 個人 や 集団 の 利害 や 価値観 とは 無関係 政治的影響 からの 独立性 を 強調 「 科学 の 価値中立性 」 科学技術 の 成果 が 何 か 社会 に 害悪 を もたらしたとすれば、それは 使 い 方 が 悪 いからであり、 科学技術 それ 自体 は 善 でも 悪 でもない (B) 科学者 の 社会的責任 科学 の 原罪 を 意識 した 科学者 アインシュタイン=ラッセル 宣言 パグウォッシュ 会議 日本 の 素粒子論 グル ー プ ( 坂田昌一 、 朝永振一郎 ) 「つくれるものは 何 でも 作 る」

「 科学 そのものには 良 い、 悪 いはなく、これを 使用 する 目的 や 方法 に 問題 があ るとする 考 え 方 は 誤 ってはいないと 思 うが、 科学 そのものと 科学 の 使用 とを 明 確 に 区別 することは、 考 えられたものは 何 でも 作 るという 状況 では、 難 しいこ とである。むしろ、 科学 はそれ 自身 の 中 に 毒 を 含 んだもので、それが 薬 にもな りうると 考 えてはどうか。そして、 人間 は 毒 のある 科学 を 薬 にして 生 き 続 けね ばならないとすれば、 科学 をやたらに 使 い 過 ぎることなく、 副作用 を 最小限 に とどめるように 警戒 していくことが 必要 なのではあるまいか。」 朝永振一郎「現代文明を考える―文明問題懇談会討議要旨」昭和50年 「物理学とは何だろうか(下)」朝永振一郎著(岩波新書)1979年 から

(4)科学と技術の一体化と社会的批判 科学の実用性に国家や産業界が注目する (日本の場合は1960年以降の科学技術政策) 科学 と 技術 を、 純粋 な「 自然 の 法則性 の 解明 」とその 現実 への「 応用 」として 区別 する ことにそぐわない 状況 科学 の 活動 も、 高度 な 技術 を 用 いた 実験・観測手段 への 依存 を 益々高 めている 現在 では、 真理 を 知 るための 営 みとしての「 科学 」と 実用的 なものをつくる 営 みとしての 「 技術 」を 截然 と 区別 することが 困難 (このような 段階 での 科学 と 技術 を「 科学技術 」とよぶことにする) 科学技術がもたらすさまざまな問題 (1) 兵器開発(原水爆、化学兵器) (2) 公害(水俣病など) (3) 核エネルギーの利用(原子力発電) (5) 環境問題(地球温暖化など) (4) 災害予測・対策(気象予報、地震予測) (6) 食品衛生(BSE、遺伝子組み換え食品) (7) 先端医療、生命科学(脳死臓器移植、遺伝子診断、再生医療、ヒトクローン研究) (5)科学技術政策の決定における社会的合意 科学の発展→外部からの干渉を遮断→科学者共同体による自律的な運営 欠如モデル(科学を批判する市民は科学のことをよくわからないからである から人々に理解させることによってその考えを改めさせる)の破綻 社会 の 支持 や 要請 と 無関係 な 科学 はあり 得 ない→ 社会的合意 の 形成

2. 最近のいくつかの問題 2.1. イタリア・ラクイラ地震裁判

(1) 経過

年月日 2009年1月~4月 2009年3月 2009年3月30日 2009年3月31日 2009年4月6日 2010年6月3日 2012年9月25日 2012年10月22日 2013年1月18日 事項 イタリアの中部ラクイラ付近で群発地震が頻発 グラン・サッソ国立研究所の技師ジュリアーニが、ラドンガス放射に基づく地震 予測方法で、近々にイタリア国内で地震が発生することを何度か予告 国家市民保護局のベルトラーゾ長官と州政府市民保護局のスターティ局長の電話 でのやり取り(市民のパニックを抑えるために、メディアを操作して落ち着かせて ほしい)<後の裁判証拠で判明> 安全宣言を出すという結論ありきで「大災害委員会」を開催 「大災害委員会によれば、ただちに危険はない」と発表 国家市民保護局のベルナルド・デ・ベルナルディニスは、テレビインタビューで、 「ワインを飲んで待っていていいか」との質問に「YES」と返事し、「群発地震で エネルギーが解放されているのはいい兆候だ」(=大きな地震が起きないことを示 唆)と発言 メディアは「安全宣言が出されました」と発表 Mw6.3の地震が発生、死者300人以上 市民は、市が『安全宣言』を出さなければ危険を回避できたと、刑事告発 ラクイラの検察当局は、国の委員会を過失致死の疑いで捜査 検察当局は、委員会メンバー7人全員に禁錮4年を求刑 委員会メンバー7人全員に求刑を上回る6年の実刑判決 ラクイラ地裁は判決理由を発表(学者と政府の癒着を指摘)

(2) 大災害委員会と関連機関

データと情報の提供 国立地球物理学火山 学研究所 INGV ジュリオ・セルヴァッジ(国立地 震センター理事) データの評価および行動指針の提案 必要な対策を判断 大災害委員会 Commissione Grande Rischi 国家市民保護局 Protezione Civile ベルナルド・デ・ベルナルディニス(防災庁技術部門次長) マウロ・ドルチェ(防災庁局地震危機センター所長) フランコ・バルベーリ(大災害委員会副会長) ジャン・ミケーレ・カルヴィ(ヨーロッパ地震工学研究所所長) エンツォ・ボスキ(国立物理学火山学研究所所長・地震学者) クラウディオ・エヴァ(ジェノバ大学物理学教授 ) 防災・減災情報 一般市民 「ラクイラ地震 禁固 6 年の有罪判決について」大木聖子(東京大学地震研究所助教) http://raytheory.jp/2012/10/201210news_laquila/

(3) ラクイラ地震裁判についての日本学界の反応

○日本地震学会会長声明(2012年10月29日) 「防災行政における研究者の意見表明が刑事責任をもたらす恐れがあ るとするならば、研究者は自由にものが言えなくなるか、科学的根拠を 欠く意見を表明することになりかねません。」 (この 論旨 はおかしいのではないか。) ○日本地質学会声明(2012年11月2日) 「もし優秀な地球科学者が、地震危険度評価に善意で参画した結果と して、その後に発生した地震の災害に対する責任を取らなければならな いなら、将来だれがこの重要な役割を引き受けようとするだろうか。」 (この 態度 をそのまま 多 くの 市民 が 受 け 入 れるとは 考 えにくい。)

(4) ラクイラ地震裁判の問題点

1.地震学者が地震予知に失敗したことを罰せられるか? 日本の新聞記事のタイトル 「地震予知失敗で禁固6年 伊の学者ら7人実刑判決」(日本経済新聞2012.10.23) 「イタリア 地震予知失敗で実刑 学者ら7人禁固6年」(東京新聞2012.10.23) 「地震予知失敗、専門家ら禁固6年判決...イタリア」(読売新聞2012.10.23) 裁判 になったのは、 安全宣言 に 対 する 責任 である 2.しかし、本当に「科学者は関係ない」のだろうか。 ○なぜ記者会見の場に同席して誤った会見を訂正しなかったのか。 ○なぜ安全宣言が出されたというニュースを聞いてすぐに「安全とは言っていな い」と表明しなかったのか。 ○なぜ委員会の場で、もっとはっきりと安全か危険かの二者択一では言えないと言 わなかったのか。 3.科学者の態度 ○ 科学的 な 情報 をその 限界 とともにきちんと 伝 えること ○ 今 の 人類 の 英知 では 何 の 結論 も 出 せない 状況 では、「わからない」ということを 表明 するしかない。 科学 が 万能 ではないこと、 現在進行形 の 未解明 の 科学 がたくさんあることをきちんと 教育 すべき。 ○ 地震学 や 医療 、 食 の 安全 など、 命 にかかわる 分野 の 研究者 には、どのような 情報発信法 があるのか などのトレ ー ニングをすべき。 ○ 人々 が 科学 に 対 してどのような 認識 でいるのかを、 研究者自身 が 知 らなければならない。 ○ 科学者 と 最終的 な 責任 を 負 う 行政 との 分担 を 明確 にしておくこと

2.2. ドイツのエネルギー政策転換

(1) 経緯

年月日 1967年 1969年 1974年 1974年 1976年から 1977年 1970年代半ば から後半 1980年 1986年5月 1986年6月 1986年7月 1986年9月 1998年 2000年6月 事項 ドイツ国内初の原発運転開始 原子炉メーカー「KWU」を設立、軽水炉の大量発注が始まる 社会民主党(SPD)と自由民主党(FDP)の連立政権(シュミット政権)が第1次改定エ ネルギー計画を公表(1985年までに原発を新たに50基建設) 南ドイツに原発の建設計画に対する市民のエコロジー運動 裁判所が原子力にかかわる放射性廃棄物問題を指摘 労働組合の代表が「急速な原子力の拡大は無責任」と指摘 原子力施設立地計画地における市民による大規模反対運動が活発になる。 (1975年、ヴィール、1976年ブロックドルフ、1977年、グローデン、カルカー) 緑の党設立 チェルノブイリ原発事故 南ドイツの山林が放射性物質に汚染され、国内の各所で反原発デモ 「DGBハンブルク決議」(可能な限り早く原発から撤退すべき) 産業界がDGBの決議に強く反対 「SPDニュルンベルク決議」(10年以内の撤退) 社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権(シュレーダー政権)が脱原発の方向性を 明確化 政府は電力業界との交渉を続け、原発全廃で基本合意 再生可能エネルギー法を制定(固定価格買取制度導入)

年月日 2002年4月 2005年 2009年 2010年秋 2010年12月 2011年3月11日 3月14日 4月4日 5月30日 6月6日 事項 「原発と再処理施設の新設禁止」「既存原発17基の運転年数を平均32年に制限 (2022年頃までに全原発停止)」などを盛り込んだ原子力法を改正 キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)連合が政権(メルケル政権) シュレーダー政権の脱原発方針を踏襲 (CDU/CSU)と自由民主党(FDP)の連立政権(第2次メルケル政権) 社会民主党(SPD)と連立を解消 「エネルギー計画」発表――総電力に占める再生可能エネルギーの割合を2020年 に35%、2030年に50%、2040年に65%、2050年に80%とする導入目標、送電網や スマートグリッドの整備などを実現するための措置 メルケル政権が原発稼働期間延長を決定、原子力法を改正 (シュレーダー政権の脱原発政策を一部見直す) 国内17基の原発の運転期間を平均12年――1980年以前の原発は8年、1980年以降の 原発は14年―延長すると決定、全原発の撤廃は2036年を想定 福島第一原発事故 メルケル首相は 「原子力モラトリアム(猶予期間)」を発令 原発延長法を3か月間凍結、7基の古い原発を停止 「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」を設置 「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」が提言書を提出 エネルギー転換のための閣議決定 (停止原発8基の再稼働を認めない、 残りの9基は2015年1基、2017年1基、2019年 1基、2021年3基、2022年3基が停止) 7月、連邦参議院が2022年までの脱原発を 承認

(2) ドイツの2つの委員会

福島の事故の後、メルケル首相は2つの委員会に助言を求めた。 1.原子炉安全委員会(RSK) 16人の原子力専門家で構成される。 2011 年 3 月 17 日 、 連邦環境省 は 国内 17 基 の 原子炉 についてストレステスト 実施 を 要請 。 2011 年 5 月 14 日 に 政府 に 鑑定書 を 提出 。 「 全体 を 総括 すると、ドイツの 原子炉 には 高 い 耐久性 がある」 2.安全なエネルギー供給に関する倫理委員会 2011年4月4日に設置された。2人の委員長と15人の委員で構成される。電力業界や原 子力産業の代表は一人も委員に入っていない。社会学者や哲学者、宗教関係者などエ ネルギー問題とは無縁の知識人が大半である。(福島事故後に設置、過去に倫理委員 会を設置した例は、臓器移植や動物実験、遺伝子テスト、受精卵の着床診断など) 5 月 30 日 、 倫理委員会 は 提言書 「ドイツのエネルギ ー転換 ― 未来 のための 共同事業 」を 提 出 。「 原子力 は 過去 に 属 するエネルギ ー であり、 使用 をやめるのが 最良 の 道 」 10 年以内 に 原発 を 全廃 するよう 提案 。 「 制御不可能 な 大事故 の 可能性 とどう 取 り 組 むかという 問題 への 解答 を、もはや 専門家 に 任 せることはできない。」 メルケル政権は倫理委員会の提言をほぼ全面的に受け入れた。 参考文献 「なぜメルケルは「転向」したのか」熊谷徹、日経 BP 社 (2012 年)

(3) ドイツのエネルギー政策転換の特徴

1.原子力反対運動を通して一般市民との対話や議論が長期にわたって行われてきた。 1970 年代 からの 原子力反対運動 とチェルノブイリの 体験 に 刺激 を 受 けてきた 市民 との 対話 2.コンセンサスを持続する上で倫理面からの検討がなされた。 専門家 でない 人々 がどのように 判断 するかを 重視 する。 実証的判断 よりも 倫理的・理念的判断 が 優先 された。 倫理委員会 の 提言書 には 数値的裏付 けがほとんど 示 されていない。 3.政治的状況がメルケル首相を動かした。 シュレ ー ダ ー政権 の2000 年 に、 原発全廃 で 一旦基本合意 ができていた。メルケル 政権 がこれを 一部見直 した 直後 に 福島原発事故 が 起 こった。メルケル 首相 はこれに 敏感 に 反応 し、 一度決定 し た 原発稼働延長策 を 撤回 し、 脱原発 を 決断 した。そこには、 選挙 で 反原発 の 緑 の 党 が 躍進 したこ とも 反映 した。 倫理委員会 からの 提言 は 民主的 な 手続 きの 形 を 整 えるためのものともいえる。 4.隣国との間で電力の輸出入が比較的簡単である。 EUでは2015 年 からの 電力統合 に 備 えてEU 圏内 の 送電網 の 整備 が 進 んでおり、 電力 の 輸出入 が 容 易 である。ドイツはフランスやチェコから 電力 ( 原子力発電 を 含 む)を 輸入 している。しかし、 原発 で 発電 した 電力 を 輸入 することは 脱原発 とは 矛盾 する。 5.再生可能エネルギー利用の開発など多様なエネルギー資源の確保の努力がなされてきた。 連邦環境庁 は、「エネルギ ー目標 2050」(2010 年 7 月 )で 現存 の 技術 で2050 年 には 電力 の 100%を 再生可能 エネルギ ー で 賄 うことが 可能 と 報告 している。シュレ ー ダ ー政権期 の 脱原発 の 決定 により、 新 しいエネルギ ー政策 が 動 き 出 していた。 6.その他 ○原子力についてのリスク意識が強い。ドイツ人の悲観主義 ○報道機関の原発や環境問題の報じ方が詳細で持続的である。

2.3. 日本のエネルギー政策

(1) 東日本大震災後の

中長期的

なエネルギー政策の形成過程 年月日 (2011 年 ) 3 月 10 11 月 3 日 日 10 月 3 日 10 月 28 日 (2012 年 ) 6 月 16 日 6 月 21 日 6 月 29 日 7 月 1 日 7 月 13 日 7 月 14 日 7 月 29 日 8 月 4 日 8 月 4 , 5 日 8 月 12 日 事項 東日本大震災 総合資源エネルギー調査会基本問題委員会(経産省)開催 10月3日~2012年11月14日まで33回 「コスト等検証委員会」(エネルギー・環境会議)を発足 エネルギー・環境会議(国家戦略会議-内閣官房)開催決定 野田政権は大飯原発3、4号機再稼働を決定 原子力委員会が「核燃料サイクル政策の選択肢」を提示 エネルギー・環境会議が「2030年の原発割合の3つの選択肢」を提示 再生可能エネルギー特別措置法施行(再生可能エネルギーの固定価格買取制度) エネルギー・環境会議事務局が選択肢に関する情報データベース整備 国民的議論の開始(意見聴取会、パブリックコメント、討論型世論調査) 「7.29脱原発国会大包囲」と題した抗議行動 意見聴取会全国11か所が終了 討論型世論調査の討論会が東京都内で開かれた。 パブリッシュコメントの締切

8 8 8 9 9 9 9 9 9 9 9 年月日 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 10 22 25 28 11 12 12 14 18 19 19 28 月 3 日 日 日 日 日 日 日 日 日 日 日 日 12 月 10 日 事項 「国民的議論」3調査の結果が出そろう 核燃料サイクル政策を転換 経済産業省、「最終処分法」改正の方針、直接処分にも道を開く 「国民的議論に関する検証会合」が、「少なくとも過半の国民は原発に依存しない社会の 実現を望んでいる」との検証結果を示す 日本学術会議が原子力委員会に提言 原発からの高レベル放射性廃棄物について、総量規制し、数十から数百年間暫定的に保管 するべき 青森県が古川国家戦略相に、政府の新戦略に核燃料サイクルの必要性を明記するよう要望 長島昭久首相補佐官らが急きょ訪米して原発ゼロ政策を説明、米側は使用済み核燃料の再 処理で出るプルトニウムの管理問題から懸念を示した エネルギー・環境会議が「革新的エネルギー・環境戦略」を決定 経団連の米倉弘昌会長、経済同友会の長谷川閑史代表幹事、日本商工会議所の岡村正会頭 が会見で、野田政権の原発ゼロ戦略を批判 「今後のエネルギー・環境政策について」閣議決定 革新的エネルギー・環境戦略の閣議決定を見送る 原子力規制委員会が発足 野田政権は運転停止中の原発の再稼働の判断には関わらない方針を明らかにした。原子力 規制委員会が安全性を確認すれば、電力会社が地元の同意を得て再稼働する 原子力規制委員会は原発の安全性を確認するのが役割で再稼動するかの判断はしないとの 見解をまとめた。 原子力規制委員会は、日本原子力発電敦賀原発(福井県)の敷地内にある断層について、 活断層であるとの見解

年月日 事項 12 月 16 日 12 月 22 日 12 月 26 日 12 (2013 年 ) 1 月 21 日 1 月 月 26 22 日 日 衆議院総選挙で、与党民主党が大惨敗、自民党が単独過半数を獲得 安倍自民党総裁は、原発政策について、「民主党が決めた方針をもう一度見直 していく。」「新設についてどう考えるかは、新しい政府与党で決めて議論し ていきたい。」 第2次安倍内閣(自公)成立 国家戦略会議を廃止、エネルギー政策(原発ゼロを目指す)の見直しを表明 原子力規制委員会の有識者会合が東北電力の主張を退け、東通原発(青森県) の敷地内に「活断層がある可能性が高い」との最終判断 経産省電力システム改革専門委員会は発送電分離の方法について送電を別会社 に切り離す「法的分離」にすることで大筋合意した。 茂木経産相は28日からの通常国会に出す法改正案に「発送電分離」を盛り込ま ない可能性を示唆した。

(2) 中長期的エネルギー政策形成に関わる政府組織

(民主党政権) 中央環境審議会 地球環境部会 (環境省) 地球温暖化対策の検討 2013 ( 年以降の対策・施策に 関する報告書 地球温暖化対策の選択肢の 原案について ) 2012 年 6 月 コスト等検証委員会 発電コスト等の検証 コスト等検証委員会報告書 2011 年 12 月 19 日 総合資源エネルギー調査会 基本問題委員会 (経産省資源エネルギー庁) エネルギーミックスの検討 新「エネルギー基本計画」の検討 原子力委員会 原子力発電・核燃料サイクル 技術等検討小委員会 (内閣府) 核燃料サイクル等の検討 新「原子力政策大綱」の検討 新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた 論点整理 2011 年 12 月 20 日 エネルギーミックスの選択肢の原案について 2012 年 6 月 19 日 核燃料サイクル政策の選択肢について 2012 年 6 月 21 日 エネルギー・環境会議 (国家戦略会議) 国民に選択肢を統一的に提示 2012 年 6 月 29 日 国民的議論の進め方 各種意向調査の集計分析 2012 年 7 月 14 日 ~8 月 28 日 「革新的エネルギー・環境戦略」の決定 2012 年 9 月 14 日 内閣 今後のエネルギー・環境政策の決定 2012 年 9 月 19 日

(3) 発電コストについて

(コスト等検証委員会報告書 2011 年 12 月 21 日による) 原子力 石炭火力 LNG火力 石油火力 陸上風力 洋上風力 地熱 太陽光(メガソーラー) 太陽光(住宅) 一般水力 小水力 バイオマス(木質専焼) バイオマス(石炭混焼) 2010 年 ( 円 /kWh) 8.9

以上 9.5

~ 9.7

10.7

~ 11.1

36.0

~ 37.6

10 9.4

~ 23.1

9.2

~ 11.6

30.1

~ 45.8

33 ~ 38 10.6

19.1

~ 22.0

17.4

~ 32.2

9.5

~ 9.6

2030 年 ( 円 10.8

~ 11.0

10.9

~ 11.4

38.9

~ 41.9

9 8.6

~ 23.1

12.1

~ 26.4

9 ~ 20 /kWh) 備考 2004 年の試算では 5.9

原子力と遜色ない 原子力と同レベル 原子力と同レベル 量産効果で価格低下

(4) 核燃料サイクル政策について

日本の核燃料サイクル政策(再処理+地層処分) 再処理では、青森県六ケ所村の再処理工場に使用済核燃料を運び、使用済核燃料 から核分裂性のウラン235やプルトニウム、マイナーアクチノイド (MA) を抽出 し、非核分裂性ウラン238に3-5%程度混ぜ、新しい燃料「MOX燃料」に加工して使 用する。 再処理してウラン235とウラン238とプルトニウムを取ったあとの高レベル放射性 廃棄物をガラス固化して地上管理施設で冷却・保管し(30年 -50年)、その後地 層処分して数万年以上に渡り隔離・保管する方法をとることになっている。 「コスト等検証委員会報告書」( 2011 年 12 月 19 日) より

「コスト等検証委員会報告書」( 2011 年 12 月 19 日) より

原子力委員会の提言(2012年6月21日) 今後の核燃料サイクルについて、 選択肢①「0%」の場合は「全量直接処分」政策が適当、 選択肢②「15%」の場合は「再処理・直接処分併存」政策が適切、 選択肢③「20~25%」の場合は「全量再処理」か「再処理・直接処分併存」政策が 有力 日本学術会議の提言(2012年9月11日) 原発からの高レベル放射性廃棄物について、総量規制し、数十から数百年間暫定的 に保管するべき 廃棄物を安全に廃棄するために、万年単位で安定した地層を見つけることは現在の 科学的知識と技術能力では限界がある

フィンランド: 2012 年 12 月 28 日建設許可申請、 2020 年操業予定 スウェーデン: 2025 年試験操業予定 ( 2013 年 1 月 24 日朝日新聞より) 内閣府原子力政策担当室 資料より

(5) エネルギー・環境の選択肢

a. 基本理念 ○「反原発」と「原発推進」の二項対立を乗り越えた国民的議論を展開する。 ○国民各層との対話を続けながら、革新的エネルギー・環境戦略を構築する。 b. 3つのシナリオ 核燃料サイクル政策の選択肢、エネルギーミックス選択肢、温暖化対策の選択肢 を統合した絵姿を複数のシナリオとして提案 4つの視点 ①原子力の安全確保と将来リスクの低減 ②エネルギー安全保障の強化 → → 原発依存度 化石燃料依存度 ③地球温暖化問題解決への貢献 ④コストの抑制、空洞化防止 → → 再生可能エネルギー比率 発電コスト 2030年における3つのシナリオ ゼロシナリオ、 15シナリオ、 20~25シナリオ

(6) 選択肢に関する国民的議論

エネルギー・環境の選択肢に関する国民的議論の進め方について 平成24年7月13日 エネルギー・環境会議事務局 政府は、エネルギー・環境の選択肢に関する国民同士の意見交換が活発に行われるよ う、 以下の取組を実施しております。 1.エネルギー・環境の選択肢に関する情報データベースの整備 (詳細は省略、以下同じ) 2.エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会 3.エネルギー・環境戦略に関するパブリックコメント 4.エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査 5.自治体や大学、民間団体主催の説明会への協力 (エネルギー・環境会議のホームページ [ 国民的議論] に掲載) 1. 情報データベースの整備 7月7日から、データベースとして、「話そう“エネルギーと環境のみらい”」 (http://www.sentakushi.go.jp)をオープン

2. 意見聴取会 政府が、7月14日から8月4日まで全国11都市で、エネルギー・環境の選択肢につ いて直接さまざまな意見を聴取する場を主催 意見表明者各9から12名が意見を開陳し、他の表明者の意見を聴取した上でさら にコメントする。 その他の参加者はアンケートを通じて意見を表明 意見表明希望者総数:1,542名(ゼロシナリオ68%、15シナリオ11%、20~25シナ リオ16%、その他5%)、 意見表明者総数:136名、 会場アンケート総数:1,276件(ゼロシナリオ(即ゼロ+段階的)35%、15シナリオ 2%、20~25シナリオ6%、その他57%) 3. パブリックコメント 7月2日から8月12日まで、エネルギー・環境戦略に関する自由記載によるコメント を求める。(HP入力、FAX、郵送) 意見総数:89,124件、約7,000件の集約段階では、即原発ゼロが81%、段階的にゼ ロを含めると90% 経済団体では、ゼロシナリオに反対が多数

4. 討論型世論調査(deliberative poll) あるテーマについて参加者に議論してもらいその前後で考えがどう変わるかをみる調 査の手法。米スタンフォード大のフィシュキン教授とテキサス大のラスキン准教授が 発案し、1994年に英国で最初の実験が行われた。欧米20カ国以上で行われた。 実行体制: 実行委員会(委員長:曽根泰教慶大教授・慶大 DP 研究センター長) 監修委員会(委員長:フィシュキン スタンフォード大教授) 専門家委員会( 8 名の委員。専門的見地から、意見や助言を提供) 第三者検証委員会(委員長の小林傳司大阪大教授ほか委員 2 名) 討論型世論調査の流れ: 3 段階で意向調査を行う 第 1 段階:無作為抽出した 7000 人弱に対して意向調査を実施 (7 月 7 日~ 22 日 ) 第 2 段階:回答者の中から、全国の人口分布に配慮しつつ、約 300 人を抽出。 資料を事前に送付し、学習した上で、当日 (8 月 4 , 5 日 ) 第 2 回意向調査を実施 第 3 段階:少人数のグループで討論、専門家との間で全体討議、最終的な意向調査を実施 7月に20歳以上を対象に電話調査、 回答者6849人のうち286人の希望者が8月4、5日の討論会に参加 「原発0%」が電話調査の32.6%から討論会後の46.7%に増え、 「15%」は16.8%から15.4%に減少、 「20~25%」は13.0%で横ばい、 「安全の確保」をエネルギー政策で最も重視するとした人は68%から81%に増えた。

国民的議論に関する検証会合: 2030年の電力に占める原発の割合について原発ゼロの支持が予想以上に多いこと から、すべての調査が終わった8月13日に政府が「調査の限界を踏まえて冷静に 受け止める」として国民から集まった声をどう評価するかを検討するために急 きょ作られた。 座長=古川国家戦略相、座長代行=枝野産経相、細野原発担当相、委員=8人 8 月 22 日 、27 日 、28 日 の3 回 の 会合 で、 国民的議論 から 得 られることの 総括 を 行 い、「 少 なくとも 過半 の 国民 は 原発 に 依存 しない 社会 の 実現 を 望 んでいる」 との 検証結果 を 示 す

(7) 革新的エネルギー・環境戦略について

a. エネルギー・環境会議の決定内容 5項目 1.原発に依存しない社会の一日も早い実現 3つの原則: ①40年運転制限制の厳格適用、 ②規制委員会の安全確認を得たもののみ再稼働、 ③原発の新増設は行わない、 を適用する中で、2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政 策資源を投入する 5つの政策: ①核燃料サイクル政策(直接処分の研究、廃棄物の減容および有害度の 低減等のための処理技術、専焼炉等の研究開発、これには「もんじゅ」も含 む)、 ②人材や技術の維持・強化(原子力に関する人材育成や技術開発)、 ③国際社会との連携(外国への技術の提供)、 ④立地地域対策の強化(立地自治体へのグリーンエネルギー導入支援と 優先)、 ⑤原子力事業体制と原子力損害賠償制度

2.グリーンエネルギー革命の実現 節電は2030年までに1,100億kWh以上の削減、 省エネは2030年までに7,200万kl以上の削減、 再生可能エネルギーは2030年までに3,000億kWh(3倍)以上を開発 「グリーン政策大綱」を本年末目途にまとめる 3.エネルギー安定供給の確保 当面は火力発電の重要性 4.電力システム改革の断行 分散ネットワーク型システムを構築、 発電・送配電の分離で送配電部門の中立化・広域化 「電力システム改革戦略(仮称)」を本年末目途に策定 5.地球温暖化対策の着実な実施 国内の温室効果ガス排出量を2020年時点で5~9%削減、 2030年時点で概ね2割削減(1990年比) 2013年以降の「地球温暖化対策の計画」を本年末までに策定

b. 内閣の閣議決定について 経団連の米倉弘昌会長、経済同友会の長谷川閑史代表幹事、日本商工会議所の 岡村正会頭が会見で、野田政権の原発ゼロ戦略を批判 2012年9月19日の閣議では「革新的エネルギー・環境戦略」を参考文書扱いに し、 閣議決定を見送る 法的な詰めが一切行われない c. 政権交代・自民党内閣の対応 2012年12月16日の衆議院総選挙では、民主党の「原発ゼロ」を無責任として、 「遅くとも10年以内には将来にわたって持続可能な「電源構成のベストミック ス」を確立する」と、原発政策の結論を先送りする公約を掲げた自民党が議席 数で294議席(61.25%)を獲得し、第1党となった。自民党は早速、民主党の原 発政策を転換し始める。政権発足直後に、国家戦略会議を廃止、エネルギー政 策(原発ゼロを目指す)の見直しを表明した。

(8) 日本のエネルギー政策の問題点

a. 発電コストについて ① 原子力 のコストは 事故 リスク 対応費用 、 放射性廃棄物処分及 び 廃炉 に 要 す る 費用等 が 不確定 であるためにその 最小値 しか 見積 もれない。 ② 再生可能 エネルギ ー は、 特 に、 送電網 というインフラ 整備 が 前提条件 に なる。したがって、 発送電分離 が 最低限必要 である。 b. 核燃料サイクルについて ① 最終処分場 が 決 まらない。 地層処分 がどの 程度可能 なのかは、 直接処分 か 再処理 かの 判断 に 影響 する。 ② 高 レベル 放射性廃棄物 がどんどん 増 えるのでは 処分 が 追 い 付 かない。 総量規制 をする 必要 がある。 ③ 特 に 余剰 プルトニウムの 問題 が 喫緊 の 課題 である。 c. 国民的議論について ①あらかじめ 落 とし 所 を 想定 しての 選択肢設定 が 指摘 された。 ② 国民 の 意見調査 が 想定 と 違 う 結果 になると、その 評価 について 消極的 な 検討 をするために 後付 けで 検証委員会 がつくられた。

(8) 日本のエネルギー政策の問題点(続き)

d. 革新的エネルギー・環境戦略について ① 核燃料 サイクルについてのはっきりした 方針 がない。 外圧・内圧 によって、 青森県 との 約束 を 尊重 すること、 国際的責務 を 果 たす こと 等 を 強調 し、 使用済燃料 の 直接処分 か 再処理 かの 判断 をしなかった。「 直 接処分 の 研究 に 着手 する」の 文言 のみ。 保管 されているプルトニウム( 欧州 に23.3t、 国内 に6.3t)をどうするかとい う 問題 がそのままである。( 原発停止 でMOX 燃料 を 燃 やすあてはなくなる) ② 原発 の 海外輸出 を 進 める 姿勢 には 矛盾 がある。 ③2030 年代 に 原発稼働 をゼロにするための 具体的 な 工程表 が 示 されない。 e. 内閣の決定について ① 経済界 からの 強 い 批判 を 受 けて、 閣議 では「 革新的 エネルギ ー・環境戦略 」 を 参考文書扱 いにし、 閣議決定 を 見送 る。その 結果 、 法的 な 詰 めが 一切行 わ れないこととなる。 f. 政権交代後の対応について ① 政権交代 によってそれまでに 積 み 上 げた 政策形成過程 の 努力 が 無 に 帰 する としたら 問題 である。 ② 総選挙 の 投票率 が 過去最低 の59.32%で、 自民党 の 得票率 ( 比例代表 )は 27.6%であったことを 考 えると、 自民党 のエネルギ ー政策 が 国民 に 支持 されたと いうのは 無理 である。 事実 、1 月半 ば 時点 での 世論調査 でも、 将来 は 原発 を 止 め ることに 賛成 が75%であり、 自民党政権 にその 姿勢 が 感 じられないが57%である。

3.科学技術と社会についての動き 3.1. 科学技術白書(平成24年版)から

(1) 国民の科学技術に対する意識

a. 東日本大震災前後での国民の意識の変化 ○「科学者や技術者に対 する国民の信頼感」 「科学者の話は信頼でき る」

12

15

→6

% 「どちらかといえば信頼で きる(上を含む)」

76

85

→65

% 「平成24年科学技術白書」より

○「誰が科学技術の研 究開発の方向性を決め るか」 「専門家が決めるのが よい」

59.1

→19.5

% 「どちらかというと専門 家(上を含む)」

78.8

→45.0

% 「平成24年科学技術白書」より 科学技術政策の進め方や専門家に対する 国民の信頼は失墜した。

○資源・エネルギー問題 や環境問題など社会の新 たな問題は、科学技術の さらなる発展で解決できる か 「できる」

36.5

→20.2

% 「どちらかというとできる (上を含む)」

75.1

→62.4

% 「平成24年科学技術白書」より それでもなお、科学技術の発展への期待は 強い。

b.

東日本大震災後の専門家の意識 ○「科学者や技術者に対 する国民の信頼感」 「どちらかといえば信頼で きる」

44

% 「どちらかといえば信頼して いない」

39

% 「平成24年科学技術白書」より 一般国民ほど専門家は深刻に捉えていない。(?)

c.

今後への課題 ○「人間は科学技術をコントロールでき ないか」 「コントロールできないと思わない」

41.3

→18.3

% 「どちらかというとそう思わない(上を含 む)」

61.2

→32.5

% 今後は、科学技術がもつリスクや不確実性への対応が求められるような場合、国 民との間で真摯な対話を行い、相互理解の上で科学技術政策を形成していくこと が必要である。 国民が科学技術政策形成プロセスへ一定の関与をしていけるような仕組みを 構築することが求められる。 「平成24年科学技術白書」より

(2) 科学技術政策の課題

①リスクへの事前の対応やリスクコミュニケーションが十分にはできなかった。 (科学技術にはリスクや不確実性あるいは限界があることを踏まえて災害・事故や これによる被害等を想定し、想定外の事象が起こり得ることも認識して事前にこれ らのリスクへ十分に対応してこなかった。さらにはリスクに関する社会との対話を 十分には進めてこなかった。) ②専門家による政府や社会への科学的知見の提供が適切にはなされなかった。 (震災のような緊急時に、科学技術コミュニティによる専門知を結集した科学的知 見の提供と、これに基づく迅速な政策判断の者器への伝達がなされなかった。) ③研究開発の成果を現実の課題に対応させる仕組みが不十分であった。 (これまで多くの投資をした我が国の研究開発の成果が災害や事故に際して必ずし も十分に機能しなかった。原子力発電のシビアアクシデントの防止、地震・津波の 予測技術、ロボットなど) 2012年2月29日の科学技術・学術審議会総会での論点整理のうち、「視点4:社会 への発信と対話」として、 ①科学的助言の在り方、 ②リスクコミュニケーションの在り方 をあげている。 「平成24年科学技術白書」より

3.2. 科学技術コミュニケーション

(1) 科学技術ガバナンスという考えの必要性

縦の関係の「統治」から、水平的で分散的な「ガバナンス」へ ○科学技術に関連する問題が社会の中で増大・複雑化し、政府の力だけでは対 処しきれなくなった。 ○現代の科学技術の性質そのものに関係して、「科学なしでは解けないが、科 学だけでは解けない問題」(これをトランス・サイエンスという)が増えた。 ①科学の不確実性が社会に及ぼす影響が大きくなった。 ②科学技術が社会の中の利害関係や価値観の対立と深くかかわるようになった。 「リスクの 受 け 容 れ 基準 」をどこに 置 くかという 問題 には、リスクや 便益 をめ ぐる 二律背反状態 が 存在 する。 したがって、 政府 や 科学者 ではなく、 市民 が 判断 すべき 問題 である。 科学技術政策形成 に 社会的合意 の 形成 が 必要 になる

(2) リスクコミュニケーション

1970 年代半ばに米国で始まる。 当初は、専門家や行政、企業が、科学技術の素人である一般市民に、一方向的 にリスクに関する科学的情報をわかりやすく伝えることだという考えが一般的 80年代後半から90年代にかけて、コミュニケーションのスタイルは、専門家や 行政、企業から市民への一方的な情報提供や説得から、両者のあいだの対話や 協働など双方向的なものに変わった。

(3) 参加型テクノロジーアセスメント

テクノロジーアセスメントが、1980年代後半、欧州で始まった当初は、ア セスメントの主体は科学者や行政官など専門家に限られていた。 1986年、デンマーク議会のデンマーク技術委員会(DBT)で流れが変わる。 専門家だけでなく、評価対象となる技術の影響を受ける社会主体(消費者 団体や環境保護団体、労働組合、患者団体などの利益集団、一般の市民) も参加する新しいスタイル(参加型テクノロジーアセスメント)が始まる。 その手法の代表格がコンセンサス会議(1987年、DBTが開発)である。

(4) 科学技術コミュニケーション

1985年に英国で始まったのは、いわゆる「科学リテラシー」であった。知識のあ るものからないものへという一方的なもの。 1986年から1996年にかけての「BSE危機」を経験した後、英国政府や科学界は、科 学者、政府、産業界、一般市民らの間の双方向的な「対話」や、政策決定への 「参加」を重視する「公共的関与」というスタイルを選んだ。サイエンスカフェ もその一つ

3.3. 科学者の役割

(1) 政策への科学的助言のあり方

a. 「東日本大震災からの復興と日本学術会議の責務」 ( 2011 年 9 月 22 日) 科学者共同体からの総合的な知を形成して政府への助言・提言を行うことの重要性や、 市民との双方向のコミュニケーションの重要性 b. 「科学技術イノベーション政策推進のための有識者研究会」報告書 (2011 年 12 月 19 日 ) 内閣府特命担当大臣(科学技術政策)の下に設置 「科学技術イノベーション顧問(仮称)」の設置やその事務局・シンクタンク機能の充実、 日本学術会議等との連携強化等、科学的助言機能の強化 c. 政策形成における科学と政府の役割及び責任に係る原則の確立に向け て」(2011年)(独法)科学技術振興機構の研究開発戦略センター (1) 緊急時における科学的助言の基盤の整備、 (2) 政策形成における科学と政府の役割及び責任に係る原則の実施の担保、 (3) 科学的知見に基づく政策形成のための文化の醸成 ①幅広い分野の科学者の間で科学技術と政策・社会との関係についての意識を高める ②関係各機関においてその取り組みをつかさどる担当責任者を任命し、必要に応じて 担当部署を設置し、担当責任者の連携の場を設け、ネットワークを構築する ③科学技術と社会との関係に関する教育・学習の充実、科学的知見に伴う不確実性や 科学技術のリスクに関する教育・学習の充実及びリスク・コミュニケーションの促進 イギリスでは、「政府への科学的助言に関する原則」 (2010 年 ) 、 政府主席科学顧問が緊急時科学的助言グループ(

SAGE

)を組織

3.3. 科学者の役割

(2) 現代科学技術についての認識

a. 望ましい社会と科学技術の発達との整合性 自分たちの置かれている位置( 40 年以上前と比べて大きく変化)を意識すること 社会とのつながりをもてる研究者を育てる仕組みをつくる(評価、予算) 自律的に変わらなければ政治や産業界の介入を招くおそれがある b.科学技術コミュニケーション能力 科学の内容を分かりやすく説明する力 科学の限界について正しく説明する力 市民が科学に対して抱いている不安を認識する力 トランス・サイエンスの時代であることを認識する力 c. トランス・サイエンスについて 核物理学者アルヴィン・ワインバーグが 1972 年に提出した言葉。科学と政治の 交錯する領域をこう呼んだ。 類型1:知識の不確実性や解答を得ることの現実的不可能性 (低レベル放射線障害の生物学的影響、原発の重大事故や巨大地震の 発生など、発生の可能性が極めて低い事象の確率) 類型2:対象の性質による不確実性と=社会科学の不十分さ 類型3:科学と価値の不可避的なかかわり(科学技術政策の問題、社会の中でどの ような科学研究を優先させるべきか) 専門家の態度 (1) 可能な限り研究を進める (2) どこまでが解明できてどこからはで きていないかを明確に示す (3) 専門家の意見が分かれる場面では、一般市民を 含めた公共的討議に参加して意思決定すべき

3.4. 市民に求められるもの

(1) 科学技術の問題を専門家に任せきりにしない態度

科学技術について何か問題や不安が生じたとき、専門家に質問して納得 のいく答えを求めるという的確な対応ができること。 科学技術の詳細な内容ではなく、その本質である不確実性について正し く理解する。

(2) 市民に科学技術政策の舵取りができるか

科学技術の社会的問題は、広範な市民に直接関わる具体的な問題であ り、それに対する対応を即時的に決めなければならないものが多い。 政策形成過程に直接関わる機会を要求することが必要である。 民主主義の枠組みに市民の直接参加の方法をいかに組み込むことがで きるか。 このような活動は今後ますます重要になる。

3.5. まとめにかえて 科学技術は科学者コミュニティの自律的な営みで発展する 政府 企業 負託 政策 支援 助言 科学技術 人の役に立つもの 社会における問題 解決できない 利害対立 研究開発 科学者 解決できない 信頼 トランス・サイエンス 市民 コミュニケーション 市民がどのような未来を望むのか 政府の責任 市民の自立 科学者の自覚 科学技術は社会からの制約の中でしか発展できない