大学院物理システム工学専攻2004年度 固体材料物性

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Transcript 大学院物理システム工学専攻2004年度 固体材料物性

大学院物理システム工学専攻2004年度
固体材料物性
佐藤勝昭
ナノ未来科学研究拠点
この講義で学ぶこと
• 【概 要】
• 固体材料物性のうち、磁気物性と磁気光学を中
心にその物理的概念と応用を学ぶ 。
• 【授業内容・計画と履修のポイント】
• はじめに、磁性学の基礎を学習する。一部は、
2003年のP科4年材料系物理工学の復習になる
が、非受講者のためにあえて講義する。そののち
拙著「光と磁気(改訂版)」に沿って現象論、量子
論、応用を解説する。
固体の電子構造と導電性
バンドモデルが成り立つ系
• 金属のバンド
• 半導体のバンド
バンド理論が成り立たない系
• モット局在
• アンダーソン局在
電子相関とMott絶縁体
► 同じ向きのスピン:同じ軌道に入れない
► 逆向きのスピン:同じ軌道に入ることができる
► 従って、たとえば高スピン状態のFe3+(3d5)から隣のFe3+に
3d電子が移動すると電子のスピンが逆向きでないと移動
できないので、同じ軌道に入ることが、クーロンエネルギー
U分だけエネルギーが高くなる。
► Uが電子移動によるエネルギーの低下W(=バンド幅)より
大きいと局在が起きる。これをMott局在という
局在電子と多電子状態
► 遷移金属イオンのd電子系、希土類イオンのf
電子系:電子の広がりが原子位置付近に局在
► 多電子系の基底状態→ Hund則、ESR
► 局在光学遷移:局所的な対称性を反映
 電荷移動型遷移:配位子のp軌道から遷移金属イ
オンのd軌道への遷移
 配位子場遷移:配位子のp軌道と混成したd軌道に
おける多電子遷移
シリコンと鉄のバンド構造
Si
Fe
(1) 波数ベクトルとは?
結晶運動量
(2)縦軸と横軸
► 縦軸:電子のエネルギー
 正孔のエネルギーは下向き
 単位:Ry=13.6eV (Rydbergリードベリ)
► 横軸:電子の波数ベクトルk
 単位:cm-1
 波数って何?:電子の波動をeikrと表したときのk
 kの大きさ:k=2π/λ いわば空間周波数
(3)Γ、Xなどの記号は何?
BZ(ブリルアンゾーン)の対称点
► BZとは:
 逆格子空間におけるWigner-Seitz Cell
 波数ベクトルkがBZ上にあると電子波のBragg反射が起きる
► BZの形:
 fccではtruncated octahedron, bccでは正12面体
► BZの対称点の記号
 BZの中心k=(0,0,0)がΓ、他は結晶構造で異なる
 fcc格子の場合、k=(0,0,1)がX点、k=(1,1,1)がL点
逆格子
► 電子密度のフーリエ解析
n(r)=ΣnG exp(iG・r)
nG=Vc-1∫celldV n(r)exp(-iG・r)
実空間 r
逆格子空間G
► 3次元の場合:
b1=(2π/Vc)(a2×a3), b2=(2π/Vc)(a3×a1), b3=(2π/Vc)(a1×a2)
bi・aj=2πδij
実格子と逆格子
fcc構造の
ブリルアンゾー
ン
ブリルアンゾーン境界
ブラッグ条件
逆格子空間
実空間
λ
ブリルアンゾーンの形
fcc 例:Si
bcc 例:Fe
Siのバンドと
ブリルアンゾーンの
対称点
k=(0,0,0)
► X点 k=(/a){1,0,0}
► L点 k=(3 /2a) ×{111}
► 点
(4)屏風のようにつながっているのはなぜ?
► Γ-X方向、Γ-L方向、X-U方向など異なる方位の分
散をつなぎ合わせたもの
► Γ点で非対称なのはなぜ?
 k=[1,0,0]方向に関して[-1,0,0]から[1,0,0]までを表示
すれば対称的です。右側は[1,0,0]方向、左側は[1,1,1]
方向に向かっての分散を描いたので、非対称に見える
だけです。
(5)半導体・金属・半金属・ハーフメタル
► 半導体:フェルミ準位を横切るE-k分散がない
 (フェルミ準位がバンドギャップの中に位置する)
► 金属:E-k分散曲線がフェルミ準位を横切る
 (BZにフェルミ面が見られる。電子面、ホール面)
► 半金属:伝導帯の底と価電子帯の頂の波数が異な
り、かつ両帯のエネルギーに重なりがある。
► ハーフメタル:多数スピンバンドは金属であるが、少
数スピンバンドは半導体
半導体・半金属・金属・ハーフメタル
半導体 半金属
金属
ハーフメタル
ハーフメタル:PtMnSb
► ↑スピンは金属、↓スピンは半導体
PtMnSbの磁気光学スペクトル
K 
カー回転と楕円率
(a)
 xy
 xx 1   xx 
誘電率対角成分
(b)
誘電率非対角成分
(c)
(5) Γ25とかΓ12とは?
► 空間群の既約表現の記号
► Γ点では点群Tdと等価
► 既約表現の基底に着目
:2z2-x2-y2, x2-y2のように変換:dγ的
► Γ25 :Sx, Sy, Szのように変換:dε的
► Γ1: r のように変換:s的
► Γ15:x,y,zのように変換:p的
► Γ12
(6)広いバンド・狭いバンド
バンド幅:電子の広がりの尺度
Si
広いバンド:sp電子性
Fe
狭いバンド:d-電子性
Feのフェルミ面
電子フェルミ面
ホールフェルミ面
(7)状態密度
単位エネルギーの区間にどれくらいたくさんの状態があるか
experiment
experiment
多数スピン
Fe
Si
calculation
少数スピン
calculation
状態密度(DOS) 3D

n()
状態密度(DOS) 2D
(8)状態密度曲線の検証:光電子スペクトル
► 占有状態の状態密度の情報
光電子数
h
const
const. final state
: work function
EF
h
variable
EF
(9)状態密度曲線の検証:逆光電子スペクトル
空状態の情報を得る
electron
空のバンド
満ちたバンド
(10)E-k分散曲線の検証
角度分解光電子スペクトルと逆光電子スペクトル
(11)スピン分解状態密度の検証
スピン偏極光電子スペクトル
► I+=↑スピン+↓スピン
► I-=
↑スピンー↓スピン
► I+ + I-= ↑バンド
► I+ - I-= ↓バンド
トンネル磁気抵抗効果(TMR)
TMRデバイス
► 絶縁体の作製技術が
鍵を握っている。→
► 最近大幅に改善
•TMR ratio as large as 45% was
reported. (Parkin: Intermag 99)
•Bias dependence of TMR has
been much improved by double
tunnel junction. (Inomata: JJAP
36, L1380 (1997))
TMRを用いたMRAM
► ビット線とワード線
でアクセス
► 固定層に電流の作
る磁界で記録
► トンネル磁気抵抗
効果で読出し
► 構造がシンプル
交換相互作用:
• ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2
• Jが正であれば相互作用は強磁性的、負であれば反
強磁性的
• 交換積分の起源
– 隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)
– 酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン
同士がそろえあう超交換(superexchange)
– 伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換
(indirect exchange)
– 電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互
作用(double exchange)
局在電子磁性と遍歴電子(バンド)磁性
• 絶縁性磁性体:3d電子は電子相関により格子位置に
局在→格子位置に原子の磁気モーメント→交換相互
作用でそろえ合うと強磁性が発現
• 金属性磁性体:3d電子は混成して結晶全体に広がり
バンドをつくる(遍歴電子という)
– 多数スピンバンドと少数スピンバンドが交換分裂で相対的に
ずれ→フェルミ面以下の電子数の差が磁気モーメントを作る
• ハーフメタル磁性体:多数スピンは金属、小数スピンは
半導体→フェルミ面付近のエネルギーの電子は100%
スピン偏極
局在磁性モデル
常磁性
J>0
強磁性
J<0 反強磁性
交換相互作用
H=-JS1S2
強磁性金属のバンド磁性
• 多数(↑)スピンのバンドと少数
(↓)スピンのバンドが電子間の
直接交換相互作用のために
分裂し、熱平衡においては
フェルミエネルギーをそろえる
ため↓スピンバンドから↑スピン
バンドへと電子が移動し、両
スピンバンドの占有数に差が
生じて強磁性が生じる。
• 磁気モーメントMは、M=( n↑n↓)Bで表される。このため原
子あたりの磁気モーメントは
非整数となる。
非磁性半導体との
比較
バンドと磁性
Ef
Ef
Ef
交換分裂
通常金属
強磁性金属
ハーフメタル
超交換相互作用
• 酸化物磁性体では、局在電子系の磁気モーメ
ントの間に働く相互作用は、遷移金属の3d電
子どうしの重なりで生じるのではなく、配位子
のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的
に遷移した中間状態を介して相互作用する。
これを、超交換相互作用と称する。主として反
酸素イオン
強磁性的に働く。
遷移金属イオン
間接交換(RKKY)相互作用
• 希土類金属の磁性は4f電子が担うが、伝導電子である5d
電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってス
ピン偏極を受け、これが隣接の希土類原子のf電子と相
互作用するという形の間接的な交換相互作用を行ってい
ると考えられている。
• これをRKKY (Rudermann, Kittel, Kasuya, Yoshida)相互作
用という。
• 伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は、距
離に対して余弦関数的に振動し、その周期は伝導電子の
フェルミ波数で決められる。
二重交換相互作用
• LaMnO3では、すべてのMn原子は3価なので egバンドに
は1個の電子が存在し、この電子が隣接Mn原子のeg軌道
に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネル
ギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体と
なっている。
• LaをSrで置き換え4価のMnが生じると、Mn4+のeg軌道は
空であるから、他のMn3+から電子が移ることができ金属
的な導電性を生じる。
• このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とす
ると、eg電子の飛び移りの確率はcos( /2)に比例する。
=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく、運
動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性と
なる。
原子磁気モーメントとバンドモデルの
関係がよくわからないのですが。
• 遍歴電子といっても平面波で表されるような一様なもの
ではなく、原子核付近では電子密度が高く、原子間で
は電子密度が低い状態で表されるので、実際には、ス
ピン密度も原子付近で大きくなっていると考えられます。
• 3d電子のなかでも比較的原子付近にいる電子dlと、動
き回っている電子diに分け、diがdlの磁気モーメントをそ
ろえて回っているというRKKY交換相互作用で解釈す
る考えもあります。
• バンド計算では、いろいろな相互作用がひとりでにとり
こまれているので、特定の相互作用に切り分けて説明
するのは容易ではないのです。
第1原理のバンド計算でどんな磁性体
の磁性も説明できるのですか。
• 遍歴磁性モデルが適用できるのは、金属磁性体に限られ
ます。
• 絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってし
まいます。絶縁体になるのは、電子相関が働くからです。
• 電子相関とは、フントの規則のように電子同士のクーロン
相互作用がスピンに依存することから生じます。つまり、逆
向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクー
ロン相互作用が強くなって、エネルギー的に不安定になる
ため、電子の移動を妨げる効果です。
• このエネルギーはUと表され、数eVのオーダーです。最近
では、このUをパラメータとして取り込むことによって絶縁性
の局在電子系磁性体の磁性を計算する試みが行われて
います。