高齢者虐待防止法 - 三重県社会福祉士会

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Transcript 高齢者虐待防止法 - 三重県社会福祉士会

施設などにおける
高齢者虐待防止
弁護士石坂俊雄
高齢者虐待防止法制定の理由
• 2006年4月1日より施行,条文は30条
• 高齢者虐待の調査(厚生省.04年3月公表)
– 現状
• 全国各地に虐待は多数
• 対応に苦慮、市町村の取り組みが遅れている
など問題が
– 約1割 → 生命にかかわる危険
– 約半数 → 心身の健康に悪影響がある
– 虐待者:息子(3割),息子の配偶者(2割),
配偶者(2割)
平成20年度の厚労省調査
• 施設等での虐待で相談・通報のあった件
数451件(平成20年度)
– 前年度より72件(19%)の増加
• 451件のうち,虐待が認められた事例は70
件 前年度より8件(12.9%)増加
– うち,三重県は3件
相談・通報は誰から?
• 家族・親族が
34.6%
• 当該施設職員
25.7%
• 当該施設の元職員 12.4%
• 介護支援専門員
3.5%
• 本人による届出
3.1%
虐待があった施設の種別
• グループホーム 31.4%
• 特別養護老人ホーム30.0%
• 介護老人保険 15.7%
• 訪問介護・訪問入浴介護10.0%
虐待の類型
•
•
•
•
•
身体的虐待
心理的虐待
介護等放棄
性的虐待
経済的虐待
74.3%
30.3%
5.7%
4.3%
4.3%
被虐待高齢者の性別・年齢
• 性別
– 女性70.2%,男性29.8%
• 年齢
– 80~84歳 27.9%
– 85~90歳 26.9%
– 91歳~94歳15.4%
虐待を行った
養介護施設従事者の職種
• 介護職員 89.5%
• 管理者
5.8%
• 看護職員 1.2%
高齢者虐待とは
• 養護者による高齢者虐待及び養介護
施設従事者等による高齢者虐待をいう
(2条3項)
• 高齢者とは,65歳以上の人をいう
養介護施設及び養介護事業とは
•
•
•
•
①介護保険施設,②養護老人ホーム
③軽費老人ホーム,④有料老人ホーム
⑤居宅介護支援事業者及び介護支援事業者
⑥居宅サービス事業者,⑦地域密着型サービス事
業者
• ⑧介護予防サービス事業者,⑨地域密着型介護予
防サービス事業者
• ⑩地域包括支援センター及び老人介護保険支援セ
ンター
• ⑪老人福祉センター
施設内での虐待の態様
①
②
③
④
職員による虐待
利用者間での虐待
面会者(家族)による虐待
実習生,ボランティアによる虐待
高齢者虐待の内容
① 高齢者の身体に外傷を生じ,又は生じるおそ
れのある暴行(身体的虐待)
② 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長
時間の放置(放置・ネグレクト)
③ 高齢者に対する著しい暴言又は著しい拒絶
的な対応,その他高齢者に著しい心的外傷を与
える言動(心理的虐待)
高齢者虐待の内容
④ 高齢者にわいせつ行為をすること又はわい
せつ行為をさせること(性的虐待)
⑤ 高齢者の財産を不当に処分すること,その
他高齢者から不当に財産上の利益を得るこ
と(2条4項2号)(経済的虐待)
養介護施設従事者等
による高齢者虐待(2条5項)
① 身体的虐待
高齢者の身体に外傷を生じ,又は生じるお
それのある暴行
例えば,平手打ちする、つねる、殴る、蹴る、
無理矢理食事を口に入れる、やけど、ベットに
縛り付ける、意図的に薬を過剰服用させる
身体拘束・抑制する
② 放置・ネグレクト
高齢者を衰弱させるような著しい減食又は
長時間の放置,高齢者を養護すべき職務上の
義務を著しく怠ること
例えば,入浴させない 髪が伸び放題 皮膚
が汚れたまま 水分や食事を十分に与えない
ゴミが放置された劣悪な住環境での生活 介
護・医療サービスを理由なく制限する
③ 心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言又は著しい拒絶
的な対応,その他高齢者に著しい心的外傷を
与える言動
例えば,排泄の失敗を笑う 怒鳴る ののしる
悪口を言う 侮辱を込めて子供のように扱う
話しかけてくるのに意図的に無視する
④ 性的虐待
高齢者にわいせつ行為をすること又は
わいせつ行為をさせること
例えば,排泄の失敗の懲罰として下半
身を裸にして放置する キス,性器への
接触
経済的虐待
高齢者の財産を不当に処分すること,そ
の他高齢者から不当に財産上の利益を
得ること
例えば,金銭を渡さない 年金・預貯金を
本人の意志に反して使用する。 財産を
売却する
⑤
平成22年9月30日の厚労省からの通達
(1)入所者を車いすやベットから移動させる際に,
必要以上に身体を高く上げる
(2)裸になった入所者の姿を携帯電話で撮影し
て,他の職員に見せる
(3)入所者の顔に落書きをして,それを携帯電話
で撮影して,他の職員に見せる
以上の行為は虐待に当たる
虐待の具体例の検討
① 認知症のAさんの居室で,介護職員Bさんが,A
さんを叩いているのを介護職員のCさんが発見
して,Cは主任に報告した
主任は施設長に報告して,施設長がBさん聞き
取り調査をしたところ,夜勤明けの朝,BさんがAさ
んの更衣介助を行おうとしてところ,Aさんが更衣
を拒否して手を挙げてきたので,BさんはAさんを
抑えるために叩いてしまったということであった
虐待の具体例の検討
② 寝たきり認知症のAさんの居室において,介護職員
BさんがAさんを叩いたり,つねったりしているのを目撃
したが,報告することの後ろめたさがあり,黙っていたが,
度々あったので,主任に相談して,施設長に報告した。
施設長が聞き取り調査をしたところ,Aさんは,食事は
全介助であり,好き嫌いが多く,食べたくない物は全く食
べないし,飲み込みも悪く,奇声を発し,職員への要求が
絶えない入所者である。
BさんがAさんのおむつ交換の時,「あなたが嫌い」と
言って,おむつ交換に抵抗した Aさんは乱暴に扱うと
おとなしくなるので,Bさんは,怒鳴って,叩いて,おむつ交
換をした。
身体拘束と虐待
身体拘束は,原則としてすべて高齢者虐待
に該当する行為である
介護保険指定基準において禁止対象と
なっている行為
事例検討
① 徘徊しないように,車いすや椅子,ベットに体幹や四
肢をひもなどで縛る
② 転落しないように,ベットに体幹や四肢をひもなどで
縛る
③ 自分で降りられないように,ベット柵で囲む
④ 点滴・経管栄養のチューブを抜かないように,四肢
をひもで縛る
⑤ 点滴・経管栄養のチューブを抜かないように,また
皮膚をかきむしらないように,手指の機能を制限する
ミトン型の手袋等をつける
事例検討
⑥ 車いすからずり落ちたり,立ち上がったりしないように,
Y字型拘束帯や腰ベルト,車いすテーブルをつける
⑦ 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるよう
な椅子を使用する
⑧ 脱衣やおむつはずしを制限するために,介護衣(つな
ぎ服)を着せる
⑨ 他人への迷惑行為を防ぐために,ベット等に体幹や四
肢をひもなどで縛る
⑩ 行動を落ち着かせるために,向精神薬を過剰に服用
させる
⑪ 自分の意志で開けることができない居室に隔離する
緊急やむを得ない場合の3要件
緊急やむを得ない場合で次の3要件を満す場合
は例外的に高齢者虐待に該当しない
① 利用者本人又は他の利用者の生命又は身体
が危険にさらされる可能性が著しく高い場合
→切迫性がある
② 身体拘束以外に代替する介護方法がない
→非代替性
③ 身体拘束が一時的なものであること
→一時性
緊急やむを得ない拘束をした場合
身体拘束をした場合は記録の作成が義務
づけられている
• 個人やチームの判断ではなく,施設全体で
判断することが必要
•
早期発見(5条)
養介護施設,病院,福祉関係者,
医師,弁護士など,高齢者福祉に職務上
関係ある者は,高齢者虐待の早期発見
に努めなければならない
通報義務(7条)
① 高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を
発見した者は,当該高齢者の生命又は身体に
重大な危険が生じている場合は,速やかに,こ
れを市町村に通報しなければならない
(1項)→通報義務
② 上記以外の虐待を受けたと思われる高齢
者を発見した者は市町村に通報するように努
めなければならない(2項) →努力義務
施設職員の通報義務(21条1項)
• 養介護施設従事者等は,養介護施設,養介護
事業所において,養介護従事者等による高齢
者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した
場合には,速やかに市町村長に報告しなけれ
ばならない(21条1項)
→通報義務である
通報を受けた市町村の役割(24条)
• 通報を受けた場合に,市町村は,高齢者の虐
待の防止及び当該高齢者の保護を図るため
に,老人福祉法又は介護保険法の規定による
権限を適切に行使する
国及び地方公共団体の責務(3条)
国及び地方公共団体は,
① 関係機関及び民間団体の間の連携強化,そ
の他必要な体制の整備に努めなければなら
ない(1項)→この民間団体に社会福祉士会,
弁護士会等が入る
② 高齢者虐待防止などのために関係機関職
員の研修など資質向上に努めなければなら
ない(2項)
③ 広報,啓発活動を行う(3項)
通報をした者に対する保護
① 秘密漏示罪,その他守秘義務に関する規
定は通報義務を妨げるものとして解釈しては
ならないが,虚偽であるもの及び過失によるも
のが除外された(21条6項)→過失を場合を
除外したのはおかしい
虐待があると考えたことに一応の合理性が
あれば「過失」はない
→虐待が行われていることを通報することが,守秘
義務を課せられている「秘密」にあたるのか疑問
であるし,虐待を通報することには違法性がない
秘密漏示罪は
• 秘密漏示罪は,通報を妨げるものとして解釈
してはならない(3項)
• ② 通報したことを理由として解雇その他不利
益な取扱を受けてはならない(21条7項)
• ③ 公益通報制度
行政機関に対する通報の場合
(1)不正の目的で行われた通報でないこと
(2)通報内容が真実であると信じる相当の理由が
あることの2要件を満たせば,
•
通報者を解雇をした場合無効であり,その
他の不利益取扱が禁止される
• ④ 通報を受けた市町村は,通報した人が特
定できるような事項を漏らしてはならない(23
条)
施設からの市町・県に対する
情報公開の申立
• 三重県の公開情報条例7条1項によれば,
• 「開示請求があったとき,法令若しくは他の
条例の定めることにより公にすることができな
いと認められた情報」は開示義務がない
• → 高齢者虐待法は,市町村は,通報した人
が特定できるような事項を漏らしてはならな
い(23条)とあるので,情報公開する義務がな
い
市町の県に対する報告義務
• 市町は,通報などを受けた場合は都道府
県に報告しなければならない(22条)
職員から虐待の通報を受けたら
施設としてどうするか
① 職員または本人・家族から通報を受けたら,責任者
に報告し,責任者は施設長に報告する
② 施設長を中心に虐待を行った職員及びその他の
職員への聴き取り調査をする → 虐待の事実が
あったか否かの確認をする
③ 虐待の事実が確認されたら,再発防止策を検討す
る
④ 防止策を検討した上で,施設がある市町に報告を
する
⑤ 家族に対する説明・謝罪
通報を受けた市町・県の措置(24条)
• 通報を受けた市町又は県は,高齢者の保護を図るた
め,老人福祉法及び介護保険法に規定された権限
を適切に行使しなければならない
• 市町又は県は,虐待の事実を確認した上で,
市町又は県は,施設内での虐待防止改善計画の策
定,その周知徹底,虐待防止のための第三者委員会
の設置を指導する
• 従事者等による虐待の状況の報告(毎月)をさせる
市町・県の指導に従わなかった場合
• 施設などは、老人福祉法及び介護保険法に
よる勧告・命令・指定の取消処分等を行う
立入調査(11条)
• 市町長は,虐待されている高齢者の生命又は
身体に重大な危険が生じているおそれがあ
ると認めるときは,包括支援センターの職員,
その他の高齢者の福祉に関する事務に従事
する職員をして,住所又は居所に立入,必要な
調査又は質問ができる
• しかし,養介護施設従事者等による虐待には,
立入調査権の条項を用意していない
→ 立入拒否が想定されていない
→ 施設などには,市町及び県が老人福
祉法(18~19条,29条),介護保険法(74条5
項,77条等)により立入調査などの監督権限
がある
面会の制限(14条)
• 老人福祉法11条第1項第2号又は第3号の措置が採
られた場合は,市町長,養介護施設の長は,高齢者を
虐待した養護者との面会を制限することができる
• →養介護施設長も面会の制限が出来るとなってい
るが,面会の申し込みがあった場合は,市町に面会
の要望について連絡し,判断を仰ぐ旨を伝え,単独で
の判断をしない 最終的責任は市町が負い,施設は
措置された高齢者の生活支援をすることに専念し,
役割分担をする
研修の実施(20条)
• 事業者は,研修を実施し,高齢者虐待の防止
が,高齢者の基本的人権を確保するために必
要であることを職員に周知しなければならな
い
苦情体制の充実(20条)
• 社会福祉法82条は,「社会福祉事業の経営
者は,常に,その提供する福祉サービスについ
て,利用者等からの苦情の適切な解決に努め
なければならない」と定め,事業者自身に苦情
解決の責務があることを明らかにしている
→ 実行あらしめるためには,苦情処理の窓
口として「第三者委員会」を設置して,利用者
に氏名や連絡先などを知らせる必要がある
サービス従事者に対する支援
(条文無し)
• 高齢者虐待防止法は,養護者に対する支援
規定(14条)を置いているが,サービス従事者
に対する支援規定は置いていない。
しかし,規定はないが,事業者の当然の責務
であると考える
個人情報の問題
① 個人情報保護法は,過去6ヶ月以内のいずれ日に
おいても,個人情報データーベース等を構成する個
人情報によって識別される特定の個人の数が5000
を超える場合(2条,施行令2条)
→このような人,法人を個人情報取扱業者という
→ サービス提供事業者及び介護保険施設など
は,個人情報が5000件をこえないところがあるかもし
れない
しかし,介護関係事業者は,その取り扱っている情
報がセンシティブ情報であるため,5000件以内の小
規模事業者でもガイドラインを守ることを求めている
個人情報
② 施設内において,虐待をされた人の個人情
報を施設内の複数部署,担当者で検討する場
合
→ 施設内での被虐待者,虐待者の個人情
報の利用は第三者提供にあたらない
個人情報
③ 虐待通報により得た個人情報は,それを関
係機関で利用することは,第三者提供の制限
の例外にあたる
→「人の生命,身体,財産の保護のため必
要がある場合」に該当するので,情報を共有
することは何ら問題はない
個人情報の共同利用
④ 事前に個人データを特定の者との間におい
て
• 共同で利用すること
• 共同利用する項目
• 共同利用する者の範囲
• 利用目的
• 個人データの管理責任者氏名・名称をあらか
じめ,本人に通知し,又は本人が容易に知りう
る状態においているときは(施設内の掲示,
ホームページの掲載)本人同意はいらない
医師との関係
•
医師から,本人の身体の状態を聞くのは,人
の生命,身体,財産の保護のため必要がある
場合に該当するので本人の同意はいらない
具体的問題について考えてみましょう
① Aさんには,長女と次女がいる 長女と次女は仲が悪
い
Aさんが入所している施設に長女がやってきて,次女
が来ても面会させないでほしいと希望した 身元保証
人である長女の意向にそって施設では次女をAさんに
会わせないことにした
しかし,後日県からは「Aさんが面会を拒否していな
いのに,長女の希望で次女を合わせないのは虐待行
為だ」と指摘されたが虐待か?
② Bさんには,医師から減塩食の指示が出て
いる
Bさんは味付けの濃いものが好きで,減塩食
はまずいといって残してしまう
醤油をかけると全量摂取できるため,職員が
醤油をかけて食べさせるようになった 医師
の指示を守らず,醤油をかけ続けたことは虐
待か不適切ケアかわからない?
③ Cさんは,歌が大好きだが言語障害があり
きれいな声では歌えない
デイサービスでクリスマス会を開くことにし
て,Dさんがクリスマスソングを歌うことになり,
Cさんはとても悔しく残念な思いをした
このようにCさんが努力してもできない行為
を,歌の得意なDさんにさせることは 虐待にな
るか?
④ トイレで排泄の失敗をした利用者のズボン
とリハビリパンツを脱がせて, 新しいものを着
せる前に,トイレ掃除を優先してしまった
これは虐待だろうか?
⑤ 肘掛け椅子がなければ立ち上がれない利
用者が5人いるが,肘掛け椅子が3つしかない
ため,2人には肘掛のないイスでガマンしても
らっていた。
「私たちも肘掛けイスにしてほしい」と望んで
いる利用者に対して,
経営側の都合で購入せずガマンさせ続ける
ことが虐待行為になるか?
⑥ Eさんがなかなかリハビリに意欲的にならないので,
励ますつもりで「このままリハビリを嫌がってばかり
いると,寝たきりになって紙おむつになるのもすぐそ
こよ」と発破をかけた。
Eさんは寝たきりになる不安から,リハビリをするよ
うになった。
利用者の不安をあおるような言葉は虐待になると
聞いているが,
結果的にリハビリを再開するようになったのだから
よいのではないのか?
⑦ たびたび「相談がある」と話しかけてくる入
所者のFさんに対して, 忙しいためついつい
「ちょっと待って」と言ってしまう。
どうせたいした話では ないのがわかってい
るので聞かなくても良いと思うが,心理的虐待
になるのか?
⑧ 事業所の方針として寝たきりをつくら
ないために,日中は全員がデイルームに
集まるようになっているが,中には他人と
の交流が嫌いな人がいて苦痛になると
言われる。
デイルームで過ごさせることは虐待
か?
⑨ 2階,3階が居住スペースの施設(宅老
所?)で,1階でデイサービスを行っている。
ケアマネが訪問すると,1階のデイサービス
スペースには誰もおらず, 利用者はそれぞれ
の居室で過ごしている。
施設側は「うちは,本人の自由を尊重する方
針なので,全員が同じ場所で過ごしているとは
限らない」と言った。 しかし,デイサービス利
用料を取っているのだから,居室で過ごすの
はネグレクトにあたらないのか?
⑩ 認知症で寝たきりのFさんの家族から入所費用の
振込みが滞るようになり,
何ヶ月も滞納が続いた 裁判所から家族に対して
支払い命令が出されたが, それでも「支払うお金が
ない しかし,引き取って介護するのも無理」と言って
滞納を続けた。
1~2年同じようなやりとりが続いた後, 施設側はこ
れ以上Fさんを入所させて置けないと判断して,自宅
へ送り届けた。
介護力がないことがわかっている家庭に,要介護
者を置いてきたことは虐待か?
⑪ 平成22年9月16日の
福岡高裁の「爪はぎ」虐待事件
• 肥厚爪の爪切りは,日常の必要なケアであるが,あ
まり爪切りなどしない他の看護師が「爪はぎ」と誤
解して,施設,捜査機関,報道機関を巻き込んで傷害
事件として起訴された
• 1審では有罪となったが,控訴審では,検察側証人
の医師までが,爪切りは「爪ケア」として適切と証言
•
肥厚爪は,爪切りを始めると,爪そのものの接着
性が弱く,爪がぽろっととれてしまうことがある
虐待と不適切ケアの基準
• 故意が無くても,虐待は成立する。
• 高齢者の人間としての尊厳を侵害する行為
に至っているか否か。
• 福祉の仕事に従事する人は専門職として高
齢者に対して,高度の対応が求められている。