パワーポイント

Download Report

Transcript パワーポイント

DSAの発達研究への適用例
西條剛央
早稲田大学人間科学研究科
日本学術振興会特別研究員
新たな発達理論

ダイナミックシステムズアプローチ(DSA)




Thelen &Smith(1993、1994、1998)
発達の非線型性に基づく
発達プロセスの多様性を前提とする
DSAとはダイナミズムを記述する「枠組み」や
「言語」 (Thelen &Smith, 1998)


誤解:身体の運動や協調といった特定の現象のみを説明する理論
ではない
神経、生理レベル、個人や社会行動のレベルといった様々なレベル
の発達現象に適用可能
行動・発達発現モデルの比較
従来の行動・発達発現モデル
DSAにおける行動・発達発現モデル
中枢
行動(集合変数)
コントロール
パラメータA
行動
単純な因果モデル
コントロール
パラメータC
コントロール
パラメータB
発達の非線型性・多様性モデル
DSAの方法論上の基本的手続き
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
システムの状態を反映する集合変数を決める
影響力のある(観測する)CPにあたりをつける
集団としての大まかな発達傾向をつかむ
ダイナミックな発達軌跡を描く
変化点を特定する
発達的変化を発生させるCPを特定する
CPに焦点化して変化の構造を解明する
動的構造モデルの提起
DSA:研究上の方法・手続きの欠如


データ収集法やモデル化のための新たな方法が必要
(Thelen & Smith, 1998)
DSAの枠組みにおいて発達を捉えるための独自の方
法・手続きを工夫する必要がある


縦断研究法(西條,2001)
本研究では数量的分析のみならず、要因関係性のダイ
ナミックな把握に向いている質的分析も用いる
1.対象とするシステム(集合変数)の決定


【意義】
「抱き」は発達初期の母子
関係における重要なシステ
ム
【目的】
「どのような過程を経て横
抱きから縦抱きへ抱き形態
は変化するのか?」
を明らかにする
Figure1-1
Figure1-2
【方法】



対象:研究開始時に生後1ヶ月の乳児とその母
親16組
観察期間:生後1ヶ月時から1ヶ月おきに計7回の
縦断的観察(自然場面と実験場面)
ビデオ分析と質問紙・インタビュー
2.観測すべきCPにあたりをつける

先行研究から


予備観察から


首すわり
横抱きに対する抵抗
理論から

生態心理学:身長・体重といった物理的特性
手続き

1回の観察

①通常抱き場面 + ②課題設定場面

①通常抱き場面:普段通り抱くよう教示

②課題設定場面:通常抱きと反対抱きを教示

子の能動的関与を検討
課題設定場面で観察された行動

『抵抗行動』
 頭部や胴体を垂直に起こそうとする
 手足をばたつかせる
 泣く
 全身をくねらせる
 これらの行動が発現し,その後,もとの抱き方に戻した際,す
ぐにその行動が収まる
【結果】[分析1:数量的分析]
3.集団の発達から大まかな傾向をつかむ
êŽãNó¶Å@Åì
100
80
ècï¯Ç´
60
éÒç¿ÇË
40
â°ï¯Ç´Ç…ëŒÇ•
ÇÈíÔ
çR
20
0
1
2
3
4
åéóÓ
5
6
7
çŽâEîžëŒï¯Ç´Ç…ëŒ
Ç•
ÇÈíÔçR
4.個々の発達軌跡を描く
5.変化点を特定 →パターン分類
Table 1 各変数の時系列的関連パターンとその例数(%)
パターン1:“最初の横抱きに対する抵抗”と“縦抱きへの移行”が同時生起後に“首座り”が生起.
3例(18.75%)
具体例:母子A
月齢
1
2
3
4
5
6
7
縦抱きの生起
×
●
○
○
○
○
○
首座り
×
×
○
○
○
○
○
縦横反対抱きに対する抵抗
×
○
○
○
○
○
○
左右反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
×
×
身長(cm)
58.0
62.0
64.5
65.2
66.5
70.0
70.8
体重(Kg)
5.2
6.4
7.3
7.9
8.1
8.4
8.9
パターン2
パターン2:“首座り”生起後に“最初の横抱きに対する抵抗”と“縦抱きへの移行”が同時生起.
5例(31.25%) 具体例:母子B
月齢
1
2
3
4
5
6
7
縦抱きの生起
×
×
×
×
×
●
○
首座り
×
×
○
○
○
○
○
縦横反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
○
×
左右反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
×
×
身長(cm)
60.1
63.0
65.0
66.8
70.1
73.1
73.6
体重(Kg)
6.0
6.8
7.6
8.0
8.5
9.0
9.2
パターン3
パターン3:“最初の横抱きに対する抵抗”と“首座り”・“縦抱きへの移行”が同時に生起. 5例(31.25%) 具体例:母子C
月齢
1
2
3
4
5
6
7
縦抱きの生起
×
×
×
●
○
○
○
首座り
×
×
×
○
○
○
○
縦横反対抱きに対する抵抗
×
×
×
○
○
○
○
左右反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
×
×
身長(cm)
54.0
56.9
61.3
68.3
69.0
70.7
72.2
体重(Kg)
6.3
6.8
7.0
8.0
8.4
8.8
8.9
パターン4
パターン4:“首座り”と“縦抱きへの移行”が同時生起後に“横抱きに対する抵抗”が生起. 1例(6.25%)
母子D
月齢
1
2
3
4
5
6
7
縦抱きの生起
×
×
●
○
○
○
○
首座り
×
×
○
○
○
○
○
縦横反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
×
○
左右反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
×
×
身長(cm)
54.0
57.5
59.0
61.0
62.6
65.0
66.2
体重(Kg)
4.0
4.9
5.4
6.2
6.5
6.6
6.8
パターン5
パターン5:“横抱きに対する抵抗”は生起せず,“首座り”と“縦抱きへの移行”が同時生起. 1例(6.25%) 母子E
月齢
1
2
3
4
5
6
7
縦抱きの生起
×
●
○
○
○
○
○
首座り
×
○
○
○
○
○
○
縦横反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
×
×
左右反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
×
×
身長(cm)
60.9
66.0
69.5
70.0
71.6
72.0
73.0
体重(Kg)
5.7
7.0
7.6
8.0
9.1
9.3
9.5
パターン6
パターン6:“首座り”後に,“縦抱きへの移行”が生起し,その後“横抱きへの抵抗”が生起. 1例(6.25%) 母子F
月齢
1
2
3
4
5
6
7
縦抱きの生起
×
×
×
●
○
○
○
首座り
×
×
○
○
○
○
○
縦横反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
○
×
左右反対抱きに対する抵抗
×
○
×
○
×
×
×
身長(cm)
61.1
61.5
62.5
64.5
65.3
68.2
70.0
体重(Kg)
4.5
4.8
6.3
6.8
7.1
8.0
8.2
6.影響力のあるCPの特定
CPの絞込み:ステップワイズ
Table 2 縦抱きの出現の有無を目的変数とした回帰分析の結果
Step
予測変数
R2乗
累積
回帰係数
F
1
横抱きに対する抵抗の有無
0.640
0.640
0.800
45.000***
2
首座りの有無
0.116
0.702
0.340
34.179***
***P<.0001
(注)以下の因子は選択されなかった.(カッコ内R2乗)
身長(.0177)
体重(.0117)
左右反対抱への反応(.0034)
月齢(.0004)
【分析1のまとめ】

縦抱き出現へ影響を与えていたCP



CP間の相互作用の可能性


首すわり
横抱きに対する抵抗の初出
この2つには特に関連性は見られなかった
この2CPに焦点化し移行プロセスを詳細に検討

要因関係性のダイナミックな把握に適した質的分析を用いる
7.CPに焦点化して変化の構造を解明する
【分析2:DSAにおける質的分析】

A.母親へのインタビュー:縦抱きに変えた主な理
由





赤ちゃんが嫌がったから(抵抗)⇨4名
赤ちゃんの首がすわったから⇨3名
両方⇨9名
分析1とほぼ一致
移行プロセスへの言及の代表例
「首がすわって、横抱きだと落ち着かない。
あばれる。縦抱きにすると落ち着く。
それが何度かあって縦抱きになった。」

知識関与の可能性

縦抱きへの移行 ⇨0名
 首がすわったら縦抱きにするという知識に基づき、首がす
わったから縦抱きに変えたとといった答えはみられなかっ
た
行為経済性

直接質問していないにもかかわらず、
身体レベルでの利益や負担 ⇨9名





抱きやすい
楽である
利き手が他のことに使える
横抱きは腕が疲れる
「行為経済性」に関する言及を統合

「首がすわる前に縦抱きをするのはたいへんだが,首がすわってから
はむしろ縦抱きの方が楽であり,抱きやすく便利である」
インタビューのまとめ



子が横抱きを嫌がり縦抱きにするとそれが収
まる
子の首すわりに伴い縦抱きの方が抱きやすく
なった
身体レベルで影響を与えている
縦抱き移行場面の質的分析
子
母
8.動的構造モデルの提起
縦抱きへの移行モデル
縦抱きへの移行時期は多様
いずれも母子の相互作用の
結果縦抱きへ移行

横抱き
縦
抱
き
横抱きに対
する抵抗
自己組織化
首すわり
パ
タ
・
ン
3
横抱き
ア
フ
棈
・
ド
縦
抱
き
縦
抱
き
姿勢発達理論への示唆

横抱きへの抵抗行動の意味



乳児が母親との抱きシステムの中で,姿勢を制御し,自ら座位
に到ることを意味している。
視覚発達にともない垂直姿勢を志向
能力獲得結果としての姿勢発達だけではなく,
乳児の内的側面が姿勢発達に果たす役割につ
いて検討する必要
ISSBDにみる海外におけるDSA
ー国内との比較ー


○実際の研究・有益な知見が生み出されている
◎アトラクタの表現方法が優れていた

変化を指標とする(目視+カウント可能)
×縦断データの処理がヘタ
縦断データの特徴を活かせていない(平均値主義)
×自己組織化のプロセスは示せてはいない
DSAに基づく方法論の復習
1.対象とするシステム(集合変数)の決定


【意義】
「抱き」とは発達初期の母
子関係における重要なシス
テム
【目的】
「どのような過程を経て横
抱きから縦抱きへ抱き形態
は変化するのか?」
を明らかにする
Figure1-1
Figure1-2
2.観測すべきCPにあたりをつける

先行研究から


予備観察(+勘)から


首すわり
横抱きに対する抵抗
理論から

生態心理学:身長・体重といった物理的特性
【結果】[分析1:数量的分析]
3.集団の発達から大まかな傾向をつかむ
êŽãNó¶Å@Åì
100
80
ècï¯Ç´
60
éÒç¿ÇË
40
â°ï¯Ç´Ç…ëŒÇ•
ÇÈíÔ
çR
20
0
1
2
3
4
åéóÓ
5
6
7
çŽâEîžëŒï¯Ç´Ç…ëŒ
Ç•
ÇÈíÔçR
4.個々の発達軌跡を描く
5.変化点を特定→パターン分類
Table 1 各変数の時系列的関連パターンとその例数(%)
パターン1:“最初の横抱きに対する抵抗”と“縦抱きへの移行”が同時生起後に“首座り”が生起.
3例(18.75%)
具体例:母子A
月齢
1
2
3
4
5
6
7
縦抱きの生起
×
●
○
○
○
○
○
首座り
×
×
○
○
○
○
○
縦横反対抱きに対する抵抗
×
○
○
○
○
○
○
左右反対抱きに対する抵抗
×
×
×
×
×
×
×
身長(cm)
58.0
62.0
64.5
65.2
66.5
70.0
70.8
体重(Kg)
5.2
6.4
7.3
7.9
8.1
8.4
8.9
6.影響力のあるCPの特定
→CPの絞込み:ステップワイズ
Table 2 縦抱きの出現の有無を目的変数とした回帰分析の結果
Step
予測変数
R2乗
累積
回帰係数
F
1
横抱きに対する抵抗の有無
0.640
0.640
0.800
45.000***
2
首座りの有無
0.116
0.702
0.340
34.179***
***P<.0001
(注)以下の因子は選択されなかった.(カッコ内R2乗)
身長(.0177)
体重(.0117)
左右反対抱への反応(.0034)
月齢(.0004)
7.CPに焦点化して変化の構造を解明する
[分析2:DSAにおける質的分析]

A.母親へのインタビュー:縦抱きに変えた主な理由
赤ちゃんが嫌がったから(抵抗)⇨4名
 赤ちゃんの首がすわったから⇨3名
 両方⇨9名



分析1とほぼ一致
移行プロセスへの言及
「首がすわって、横抱きだと落ち着かない。
あばれる。縦抱きにすると落ち着く。
それが何度かあって縦抱きになった。」

7.CPに焦点化して変化の構造を解明する
行為経済性

直接質問していないにもかかわらず、
身体レベルでの利益や負担 ⇨9名





抱きやすい
楽である
利き手が他のことに使える
横抱きは腕が疲れる
「行為経済性」に関する言及を統合

「首がすわる前に縦抱きをするのはたいへんだが,首がすわってからは
むしろ縦抱きの方が楽であり,抱きやすく便利である」
7.CPに焦点化して変化の構造を解明する
縦抱き移行場面の質的分析
子
母
8.動的構造モデルの提起
縦抱きへの移行モデル
縦抱きへの移行時期は多
様
いずれも母子の相互作用
の結果縦抱きへ移行

横抱き
縦
抱
き
横抱きに対
する抵抗
首すわり
ア
フ
棈
・
ド
縦
抱
き
自己組織化
パ
タ
・
ン
3
横抱き
縦
抱
き
DSAの発達研究への適用例
ご静聴ありがとうございました。
西條剛央
早稲田大学人間科学研究科
日本学術振興会特別研究員
[email protected]
9/26(学会二日目)10:30〜11:30
心理学の統一化に向けた理論
的枠組みについて考える
演者:西條剛央
早稲田大学人間科学研究科
日本学術振興会特別研究員
司会:根ヶ山光一(早稲田大学)