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日本に滞在する外国籍の
人々への支援をめぐって
大正大学人間学部
大学院人間学研究科
教授 萩 原 康 生
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きょう、お話しすること
~社会福祉の目標は、人権保障です~
1.日本に滞在する外国人の実態
→居住していない外国人、すなわち「オーバーステイ」
の外国人も含みます。
2.日本に滞在する外国人の問題
(1)在留資格のある外国人→人身売買被害者等
(2)在留資格のない外国人→オーバーステイ等→生活
に困窮する外国人
3.子どもの問題~未就籍、無国籍、人身売買
ここでは、私の関わった事例を説明します。
4.まとめに代えて~小手先の労働政策が問題を大きくし
ていきます~フィリピンとのFTAをめぐって
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1.日本に滞在する外国人の実態
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不法残留者数の推移
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後を絶たない密入国~日本に在留する外国人の暗数
2006. 06. 10 読売新聞
埼玉県警外事課と久喜署は9日、東京都江戸川区西小岩、風俗店経営富田貴
子容疑者(58)と、千葉県船橋市山野町、会社役員斉藤秀夫容疑者(68)を、
公正証書原本不実記載・同行使の疑いで逮捕した。
調べによると、2人は、東京都葛飾区新小岩、会社役員張国民被告(29)
(入管難民法違反罪などで起訴)らと共謀、張被告の在留資格を得るため、2
004年3月、張被告と日本人の女(35)(公正証書不実記載・同行使罪で起
訴)の虚偽の婚姻届を、東京都葛飾区役所に提出するなどした疑い。
同課などによると、張被告は、中国の密入国あっせん組織の日本側ブロー
カーのトップとみられ、張被告が偽装結婚で長期滞在資格を得て、不正入国
した中国人に仕事や住居などのあっせんを続けていたとみて、余罪を追及し
ている。 調べによると、2人は、東京都葛飾区新小岩、会社役員張国民被告
(29)(入管難民法違反罪などで起訴)らと共謀、張被告の在留資格を得るた
め、2004年3月、張被告と日本人の女(35)(公正証書不実記載・同行使罪
で起訴)の虚偽の婚姻届を、東京都葛飾区役所に提出するなどした疑い。
富田容疑者らは、張被告から報酬として72万円を受け取っていたという。
同課などによると、張被告は、中国の密入国あっせん組織の日本側ブロー
カーのトップとみられ、同課などは、張被告が偽装結婚で長期滞在資格を得
て、不正入国した中国人に仕事や住居などのあっせんを続けていたとみて、
余罪を追及している。
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2.日本に滞在する外国人の問題
(1)在留資格のある外国人
日本における人身売買~合法滞在&超過滞在
2004年6月の人身売買報告
(アメリカ国務省)で、
日本は叩かれた。
そして、制度の整備が行わ
れた。
私の関わった、国際結婚
(=人身売買)の事例を、
ちょっぴり話しておきま
す。
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(2)在留資格のない外国人を考える
判例に見る外国人のための社会保障・社会福祉~国保・生保①
平成10.7.16 東京地裁判決 平8(行ウ)280号
「在留資格のないまま日本人と婚姻し我が国に在留している外国
人女性について、国民健康保険法5条の『市町村又は特別区の
区域内に住所を有する者』に該当するとして、国民健康保険者資
格が認められた事例 - 在留無資格婚姻外国人女性国民健康
保険訴訟第一審判決」 <判時1649号>
平成9.4.24 東京高裁判決 平8(行コ)66号
「在留外国人に生活保護法を適用しないことは憲法14条、25条
等に違反するか(消極)」 <判時1611号>
平成8.5.29 東京地裁判決 平7(行ウ)76号
「外国人に社会権の保障が及ぶか(積極)」
「外国人に対する社会権の保障の程度は、日本人と同程度であ
ることを要するか(消極)」
「不法滞在外国人に対する生活保護申請の却下処分が適法とさ
れた事例」 <判時1577号>
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判例に見る外国人のための社会保障・社会福祉~国保・生保②
平成7.9.27 東京地裁判決 平6(行ウ)39号
「他人名義の旅券を用いて我が国に不法入国し適法な
在留資格を得ないまま4年余りの間わが国に在留を継
続していた外国人女性が国民健康保険法5条にいう『住
所を有する者』に該当せず、国民健康保険の被保険者
資格を取得しないとされた事例」 (判時1562号)
平成1.3.2 最高裁第1小法廷判決 昭60(行ツ)92号
「国民年金法(昭和56年、法律第86号改正前)81条1項
が受ける同法56条1項但書の規定及び、昭和31年11
月1日より後に帰化によって日本国籍を取得した者に対
し同法81条1項の障害福祉年金の支給をしないことは、
立法府の裁量の範囲に属する事柄でその合理性を否
定することができず、憲法25条、14条に違反しない」<
判時1363号>
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外国人は生活保護を受けることができない、しかし・・・・
生活保護法
第一条 この法律は、日本国憲法第二十五条 に規定する理念に
基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の
程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障す
るとともに、その自立を助長することを目的とする。
厚生省社会局長通知(昭和29年)
生活保護法第1条により、外国人は法の適用対象とならないので
あるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民
に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続によ
り必要と認める保護を行うこと。
(1) 生活に困窮する外国人で保護を受けようとする
ものは、外国人登録法により登録した当該生活困窮者
の居住地を管轄する保護の実施機関に対し、申請者
及び保護を必要とする者の国籍を明記した保護の申請
書を提出するとともに有効なる外国人登録証明書を呈
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示すること。
不法残留だと、生活保護は受けられない。
平成9.4.24 東京高裁判決 平8(行コ)66号
「在留外国人に生活保護法を適用しないことは憲法14
条、25条等に違反するか(消極)」 <判時1611号>
平成8.5.29 東京地裁判決 平7(行ウ)76号
「外国人に社会権の保障が及ぶか(積極)」
「外国人に対する社会権の保障の程度は、日本人と
同程度であることを要するか(消極)」
「不法滞在外国人に対する生活保護申請の却下処分
が適法とされた事例」 <判時1577号>
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ゴドウィン裁判
1989年2月 ゴドウィン(GODWIN CHRISTOPHER RAJH
DAVID、1961.5.16生まれ)来日
1990年3月21日 くも膜下出血で入院(当時29歳、住所/神戸
市灘区原田通2-4-1 城の内荘、神戸海星病院から同日、神戸
大学付属病院へ)
1990年3月22日 手術をする。結果は良好
1990年4月13日 退院
1990年4月24日 灘福祉事務所が生活保護の医療扶助決定(保
護開始日、3月21日、保護廃止日、4月14日)
1990年10月25日 厚生省、生活保護は永住者・定住者に限ると
の「口頭指示」
1992年2月14日 提訴(訴状を神戸地裁に提出)
1995年6月19日 第15回公判、「判決」=原告敗訴
1995年6月27日 大阪高等裁判所に控訴
1996年7月12日 大阪高裁判決「控訴棄却」 → 上告
1997年6月13日 最高裁判決「上告棄却」
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なぜ、在留資格のある外国人だけか?
生活に困窮する外国人で保護を受けようとするも
のは、外国人登録法により登録した当該生活困
窮者の居住地を管轄する保護の実施機関に対
し、申請者及び保護を必要とする者の国籍を明
記した保護の申請書を提出するとともに有効な
る外国人登録証明書を呈示すること。 (生活に
困窮する外国人に対する生活保護の措置につ
いて(昭和29年5月8日、社発第382号))
「オーバーステイ」であれば、「生活の根拠
がない」=「外国人登録していても居住地
ではない」→生活保護は受けられない
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アメリカの場合
不法移民を治療する病院・医師に総額
10億ドルの助成金支出を決定。
金額→カリフォルニア州;7080万ドル、
テキサス州;4600万ドル、アリゾナ
州;4500万ドル、等。 (NYタイムス
2005.5.10)
ブッシュ政権は、患者は合法移民かどう
かを病院が尋ねることを必要なしとし
た。=不法移民に病院での治療を諦
めさせることになり、結果的に伝染病
の蔓延により、重大な健康被害をも
たらす可能性がある。
州によって異なるが、不法移民を社会
福祉から完全に排除することは少な
い。
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3.子どもの問題~未就籍、無国籍、人身売買
(1)就籍事例
内縁の日本人の父が、出生後に認知したため未就籍。
(母はフィリピン人でオーバーステイ)
児童福祉施設入所後、児童の外国籍取得と、在留特
別許可の取得を援助した。
現在、母が児童を引き取り、生活保護を受給している。
母(フィリピン=仮放免)・父(日本)・長女(未就籍→
フィリピン籍)次女(未就籍→フィリピン籍)長男(未
就籍→フィリピン籍)
父から母へのDV、子への虐待があり、母は家を出た
ので、生活安定まで3児を預かってほしい。3児共に、
未就籍(当時)
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(2)無国籍→日本国籍取得事例
親子関係不存在の訴えにより日本国籍を失い、無国籍
になった児童の日本国籍取得
○母(フィリピン?)・父(不明)・児童(男・無国籍)
外国籍の母親が同居男性(母親がこの男性と婚姻中
に、他の男性との間で本児を出生)の家に本児を残し
て家出をしてしまった。血縁関係のない本児を養育し
ていくことはできない。母親との離婚とともに、親子関
係不存在が認められ、本児は日本国籍を失ったが、母
親の身元がわからず、母親の国の国籍取得もできな
い。
○日本で出生したが、父母が不詳であることが認められ
るとされ、国籍法2条3号の「日本で生まれた場合にお
いて、父母がともに知れないとき」に該当し、日本国籍
を有することが認められ、施設所在地を本籍地として
就籍が許可された。
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(3)タイ国籍取得と在留特別許可の裁決
小学生男子のタイ国籍取得と在留特別許可の取得
○母(タイ・死亡)・父(不明)・児童(男・未就籍)
タイ国籍の母は既に死亡しており、婚姻関係はなく、認
知もしていない父が育てていたが面倒見切れなくなり、
預かって欲しいという相談。乳児院、児童養護施設と通
算8年の施設生活をしている。
○父との連絡がとれない状況が3年ほどあり、行方不明状
態なので、まず大使館に相談し国籍取得し、更にオー
バーステイの本児の在留資格を得るために、東京入国
管理局に相談した。タイ大使館の協力で出生証明書を
発行してもらい、タイ国籍を取得できた→在留特別許可
(在特=住所を持つこと)
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(4)売られてきた子どもたち
外国籍女性がインド国籍児童と国際養子縁組目的で来
日したが、縁組の破綻した姉弟の処遇
○里母(外国籍)・児童(女・インド国籍)・児童(男・インド
国籍)・実妹(里母の国籍)・義妹(里母の国籍)
○国際養子縁組目的で連れて来た里子が、物を盗む、嘘
をつくなどをするため、里母がこれ以上養育することは
不可能であるため、預かって欲しいという主訴。
○国際養子縁組の手続きについて、インド大使館、里母、
縁組斡旋している国際養子縁組あっせん団体で話が
食い違うなど不明な点が多い。(里母は、養子縁組斡
旋団体に、一人につき100万円、計300万円支払ったと
のこと。)
○里母、里子ともに外国人であるため、在留資格取得が
難航している。→現在は、在特(特定活動)。
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4.まとめに代えて~小手先の労働政策が問題を大きくしていきます
~フィリピンとのFTAをめぐって
日本政府はフィリピン人看護師・介護士の受け入れで合意。
2004年春より継続討議されてきた日本とフィリピンの自由
貿易協定(FTA)交渉の結果、日本政府はフィリピン人看護
師、介護士の受け入れを基本的に合意し、2006年度より両
国間で受け入れにかかわる制度的枠組み作りに着手する
ことを決定した。
1.就労ビザは日本人と同等の資格の取得を条件とする。
2.日本はODAにより、フィリピンにエキスパートを送り、資格取得の
高いハードルとされる日本の文化、日本語教育、現場実務などの教
育、訓練をフィリピン政府と協力して行う。
3.受け入れ人数は看護師100名、介護士100名の計200名まで。
4.日本での就労先となる病院や介護機関の紹介は日本の公的機関
が行う。
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